第二百十三話 地下の戦い
由姫の拳がシリーズ01の拳とぶつかり合う。力はほぼ互角。ほぼ互角だが技術という面では遥かに由姫が勝っていた。
「どうしてあなたは自由に動かないんですか?」
由姫の拳がシリーズ01の拳を打ち払い、刹那の間にステップした由姫が拳を叩き込む。
拳はシリーズ01の体に直撃して壁に叩きつけた。
シリーズ01は崩れ落ちながらも必死に起き上がる。
「あなたには分からない。あなた達には分からない。戦う目的で造られて、使い捨てにされる私達の気持ちなんて」
シリーズ01が動く。ほんの数ステップで由姫との距離を詰めて由姫に拳を振るう。だが、由姫はそれをいとも簡単に避けた。そして、体が回転する。
シリーズ01は嫌な予感を覚えて後ろに下がる。その予感は正しく、シリーズ01がいた場所に由姫の拳が唸りを上げて通り過ぎた。
「わかりませんよ!」
さらに由姫は踏み出す。それに対してシリーズ01はカウンターの要領で拳を振るい、簡単に受け流された。
「でも、兄さんや亜紗さんは懸命に生きています! 戦いだけじゃない日常を!」
踏み込んだ由姫の体はシリーズ01の懐に入り込む。シリーズ01はとっさに後ろに下がろうとするが、背中に壁がぶつかった。
しまったと思うより早く、由姫の拳がシリーズ01の顎を打ち抜く。
「戦いだけじゃありません。それに、兄さんと一緒なら必ず助けられます。だって、兄さんは天才ですから」
「無理よ。私達はただこの時のために生まれて死んでいくのだから。02も03も死ぬ。だったら、私だけ生きていくなんて出来ない」
シリーズ01の拳がほぼゼロ距離で振るわれる。由姫はその拳を回避することが出来ずまともに直撃して吹き飛ばされた。
すぐさま体勢を戻してシリーズ01を睨みつける。
「だったら、みんなを助ければいいんですよね。兄さんなら必ずみんなを助けます。だから、こういう無駄な戦いは止めて」
「無駄なんかじゃない」
シリーズ01は身構える。
「無駄なんかじゃない。私はあなたと戦いたい。駿様にお願いしたの。あなたと、白百合由姫と戦わせて欲しいって。本来なら防衛ラインは第二階層なのに私はここにいる。あなたに勝って、私の存在意義を証明してみせる」
「どうして私と戦いたいのですか? 私よりも強い人なんていくらでも」
「あの時のリベンジマッチ」
由姫はすぐにあの時がいつなのかがわかった。狭間市において由姫はシリーズ01をカウンターで吹き飛ばしたのだ。
あの時以来、シリーズ01は由姫に勝ちたいと思った。
「私達シリーズの中で私、01と02の二人は戦うことだけをプログラミングされていた。でも、私はあなたと戦いたい。だから、本気を出して。私も本気を」
「わかりました」
その瞬間、由姫の足下がミシッと音を立ててひび割れた。
音姫によって未だに保護されているはずの地面にひびが入った。それは事情を知る者にとっては驚愕に値するもの。シリーズ01も驚いている。
海道駿は最初、隔壁を吹き飛ばして向かおうとしたが、海道駿ですら術式を破壊することが出来ず断念したのを知っているからだ。
それなのに、由姫の足下にはひびが入っている。
「オーバードライブ。タイムは15秒です」
由姫がシリーズ01を睨みつける。シリーズ01は一歩前に踏み出して、懐に由姫を入れていた。白百合流と里宮本家八陣八叉流に重力魔術を組み合わせた由姫のみの走破術。
我流走破『地走走破』。
そのまま手のひらがシリーズ01に押しつけられ、シリーズ01の体が壁に叩きつけられる。
里宮本家八陣八叉流とは少し違う白百合流を組み入れた体術だ。
我流鎧通し『天破絶掌』。
壁に叩きつけられバウンドしたシリーズ01の体に肘がのめり込みまた壁に叩きつける。そして、再度バウンドした体を今度は逆の肘が回転しながら体に叩きつけられた。
我流破砕『乱舞無破』。
今度は地面をシリーズ01はバウンドするが、由姫はそれを逃さない。地走走破で加速しながら下から上に打ち上げるように膝がシリーズ01のちょうど鳩尾に食い込み打ち上げる。
我流走破打破『天地空破』。
打ち上げられたシリーズ01の体は天井をバウンドし落下する。そこには拳を握りしめた由姫の姿があった。その拳には重力球が纏わり、落ちて来るのを待っている。
そして、タイミングよく由姫はステップをした。
我流重力破『綺羅朱雀・改』。
強烈な一撃がシリーズ01を壁に叩きつける。シリーズ01の体は壁に食い込み動かなくなった。
それと共に由姫の体にかかっていたオーバードライブが解除される。
完全に意識を失ったシリーズ01に向かって由姫は語りかけた。
「これが私の『終わり無き乱舞』です。今は眠っていてください。私はバカなのであなたを助けることが出来ませんが、兄さんなら必ず解答を見つけてくれます。ですから、今だけはお休みなさい」
シリーズ01に向かって由姫は礼をする。そして、階下の階段に向かって飛び降りた。
次の目的地は第二階層の敵の防衛ライン。
「由姫姉、大丈夫かな?」
茜が背後を振り返りながら尋ねる。オレはその言葉に振り返ることなくレヴァンティンを鞘から抜き放って迫ってきていた収束砲を打ち払った。
単発式の収束砲だからこそ出来る芸当だ。照射式の収束砲ならレヴァンティンの力で打ち消すしかない。まあ、そんなのを発動しようと思えばチャージしないと駄目だが。
茜は威力というものを無視して攻撃するからオレが前に出てどうにかしないと。
「由姫なら大丈夫だ。つか、埒が明かないな」
レヴァンティンを握りしめて向かってくる攻撃を打ち払いながら呟く。どうやら防衛ラインが近いからか敵の攻撃がどんどん熾烈になっている。
亜紗もメグも魔術に対しては弱い。一応、亜紗はいくらか強い部分もあるが、七天失星は魔術を打ち払いような頑丈さはない。
「私が一発撃つ?」
「お前が撃ったら人死にが出るだろ。そもそも、一発撃つにしてもチャージする時間が」
「雷王具現化か風王具現化、光王具現化のどれがいい?」
「人の話を聞けよ」
レヴァンティンで連続で放たれた魔術を全て打ち払う。オレは小さく溜め息をついてレヴァンティンを握りしめた。
「レヴァンティン、ちょっとだけ任せていいか?」
『はぁ。どうせ止めたって行きますよね。わかりました。自由にやっちゃってください。私がサポートしますから』
「オーケー。レヴァンティン、モードⅧ」
そして、オレは地面を蹴った。
レヴァンティンの刃全てを置いてけぼりにして最大の加速で前に進む。
それに反応した相手がさらに攻撃を過激なものとするが、オレは気にすることなく前に進む。反応するのはオレの体の中にある勘だけ。
嫌な気配、死に直結するような嫌な攻撃は全て回避し、回避出来ないものは身につけているナックルで打ち払う。右に左にステップを取り、拳を握りしめて振り回す。
時には滑ったり飛んだり攻撃が当たらないようにあらゆる行動オプションを利用する。背後を通り過ぎた行動は全て自律して動くレヴァンティンが危険なものだけを打ち払ってくれるから安心出来る。
見えた。
物陰に隠れながらこちらに向かって魔術を放つ数が八人と、こちらを睨みつける両手に刀を持った少年に簡易の杖を握りしめる少女の計十人。
オレはストックしていた魔術をいくつも展開する。一瞬にして10にも及ぶ魔術を一気に放った。そのおかげで弾幕が多少緩み、オレは防衛ラインに飛び込んだ。
「待っていたよ!」
二本の刀を持つ少年が歓喜の笑みを浮かべて飛びかかってくる。オレはとっさにストックしていた魔術を展開した。ストックしていた全て同じ魔術を。
「なっ」
さすがの少年もそれに驚いたのか立ち止まる。オレは笑みを浮かべて左手を上げて目を瞑った瞬間、光が目蓋の下の瞳を焼いた。
オレが発動した魔術は全て目眩まし用の光属性の魔術。殺傷力は全くないが、敵の行動をほぼ100%止めれるため使い勝手はいい。
オレは目を瞑ったまま魔力粒子の動きから頭の中で地図を作り動き出す。
至近距離から魔術もあれば拳の一閃もあるし、瞬間で収束砲を放つこともする。右に左に魔術を放ち、オレは目を開けた。
そこにはがむしゃらに刀を振り回す少年の姿がある。
光で視界を失った以上、音を立てないようにしているのはさすがだが、味方に当たりそうになっているのは危険だな。
「振り回すのは止めたらどうだ? 坊や」
「海道周!! まともに勝負しろ!!」
「やだね」
オレは意地悪い笑みを浮かべて答える。それと同時にオレの周囲にレヴァンティンの刃が戻り、オレはモードⅧから通常のレヴァンティンに戻した。
そこに亜紗達がやって来る。
『大成功?』
「ああ、大成功だ。まあ、さすがにシリーズの二人とは戦えなかったけど」
あまりに時間が短すぎた。少年一人ならどうにかなったかもしれないが、少女の方はすでに杖を構えてオレを睨みつけている。
魔術のレベルはオレよりも上だろう。
「さてと、この二人をさっさと倒して」
「はぁ」
オレの背中がメグの溜め息と共に押される。オレはそれに驚きながら振り返った。
メグは笑みを浮かべながら炎獄の御槍で道の先を示している。
「先に行って。ここは私と亜紗さんの二人でどうにかするから」
『そういうこと。海道駿との決着は周さんと茜の二人ですべき。それ以外の決着は認めない』
「あのな、あの子はどう考えても魔術師だ。相手をするなら魔術師同士で戦わないと危険だ。それに、茜なら負けない」
確かにそういう気持ちはある。オレと茜の二人で全てに決着をつけたい。だけど、そうしたい気持ちはあってもそれは最善の策とは言えない。
予定を大幅に変更しているのだから。
「だから、ここは予定通り」
「だったら、私がいれば大丈夫ですよね」
「由姫!?」
オレは驚いて振り返っていた。確かに、弾幕のおかげで前には中々進めなかったけど、まさか、由姫が合流するなんて。
由姫はオレに向かって笑みを浮かべる。
「兄さんは兄さんの仕事をしてください。私は私の仕事をしますから」
『同感。周さんは周さんのやるべきことがある。だから、進んで』
「私は決着をつけた。だから、周は周の過去と決着をつけて」
由姫、亜紗、メグの三人が言ってくれる。その言葉にオレは笑みを浮かべて振り返った。
茜はすでに準備万端だからか弓形態の隼丸を構えている。
「茜、準備はいいな」
「いつでも」
オレ達は笑みを浮かべ合い、そして、地面を蹴った。