第百八十七話 第二段階へ
学園都市中央部中央広場。
そこはただの広場として覚えられている場所。その中央にある噴水。それはいつもの姿とは違うあるべき姿を取っていた。
簡単に言うなら移動しているのだ。移動している噴水は地下へ続く通路を作っている。
周は使われていない下水道をルートとして考えていたが、実際は違う。ミスリードを誘うために様々な工作がされていただけだった。
そんな地下への入り口の前に海道駿は降り立った。隣には海道椿姫の姿がある。
「よく開けてくれた」
入り口を守る槍を持つ男に対して海道駿は声をかける。男は敬礼をしながら応える。
「ありがとうございます。これも隊長の大望のため」
「助かる」
だが、海道駿は気づいていない。その人物が隊長と言った時、視線が海道椿姫に向いていたことを。
「では、椿姫。行ってくる。この世界を新たな段階に変革するために。私達人類が、選ばれた存在だと確定させるために。だから、後は頼んだ」
「わかりました。いってらっしゃい。あなた」
海道駿は頷き、何人かローブを着た者達と共に中に入っていく。
海道椿姫はそんな様子を笑みを浮かべながら見ており、そして、
「バカな人」
そう呟き、笑みを浮かべた。
「作戦段階を次のステップに移します」
「了解しました」
噴水を守る男も笑みを浮かべた。その笑みは人殺しを楽しむかのような笑み。海道椿姫の笑みもよく似たものだ。
海道椿姫はその手に持つ槍を握りしめながら歩き出す。
「さあ、戦争の始まりです」
その瞬間、爆発が俊也の体を吹き飛ばしていた。
甲板をタイクーンとアーガイルに任せ、地上をフィンブルドとグレイブと共に戦っていた時、目の前でどこからか放たれた砲撃によって吹き飛ばされたのだ。
大きな衝撃と共に俊也の体がエスペランサの壁に叩きつけられる。
『俊也!』
フィンブルドの声。目を開けた先には剣を振り上げるローブの男の姿。その剣は鈍く光り、俊也には凶器のように見えていた。
フィンブルドが風を操るが男が振り下ろし始める方が速い。そして、宙を舞った。
ローブの男が持つ剣の刃が。
それと共に漆黒の閃光が男を両断するかのように通り過ぎ、その場に倒れ込む。
「ギリギリ間に合った?」
その言葉と共に大きな鎌を握りしめるリリーナが俊也の前に着地する。
俊也はゆっくり立ち上がるが体の痛みが全身を襲う。爆発を至近距離で受けたのだ。仕方がない。
「リリーナさん、どうして」
「ソードウルフのファランクス装備って案外使いにくいからね。特に、市街地を破壊出来ない市街地戦でのソードウルフのファランクス装備は本当に難しいよ」
そう言いながらリリーナは手に持つ大きな鎌を構える。
リリーナはフュリアスのパイロットでありながら近接もこなすことが出来る。ただ、戦力としては文字通り一般隊員ではあるが。
「相手からの砲撃か。これって第二段階への移行だよね?」
「おそらく」
リリーナの言葉に俊也は頷く。それに対してリリーナはその手に握る鎌をしっかりと握りしめた。
「だったら、本気で行かないとね」
「砲撃を開始しただと!?」
浩平の視界の中でアサルトがラフレシアみたいな長距離射撃用の装備を使って曲射射撃を行っていた。
砲撃されている先はエスペランサ。
「第二段階へ移行ってか。つか、撃ち落としたいのは山々なんだけど、撃ち落としたら完全に見つかるよな。まだ、リーゼアインとリーゼツヴァイは動いていないのにな」
未だに純白のコートを着たフュリアスは動いていない。もしかしたら悠人達が動くのを待っているのかもしれない。
悠人はリーゼアインかリーゼツヴァイくらいしか抑えきれないし。
「リース、どうする?」
『見つかった』
リースに尋ねた瞬間、リースが少し驚いた様子で応える。
コートはフレヴァングをリースがいる方角に向けると、そこには囲まれているリースの姿があった。
作戦上ではこのまま待機してフュリアス部隊と共に敵フュリアス部隊へ攻撃を加えることになっている。だが、このままだとリースが危ない。
竜言語魔法すら消し去るもの。単体が相手なら火力で強制突破は可能だが、複数となると未知数だった。
浩平は考える。周に連絡すべきかどうか。そして、浩平は通信機を取り出した。
「リースを助けるために勝手に行動する」
一方的な言葉を投げかけて浩平は通信機を外し、フレヴァングを向けた。
リースはその手から光の剣を両手に出して暴れ回っている。
浩平は狙いをつけ、そして、引き金を引く。
リースを囲んでいた一人が浩平の射撃を後頭部に受けて昏倒する。それによって相手が数人振り返った。
今の射撃で場所は見つかった。だが、元より見つかるために放った一撃。注意を引きつけて合流するだけの時間を稼げばいい。
浩平は近づいてくる気配を感じ、フレヴァングから双拳銃に持ち替えた。
「リース、今行く」
そして、浩平は地面を蹴った。
この時、浩平は知らない。この行為が、周の作戦を大きく逸脱した行為が、これからの未来を変えることになるとは思いもよらなかった。
オレは小さく溜め息をついてレヴァンティンを耳から遠ざけた。そして、背中に担ぐ都を担ぎなおす。
浩平の作戦行為からの逸脱。そもそも、オレ自身が作戦行為を大きく逸脱した行動を取っているため今更ではあるが。
「誰からの連絡ですか?」
「浩平だ。隠密行動をして相手の動きを探ってもらっていたが、どうやら見つかったらしい。まあ、状況自体が今更だから大きな作戦の変化はないな」
これによって大きく作戦が乱れることにならなければいいけど。
エスペランサ自体は周囲が戦闘中のためフュリアス部隊が外に出ていない。それは少しばかり不利な状況でもあるが、面々の動きから考えてもうすぐエスペランサを巡る攻防戦は一応の終わりとなるだろう。
「後は、メグと合流するだけか。夢はどうする?」
「私は、別行動。室内戦は、得意じゃない」
「まあ、射撃メンバーは三次元を上手く使わないと戦えないからな。わかった。ただ、誰かと合流出来なければどうしようもないと思うけど」
夢はおそらく隠密行動は得意だが近距離での戦闘はまず無理だろう。だから、無理させないことを考えておかないと。
それに、そろそろ第二段階に突入する。合図はまだ送っていないけど一部の人はわかっているはずだ。
「メグとは通信が取れないし、合流出来ればいいんだけどな」
オレは小さく溜め息をついて道を曲がったそこには、真っ赤に焼けた大地があった。いや、地面の上を炎が走っているだけで本当に燃えているわけじゃない。
その中で戦っているのは二人、メグと北村信吾。
メグは炎獄の御槍による炎を、北村信吾はフェニックスによる炎を纏いぶつかり合っている。だが、やはり火力の問題かメグはだんだん押されていた。つか、メグの炎とフェニックスの炎が拮抗しているし、メグの炎が今までよりも遥かに強いような気しかしない。
メグは一体、どこまで強くなるんだ?
「イグニスランス!」
「フェニックス!」
メグが放つイグニスランスをフェニックスが呑みこむ。だが、その瞬間にはいくつもの魔術陣をメグは展開していた。すかさず北村信吾が後ろに下がる。だけど、魔術陣の細かなところまで見たオレから言わせれば完全な失敗。だけど、普通はこんなことはしないだろう。
メグが作り出したのはインフェルノボム。北村信吾はその範囲に捉えられ、爆発に呑みこまれる。
爆発に呑みこまれながらも北村信吾はすかさず炎を放とうとして、目の前に炎の分厚い壁が広がっている。
炎属性の上級魔術であるフレイムウォール。北村信吾は思わず後ろに下がる。それは、人として当たり前の行為。だからこそ、隙が出来上がる。
メグはすかさず炎獄の御槍を投擲する体勢になる。その炎獄の御槍をいくつもの魔術陣が包み込んでいた。その魔術陣はイグニスランス。
複数のイグニスランスを憑依させた炎獄の御槍が放たれる。それをメグは北村信吾に向けて投げつけた。
炎獄の御槍を防御すべきか、それともイグニスランスを防御すべきか。おそらく、北村信吾はそれを考えていただろう。だからこそ、ほんの一瞬の隙が出来上がる。その隙にメグはもう一つの魔術を展開していた。
それを見たオレは思わず顔をひきつってしまう。
炎属性上級魔術の中で具現化よりも高度と言われる収束系の上級魔術。ほぼ光属性の炎魔術である熱量を収束させたもの。
アトミックブレイカー。
確か、放てる人はこの世にいないと言われたほどの最大級の威力を持つ収束系魔術。魔術陣はわかっていても、そこまでの熱量を作り出すことが出来なければ放つことすらできない最高難易度の魔術。
それをメグは平然を展開していた。
そして、メグがアトミックブレイカーを放つ。初めて見るその魔術はどう考えても光を収束させたかのような攻撃だった。まあ、光魔術自体が光の持つ熱量を使った攻撃だから似ているのはわかるけど、アトミックブレイカーは目も眩むような砲撃。
北村信吾はすかさず判断する。フェニックスの炎をアトミックブレイカーに向かって放った。そして、炎獄の御槍を掴もうと体を動かす。アトミックブレイカーをフェニックスの炎が包み込み、炎獄の御槍が北村信吾の手に触れようとした瞬間、炎獄の御槍が姿を消した。代わりに、イグニスランスがその場を駆け抜ける。
北村信吾の腕をイグニスランスは微かに焼き、アトミックブレイカーはフェニックスによって完全に消されていた。だが、今までいたところにメグの姿はない。
「これで」
その声に北村信吾は上を見上げる。そこには、炎獄の御槍を振り下ろすメグの姿。
「終わり!」
炎獄の御槍は北村信吾を上から両断するように叩きつけられ、北村信吾はその場に倒れ込んだ。
「メグ!」
オレはすぐさまメグに駆け寄る。メグはその声に気づいてこちらを振り向いた。
「やっほー。何とか、勝てたよ」
「勝てたよ、じゃねえよ。無茶しやがって。ちょっと見せろ」
メグの腕を手に取るとその腕の大半が火傷一歩寸前の様な状態だった。オレは小さくため息をついて治癒魔術によって火傷を治癒する。
ほぼ全身に火傷をしていたのでついでにやるが、聖骸布を身につけているのに火傷に近くなるということはメグは炎王具現化を使ったみたいだ。炎王具現化は火力が上がる半面、使用時間が長いと全身に火傷を負って早く治癒しなければ大変なことになる。
オレは呆れたように息を吐く。
「炎王具現化は禁止な」
「わかっちゃった?」
「オレを誰だと思っている。というか、都。そろそろ降りてくれ」
オレはその場に都を下ろすと目を覚ましている都がしっかりと自分の足で地面に立った。振り向きながら小さくため息をつく。
魔術について詳しくない由姫は全くわかっていないようだし、そもそも、アトミックブレイカーすらわからないであろう夢は首をかしげている。ほんの少し起きたような都は理解していない。
「とりあえず、北村信吾に拘束用の腕輪を」
「それをされると困るのですけどね」
その言葉にオレは笑みを浮かべる。少し展開は違うけど、オレが考えている通りの状況。
オレは振り返りながらメグよりも前に出た。
そこにいるのはお袋と一誠の二人。いや、その後ろにはたくさんのゴーレムが作り上げられている。
神隠しによる効果だろう。歌姫の力で守られているはずの地面から作り出せるなんてそれくらいしか考えられない。
「やはり、お前みたいな存在を産んだことを後悔しています」
「後悔、ね。まあ、別にいいけど。お袋の考えからすれば、今頃学園都市の大半は掌握していたはずなんだろ?」
「それをあなたは阻止した。まるで、全ての戦術を読んでいたかのように。本当に憎らしい」
「お袋は何がしたい? お袋がこの学園都市でしようとしていることはわかっている。その結果、お袋は何を」
その瞬間、ほんの一瞬だけお袋は笑みを浮かべた。その笑みを見ただけで理解できる。
お袋とはわかりあうことができないのだと。
「お前は私が手のひらで踊っていると思いますよね? 違います。手のひらで踊っているのはお前達の方ですよ。だから」
周囲から気配が現れる。隠密行動を取っていたのかわからないが、ともかく急にたくさんの気配が現れていた。
オレはレヴァンティンの柄に手を置く。そして、笑みを浮かべた。
「レヴァンティン!」
『撃ち上げます!』
その言葉と共に一発の信号弾が撃ちあがる。その信号弾が引く煙の色は青。そして、大きく緑色に爆発した。
「ドライブ、スタート」
「ドライブ、行きます」
「断章、ドライブです」
「ドライブ展開」
オレと、由姫、都にメグの声が響き渡る。
オレは笑みを浮かべてレヴァンティンをお袋に向けた。
「第二段階、スタートだ」
メグが強くなる理由。炎獄の御槍の存在です。この神剣に関して語るのはほんとうにいつになるかわかりませんが、メグが握っている間は、どうしてここまでメグが強くなれた本当の理由が解き明かされる予定はありません。強くなりすぎだと思った方は炎獄の御槍がチート装備なんだと思っていてください。