第百九十話 フュリアスの戦い
『リヴィバー及びアルケミストのファランクス装備の出撃を確認。両機共に所定の位置に向かっている。アストラルソティスとアストラルルーラのアルティメイト装備を続いて射出する。両機はカタパルトに移動してくれ』
通信から和樹さんの声が聞こえる。僕はレバーを握りしめていた手を外し、パワードスーツの腕を外して汗を拭った。
緊張する。
実戦は実戦でも今回は強大な敵がいる。リーゼアインにリーゼツヴァイ。そして、正体不明のフュリアス、リーゼフィア。
今までならエクスカリバーの力でどうにか出来るくらいの戦力差はあった。だけど、リーゼアインにリーゼツヴァイ、そして、リーゼフィアの三機は恐らく手強い。
今まで以上に注意深く行かないと。
『悠人、緊張してる?』
ルナの言葉と共にルナの顔が映った。僕はルナを見て笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ」
『ちょっと緊張しているわよね。初体験の時みたいな表情になっているけど』
「何でそんな時の僕の表情を覚えているのさ!?」
僕は顔が赤くなるのを感じながら叫んだ。ルナは顔を赤くしながらも笑みを浮かべている。
『だって、可愛かったから』
多分、ここが水の中なら確実に近くの水が沸騰していただろうな。
「あぅ」
『ふふっ。悠人、大丈夫。悠人の強さはよく理解しているから。私じゃ相手にならないくらい、ううん、この世界にいる誰もが機体性能以外で勝つことは出来ないって信じている。あんたの戦いを、私はずっと見ていた。あんなに綺麗にフュリアスを動かせる人はいない。あんなに状況判断が上手いフュリアスは数少ない。あんなに心がときめく戦いが出来る人はあんたしかいない。大丈夫。私は、悠人の実力を信じているわよ』
「今回は難しいかも。リーゼアインもリーゼツヴァイも強力な装備をしているし」
『装備が何だと言うわけ? 悠人はわかっていないわね。いくらすごいものを作り出してもそれを扱える人がいないなら意味がない。その点に関してはお姉ちゃんやルーイも同じ。二人共、まだ機体性能に頼っている部分が多いから。その点では悠人の技術はずば抜けている』
「そう、かな」
そんなことを思ったことはない。でも、みんなはどうしてあの武器を使わないのかな、と模擬戦の中では思ったことはある。
だから、ルナを少しは信じようかなと思う。
『悠人! メリルを回収したよ!』
その時、僕の耳に鈴から通信が入った。僕はパワードスーツの装着を確認してレバーを握り締める。メリルを回収したということは甲板での出撃が可能ということだ。
『悠人、また、後で』
「うん。また、作戦が終わったらね」
僕はルナの声を聞いてい息を吸い込み、そして、小さく頷き声を上げる。
「アルテミスパック装備エクスカリバーZ1の搬送エレベーター使用許可を」
『任せろ。大空を駆け回れよ』
和樹さんの声と共にエクスカリバーの搬送エレベーターが動き出す。それと共に甲板のカタパルトも起動しているだろう。
僕は小さく息を吐いて外部カメラから写される。外の様子を見る。見えるのは壁。だが、しばらくしたそこには何人かのローブの人が魔術を展開している姿だった。だけど、その人達全員が固まっている。多分、エクスカリバーのフォルムを見ているからだろう。
『エクスカリバー射出後、アストラルブレイズを射出する。その後、データアンインストールを開始するからリリーナは早くソードウルフに乗って出撃すること』
『わかったよ。ハッチや固定用器具は?』
「解除済みだよ。すぐにソードウルフは出撃できる」
僕は声を上げ、出力を一気に上げた。カタパルトが同時に起動してエクスカリバーの体が一気に加速する。直線上にいる人達は慌てて魔術を放つが、アルテミスパックの前では効かない。
「どけっ!!」
僕は外部スピーカーをオンにして叫んだ。その叫びと共にローブの人達が慌ててエクスカリバーの進路から遠のく。
エクスカリバーの体が大空を舞った。それとどうじに緊急出撃用装甲であるアルテミスパックをパージする。
エクスカリバーを覆っていた鋼鉄の衣が剥がれ、エクスカリバーの銀翼の翼が大空を光を照らすかのように現れる。
「目標地点確認」
僕は目標地点である敵フュリアス集合地点に視線を向けた。そこには確かにリーゼアイン及びリーゼツヴァイ、そして、おそらくリーゼフィアを含む国連の最新型フュリアスであるアサルトの集団があった。
慌てて動いているのはアサルト。だから、僕はエクスカリバーを変形させることなく現形状の最高速度になるまで出力を上げる。
「これより、強襲作戦を開始する!」
その言葉と共に、僕はアサルトの群れの中を駆け抜けた。駆け抜けてすかさず空へ舞い上がりながら変形する。
強烈な重力が体にかかるが気にすることなく僕はその手にバスターライフルを二つ取り出した。そして、引き金を引くことなく一気に急降下する。
その時になってようやくアサルトの一部が僕に向かってエネルギーライフルを構えるけど、エクスカリバーは地面に着地し、僕はバスターライフルの引き金を引いていた。
バスターライフルから生まれるのは光の奔流じゃない。
超極厚のエネルギーの刃。
それを握り締め、エクスカリバーで地面を蹴る。
フュリアスの近接戦闘はいたって簡単だ。もしかしたら、生身での戦闘よりも簡単かもしれない。あらゆる補助ブースターを使い通常では出来ないような軌道を描くことで相手の予測を外し、確実にダメージを与えることが出来る。
後は全て僕の体から湧き出る勘を使いきるだけ。
嫌な予感と共に迫りくるエネルギー弾を僕は嫌な感じのしない方向にひたすらエクスカリバーの体を動かしていく。そして、両手に持つバスターライフルソードを振り回す。フュリアスの力を使った無茶苦茶な回転攻撃や鷹飛びしながらの攻撃など、ことごとく予想を外すような攻撃。
右に避けて回転しながらバスターライフルを振りつつエネルギー弾を避けて目の前にいるアサルトを両断する。そのまま両断したアサルトに飛び蹴りを放ちながら足についているメインブースターでその場に一回転してエネルギー弾を避けつつ着地。そのまま機体上方の補助ブースターをつかって屈み込み、すかさずメインブースターによる加速で一気に距離を詰めつつエネルギー弾を回避。そして、アサルトとの距離を詰める。
やっぱり、この軌道はFBSじゃ出来ない。あるはかなりのコマンドが簡略化されているからここまでの機動が出来ない仕組みになっている。
だから、ゲームじゃなく、この機動が出来る現実の方がいい。
右、左、右、そこ。
僕は両手のバスターライフルを合わせた。
全ブースターと全スラスターを噴射して下がりながらもデュアルバスターライフルを放った。
極太のエネルギー弾が吐きだされ、一直線上にいたアサルトを巻き込んだ破壊する。すかさずバスターライフルから手を離し、変形しながら一気に距離を詰める。そして、アサルトの目の前で再度変形して取り出した対艦刀で斬り裂いた。
僕は小さく息を吐いて対艦刀の先を地面に当て、残ったリーゼアイン、リーゼツヴァイ、リーゼフィアを睨みつける。
「残りはあなた達三機だけど、どうする?」
対艦刀を構えながら僕は尋ねた対する回答は三機共に対艦剣を取り出して構えること。
僕はゆっくり笑みを浮かべる。戦いに酔っているともいえる状況。でも、その状況が僕にとっては好都合でもあった。
「そう。わかったよ。手加減は出来ない」
僕は対艦刀を構える。
「世界最強の名にかけて、あなた達を破壊する!」