第二百二十二話 七天抜刀
体育祭期間の話、最初50話と言っていましたが、結局は100以上になっていますね。一応、第二章を前中後で分ければ後編のはずなんですが。前編と中編が短過ぎましたかね?
七天失星が鞘から走る。それと共に放たれた七天失星がゲルナズムの腹を斬り裂いた。
亜紗はすぐさま後ろに下がるがそこに別のゲルナズムが襲いかかる。しかし、ゲルナズムは飛来した炎の渦に呑み込まれ、一瞬にして消し炭となっていた。
シリーズ03が援護射撃をしてくれるようになってから戦況はかなり傾いている。問題があるとするなら、
「連綿と続く章を断て!」
その言葉と共にエンシェントドラゴンから放たれた炎が断章によって打ち消された。だが、打ち消した瞬間には別のエンシェントドラゴンが都に向かって炎を放とうとしている。
それに巻き込まれるのが怖いのか、ゲルナズムは都には攻撃せず亜紗に向かって突撃している。
亜紗も疲労の色が濃いため従来の速度はない。だが、それは仕方のないことだろう。それでも亜紗は懸命に前に出ている。
由姫さえ動ける状況なら亜紗も休むことが出来るのだが、由姫もメグも怪我が酷く、特に由姫は座り込んだままだ。
一番疲労が軽いのは夢だろうが夢の火力ではゲルナズムをなかなか倒せない。
「硬い」
夢が弓を放ちながら小さくボヤいた。だが、ボヤいたところでどうなるわけがない。
亜紗はそう思いながらも地面を蹴る。七天失星をゲルナズムの腹に突き刺しながら右手で振り抜き、左手の刀でゲルナズムが放つ触手を受け流す。
すでに妖精乱舞は切っているし、『剣の舞』を使えるような状況ではない。それに、動ける時間がだんだん少なくなっている。
亜紗は唇を噛み締めて前に踏み出した。だが、真っ正面から何かが迫っている。
尻尾。
そう思った瞬間に亜紗の体は吹き飛ばされていた。左手に握る刀は砕け、七天失星は弾き飛ばされている。そのまま亜紗は壁に叩きつけられた。
「かはっ」
「亜紗さん! 連綿と続く章を断て」
肺から息が漏れそのまま地面に倒れ込む。都はすぐに亜紗に駆け寄りたかったがエンシェントドラゴンが完全に狙いをつけているため無理だ。
亜紗にゲルナズムと蛇のような何かが迫る。その左には大きな宝石のような結晶があり、時折そこが光って光の槍を放っていた場所だ。
「炎獄の御槍!」
すかさずメグが炎獄の御槍の炎を最大限にして走り出した。前を塞ぐゲルナズムを一振りで焼き尽くし、そのまま道を開けて、
蛇のような何かの額が光っているのがメグには見えた。すかさず横に跳ぼうとする。だが、放たれた光の槍がメグの太ももを貫いていた。
「あっ、がっ」
痛みのあまりメグは声を上げ、貫かれた場所を押さえる。だが、そこは完全に貫通しており骨すら消失していた。
近くにいたゲルナズムがメグにも迫る。その瞬間、何かが空を舞った。
メグに迫っていたゲルナズムが上から叩き潰される。一瞬にして甲羅がひしゃげ、中身が飛び散っていた。
「大丈夫ですか?」
甲羅を一発で軽々と砕いたのはもちろん由姫。由姫は拳についた血を払いながらメグに尋ねる。だが、メグは意識がないのか目を瞑って倒れていた。
おそらく、痛みのあまり気絶したのだろう。
由姫は息があることにホッとしたように息を吐いてゲルナズムの死体を蹴った。次に向かうのは亜紗の場所。メグがいる位置は比較的夢やシリーズ03がいる場所に近い。だから、任せておけば少しの間は大丈夫。
だが、亜紗はそう行かない。すでにゲルナズムが攻撃しようと構えている。未だにやられていないのは亜紗が魔術を展開して迫ってきている触手を全て切り裂いているから。
「神への重力最大展開」
由姫が拳を握り締める。そのまま拳に重力を乗せて近くに転がっていた七天失星の柄を掴んだ。
「亜紗さん!」
そして、亜紗に向かって投擲する。重力を纏った七天失星はゲルナズムの体すらも貫通し、亜紗のすぐ近くの壁に突き刺さった。
亜紗はとっさに七天失星の柄を握り締める。だが、その瞬間に蛇のような何かの額が光っていた。そして、光の槍が放たれる。
亜紗はそれを七天失星で弾き飛ばした瞬間、蛇のような何かの体がバラバラに吹き飛んだ。
一瞬だけ起きる静寂。亜紗は返す刃でゲルナズムの頭部を叩き割る。そこに由姫が飛び込んだ。
肘打ちの一撃はゲルナズムを壁に叩きつけ昇天させ、拳の一撃は甲羅を軽々と叩き割る。
亜紗はそれによって出来た道へ身を踊らせた。由姫も亜紗と一瞬に後ろに下がる。
「大丈夫ですか?」
「由姫こそ」
「私は大丈夫です」
途中、倒れているメグの体を由姫が抱え上げ、二人はみんなの下に戻った。若干一名、エンシェントドラゴンと戦っているが。
「メグ!」
夢が弓を収納してメグに駆け寄る。由姫はメグをゆっくり下ろして振り返った。
「後、40、くらいですね?」
「由姫が来なかったら危なかった」
「私もそう思いました。ですが」
由姫は若干だが痛みで顔をしかめる。本来、由姫もメグも動いていいような状態ではなかった。だから、メグは足を貫かれた。
そして、由姫も限界が近い。おそらく、幾つかの箇所で骨にひびが入っているだろう。肋骨は折れているに違いない。普通なら痛みのあまり動けない。だが、由姫はそれ以上の痛みを体験しているため動くことが出来る。
問題は、我慢は出来ても体は我慢出来ないというところか。
「私も制限時間は後少し。3分もない」
亜紗が七天失星を握り締める。
つまり、3分の間に幻想種をほとんど倒せなければ状況は一変する。都はまだまだ大丈夫かもしれないが、亜紗と由姫の二人が動けなくなる。
「では、最後の突撃と行きましょう。03さん、援護お願いしまう」
「は、はい。だ、だけど、か、簡易杖が後八つしかあ、ありません」
「大丈夫です。それだけあれば」
亜紗は七天失星を握り締め、由姫は栄光を身につけた拳を握り締める。
単純計算で一人あたり約15程度幻想種を倒せばいい。二人共、それくらいなら十分に体が持つ。
「行きます」
由姫の声と共に二人は走り出した。蛇のような何かが光の槍を放つが二人はそれを軽々と避けて後方から放たれた光の槍が蛇のような何かを貫きゲルナズムも貫通した。
由姫は拳を握り締め、ゲルナズムの触手をかいくぐり、ゲルナズムのお腹を勢いよく殴る。それによってゲルナズムの体が浮かび上がり、その場で宙返りをした由姫の蹴りが重力を纏ってゲルナズムの体をまるで弾丸のごとく蹴り飛ばした。
ゲルナズムの体は他のゲルナズムや蛇のような何かの体を巻き込み吹き飛んでいく。
その間に亜紗は敵陣深くまで飛び込んでいた。持ち前の高速ステップでゲルナズムの触手をかいくぐり、すれ違い様に七天失星で斬り裂いて走り抜ける。
気力を振り絞り、少し無茶をしながらも亜紗は駆けていた。
ゲルナズムのような幻想種なら由姫が倒せる。だが、エンシェントドラゴンは話が違う。周ですら戦えなかったエンシェントドラゴンを相手には七天失星の力が必要だと亜紗は考えていた。
七天失星の能力は亜紗以外誰も知らない。それは、亜紗が知っていながら教えていないから。
亜紗が七天失星を握り、エンシェントドラゴンに向かって飛びかかる。エンシェントドラゴンはそれに気づいて尻尾を振り、
抜き放たれた七天失星によって尻尾を輪切りにされた。
亜紗は器用にも自分が輪切りにしたその一つに足を乗せ、足場として蹴る。その時には七天失星は鞘に収められていた。
「七天」
亜紗は小さく呟く。その言葉とともに七天失星に魔力が集まるのがわかった。
「抜刀!」
振り抜かれた七天失星がエンシェントドラゴンの体を斬り裂く。
亜紗の腰より上に八つの傷を、腰より下に七つの傷をつけた。そのどれもが深く、致命傷。
断末魔の悲鳴を上げるエンシェントドラゴンの体を踏みしめ、めう一体のエンシェントドラゴンに飛びかかり、七天失星を振り下ろす。
七天失星はやはり、亜紗の腰より上に八つの傷を、腰より下に七つの傷を深くつけていた。
亜紗が着地すると同時二体の絶命したエンシェントドラゴンが地面に落ちる。
七天抜刀。
七転八倒と同じ呼び方のその技は、七回転がし八回倒す技。つまり、足に一撃で立てなくなるような七つの傷をつけ、胴体に致命傷となれる八つの傷をつける技。
亜紗は七天失星を鞘に収めた。その背後からゲルナズムが襲いかかる。
「連綿と続く章を断ち切れ!」
だが、そのゲルナズムは亜紗に攻撃が届くより早く都によって一瞬で消されていた。都が亜紗に駆け寄る。
「助かりました。ありがとうございます」
「戦いはまだ終わっていないから」
「分かっています」
都はその手にレイピアとなった断章を握り締めて振り返る。
すでに両手で数えられるくらいに数を減らした幻想種。それに向かって二人は駆け出した。
ようやくここまでやって来ました。次で戦いが終わります。