第二百六話 天界との戦い
久しぶりにあのキャラが
「ようやくやな」
ゲートが開くのを確認して光は笑みを浮かべながら頷く。ゲートの大きさは光が知る中で最大。
まさか、相手が自由にゲートを開けるとは光は思っていなかったが、ここまでなると事実なのだろう。
光は小さく息を吐いてレーヴァテインを握り締める。
レヴァンティンと同じエネルギーを利用するレーヴァテイン。それが作られた時は光も詳しくは知らない。ただ、レヴァンティンと違うのとコピーしたレーヴァテインが爆発する特性があること。
この二つくらい。光が知っているレーヴァテインの姿はそれくらい。
「やっぱ、周の言う通りやな。ゲートが開く位置は周の言う通り。しかも、この位置は攻撃範囲」
扉がゆっくり開く。それに応じるように光は小さく息を吸い、そして、魔術陣を展開する。
「大きな花火、行くで!」
そして、ゲートに向かって大量の同じレーヴァテインが展開される。ゲートから現れるのは翼を持つ軍勢。それが大量に向かってレーヴァテインのコピーが放たれる。
「本気の本気。ゲートからこっち側に何人たりともいかせへん!!」
「始まったか」
先に開いた学園都市の東側に出来たゲート。そこから現れた天界の軍勢に対して大量のレーヴァテインが放たれるのがこの場から見える。西側のゲートは未だに準備は出来ていないのか軍勢は出ていない。
「周様、もしかして、最初からわかっていました?」
隣で距離を固定して浮かんでいる都が空を見上げながら尋ねてくる。オレは小さく頷いた。
「可能性としてはあったからな。天界だとはわからなかったけど。天界である可能性を思いついたのはほんの少し前だけど」
天界じゃなくどこかの傭兵部隊だと思っていた。だから、遠距離から射撃によって撃破可能か、絶対に負けることのない面々を配置していた。
本当に、そのメンバーで良かった。
「さすがだよね。私なんて全然ついていけてないし」
「メグさんだけじゃありません。私もです」
「まあ、中村も楓も火力がありすぎて街中では使えないからな」
ちなみにこれは事実だ。基本的に小さな部隊の迎撃には使えるが、乱戦となればかなり辛い。
二人の一番の得意分野は大軍に対する先制攻撃。もちろん、中村はまだ近接が出来ないわけじゃないので使えるが、楓は威力が高すぎる。
「ともかく、今は中央にさっさと向かおう。早く地下に潜らないと、親父はどこまで進んでいるかわからないから」
「大丈夫、だと、思う。一度、データとして、見たことがあるけど」
「そうなのか?」
オレはその言葉に振り向いてしまった。それにより、都が距離を固定していた場所が動き、都も動く。
結果、都が由姫に正面衝突して吹き飛ばされる。
由姫は受け身を取って怪我は無かったが、周囲にいるみんなの視線が痛い。
「あー、悪かった」
「悪いで済んだら警察はいりませんからね。それより、夢さん、どういうことですか?」
「えっとね、今から、レヴァンティンに送信、するね」
夢がデバイスを取り出して配線を繋いでくる。すぐさまオレは送られてきたそれを立体映像として呼び出す。
『なるほどなるほど。マスター、ほんの少しだけ待ってください』
一瞬だけ立体映像が消えたかと思うと今度は立体映像がさらに高度になって現れた。さっきまで平面図のようなものが立体模型になっている。
相変わらずレヴァンティンはハイスペックだ。
「隔壁は常に閉じていると見ていいな」
「兄さん、ここ、パズルですね」
「侵入者を防ぐというより諦めさせるための装置かな?」
「メグの意見、に、賛成」
「そうともとれますね」
「さすがのお父さんも難しいんじゃないかな?」
オレなら絶対嫌になって帰りたくなるだろうな。だけど、どうしてこんなデータを夢が持っているのだろうか。
そう思った瞬間、オレの頭の中に一誠の姿が浮かんだ。
多分、ついさっき夢に送られたのだろうな。
「助かる。みんな、急ぐぞ。ここまでわかったなら対処のしようはある。だから、必ず守りきるぞ」
オレ達は走り出す。それと同時に西側のゲートが開き出すのがわかった。それを見ながらオレは小さく呟く。
「頼んだぞ、楓」
「ようやく、かな」
屋根の上に座り込んでいた楓がゆっくり腰を上げる。そして、服についた埃を払った。
その手にあるカグラを握り締め、開き出したゲートに向かってカグラの先を向ける。
「ブラックレクイエム、準備をお願い」
楓の言葉と共にブラックレクイエムが現れ、楓の隣を浮遊する。
今回の楓の仕事は一つだけ。新しく現れた敵を学園都市内で暴れさすなということだった。
楓自身、自分の火力の高さはわかっている。
「エレノアも頑張っているし、私も頑張らないとね」
狙いをつける。カグラの先をゲートの中心に向ける。それと同時にゲートから何かの姿が現れる。大きさは、巨大。
「竜種? でも」
楓が魔術陣を展開する。おそらく、周がこの場にいたなら確実に言葉を失っているだろう。
カグラの穂先にある魔術陣。それは収束系の魔術陣だが、楓の背後にもいくつもの魔術陣が出来上がっていた。
その数八つ。その全てが膨大な魔力を収束している。狙いはただ一つ。ゲートから現れる巨大な竜のような存在。
竜ではなく蛇なのだが、楓はそれ以上気にすることなくカグラを握り締める。
「穿て」
そして、収束砲が一斉に放たれる。放たれた収束砲はゲートから現れた蛇を貫き消し去った。だが、ゲートからはまだまだ様々な天界版魔物、略して天魔が現れている。そのどれもが大きく、楓にとっては獲物だった。
楓の収束砲は光と違って面よりも点の火力が高い。そのため、相手が大きければ大きいほど大きな威力を出すことが出来る。
だから、楓は笑みを浮かべてゲートを睨みつけた。
「これ以上一歩も、学園都市には入れさせないから」
剣閃が閃く。その閃きは周囲にいた天魔を一瞬にして斬り裂いた。天魔は基本的に翼を持つ存在だ。妖精族もいればペガサスやユニコーンのような存在もいる。まあ、ユニコーンのように翼を持たない種はいるが、神聖性の高い存在は天魔に属されやすい。
そんな存在が一本の刀の閃きによって周囲に血の雨を降らしている。その人物は刀を鞘に収めた。
「ふぅ、弟くんの言うことは正しかったな」
光輝ではなく本物の真剣を用いる音姫は静かに腰を落とす。
目の前にあるのはゲート。そう、ここにもゲートが繋がっていたのだ。白百合音姫という第76移動隊が切れる最大のカードをゲートから現れる天魔を倒すために音姫をはここにいる。
本当は、周は別の存在が来ると思ったのだが、来たのは天魔だった。
音姫は天魔や魔物には容赦はしない。もちろん、言葉が通じる相手なら容赦はするが、言葉が通じない場合は慈悲もなく殺す。
それが世界では常識だ。もちろん、天界や魔界でも通じている。
「天界の侵攻。天界は世界大戦でも起こすつもりかな?」
現れたペガサスを一閃で斬り捨てて、続いて現れたキマイラを翻した刃で両断する。軽く後ろに下がりながら真剣を一閃させ妖精族の首を飛ばした。
そして、血に塗れた真剣を放り捨てて光輝を鞘から引き抜く。
「あなた達は何がしたいの?」
音姫の質問に新たに現れた天使のような純白の翼を持つ男は槍を構えて突っ込んできた。
音姫は小さく溜め息をつくと槍を払い、斬り捨てる。飛び散るのは赤い血。
やはり、人と同じ赤い血。
「本当は戦いたくないんだけどな」
音姫が光輝を構える。ゲートから新たな敵が出て来る気配はない。どうやらあまりの音姫の強さに誰もが前に出ることを拒否しているのだろう。
問答無用で斬りかかって来る相手を見ていればわかる。天界は本気で学園都市を制圧するつもりだと。制圧されたならどうなるかは音姫にだって想像がつく。
音姫は小さく息を吸って光輝を構える。
「これ以上来るならちょっとだけ本気を出すよ。うん、ちょっとだけ」
その言葉と共に光輝の刃が光を受けて輝いた。