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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第百八十六話 北村兄妹

炎獄の御槍を包む炎がお兄ちゃんを包むフェニックスの炎とぶつかり合う。私の炎の威力は高いのだが、お兄ちゃんの方が威力は高いから簡単に食らいつくされる。


そんなことは最初からわかっている。


「焼き尽くせ」


お兄ちゃんの言葉と共にフェニックスの炎が私に向かってまるで蛇のように襲いかかる。


私はすかさず魔術陣を展開した。


「イグニスランス!」


その魔術陣から膨大な熱量を持った炎の槍が射出される。


フレイムランスの上位魔術であるイグニスランス。威力はフレイムランスを遥かに上回り、一点に対する火力なら炎属性最強だろう。


イグニスランスとフェニックスの炎がぶつかり合い、爆発を起こした。


「そんな弱い炎で消せると思うな!」


その言葉と共にフェニックスの炎が私がいた場所に食らいついた。そう、私がいた場所に。


私は炎獄の御槍を振り上げながら飛び出す。イグニスランスによって出来た爆発の煙の中から。


「なっ」


お兄ちゃんの驚く顔。炎獄の御槍を最大限まで使えるこの形態でなければ爆発の中に飛び込むのは自殺行為だ。でも、爆発の中に耐えられ状況なら話は変わる。


基本的な魔術探知だと爆発で紛らわせることが可能だから。熱量もあるし、爆風による粒子の乱れもある。だから、私はこの策を取った。


結果は、成功。


お兄ちゃんは私を見ている。私はすかさず炎獄の御槍を縦に振り下ろした。


「くっ!」


お兄ちゃんの目の前に炎の壁が出来上がる。だけど、私はそれを気にすることなく振り切っていた。


空に血が飛び散る。


炎獄の御槍はお兄ちゃんの腕を微かに斬り裂き、炎の壁を砕いたことによる炎の破片は私の頬を微かに裂いていた。


私は炎獄の御槍を握りしめて後ろに下がる。


「燃え尽きろ!」


その言葉と共に放たれるフェニックスの炎。


お兄ちゃんの顔にあるのは焦り。多分、傷つけられたのが焦りを生んでいるのだろう。前のお兄ちゃんには圧倒されてしまったから。


私は炎獄の御槍を構える。そして、前に踏み込んだ。


フェニックスの炎は精霊の炎。だからこそ、たった一つだけ対処する方法がある。もちろん、一回だけの特殊技。


悠聖さんみたいに絆が深い場合は無理だけど、お兄ちゃんとフェニックスなら大丈夫。絶対に大丈夫。


「どけっ!!」


私の口から出る大きな声。その言葉と共にフェニックスの炎が勝手に軌道を変えた。


「なっ」


今度こそお兄ちゃんは絶句する。だから、さらに踏み込む。


炎獄の御槍の柄をお兄ちゃんのわき腹に叩き込んで、私はお兄ちゃんを近くの建物に叩きつけた。


いくら威力を吸収すると言ってもここまで威力が高かったなら気絶するだろう。


「成功、した」


私は小さく息を吐いてその場に座り込んだ。まさか、成功するとは思わなかった。


精霊の力は人によって使役される。なら、使役する人よりも強烈な気配を出せばどうにかなるんじゃないかと思ったからやってみた。


周がいたなら確実に自殺行為だと罵っただろうけど、結果オーライだよね。


「後は、精霊を封じる腕輪を」


『小娘にしては面白いことをする』


お兄ちゃんが、いや、お兄ちゃんじゃない。お兄ちゃんの姿をした別の誰かが起き上がる。


「あなたは、誰?」


だから、私は尋ねた。立ち上がり、炎獄の御槍を構えて。


『気づいているのではないか小娘? わかっていたからあのようなことをしたのだろ?』


「フェニックス」


私は炎獄の御槍を握りしめる。精霊が人を操るなんて聞いたことがない。精霊というのはお互いに契約して成り立つものだからどちらかが一方的なんてないはずなのに。


『そう、我はフェニックス。精霊で最も気高き血筋であり、精霊を統べるに値する存在。こやつより小娘の方が体は馴染みそうだな』


「どういうつもり? お兄ちゃんを操っていたの!?」


『下等な人間ごときを操るとでも思っているのか? 我はただ、代償と共に力を貸しただけだ』


その言葉に私は驚く。精霊の契約に代償なんてないはずだから。


『こやつの考え方はこやつのもの。我はただ、代償と共に傷を癒やしていただけ』


「代償って何? お兄ちゃんに何をしたの!?」


『何もしていない。我が提示した代償をこやつが呑んだだけのこと。我もそれには驚いたが』


私は魔術陣を展開してイグニスランスを放った。だが、イグニスランスは簡単に受け止められ、炎を吸収される。


『代償はただ一つ。こやつの生命力を分け与えてもらい、復活した暁には共に世界を変革すること。こやつは嬉々と応じてくれた。ありがたいことにな』


「じゃ、お兄ちゃんは人を殺したいと思っていたの?」


『正確には世界の変革だ。殺したいわけじゃない。選ばれたと思っている存在。当たり前の生活が幸せと気づかない存在。こやつはそいつらが憎らしかった。世界の秩序にはいらないと思っていたほどにな』


そう語るフェニックスの顔はどこか生き生きしている。そして、さらに生き生きした笑みを浮かべてフェニックスは言う。


『選民思想。どれだけ自分が恵まれているかわかっていない人間のゴミを焼き尽くし、新たな大地に選ばれた民だけを残す。こやつはそう考えていた』


「嘘だ」


お兄ちゃんがそう考えていたなんて。それだったら、お兄ちゃんが完全にテロリストじゃない。


昔のお兄ちゃんみたいに、『GF』が正義じゃないの?


『嘘ではない。こやつの考え方はそれだ。我も驚いた。世界に仇なす存在ではあるが、我の考えと同じだったからな。世界は変革されるべきだ。この世にはいらない民が多すぎる。だからこそ、再生を司る炎を操る我が共に歩める存在だ』


「返して」


私はふらっと前に出る。そして、全力で炎獄の御槍を振るっていた。


「お兄ちゃんを返せ!!」


全力で振った炎獄の御槍は、お兄ちゃんの姿をしたフェニックスによって簡単に受け止められていた。


「危ないじゃないか、メグ」


「あっ」


お兄ちゃんの声に私は思わず炎獄の御槍を手放してしまった。


助けたかったお兄ちゃんを私は攻撃してしまった。でも、それは失敗。


お兄ちゃんが炎獄の御槍を掴み、構える。それと同時に私の体から炎が消えた。


「メグ、共に歩まないか? 俺と共に」

「お兄ちゃん、どうして」


「この世界がどれだけ腐っているかわからないのか? 世界を救うには変革が必要だ。だから、俺はフェニックスと共に変革することを決めた。メグはいつまでこの停滞する世界を歩んでいる?」


「停滞なんて」


「停滞している。だからこそ、壊さなければならない。『赤のクリスマス』と同じ理論だ。壊して壊して壊して壊して、文明を破壊すれば世界は滅びから遠ざかる。なら、変革すればいい。必要な人以外を殺して、それ以外を生き残らせる。それが正しい世界の姿だ」


「違う」


私ははっきり言葉を口にする。


お兄ちゃんの考え方は間違っているから私は胸を張って反論する。


「停滞なんてしていない。世界はずっと進み続けている。お兄ちゃんは世界を見ていない!」


「世界を見ていないのはお前だ。この学園都市という箱庭の中で」


「見ているよ。だって、第76移動隊の隊長は周だから。周は苦悩している。このほんの二ヶ月ちょっとの間でたくさんのことがあった。周はたくさんのことを理解したよ。そして、繰り返させないために動いている」


「それが停滞していると言っている!」


確かにそうかもしれない。今の周はあの日の悲劇を起こさせないために戦っている。多分、あの日の後悔を断ち切るために。


過去ばかり見ていると言ってもいい。でも、それは過去に縛られているわけじゃない。


「停滞じゃない。過去を乗り越えようと頑張っている。昨日の自分よりも今日の自分。明日の自分は今日よりも。必死みんなが頑張っている。世界に対してどうすればいいか。一人一人が出来ることなんて少ないのに周達は考えている。必死に、一生懸命。そんな周達を否定なんてさせない!」


「そんなちんたらやっていたら、世界は変えられないんだ!」


お兄ちゃんが炎獄の御槍を突いてくる。私はその穂先を見ながら小さく笑みを浮かべ、動かなかった。


炎獄の御槍の穂先が私のお腹を突き破る。灼熱の痛みと共に私の体が炎に包まれた。


私はすかさずそのまま後ろに下がる。お兄ちゃんは炎獄の御槍を手放している。多分、私を貫いたことがショックだろうな。


痛みをこらえて炎獄の御槍を抜くと、さらなる痛みが襲いかかり、私はその場に膝をついた。


炎獄の御槍を握りしめ、お兄ちゃんを睨みつける。


「どうして」


お兄ちゃんの口から出る言葉。私は笑みを浮かべて返した。


「炎獄の御槍は、私の神剣だから」


痛みのあまり目を瞑る。我慢しないと。お兄ちゃんをどうにかするためには我慢しないと。


その瞬間、頭の中に何かの光景が広がった。


炎に包まれるまるで太陽みたいな星。その炎と炎を半分にするかのように氷の大地が姿を見せている。言うなら、氷は大陸。炎は海。


それを見た瞬間、私は目を開けていた。目を開けた時にはあれが何だったかはわからないのに、私の中には一つの術式があった。


もしかしたら、炎獄の御槍がくれたのかもしれない。


私は痛みをこらえて立ち上がる。


「炎獄の御槍、行くよ」


だから、私はその術式を展開する。


「炎王具現化!」


私の体を今まで以上の炎が包み込んだ。多分、炎獄の御槍を握っていないなら出来ないであろう炎王具現化。もしかしたら、今日を過ぎたなら使えなくなるかもしれない。


でも、それでいい。


「共に、行こう」


私は一歩を踏み出した。そして、炎獄の御槍を振り払う。お兄ちゃんはフェニックスの炎で槍を受け止めた。だが、炎は完全に拮抗している。


「今度こそ、お兄ちゃんを止めてみせる!」

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