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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第百九十五話 赤い悲劇

ベリエ達の話です。完全な補足話。

ベリエは小さく息を吐く。目の前にあるのは焼き尽くされた場所。そこを見てベリエはホッとしたように息を吐いた。


「無事か!?」


悠聖が駆け寄ってくる。冬華も一緒だ。そんな二人を見たベリエは力が抜けたのかその場に座り込んだ。


二人がベリエの横にしゃがみ込む。


「大丈夫、だから。さすがに、緊張したかな」


ベリエはそう笑いながらゆっくり立ち上がる。だが、その足もふらついて立ち上がった冬華に倒れ込んだ。


「休んでいなさい」


「ううん。私だけ休憩しているわけにはいかないから。それに、リーリエ・セルフィナを倒したことをアリエとお姉様に伝えないと」


「つか、リーリエ・セルフィナと何かあったのか?」


悠聖の質問にベリエは一瞬だけ考えた。そして、頷く。


「うん。私達の仇。死んだとは聞いていたけど生きていたから、私達はリーリエ・セルフィナをこの手で倒そうって決めた」


「仇? 親でも殺されたのかしら?」


冬華の何気ない一言にベリエは頷いた。


「うん。リーリエ・セルフィナは」


「エレノア・スカートレット及びベリエ・アトラス、アリエ・アトラスの両親を殺した」


その言葉にベリエが目を見開いて振り返る。そこにいたのは顔半分が焼け爛れたリーリエ・セルフィナの姿があった。


化粧のほとんどは消え去り、顔半分には年齢相応の表情が戻っている。だが、ベリエが驚いているのはそこではなかった。


ベリエがリーリエ・セルフィナに放った最後の技。あれは全くメジャーな技ではなく、むしろ、マイナーの技ではあるが、瞬発的な威力ではやり方によって最強と言われる魔術でもあった。


「糞餓鬼を殺すつもりがなかったから殺さなかった恩を忘れてこんな仕打ちをするなんて、本当に糞餓鬼ね」


「どうして、生きてるの?」


「全天の祝福を避けられたことに関する疑問? それなら簡単よ。私も全天の祝福を仕込んでいただけ」


全天の祝福。


一番使われるのは日本にある五円玉だ。五円玉に宿るご縁という運を凝縮することで魔法に近い奇跡の魔術を発動する魔術。他にも大事なものなら何でもいいが、その中では五円玉が持ち運び安さで一番である。


それを最大限まで使用した場合、その魔術の威力は大陸を半分に割れると言われている。


ベリエが使ったのは凝縮に凝縮を重ねた五円玉。というか、とある日本で有名な神社の参拝客が投げる五円玉の運を全て奪って凝縮したのがあの時転がった五円玉なのだ。人が聞けば怒るだろうが。


その力は極めて凶悪で、緊急用に用意していたリーリエ・セルフィナの全天の祝福を超えるものだった。だが、逃げられた。


「同じ手は二度とくらわない。さあ、覚悟しなさい」


「悠聖、冬華」


ベリエがナイフを抜く。そして、武器を構えた二人の前に出るように踏み出した。


「先に言って」


「ベリエ?」


冬華が微かに目を細めて尋ねる。


「相手はあのリーリエ・セルフィナよ。あなただけじゃ」


「リーリエ・セルフィナに二人は勝てない」


ベリエの言葉に冬華は黙る。事実だからだ。


リーリエ・セルフィナの能力の前では悠聖の精霊も冬華の力も通じない。実際に、冬華は戦闘中何度もリーリエ・セルフィナの能力を止めようとしていた。だけど、一度も成功していないのだ。


だから、冬華は黙る以外に無かった。


「私は大丈夫。もうすぐでお姉様やアリエも来るから。私達三人揃えば負けはない」


「ベリエ、あなた」


「わかった」


悠聖が呆れたように溜め息をつく。その溜め息にベリエは苦笑した。


「ありがとう」


「礼は全てが終わったら聞く。ったく、何でこんなに過去との因縁を決着させようとする奴がいるのだか。冬華、行くぞ」


「ベリエ」


「私は大丈夫。だから、先に言って」


ベリエの言葉に冬華は黙る。そして、小さく頷いた。


「やられたら許さないから」


「冬華も」


その言葉を交わして悠聖と冬華が走り出す。


リーリエ・セルフィナは二人の方向を見ることなくベリエに向かって一歩を踏み出した。


「いいのかしら? お仲間を行かせて」


「リーリエ・セルフィナ」


ベリエがナイフを構える。リーリエ・セルフィナの能力の前にはこんなものは意味がないとわかっている。わかっていてもベリエは構える以外の行動は取らなかっただろう。


リーリエ・セルフィナは顔半分で笑みを浮かべ、顔半分で苦痛を浮かべている。


「糞餓鬼風情が大人を傷つけて。駿さんからは誰も殺すなと言われていますが、糞餓鬼だけは別」


リーリエ・セルフィナが拳を握りしめる。ベリエもナイフを握りしめた。


「「殺す」」


二人の言葉が重なり、二人の間にナイフが放たれた。






目を開けた先にある光景を表すなら赤。真っ赤な炎。真っ赤な衣装。真っ赤な鮮血。


目を開いた先で見た光景。この時に悲鳴を出さなかったのは僥倖かもしれない。


衝撃的で印象的。だけど、ここは戦いが絶えない魔界。いつ襲われるかわからないと覚悟していた。そう、使用人の娘でもあったベリエですら。


ベリエはゆっくり立ち上がる。そして、周囲を見渡して探す。妹のアリエとエレノアを。


二人はすぐに見つかった。ベリエが近づくとどちらも息はある。息はあるのだがベリエは近くの光景を直視出来なかった。


そこにあったのはバラバラにされたエレノアの父親と母親。最初、その光景を見たベリエは胃の中にあるのを吐いていた。


二人の鮮血はエレノアとアリエの二人も真っ赤に染めている。


ベリエは二人を担ぎ上げた。


ベリエも魔界の住人であるため力は強い。すぐに廊下に出て、そこで出会った。この光景を作り上げたリーリエ・セルフィナに。


その頃のリーリエ・セルフィナは普通に若く、直視出来るものであったが、ベリエは睨みつけていた。


「あなたが、だんなさまたちを」


ベリエが覚えたばかりの言葉を使って尋ねる。


エレノアの両親は旦那様達であり、エレノアは仕えるべき相手。そう、両親から聞かされていた。


「可愛いわね。ここで解体したいくらい」


リーリエ・セルフィナが笑みを浮かべる。


ベリエはとっさにナイフを抜き放つが、そのナイフは簡単にリーリエ・セルフィナが投げたナイフによって弾かれていた。


「でも、駄目。駿さんから言われているの。幼子だけは生き残らせるようにって。だから、生き残らせてあげる。この家から出ることが出来たらだけど」


すでに屋敷の大半は火の手が回っている。だからこその言葉。リーリエ・セルフィナはそのまま姿を消した。


ベリエはすぐに二人を担ぎ直す。


幸いにも、ここから出口までそれほど遠くなく、ベリエの体力でも何とかドアの手前までやって来ることが出来た。だが、目の前に広がっている光景に目を見開いてしまう。


そこには崩れた柱が道を塞いでいた。もちろん、激しく燃え盛っている。


それを見たベリエは座り込み、そして、涙を流す。


幼い頭でもわかることはあった。私達はもう、死ぬのだと。


「諦めるのか? 諦めたら、終わりだ」


その言葉と共に柱が吹き飛ぶ。


その人物を見たベリエの顔は一瞬だけ嬉しさに染まり、そして、すぐに絶句していた。


何故なら、そこにはベリエの父親が両腕を失った状態でいたからだ。顔は蒼白であり、切断面からは血が流れているが、そんなものを気にしないという風に立っていた。


「進め。前に進め」


その言葉と共に出口のドアが切断される。そこから姿を現したのは漆黒の服に身を包んだ時雨の姿。


「無事、じゃなさそうだな」


「相手が悪かった。だが、守れたと言っていいだろう」


時雨の言葉に応え、振り返る父親の姿。その表情は今にも倒れそうだったが、満面の笑みだった。


「泣くなベリエ。強くなれ。もっと強く。誰かに師事してもらい、諦めずに強くなれ。そして、守るのだ。私が出来なかったことを」


「アトラス、お前も来い!」


ベリエは時雨に抱きかかえられながら時雨の口から出た言葉を聞いた。だが、父親は屋敷の中に歩いていく。


その背中にベリエは声をかけた。絶対に戻って来ないとわかっていても、ベリエはこの言葉をかけずにはいられなかった。


「行ってらっしゃい」


その言葉に父親の歩みが止まる。


「行ってらっしゃい!」


ベリエは叫んだ。泣きながら叫んだ。そして、父親が振り返る。


「行ってくる」


その顔は笑みがあり、涙があった。






肩に感じる痛みが意識を戻す。


一体、どれくらいの間、意識を失っていたかはわからないが、生きているのは確かなようだ。


ベリエは足に力を加えてリーリエ・セルフィナに向かって駆け出した。


リーリエ・セルフィナは面倒であるかのようにベリエを見る。


「いい加減、死ね! 糞餓鬼風情が、諦めろ!」


リーリエ・セルフィナが放つナイフが飛来する。ベリエはそれを避けてナイフを掴んだ。


「諦めない。絶対に諦めないから!」


その言葉と共にベリエがナイフを投げつけた。だが、リーリエ・セルフィナはそれを簡単に避け、ベリエが笑みを浮かべているのに気づいた。それと共に振り返り、空を見上げる。


そこには『炎熱蝶々』を広げ、杖を向けるエレノアの姿があった。


「焼き尽くせ」


その言葉が響き渡ると同時に炎の塊がリーリエ・セルフィナを狙う。リーリエ・セルフィナはとっさに跳び退いて、左からはベリエが、右からはアリエが迫っているのを理解した。


「あんただけは、絶対に倒すから!」


ベリエはそう叫び、剣を手に取った。


実はこの作品で一番気に入っているキャラはベリエです。

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