第二百五話 介入者
「っつ!」
「はうっ」
思わず足を止めてしまう。ちょうどオレの背後を走っていた夢がオレにぶつかる。だけど、オレは夢を気にすることなく空を見上げていた。
「兄さん?」
「お兄ちゃん?」
由姫と茜の心配する声。でも、今のオレにはその声はほとんど聞こえていない。
「開く」
オレは自分の感覚を感じながら拳を握り締める。
魔力粒子の流れがおかしいのだ。今まで漂っていた魔力粒子が一点に集まっている。その動きはゲートが開く時に酷似していた。
「楓、中村、音姉、頼むぞ」
作戦通りに上手く行って欲しい。でも、相手の動きが少し予想外な部分がある。今のオレはみんなが上手く戦って生き残ってくれることを祈るだけ。
だから、オレは走り出す。自分のやるべきことをするために。
「っつ!」
思わず足を止めてしまう。隣を走っていた冬華とフェンリルも同じように足を止めた。
「悠聖?」
「悪い。何か、嫌な感じがするんだ」
「嫌な感じ?」
冬華が不思議そうに首を傾げた。冬華にはわからないのだろう。だけど、オレの感覚にはしっかりと嫌な感じが残っている。
嫌な感じというより空気が嫌な臭いになっていると言うべきか。きな臭い雰囲気というのが正しいかもしれない。
周が一番警戒している現在戦っている勢力以外の介入かもしれない。
「フェンリルはどう?」
フェンリルは首を横に振る。気づいているのはオレだけか。
「悠聖だけじゃないよ。私も、嫌な予感がするから」
隣にいる優月が空を見上げながら言う。というか、いつの間に優月が隣に現れた? まあ、気にしていたら終わらないか。
オレは小さく溜め息をついて手に持つセイバー・ルカの剣を握り締めた。
「急ごう。早く戦いを終わらせないと大変なことになる気がするんだ」
「それには同感よ。それにしても」
冬華が後ろを振り向く。振り向いた方角はベリエがリーリエ・セルフィナと戦っている方角。
何だかんだ言って冬華は心配なのだ。ベリエのことが。
オレは軽く苦笑して冬華の頭を撫でた。
「今はオレ達に出来ることをしよう。みんな頑張っているんだからさ」
「そうね。向かいましょう。学園都市の中央に」
アーク・レーベが動きを止める。孝治は運命を構えたまま静かにアーク・レーベの動向を見つめて。そして、アーク・レーベが軽く肩をすくめる。
「時間か」
「時間?」
孝治の疑問にアーク・レーベは頷く。
「仕上げの時間だ。本当なら決着を着けたいところだが、私にもやるべきことがあってな」
その言葉を聞いた孝治の胸中に嫌な予感が渦巻く。
今回の作戦に置ける光の役目を聞いていたからだ。聞いていなかったらこの嫌な予感は無かったかもしれない。
「貴様ら、軍を差し向けたか」
「正解だ。この学園都市を制圧すれば、我々は大きなアドバンテージを得る。もちろん、殺しはしないさ。『GF』の評議会の一人、エクシダ・フバル。『GF』総長の孫、海道周に『赤のクリスマス』どニューヨークを消し去った張本人である海道駿。さらには魔王の娘までいる」
「大虐殺を起こさないだけマシだとでも言いたげだな」
「感謝して欲しいな。私が天神や他の五星神を相手に全力で反対したからこうなっている。私達は天空の民。地上の民は守るべき存在だ」
孝治はほんの少しだけ安心したように息を吐く。
なりふり構わず来られたなら孝治達には為す術が無かっただろう。それこそ、全てのシェルターを守らないといけない。だが、アーク・レーベは人質と言った。それだけで戦いは楽になる。
「なら、大丈夫だ。今の俺はここでお前を止めるだけ」
「光明結界を抜けるとでも? それこそが浅はかな考えというものだな」
確かに孝治の攻撃では光明結界を抜くことは出来ない。孝治は構えていた運命を下ろした。
「正しい考えだ」
「どうかな?」
孝治は笑みを浮かべ、そして、身を翻した。同じタイミングでアーク・レーベも身を翻す。
二人は向かう。お互いのやるべきことをするために。
「リース! 無事か!?」
「大丈夫」
浩平の怒鳴り声に平然としたリースの声が返ってくる。それに浩平は安心しながら振り抜かれた剣をギリギリで避けてゼロ距離でフレヴァングをぶっ放した。
フレヴァングが直撃したローブの男が吹き飛ぶと同時に両手から光の刃を作り出したリースが一気に駆け抜けて周囲の敵を薙ぎ倒した。
「浩平は?」
「俺が無敵なことはわかりきったことだろ? にしても、戦場がだいぶ移っているみたいだな」
戦いはだんだん学園都市中央に向かっているそのことは戦いが起きている地域を視界の隅に置いていたからこそわかること。
浩平の言葉にリースは頷いた。
「最終目的地は学園都市中央」
「だよな。だけどさ、一部だけ別の場所に向かっていないか?」
浩平の言葉にリースは周囲を見渡す。周囲を見渡して、そして、頷いた。
「私もそう思う」
「今気づいたのかよ。何というか、一部の航空戦力が二ヶ所に集まっているんだよな。一体どういうことだ?」
「ともかく、今は私達も向かわないと」
リースがそう言い、浩平の手を掴んで歩き出した瞬間、エネルギーの塊が二人の前を通り過ぎた。いや、エネルギーの塊が振り下ろされたのだ。
浩平とリースの二人は顔を見合わせて飛び上がる。二人が向くのは攻撃が来た方角。そこには、両肩に砲塔と、両腰にエネルギーの刃を作り出す砲塔を握ったトリコロールのフュリアス。
それを見たリースは目を見開いていた。
「ストライクバースト」
「ストライクバースト? 何だそりゃ?」
浩平はリースに尋ねる。リースは信じられないようにストライクバーストと言ったフュリアスを見つめていた。
「イグジストアストラル、マテリアルライザーと同時期に作られたフュリアス。遠近両方に戦える高火力のオールラウンダー。どうして、ここに」
『誰かいると思えば煩い蠅か』
急に聞こえてきた声に浩平とリースの二人は身構えた。
『天上の神の前で飛び交うではない!』
そして、ストライクバーストの砲門が二人を狙う。
「させるか!」
僕はすかさずナイフを取り出してトリコロールのフュリアスに向かって投げつけた。ナイフは砲塔に当たり、フュリアスの体勢を崩すと同時に肩の砲門から巨大なエネルギー弾が放たれる。
何とか浩平とリースは守れた。でも、相手のフュリアスはありえないくらい硬い。まるで、イグジストアストラルと戦っているようだ。
天上の神ということは天界の機体だと思うけど、まさかここまでとは。
「エネルギー弾全般は効かないし、対艦剣も無理」
僕は近くに転がっている折れた対艦剣を見る。トリコロールのフュリアスに斬りかかったが対艦剣が折れたのだ。まるで、AEWCとAEBAを同時に合わせたようなイグジストアストラルみたいな装甲。
「イグジストアストラルと同時期に作られた機体?」
肩の砲が放たれるけど、僕はステップで簡単に回避する。斬りかかってきたリーゼアインの対艦剣を対艦剣で受け止めて弾き飛ばし、飛んできたエネルギー弾を撃ち落とす。
キツいというより辛いというべきか。せめて、あのトリコロールのフュリアスさえ倒すことが出来たなら。
『まだ抗うか。それもまたいいだろう。我が力の前にひれ伏すがいい!』
全部で四つの砲門が光を放った瞬間、僕はエネルギーシールドを取り出していた。そして、エネルギーシールドをトリコロールのフュリアスに向かって投げつける。
放たれたエネルギー弾がエネルギーシールドに当たり、エネルギーシールドが爆発する。その瞬間、僕は前に駆け出していた。
煙に隠れるようにトリコロールのフュリアスまで一気に近づき武装を取り出す。
防御力の高い相手に使うための武器。フュリアス専用杭撃ち機。別名、シールドブレイカー。
出力を最大、ブースターを最大限まで解放してトリコロールのフュリアスに肉薄する。飛んでくる攻撃は全てリアクティブアーマーが受け止めてくれる。
僕はシールドブレイカーをトリコロールのフュリアスに当てた。そして、杭を放つ。
最大限まで加速された杭はトリコロールのフュリアスの体をくの字に折り曲げる。
「これで」
どうだ、と言おうとした。だが、嫌な予感が駆け抜ける。トリコロールのフュリアスはまだ動けると感覚が警鐘を鳴らしている。
僕はとっさに逆ブーストをかけた。それと同時にトリコロールのフュリアスからエネルギーの刃が放たれる。エネルギーの刃は肩のリアクティブアーマーにぶつかり、リアクティブアーマーを砕いて虚空に散った。
その部分のリアクティブアーマーをパージする。
『虫けらごときが天上の神たる我に刃向かうか。いいだろう。時は満ちた』
その瞬間、学園都市の上空の二点から巨大な円形の門が出来上がる。ゲートだ。ゲートが出来上がっている。
『さあ、地上の民の求めに応じ、我ら天上の神と天空の民は助けに来た。我は悪を貫く剣なり』
「天王マクシミリアン」
その宣言を聞いて僕はようやく相手の正体がわかった。
天界の王であるマクシミリアンだ。まさか、フュリアスに乗ってくるなんて。
「お前は何がしたい!? 天界の軍を呼べば全面戦争に」
『正義は我らにある。悪を討つのが天界の使命』
「させない」
リーゼアインとリーゼツヴァイの位置を気にしながら対艦剣を取り出して構える。
「あなたは僕が止めてみせる!!」