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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第百七十九話 始まりの動き

『海道駿。『赤のクリスマス』でニューヨークを壊滅させた首謀者としてあんたを拘束する!』


周の声が学園都市に響き渡る。それは、戦いの合図。もちろん、その合図はエスペランサの甲板で向かい合うようにしてたたずむ二人の少女の耳にも聞こえていた。


「始まりましたね」


少女の内の一人、メリルが小さく呟く。その言葉に隣にいる髪の毛を括る大きなリボンを解いた音姫が頷いた。


「そうだね。準備はいい?」


「はい。ですが、出来るのでしょうか」


メリルの目にあるのは不安の色。そんな不安の色を見た音姫はメリルに笑いかける。そして、その手を掴んだ。


「大丈夫だよ。私は音姫。歌の姫の力を持つ音の姫。制御なら任せて。だから、メリルは自分の心をめい一杯歌って。私が、助けるから」


「わかり、ました」


メリルが音姫の手をしっかり握りしめる。そして、小さく息を吐いた。


今回の作戦では民間人の命は二人にかかっていると言っていい。そして、そんなことを試すのはもちろん二人共初めてだ。


「私は、今まで祈りにしかこの歌姫の力を使いませんでした」


「私は、今まで戦いにしかこの歌姫の力を使わなかった」


二人が両手を繋ぐ。そして、お互いに額をくっつける。音姫の方が身長が高いからちゃんとした左右対称ではないが、二人は目を瞑り、集中する。


力を使うために。歌姫の力を、今までとは違う、守るために使用するために。


守りたいものを、守るために。


メリルの手が震えている。音姫は強くメリルの手を握った。感覚の鋭い音姫だからこそわかるが、周囲には隠れて兵士が待機している。何かあればすぐに向かってくるだろう。問題は、今、ここには近接戦闘が可能なメンバーが少ないこと。


「やりましょう」


「うん」


二人が頷き合う。そして、メリルが口を開いた。


言葉では表すことのできない音。


メリルの歌を表現するとするならそうだった。まるで音程を歌っているようにも聞こえる。だが、その音程は頭の中で音符に直そうとしてもどこに当てはめたらいいかわからない音。文字でも表すことのできない。だが、それは心地よく耳に入り、心地よく体の中に染み込み、心地よさを演出する。


音姫とは違う歌姫の力。歌姫として、音界のトップとして君臨し続けていたメリルの力。


それは高らかに清らかに響き渡る。それに重なるように、いや、それに惹かれるように音姫も口を開く。


音姫の口から流れるのもメリルと同じ音。言葉でも、文字でも表すことは一生出来ないであろう音。ただ、一つ言えることがある。


世界中、今まで存在していたあらゆる歌姫を呼ばれたアーティスト達を遥かに超える歌であること。それはまさに、『歌姫』という力の表れ。


響き渡る音。それは学園都市の全てに響き渡る。不協和音なんて一つもない。全てが心に染み込む強烈なまでの歌だった。


だが、それを快く思わない一団もいる。


音姫の感覚に誰かが急激に近づいてくるのがわかった。今の音姫は動けない。歌姫の力を使っている上に、メリルと同調しているからだ。動くことなんて不可能だ。


同調しながらも歯噛みする。気配は近くまで迫っているのに。だけど、その瞬間、高らかに清らかに響き渡る歌の中にはっきりと声が聞こえた。


「清き風が全てを吹き、清浄なる道を指し示せ。風の妖精『フィンブルド』!」


その瞬間。強烈な風が吹いた。それは温かく、優しい風。笑みが浮かんでしまういい風だった。


「猛き炎が燃え盛り、創生の炎を作り出せ。炎の皇帝『タイクーン』!」


次はやはり温かく優しい熱気。苦も無く体がぽかぽかするような心地よい熱気がやってくる。


「生命を司る水よ、森羅万象を守る力と成せ。水の化身『アーガイル』!」


命の象徴。見ていなくてもそう感じるような生命を感じる。やはり、これも優しく温かい気配。


「世界の根幹を成す大地よ、全ての一歩を刻みこめ。大地の鳴動『グレイブ』!」


周囲に現れたのは四体の優しい、優しい精霊達。


音姫とメリルの二人を守るように精霊とその精霊のマスターである俊也が身構える。


「これ以上、進ませない。これから、僕と、僕の大切な家族達が相手だ!!」






はっきりとわかるほどの濃い魔力。それが周囲の建物に吸い込まれていく。それを感じながら浩平はフレヴァングを片手に道を走っていた。


「大和! 避難誘導で遅れが生じている場所は?」


『少し待ってください。商業エリアでは大丈夫ですか、東地区工業エリア周辺で戦闘が起きています。その周囲にいる人達が遅れているとの報告が』


「わかった」


浩平が大和の言葉を聞くないなや飛び上がり、近くの建物に跳び乗った。そして、狙いを付ける。


目的の場所では確かに戦闘が起きているであろう動きが見える。だが、ここからでは狙いを付けることは難しいはずだ。


それなのに浩平は片膝を立てたままフレヴァングを構えている。スコープは使わず目視で。


「どこの誰だから知らないけど、こっちの仕事を邪魔するなら」


引き金に指をかける。


「容赦はしない!」


その瞬間、引き金が引き絞られ魔力によって作られた弾丸が浩平の思い描く軌道を描いて飛ぶ。その軌道を見た浩平はすぐさま視線を外して周囲を見渡した。


「周の野郎。いきなり避難誘導がスムーズに行くと思っているのかよ。実際、至る所で混乱しているし」


浩平の目で確認しただけで100のも及ぶ混乱がわかる。もちろん、見える範囲でだ。これが学園都市全体となれば数はさらに膨れ上がるに違いない。


『聞こえますか?』


そうしていると、浩平の通信機から楠木大和の声が響き渡る。浩平はすかさず通信機を手に取った。


「どうかしたのか?」


『工業エリア南地区との通信が途切れました。行ってもらえますか?』


「俺が行くしかないだろ?」


浩平はその場から跳び上がる。瞬間で竜言語魔法を無詠唱で発動してさらに飛び上がる。


今回の作戦では自由に動けるのは最初のみだが浩平一人となっている。基本的には第76移動隊も避難誘導に走るからだ。だから、何かの異常があれば空戦が可能な浩平が行くしかない。


その分、戦いの中心で起きることには全くの蚊帳の外にはなるが。


「後から事情を聴くぞ。つか、何で工業エリアでごたごたがあるんだよ。普通は中心の商業エリアだろ。何か、っつ」


浩平がすかさず近くにあった建物の陰に隠れる。そして、手鏡を出して周囲を確認する。正確には、周囲にある風景を反射するものを。


そして、そこの光景を見た浩平は息を呑んだ。


「おいおい。洒落になってないぞ」


そこにあったのはいくつものフュリアス。その中には純白のコートを着たフュリアスのリーゼアインとリーゼツヴァイの姿がある。さらには、その近くには奇妙な灰色の追加装甲を付けた機体の姿も。


フュリアスの数は大体100近く。


「どうしてこんな場所にフュリアスが。それに、あそこのブロックは」


「日本政府の区画」


その言葉に心臓が飛び出しそうになった。そして、すぐさま振り返る。


そこには竜言語の魔法書を手にするリースの姿があった。


「びっくりするだろうが」


「ごめんなさい。びっくりさせたかっただけ」


「確信犯? まあ、いいけど。リースはどう思う?」


「周の裏付けは確か」


その言葉には浩平も賛成だ。連絡が取れなくなったのは口封じされたかただ単に眠らされているだけか。後者ならいいが、前者なら大変な事態になる。


全てのことは周の作戦にかかっているということか。


浩平は小さくため息をつきながらそう思うとフレヴァングを握り締めた。


「もう少し近づくぞ。お前と二人なら心強いからな」


「うん」


二人はお互いに手を握り締めてゆっくり動きだした。






鞘から抜かれたレヴァンティンが親父の持つ剣の先を斬り裂く。そのまま返した刃が親父の服を微かに斬り裂いた。


そのまま一歩を踏み出したが、作り出した足場の上限にまで来ていたので慌てて後ろに下がる。


「周、予測していたな」


「当り前だ。親父達の使用としていることはわかっていた。だから、最初から避難誘導の指示を出せるようにしていたしな。まあ、やっぱり混乱はあるけど、このままシェルターに避難してくれたら御の字だ」


「だが、すんなり行くと思うのか? 私達は地上では無用な騒ぎは起こさないと決めている。決定的な出来事が起きないなら避難は進まないはずだ」


確かにそうだ。現に、避難誘導の状況は芳しくない。派手に戦闘しているのが少ないからだ。ここで確認できているだけでもエスペランサ周辺。工業エリア南地区。そして、ここ。


決定的なことが起きれば避難は混乱するが、それが起きないなら避難は進まない。


「第一段階の悲しいところだ。まあ、無事に避難さえ進めまそれでいいんだけどな」


「そうだな!」


放たれる魔術をオレはステップで避ける。無誘導だから難しくはないが、さすがに至近距離での高速詠唱による発動は辛いな。


レヴァンティンを握り締めて親父を睨みつける。


「さあ、大人しく」


「死になさい」


その瞬間、嫌な予感が体を襲った。とっさに体を捻り、後ろから迫っていた攻撃をギリギリで避ける。


振り向いた先にいるのは海道椿姫の姿。


お袋、空戦持っていたんだ。


そう思いながら足場を作り、そこに足を踏みしめて渾身の回し蹴りを放つ。回し蹴りはお袋の直撃して吹き飛ばした。


だが、その瞬間には親父は魔術を発動させている。とっさにレヴァンティンで来るであろう方向にガードするように構えると、ちょうど魔術がレヴァンティンに直撃してオレは吹き飛ばされた。


「っつ」


すかさず足場を作り出して復帰を、と思った瞬間、嫌な予感がした。足場を作る魔術の展開を止めて十六に引かれて落下する。体が落ち始めると同時に足場を作っていたなら立っていたであろう場所に槍が通り過ぎていた。


足場を作り大きくその場から飛びのく。それと入れ替わるように振り下ろされた槍が足場を破壊した。


新たな足場に着地しながらレヴァンティンを鞘に収める。


「し損ねましたか」


その言葉と共にお袋が槍を向けてくる。後方には魔術を展開する親父の姿。典型的なフロントとバックの組み合わせにオレは息を整える。


強い。


純粋にそう思う。隙がない。オレ自身が空戦を持っていないのもあるが、この二人の実力は本物だ。


お袋が高速かつ強力な一撃を放つ隙に高速で放たれる無誘導の魔術が襲いかかってくる。二人共実力は一級品だから一人での勝ち目はない。


「しかし、いいでしょう。ここなら、これからの出来事がよく見れるはずです」


「これからの出来事?」


「周。この世は綺麗事ばかりではどうしようもないのだぞ」


その言葉と共にオレは地上を見下ろした。それと同時に地上で爆発が起きる。様々な個所で起きる爆発が。しかも、避難している人達の近くの建物の屋上でも起きている。


オレはレヴァンティンを鞘に収めた体勢のまま完全に動きを止めていた。


「最後は、勝ったものの言い分が優先される。だからこそ、私達は剣を取る。本当の世界を求めて。犠牲は少ないにこしたことはないがな」


爆発の黒煙はもくもくと空に向かって立ち上っていた。それは、まるでオレ達をあざ笑う親父達に味方をしているようだった。

本格的な戦いは次回から。

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