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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第百九十七話 対抗術式

リーリエ・セルフィナのナイフが何もいない空間に放たれる。だが、そのナイフは軌道を変え、隣から迫っていたベリエに向かって動いた。


ベリエはとっさに手に持つナイフでナイフを弾くが、視線の先にいるリーリエ・セルフィナはすでにベリエにナイフの先を向けている。ナイフを弾いた状況ではまず回避出来ないであろう機動。


ベリエはすかさず目の前に魔術陣を展開した。それは風属性の魔術。強烈な風が、ベリエに向かって吹き荒れる。


前に進んでいたベリエの体が一機に遅くなり、むしろ、後ろに下がり、リーリエ・セルフィナが繰り出したナイフを避けていた。


「危ないよ!」


アリエがすかさずベリエに声を上げるが、ベリエは気にすることなく地面を踏みしめて横に跳ぶ。


それと同時にリーリエ・セルフィナがベリエがいた場所にナイフを突き出していた。


「また、避けられた」


「ベリエちゃん!」


「アリエは援護をお願い。リーリエ・セルフィナは直接攻撃しなければ襲いかかってこないから」


その言葉にリーリエ・セルフィナの眉がピクリと動いた。


「術式展開、雷神槍」


ベリエが身構え、腰を落としながら術式を展開する。魔術陣がベリエを包み込み、ベリエの体から紫電が迸る。


「なるほど。あなたの師は海道時雨ですか」


「刹那もよ」


刹那も海道時雨に師事を受けたのだから、師は海道時雨にはなる。


海道時雨の雷属性は当時は独創的かつ使い道のなかった属性をたった一人で一線級かつ使い道のあるものに変えた。


雷属性自体は医療の現場でよく使われていたものの、戦闘には不向きとされていたものだ。


その雷属性の使い手は数少なく、名が上がる人となればもっと少なくなる。


雷属性最強の術者である海道時雨と『雷帝』の名前を持つ刹那。


有名なのはこの二人だろう。この二人に共通する項目はただ一つ。他は戦い方から武器まで違うのにたった一つだけ、彼らしかしないものがある。


体の帯電化だ。


雷を纏うということは失敗すれば死ぬことと同じ。コントロールに失敗すれば死ぬ。それは数多の術者が辿った運命。


「天才」


リーリエ・セルフィナの口からその言葉が漏れる。だが、ベリエは首を横に振った。


「私は天才なんかじゃない。死に物狂いで覚えただけ。だから、使えるのはこの雷神槍のみ」


雷神槍でもあらゆる属性でトップクラスの難しさではあるが。


「時雨さんからはリーリエ・セルフィナの弱点を聞いている」


その言葉にリーリエ・セルフィナは眉をひそめた。ベリエはクスッと笑みを浮かべながらリーリエ・セルフィナを向きつつアリエとエレノアに話しかける。


「お姉様、アリエ、悪いけど、このベリエ・アトラス。前に出るから」


その言葉と共にベリエは駆け出した。リーリエ・セルフィナはナイフを捨てて杖に持ち帰る。


ベリエもナイフを捨てて剣に持ち替えた。


ベリエの剣とリーリエ・セルフィナの杖がぶつかり合う。リーリエ・セルフィナの顔に浮かんでいるのは怒りに染まった顔。それを見たベリエは笑みを浮かべた。


「リーリエ・セルフィナの弱点その1、空間制御は電磁の乱れがあれば上手く作用しない!」


「くっ」


リーリエ・セルフィナがベリエを強く押して弾き飛ばす。だが、そこにエレノアが炎の槍を叩き込んだ。


リーリエ・セルフィナの体が爆炎に包まれ、そして、消える。


「ありがとうございます」


そして、リーリエ・セルフィナはエレノアの近くまで移動していた。エレノアは目を見開きつつ振り返り、リーリエ・セルフィナにベリエが激突する。


「弱点その2、リーリエ・セルフィナが視認出来ない加速による攻撃では空間制御におけるカウンター転移は発動しない!」


ベリエの膝は完全にリーリエ・セルフィナの顎に入っていた。ベリエはそのままリーリエ・セルフィナを蹴りつけて宙返りをしてエレノアの腕の中に収まる。


エレノアはどこか困惑気にベリエを見ているがベリエは見当たらない。


「お姉様、ありがとうございます」


「ベリエ、大丈夫?」


「大丈夫です。リーリエ・セルフィナを倒すまで、私は倒れません」


そして、ベリエは空中に作り出した足場を蹴った。そのままリーリエ・セルフィナに向けて剣を向ける。


「雷神槍、解放! 千破万雷!」


その言葉と共にベリエの体を紫電が迸り、加速した。その加速はリーリエ・セルフィナという磁石に引かれるようにベリエの体を引きつける。


そして、ベリエとリーリエ・セルフィナが激突し、そのまま地面に激突した。


破壊されない地面だからか威力はかなり低いが、ベリエとリーリエ・セルフィナの体は何回か跳ねて地面を転がった。


雷属性下級魔術である雷神槍は体を帯電させる雷化能力と解放時に自動的に雷属性上級魔術である千破万雷に変化する。雷神槍自体使う人がいないのでまずお目にかかれないが。


千破万雷は使い手が使えば文字通り千を破る万の雷を放てる(雷王具現化に近い何か)が、雷神槍からそこまで出せるわけではなく、帯電させた体を相手の磁力に引き寄せて体当たりする攻撃となる。


もちろん、威力はとても高いが、放った本人にもダメージが高いという両刃の剣の技。


ベリエはゆっくり起き上がろうと腕に力を入れて体を起こす。だが、腕から力が抜けてベリエは顔から地面にぶつかった。


「ベリエちゃん!」


すかさずアリエがベリエに駆け寄って治癒魔術を放つ。駆け寄ってからアリエは初めて気づいた。


ベリエの体の至る所に火傷のような傷が出来ているのを。


「ベリエ!」


エレノアも降りてきてベリエに近づきそれに気づく。


「あなたは、もしかして」


「ははっ、バレちゃいました?」


ベリエが笑いながらゆっくり体を起こす。


ベリエは雷神槍を完全に使えるわけじゃない。雷神槍を長く使えば死ぬ可能性が高いだけだった。ベリエが雷神槍しか使えない理由。雷神槍以外を使えば死んでしまうから。


「リーリエ・セルフィナを倒すために死に物狂いで覚えた術式。リーリエ・セルフィナに対する対抗術式は成功」


「効いたわ」


その言葉にベリエの体がビクッとなる。エレノアとアリエの二人は振り返った。


そこにはベリエが渾身の力で放った千破万雷を受けてなお立ち上がるリーリエ・セルフィナの姿がある。


エレノアもアリエもわかっている。自分達の力ではリーリエ・セルフィナを倒すことは到底不可能であるということを。


ベリエはただそれだけのために死に物狂いに覚えたのだから。


「まさか、雷神槍から千破万雷を受けるなんて。懐かしいわ。あなた達の父親にされて以来のダメージだわ」


エレノアは微かに目を細める。そこにはリーリエ・セルフィナの体を魔術陣が包み込んでいる。目に見えないほどの薄い魔術陣が。


おそらく、ベリエやアリエでは見えていないくらいの魔術陣。


「雷属性が苦手なんて昔からわかっていた。だから、私だって対抗術式は考えていたのよ」


その言葉と共にリーリエ・セルフィナの周囲に紫電が迸る。


雷神槍ではない。雷神槍の上位互換である天雷槍。雷神槍よりも遥かに協力な魔術をリーリエ・セルフィナは使っている。


刹那しか使わない天雷槍を。


「来なさい。ミューズ」


リーリエ・セルフィナの言葉に一人の大男が現れた。その姿を見たエレノアは思わず正式な名前を口にだす。


「雷属性の最上級精霊『ミューズレアル』」


『いかにも。元『炎帝』。今でも『炎帝』を名乗る力はあるかな? エレノア・スカートレット』


エレノアは杖を構える。最大級の魔術を放つ準備は出来ているが、リーリエ・セルフィナには効かない。


「今度は私達の番よ」


そう言ってリーリエ・セルフィナは笑みを浮かべた。

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