第二百七話 暴走
最大限までブーストを吹かしたアストラルブレイズの体が背中を向けて地面を滑るように移動する。それと共に空から砲撃が放たれた。
ルナは絶妙なコントロールで全てを回避しながら体勢を立て直す。
音界ではまず戦うことのないフュリアス対人との戦いをルナは全力で戦っている。ちなみに、すでにアストラルブレイズのアルティメイト装備は剥がれ落ち、通常の装甲で戦っている。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。尋常なく辛いわね。アルティメイト装備が剥がれたのが痛いか」
その言葉と共にアストラルブレイズは弾かれたようにその場から飛び退いた。ちょうど、アストラルブレイズがいた場所に砲撃魔術が突き刺さる。
ルナはアストラルブレイズを振り向かせ、手に持つエネルギーライフルの先を空中に浮遊して杖を構える二人に向けた瞬間、二人をエネルギー弾が直撃して吹き飛ばした。
『ルナ! あなたはアルティメイト装備ではないのですから無理しないように!』
通信機から流れる言葉にルナは首をすくめた。アストラルブレイズの前にはアルティメイト装備のアストラルソティスの姿があった。
「やっぱり実戦って難しいよね」
『何を今更。それにルナ。あなたはどこに向かうつもりですか?』
その言葉と共にアストラルソティスが動き、エネルギーライフルからエネルギー弾を放った。
建物の影から現れた人物をエネルギー弾が吹き飛ばす。
「ほら、ルーイや鈴が制圧したから私は悠人の下に」
『戦いはまだ続いています。ゲートが開き、天界の軍勢まで来ています。それでもですか?』
「うっ」
ルナは言葉に詰まってしまう。実際にそうなのだ。ルーイを中心とした第76移動隊フュリアス部隊は目的地の制圧に成功。今はイグジストアストラルの大火力と合流した亜紗の力で防衛に回っている。
その中で対魔術装甲でもあるアルティメイト装備を失ったアストラルブレイズは遊撃をするためにアストラルソティスと動いていた。
「でも、悠人はリーゼアインとリーゼツヴァイと戦っている。一人だと絶対に辛いから、だから」
『だったら、一言伝えてから行きなさい。私からみんなに伝えておきますから』
「お姉ちゃん」
『ただし、必ず戻ってくること。約束出来ないなら行かせませんよ』
「大丈夫」
ルナは笑みを浮かべてアストラルブレイズの拳を胸の前で握り締めた。
「私は魔界で一番戦場を経験しているパイロットよ。それくらいいつものことだから」
アストラルブレイズが背中のブースターを開く。そして、悠人がいる方角に向かってルナは出力を上げた。
メイン、サブ問わず全速力で悠人のいる方角に飛び、そして、見つける。
建物に散っている巨大なエネルギー弾とそれを回避するダークエルフ。そして、純白のコートを着た黒いフュリアスが二機に、伝説のトリコロールのフュリアス。
「肩に砲門二つ。腰に砲門二つ。バックブースターは翼。これって、悠人!」
『ルナ!』
ルナのモニターに必死の形相をした悠人の顔が映る。その間にもダークエルフは必死に攻撃を避けている。
「あの機体はストライクバースト! イグジストアストラルとマテリアルライザーと同時期に造られた機体! だから、逃げて!」
『だから、逃げて!』
ルナの言葉と共にトリコロールのフュリアス、ストライクバーストの攻撃がリアクティブアーマーの一つを吹き飛ばす。
どうりでこちらの攻撃が効かないわけだよね。
「ストライクバーストの弱点は!?」
『イグジストアストラルがマテリアルライザーじゃないと太刀打ち出来ない! だから』
「でも」
ストライクバーストのエネルギー弾をかいくぐりシールドブレイカーを取り出す。だけど、シールドブレイカーはリーゼアインとリーゼツヴァイの射撃によって簡単に破壊された。
シールドブレイカーを手放しながらストライクバーストの攻撃をギリギリで避けていく。
「負けるわけにはいかないんだ!」
ストライクバーストに攻撃しようにもリーゼアインとリーゼツヴァイの二機がかなり強い。並みの機体な振り向き撃ちでどうにかなるが、あの二人は普通の操作では勝てない。
せめて、ストライクバーストさえいなければ。または、もう一機いれば。
『ああ、もう! だったら!』
その瞬間、視界の隅に誰かが入ってきたと思ったらリーゼアインの体にアストラルブレイズのドロップキックが食い込み吹き飛ばしていた。そして、すぐさま対艦剣を取り出してリーゼツヴァイに攻撃を仕掛ける。
リーゼツヴァイも対艦剣を取り出してアストラルブレイズの対艦剣を受け止めた。
『あわっ、急に何?』
『悠人はストライクバーストと戦って! 雑魚は私が片付ける』
『いってえな。仕返しだ!』
リーゼアインがアストラルブレイズに向かってあろうことかドロップキックを放っていた。普通はそんなことをしないのだがリーゼアインはした。
多分、悠人なら一瞬固まっただろうがアストラルブレイズの動きは迅速だった。
リーゼアインのドロップキックを掴み、そのままリーゼツヴァイに叩きつけて吹き飛ばす。そして、二人に向かってエネルギー弾を放った。
エネルギー弾はリーゼアインのAEWCから除かせたAEBAの右足を貫いて吹き飛ばす。
『健さん! よくも!』
リーゼツヴァイがすぐさま起き上がり対艦剣を掴んで斬りかかる。アストラルブレイズはそれを対艦剣で受け止めた。
『新たな虫が湧いたか』
僕はバスターライフルをストライクバーストに向ける。ストライクバーストから聞こえるマクシミリアンの声はどこか楽しそうだった。
確かに、フュリアスパイロットとして言うならルナの戦い方は最も実戦型だ。FBSだと力を発揮しきれないけど、何でもありの実戦なら本当に何でもする。
あらゆる状況下でとっさにあらゆる戦いが可能なのはルナくらいだろう。
「そんな機体を持っていながらあなたはどうして戦う!? 戦うことにしか何かを見いだすことが出来ないのか!?」
だから、僕は尋ねた。イグジストアストラルやマテリアルライザーと同時期の機体ということはそれだけで滅びに対する強力な力だと思う。だけど、マクシミリアンにその気はない。
『そうか。ならば、過去、いや、未来の話をしてやろう。近く将来、我ら天上の地を含む全ての大地が滅びる。その時の最後の戦いは我ら天空の民が戦った戦いだ。もちろん、負けた。我は考えたのだ。どうすれば世界を救えるか、と』
「それがどこに繋がる!? 人界を侵略する理由には」
『知れたことよ。我ら天空の民は地上の民の求めに応じて動いた。そして、地上の地の支配を得ることを条件に』
「えっ?」
それって、つまり、
『世界は気高き天空の民、ひいてはこの天上の神たる我、マクシミリアンの名の下に戦うのだ。そして、世界を救った暁には恒久平和の実現を許そう』
「その間にたくさんの戦いが起きたとしても?」
『我らが正義だ』
その言葉で僕は理解する。マクシミリアンとは相容れないということを。
「わかったよ」
『ほう、わかって』
「わかったから、黙れ」
その言葉にマクシミリアンは口を閉じた。僕はシールドブレイカーを取り出して身構える。
「お前を殺す。ここで、必ず」
目の前にいるリーゼツヴァイが崩れ落ちる。ルナは小さく溜め息をついてアストラルブレイズの持つ対艦剣を戻した。
「悠人は」
ルナが振り返る。そこにはストライクバーストを押すダークエルフの姿があった。シールドブレイカーを使ってひたすらストライクバーストに強力な打撃を与えている。
イグジストアストラルに存在する衝撃までダメージを受けるわけがないということを使っているのだろう。装甲はイグジストアストラルほど強くはない。だが、シールドブレイカーですらダメージは与えられていない。
「リーゼアインとリーゼツヴァイは倒したし、後は」
その時、何かが視界の隅に映った。そこに見えるのは砲門。フュリアス専用のスナイパーライフル。
しかも、スナイパーライフル内でエネルギーを溜めるため一発ごとに砲身を交換しなければならないタイプだ。リアクティブアーマーくらい吹き飛ばす。
だから、ルナは走っていた。悠人の下に向かって。
勝てる。
だんだん動きが鈍くなっているストライクバーストの動きを見ながら僕は確信した。
シールドブレイカーはすでに三つ目。五つ用意していたから全然大丈夫だ。対するストライクバーストはいつの間にか地上に落ちている。
肩から放たれるエネルギー弾を回避して僕はシールドブレイカーをストライクバーストに叩きつけた。
ストライクバーストの体が浮き上がり、吹き飛ばす。
『これが、地上、いや、世界最強のパイロット。ストライクバーストにここまで』
マクシミリアンがどこか悔しさを滲ませて呟く。例え相手がストライクバーストでも僕は負ける気はしない。
マテリアルライザーぐらいじゃないかな? あれはフュリアスの動きじゃないし。
「僕は負けない。僕は、僕達はみんなと一緒に世界を救うんだ! 一番にはならない! みんなと、人界、音界、魔界、天界のみんなと一緒に」
シールドブレイカーを構える。後一撃でストライクバーストは倒せる。だから、僕は無視した。感じ始めた嫌な予感を。
「これで終わりだ!!」
『我は天上の神マクシミリアン! ただでは、負けん!』
ストライクバーストも腰の砲門からエネルギーの刃を作り出し振り下ろす。エネルギーの刃は左腕のリアクティブアーマーを削ぎ落とし、シールドブレイカーがストライクバーストの胸に当てられる。
僕がシールドブレイカーの引き金を引こうとした瞬間、突き飛ばされた。誰に? アストラルブレイズに。
その時、アストラルブレイズが僕を見ていた。すぐに通信を開こうとして、
アストラルブレイズの腹部が消え去った。
アストラルブレイズの上半身と下半身が分かれ、行き場を無くしたエネルギーが魔力粒子に変わって消え去っていく。
コクピット部分は跡形もなく消え去っていた。
「ああっ」
攻撃が飛んできた方向を向く。そこにいるのはスナイパーライフルを構えるリーゼフィアの姿。
「ああっ」
心がどす黒い何かに覆われていく。もう、自分を止められない。
「うあああぁぁぁぁぁあああっ!!」
そして、僕の意識は闇に呑まれた。
「っつ!」
「はぅ」
オレが急に立ち止まったことで夢がって、またやっちゃった。そんなことは後回しにして今は違うことだ。
「どうかしましたか?」
都が不思議そうに首を傾げている。首を傾げているのは一人だけ。都を除いて全員がオレの向いた方角を見ていた。都もそちらを振り向き絶句する。
何故なら、そこには巨大な魔力の翼が出来上がっていたからだ。本当に巨大な魔力の翼が。
「一体、何が起きているんですか?」
都の疑問にオレは答えることができなかった。
ルナというキャラは第一章で死ぬ予定だったのですが途中から出すことを忘れていたのでこういうことに。とあるラノベのあとがきを読んで一度は考えたのですがこのようなストーリーとなりました。
ルナを失った悠人に起きた異変。それは第一章から描写を隠していた悠人の力に関係しています。