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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第二百十六話 最終地点

「ここ、だよな」


オレは足を止め、目の前にあるものを見上げた。そこにあるのは閉じた巨大な扉。普通に手で押して空くような大きさではないが。


「そうだと思うけど」


隣にいる茜が不安そうに口にする。今まで、全ての隔壁やトラップは解除されていた。だが、ここの扉だけは閉まったままなのだ。もしかしたら罠かもしれないが、今のオレには奥の手は三つ残している。だから、大丈夫だろう。


オレは息を吸い込んで、そして、手のひらを扉に当てた。その横に茜が手のひらを当てる。


「お兄ちゃん、一緒に押そうよ」


「そうだな。ここからはオレ達の最後の戦いだ」


あの日から、いや、あの日よりももっと前、オレと茜が産まれ、能力の差が歴然とした瞬間から始まったことだ。


オレは海道家の中で役立たず、不良品等々、様々なことを言われた。対する茜は神童やら天才やら、ともかく凄かった。オレの凄さはまやかしだったし、自分の力なんてちっぽけなものだった。でも、オレは今までの人生を後悔していない。


「お兄ちゃん、この戦いが終わったら、一緒に暮さない?」


「白百合家に来るってことか?」


「うん。今まではずっと病院だったから、音姉や由姫姉にかけていた迷惑をどうにかしたいなって」


「あのな、オレも由姫も音姉もお前に迷惑をかけられたなんて思っていないんだよ。むしろ、迷惑をかけたのはオレの方だった。ずっと、借りっぱなしだったもんな」


ずっと、あの日からずっと、オレは茜の核晶を借りていた。茜の力を自分の力に見せて、天才の力を自分のものだと見せていた。多分、オレは子供だったんだろう。ずっと、子供だった。


強くならないとまた捨てられるとでも思っていたのかもしれない。自分の力がなくなったらみんなが離れていくかもしれないと思ったのかもしれない。


「だから、この戦いを終わらせて、親父にたくさん、それこそ一日中文句を言ってやろうぜ。親父はただ、世界を救いたいだけなんだ。だから、オレは親父の考えを真っ向から否定させてもらう」


「受け入れないんだ」


「誰が好んで犠牲を出す戦いをするかよ。犠牲なんて出さない。みんなを守ってこそオレだ。守れなかったからな。狭間市でも」


あの時、オレは千春を救うことが出来なかった。全てはオレがやられたから。だから、今度こそ、この戦いだけは、第76移動隊のみんなを守りたい。音界からきているメリルやルーイ達も大丈夫のはずだ。だから、オレ達はここで親父を止める。


そして、戦いを終わらせるんだ。必死に地上で戦っている都やアル達を助けるために。


「お兄ちゃんらしいね。お兄ちゃんは私を見捨てなかった」


「当たり前だろ。妹なんだから」


「違うよ。お兄ちゃんは私のせいで散々言われていたんだよ。お父さんやお母さんから愛情すらもらっていなかった。だから、お兄ちゃんは私を恨んでもいいはずなのに、私を怨まずに、むしろ、助けてくれた。多分、その時から、産まれたときからお兄ちゃんという考えが出来ていたんじゃないかなと私は思うの。どうかな?」


「確かに一理あるな。だったら、お前に感謝しないとな」


多分、茜が生まれなかったら今のオレは無かったから。


「だから、ありがとう」


「私も、ありがとう」


そして、オレ達は同時に扉を押した。扉は何の抵抗もなく開き、そして、姿を現した。


中央にある巨大な装置。そこにある巨大な透明の筒。そこには一本の棒があった。その棒は光っている。そこに書かれている文字は、


「『悠遠の翼と成りし力』。やはり、この地にあったか」


親父が装置の前に立って見上げている。そして、オレ達の方を振り返った。


「早かったな。もう少し時間がかかると思っていたが」


「悪いな。優秀な仲間がいるんでね。親父、もうあんたは終わりだ。すでに学園都市は動き出している。オレ達だけじゃない。学園都市の『GF』全てが動いているんだ。もうすぐ学園都市の地上部分は制圧できるだろうな」


「そんなことはわかっている。元々、地上は捨て駒にするつもりだったからな。私の目的はただ一つ。この存在を世に知らしめるため」


そう言いながら親父は装置の方を指さす。オレはレヴァンティンの柄に手を置いた。


「それにはオレも同感だ。だけど、それがお前の目的では」


「だから、対話をしようではないか」


親父が笑みを浮かべる。その瞬間、オレは親父が最後にしようとしていることに気付いた。その可能性を完全に考えていなかった。親父がやろうとしていること、それは、


学園都市の中核ともいえるこの装置を世に知らしめ、世界の滅びについて世界に知らしめること。


オレが出したのと同じ作戦か。


「どちらが正義かと聞かれれば、自分達が正義だ。勝った方が正義だ。だが、戦いだけではそれは正義とはいえない。だから、味方を増やせばいい。この世界は民主主義。みんなの言葉があることによって世界は動く。ならば、味方につけようではないか。その相手として、お前は相応しい」


「お兄ちゃん」


茜がオレの手を握り締める。不安なのだろう。でも、大丈夫だというようにオレは茜の手を握り返した。


多分、この様子は全世界に中継されているかもしれない。学園都市だけかもしれない。でも、オレはその方が都合がいい。


「そうだな。わかった。海道駿。対話による相対。その条件を呑んでやる。そして、オレが先に話させてもらうぜ。親父はオレの主張が終わった後だ」


その言葉に親父は微かに驚いた。普通、こういうものは後から話した方が有利だからだ。だが、今回は違う。後から話して有利なんて考えない方がいい。


「いいだろう」


「後悔するなよ、その言葉。どうせ、全世界に繋げているんだろ?」


「察しがいいな」


それでいい。それで、全ての部隊は揃った。


今からやるのは世界に対する喧嘩。


「先に一言いってやる。世界は本当に滅ぶのか?」


その言葉に親父は完全な呆けた顔になっていた。当り前だろう。今から話そうとしているのは世界に対する世界の滅びについての対話。おそらく、親父の後ろには国連がついているに違いない。だから、全世界に発信なんて真似が出来るのだろう。


国連はそれを武器として使おうとしている。『GF』はその事実を知っていたということを追求しようとしているのだ。それを黙っていたということは後ろめたさがあったということ。だから、国連は親父を使って世界に認知させようとしている。まあ、学園都市内では認めているんだけどな。


「何を」


「だから、何の根拠があって世界が滅ぶのかな、と思ってさ。まあ、確かに、『GF』内では世界が滅ぶ、っていう話はあるんだ。狭間市における魔界の事件や真柴・結城両家による事件も、世界が滅ぶことを前提としている。だから、それはどうして滅ぶとわかっているんだ?」


「それは」


親父が完全に言葉に詰まった。多分、逆のことをされたならオレだって言葉に詰まっただろう。それほどまでにそこまで信じられているかわからない。


まあ、みんなの言葉を信じないわけじゃない。今回の目的の最大の問題はちゃんとした証拠がないのだ。あるのは記憶のみ。もし、世界が滅びる証拠、いや、あるにはあるが、それを提示してしんじられるような証拠があるかどうか。


はっきり言うなら無理だ。


「世界はいつ滅ぶ? 世界はどうして滅ぶ? 世界はどうやって滅ぶ?」


オレはいくつも疑問を投げかける。全てに答えられたとしてもまだ挽回できる質問だ。


「それは」


親父はまた言葉に詰まる。確かに親父達が考えた作戦は正しい。それを上手く戦えば苦戦は必須だっただろう。だから、オレは純粋な疑問をぶつける。


「オレだって世界が滅ぶと聞かされて何とかしなくちゃと思うさ。だけどな、世界が滅ぶと知っていても、オレの疑問を答えることのできる人物はここにはいない。違うか?」


「くっ」


「何も答えられないのに世界が滅ぶなんて『GF』が言えると思うか? 親父達は『GF』が隠している。隠して世界を滅ぼそうとしていると思っているがオレは違うな。不確定な要素だから隠しているんだ」


「だが、それは確実にやってくる! それを知らせないのは」


「大地震はいつかやってくる。だから、今の内から備えておけ。お前の言いたいことはそういうことだろ?」


オレは笑みを浮かべて答える。確実にやってくるのは自信も同じだ。南海地震、東南海地震など一定周期で回ってきている。つまり、それこそこの周期でやってくるから備えておけということと同じだ。


違うのは規模の大きさ。


地震なら、その地域から逃げだせばいい。だが、滅びは違う。どこに逃げ出しても死ぬのだから混乱するのは当たり前。無用な混乱を起こした犯人となるだろう。


「だが、お前は世界が滅びると言うことを認めたはずだ! それは学園都市にいる誰もが答えるだろう!」


「そうだな」


オレはすんなり親父の言葉を認める。だから、認めた上でこう言ってやる。


「さすがに、人界、音界、魔界、精霊界で同じような話があったなら認めるしかないだろう。ただ、根拠がない。それぞれの勢力が動く以上、これは大事だ。だから、オレは認めている。でも、そういう疑問を持っているのは事実だ。世界は滅びはしない。そう断言出来ればどれだけいいことだろうな。だから、今、この映像を見ている全員に尋ねたい。世界をどうしたいのか」


オレは尋ねる。世界に向かって。


「滅びという未来が可能性の一つとしてある。それはたくさんの証言から信じるしかない。何なら、承認を連れてきてもいい。だから、みんなに尋ねたい。世界をどうしたい? 今まで無用な混乱を避けるために事実を隠していた『GF』を断罪するか? 世界が滅ぶから滅ぶまで自由に過ごすか? 世界が滅ぶなんて信じないか? それとも、戦うか?」


オレはレヴァンティンを鞘から引き抜く。


「オレは戦う。そもそも、この学園都市はオレ達学生の街だ。お前達なんてお呼びじゃないんだよ」


「全てを決めるのはやはり力か?」


「力があるものが全てを引っ張る。世の中の真理だろ。親父の考えは『GF』を壊して新たな秩序の下、世界を救うこと。オレの考えは今の大勢のまま、全ての世界と強調すること」


茜がオレから手を離し、隼丸を握り締める。


「どちらかが正しいなんて決めない。こんなところで決めても意味がないからな。だから、オレはオレのやることをする。第76移動隊隊長として、学園都市を混乱させ、多数のけが人を出し、『GF』の業務を妨害した組織の頂点である海道駿を現行犯で捕まえる。ただ、それだけだ」


そして、オレは地面を蹴った。


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