第四十六話 最強の器用貧乏の理由
夜八時。
時間になった。
オレと亜紗は横に並んでお互いに武器を抜いている。
オレは右手にレヴァンティン、左手で亜紗の手を握っている。
二人で前衛を担当する時は戦う前に必ずこうしている。そして、こうしながら言葉を交わしていく。
『周さんは準備出来た?』
頭の中に直接響く亜紗の声。
『ああ』
オレも同じように言葉を返す。
『準備はいいな』
『うん』
オレは手を離した。
「悠聖、頼む」
オレは後方にいる悠聖に声をかけた。
悠聖を守るように他の全員は悠聖を囲んでいる。
悠聖は小さく息を吐いた。
「聖なる刻印を纏し者。光の道を指し示せ。光の剣聖『セイバー・ルカ』」
悠聖が静かにルカを召喚する。召喚したと同時にリースがぴくりと動いた。
「来る。六時の方向」
オレと亜紗は六時の方向を向いた。だけど、まだ見えない。
孝治と中村が飛び上がり、浩平とリースが動く。
オレは腰を落とし、亜紗は刀を抜いた。
「さあ、気合いいれていけよ!」
その言葉と共にオレは地面を蹴った。
金色の鬼が視界に入る。速い。真っ直ぐ悠聖を狙っている。悠聖はさらなる召喚の準備を進めているからだろう。
オレはレヴァンティンを鞘を上に向けた。レヴァンティンをしっかり握りしめ、鞘から抜き放ちながら勢いよく振り下ろす。
レヴァンティンの届く範囲にいなかった金色の鬼が地面に叩きつけられた。
白百合流焔斬り『砕破』。
衝撃を空から叩きつける方法だ。オレは一気に鬼との距離を詰めた。
「オレ達の招待状はどうだった?」
力任せに鬼を押さえ込む。
「熱烈だっただろ?」
『よほど死にたいみたいだな』
オレと鬼が離れる。そこに亜紗が飛びかかった。振り下ろしからの振り上げ。簡単に言うなら燕返し。だが、鬼は簡単に避ける。
「亜紗、行くぞ」
オレの言葉に亜紗は頷いた。だが、鬼は笑っている。
『我のフィールドに変えてやろう』
そして、鬼は足を地面に叩きつけた。
オレ達の周囲から紫の霧が噴き出す。毒とは思わなかった。あまりに露骨すぎるし、あの鬼が使うわけがない。だが、オレは体が重くなって膝をつく。
「これは、魔力粒子か」
オレは紫の霧をよく見ながら言った。
『そうだ。我が力が一番増すフィールド。貴様らには苦しい場所だがな。ハッハッハッ』
鬼は空を見上げながら高笑いしている。
確かに、魔力の濃い空間は普通にいても体の負担が増す。簡単に言うなら初めて吸ったタバコのようなものだ。誰もがタバコを美味しく吸えるわけではない。
慣れればどうってことはないが、慣れない状況では負担だけが増える。普通ならの話だ。そう、普通なら。
オレは一歩を踏み出した。
レヴァンティンを鞘に収め、鞘の中で魔力を凝縮させる。そのまま、力任せの居合い斬りを行った。
白百合流姿崩し『鬼斬り』。
レヴァンティンの刀身に魔力を纏わせ、切れ味を何倍にも増幅させる奥義だ。オレはそれを鬼に叩きつけた。
鬼の体を大きく斬り裂く。だが、傷はすぐに戻る。しかし、それ以上にダメージを与えたのは鬼の自信だろ。
『何故、動ける』
「オレは『最強の器用貧乏』と呼ばれていてな、自分の中でどうしてこうなったか理由を考えてみたんだ。そして、思いついたのがこれだ」
レヴァンティンを鞘に収める。
「あらゆる環境に対し順応し100%の力を出すことが出来る能力」
そのまま勢いよくレヴァンティンを振り抜いた。だが、鬼はそれを簡単に避ける。
やはり、今の速度じゃ勝てない。
鬼が距離を狭めてくるが、オレはすかさずレヴァンティンで地面をえぐりながら振り上げていた。
地面から削り飛ばされた土が鋭利な槍となり鬼を狙う。だが、土の槍は簡単に砕け、鬼の腕がオレを薙ぎ払った。
『それが貴様の本気か』
「ああ」
レヴァンティンをしっかり握りしめながら答える。やはり、オレの白百合流では効かないか。
だったら、
「アル・アジフ、準備はいいな」
「当たり前じゃ」
背後から凄まじい力を感じる。それをオレは受け取った。
手のひらに魔力を収束させるんじゃない。体中に魔力を行き渡らせる。そして、体中で魔力を掌握する。それが、限界以上の魔力を掌握する手段。
「だいぶ慣れてきたな。さあ、第二ラウンドと行くか」
オレはレヴァンティンを握りしめ、地面を蹴った。
速度が一気に上げて鬼に突撃する。鬼はレヴァンティンを腕で受け止めた。だが、その瞬間にオレは肩から鬼に突っ込んだ。そのまま腕を取り、足を払いつつ横に回転しながら力任せに投げ飛ばした。
八叉流『朧崩し』。
鬼は着地しながら目を見開く。
「かかってこいよ。器用貧乏だけが、オレの取り柄だ」