第四十五話 普通ではない人生
周が普通の人生を捨てた理由を半分くらい書きました。
孝治が自らの剣にバッテリーを装着していく。
浩平はフレヴァングの整備をしている。
音姉と由姫は並んで正座。
誰もが落ち着きがなく、ただ時間を過ぎるように祈っている。
オレは小さく息を吐いた。
「緊張しているみたいだな、七葉」
「周兄。そりゃね」
七葉はベンチに座って自分の手を見ていた。その手は震えている。
「私はこんな実戦が初めてだから。死ぬかもしれない実戦は。周兄達はよく平気だよね」
「強くなろうとした」
オレは星空を見上げた。
満月の月とまばらな星。その光景を見ながらオレは言葉を続ける。
「だから、戦った。オレ達からすれば、こういう緊張感はモチベーションを上げる効果があるからな」
「周兄は大人だね」
「大人になろうとしただけだよ。オレも、孝治も。子供に見られたら上には上がれない。だから、必死で勉強して、必死で言葉遣いを直した。今更子供に見て欲しいとは言わないけど、オレ達は強くなろうと色々やったんだ。それが、オレ達の決意だ」
普通の人生を歩むことを止めたオレ達はずっと戦い続けている。別の道ならもっと幸せになれただろう。でも、オレ達はこの道を選んだ。
「多分、オレと七葉じゃ見ているものが違う。オレは立ち止まらない。自分のしたいことが達成出来るまで。オレは戦い続ける」
「周兄。疲れないの? 悠兄も頑張りすぎだよ。どうして、そこまで戦えるの?」
「義務と、罪悪感かな」
「えっ?」
オレはそれだけ言って七葉から離れた。
そう、オレが戦うのは義務と罪悪感。そこに無理やりエゴを入れ込ませているだけだ。
オレは、普通の人生を歩んだらダメだから。
「来たな」
オレが小さく呟くとアル・アジフが都を連れてやって来ていた。
二人はオレの前で止まる。
「準備は出来ておるな?」
時刻は七時になったところ。
「こっちは全員集まっている。準備は万端だ」
参加者は第76移動隊から十名。『ES』からは一名。そして、
「すまぬ。都も見守ると言って聞かぬのじゃ」
一般人一名。
「周様、狭間市代表として結末を見届けさせてもらいます」
「琴美は?」
「千春が見ています。私達の中はかなりいいですから」
そう言って都は笑みを浮かべた。
オレは頷いて振り返る。振り返って第76移動隊の面々を見渡す。
「これより一時間後、鬼の封印作業に入る。五十分間は自由行動。談笑するなり練習するなり好きにしていい。では、解散」
解散と言っても空気は変わらない。
孝治は確認したバッテリーを取り外し、浩平はフレヴァングを分解している。悠聖は座禅を組んで精神集中。音姉と由姫は正座をしながら目を瞑って瞑想だ。亜沙と中村は取り留めのない話をして、リースは静かに浩平の作業を見ている。七葉はベンチに座って目を瞑っていた。
「そなたは大丈夫そうじゃな」
「そりゃな。どれだけ実戦に参加していると思っているんだ。アル・アジフもだろ」
「そうじゃな。都は緊張しているようじゃが」
「当たり前です。でも、逃げられません。私は、見なければいけません。伝承を知る者として」
都の決意は高いようだ。
オレは微かにレヴァンティンを抜いてそのまま手を離して鞘に収めた。
「なら、オレから言う言葉は何もないな。みんなを守ってやってくれ」
「私ごときでは活躍なんと、いたっ」
オレは都の額にデコピンをしていた。
オレは小さく溜息をつく。
「亜紗とやった時を思い出せ。実力が足らなくても何か相手にとって大きなデメリットを与えれば、平等ぐらいに戦える。そうだろ」
「そなたがよくやる戦い方じゃな」
オレが相手の方が実力が上の時にやる手段が自らの行動で相手の隙を作り攻撃する手段だ。
鬼の時も鬼の意識をオレに向けさせて孝治が簡単に攻撃出来るタイミングを作り出した。音姉の時も今までとは違う戦い方で音姉から隙を作った。
器用貧乏だからこそのやり方だ。
「見守ってくれ。オレ達を」
「はい」
オレは笑みを浮かべて頷いた。
「周様はどうしてそこまで大人びているのですか?」
「そうだな。もし、都がテロに巻き込まれて家族を失ったらどうする?」
「・・・絶望すると思います」
「もし、幼なじみの家族も死んで、幼なじみだけが生き残り、絶望した自分を見て戦うことを決意したならどうする?」
「・・・一緒に戦おうと思います」
「もし、幼なじみに才能があって、自分にはそれほど才能が無かったらどうする?」
「別の面で補おうとします。例えば、知識とか」
「そういうことだよ」
だから、大人になろうとした。だから、実年齢と精神年齢が合わないように努力した。
戦闘でサポート出来ないなら、他のところでサポートしなければダメだと思って。
「周様はやはりあの事件のことを今でも悔いているのですか?」
「ああ。だから、オレは戦いに身を投じた。今度はオレが止める番だから」
次からは第一章前半前編最終局面です




