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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
444/853

幕間 最後の夜

第76移動隊全員を出そうとしたら長くなっちゃいました。場面がよく変わります。

離陸する一機の輸送艦。滑走路の光をその背中に受けて漆黒に染まる大空に向けて飛び立つ。それを見送りながらメリルは小さく息を吐いた。


「間に合いましたね」


その言葉に隣にいたルーイとリマの二人が頷く。


「そうだな。ようやく、間に合った。アストラルルーラ専用装備一式が。本当にぎりぎりだった」


「今回はかなり技術部の皆さんに無茶を言いました。帰ったならしっかりとお礼を申し上げないといけませんね」


「その前に、僕達は勝たないといけない」


「二人共、もうすぐ夏とはいえ冷えますよ。明日のために早く戻りましょう」


メリルが頷く。だが、その視線は今日運ばれてきた一式が存在する倉庫に向いていた。


音界の技術部がメリルの意志と共に作り上げた最高傑作。悠人のエクスカリバーZ1を人界の最高傑作とするなら、この装備によってアストラルルーラは最近ロールアウトされたばかりのアストラルシリーズを凌駕す性能を発揮するはず、の装備。


「ルーイ。お願いします。この学園都市を、愛する友と、愛する仲間と、愛する家族のいるこの学園都市をアストラルルーラで守りきってください」


「歌姫様の命ならば」


ルーイがその場に片膝をつく。リマも同じように片膝をついていた。


「リマも、ルーイと共に守ってください」


「歌姫様の言葉のままに」


二人の返事を聞いたメリルは頷く。頷いて空を見上げた。


その空にあるのは音界に帰っていく輸送艦。それを見上げながらメリルは小さく頷く。


「明日、全てが決まるのですね」






「心配?」


僕は隣から聞こえてきたルナの声に振り返った。ほとんど布団をかぶっているけど、その柔らかい肩は出ている。だから、僕は少しだけ頬を赤らめて頷いた。


「うん。心配、かな。もう明日なんだなって」


「大丈夫。悠人は強いもの。私だっているしお姉ちゃんやルーイだっている。あなたの頼りになる仲間達だっている。きっと大丈夫」


それでも心配なものは心配なのだ。今回、真柴隼人が関わっているから。


僕は震える手を握り締めた。そして、頷く。


「そうだね。でも、今回は今までと違うから。経験したことが少ない防衛戦。しかも、状況としては敵は中に入り込んでいる状況。心配になるよ」


「そう言えば、第76移動隊って強襲や突撃が主体だったわね。だったら仕方ないか。大丈夫。海道周の作戦予知能力は本物よ。あいつが考えた通りにしていればきっと大丈夫だから」


「うん。僕は周さんを信じているから。周さんは本当に強いよ。何だってしようとする。だからこそ、僕は周さんに最大の信頼を置いている。大丈夫だよね。うん、大丈夫」


僕は窓の外を見つめた。そこにあるのは輸送艦が地上から出る光を受けて漆黒の大空を飛ぶ姿。


僕は布団の中でルナの手をギュッと握りしめる。少しでも不安を押し殺すかのように。






漆黒の大空を舞う輸送艦の姿。それを見ながらリリーナと鈴、そして、琴美の三人はエスペランサの甲板にいた。


第76移動隊はすでにこの時間から待機状態だからだ。ただ、ほとんど自由時間な上にすぐに準備できる位置にいるなら完全に自由行動が許されている。


「あーあ。今頃、悠人はルナとしっぽりやっているんだろうな」


リリーナが小さく言葉を漏らす。その言葉に鈴は苦笑した。


「リリーナ、二人共恋人なんだから仕方ないよ」


「仕方ないで済ませられると思っているの? 私は無理。あの〇〇〇(ピー)め」


「それには本能に意外だったけど、どうしてあなた達もここにいるの? あなた達の機体はメンテナンスが大変じゃないのかしら?」


琴美のアルケミストは基本的なGFFナンバーと同じで整備にあまり時間がかからない。システム面は意味がわからないし、機体整備も意味がわからないの見る意味がない。だが、ソードウルフとイグジストアストラルは細かな整備が必要だった。イグジストアストラルはシステム面だけだが。


「こういう星が綺麗な時に整備なんてしていられないって」


リリーナの言葉に三人が空を見上げる。確かに、そこには星が輝く漆黒の大空があった。本来の学園都市なら考えられないが、体育祭期間中は出来る限り光を抑えて夜空を楽しもうという風習があるのだが、この三人が知るわけがない。


「綺麗」


鈴が小さく言葉を漏らす。そんな二人をちらっと見た琴美は小さく息を吐く。


「いいわ。付き合ってあげる」


「ありがとう」


リリーナが空を見上げながら笑みを浮かべる。それを見た琴美は笑みを浮かべて、また空を見上げた。


「あっ、流れ星」


鈴の言葉が甲板に響き渡った。






「あっ、流れ星」


都の言葉にキーボードを叩いていた委員長が顔を上げる。しかし、見上げた先には流れ星なんてない。だから、委員長は小さく息を吐いた。


都がコーヒーを入れたカップを委員長の机に置く。


「願い事をしたかったですか?」


「いえ。そもそも、流れ星が見えてから三回のお願いなんて間に合いませんし」


「そうですね。でも、願うことに意味があるのですよ」


そう言いながら都は自分の入れたコーヒーに口を付ける。ちなみに、山ほど砂糖を入れていたりする。委員長も山ほど角砂糖とガムシロップ、ミルクを入れていた。


二人共、ただ単に目を覚ますためにコーヒーを飲んでいるだけなのだ。


「言葉に出せばそれは力となる、と聞いたことはありませんか?」


「言霊ですよね。でも、それは迷信では?」


「言霊というのは解釈が難しいですから。でも、祈りは魔法です。今まで祈ることによって様々な奇跡g起きていました。ですから、流れ星が流れるまでに三回とお願いを祈るというものがあるのです」


「難しいからこその奇跡」


その言葉に都は頷いた。都は空を見上げる。そして、笑みを浮かべた。


「みんな、明日に向けて緊張しているはずです。だから、少しくらいは祈りをささげておきましょう。一つ一つの祈りは小さくても、それら全てが合わさることによって力となるのですから」






エスペランサの艦橋の中にある椅子に二人並んで体を寄せ合って空を見上げている。


七葉と和樹の二人だ。二人はお互いに手を繋いで夜空を見ている。すでに輸送艦の姿は小さくなっている。


「かず君。かず君は明日が心配?」


「心配に決まっているだろ。俺はななや琴美さんみたいにどちらの戦闘をこなせるわけじゃないんだから。出来たとしても、リヴァイバーに乗ってラフレシアを撃っているだけだろ」


「かず君らしいね。私は心配かな。周兄はフュリアスの規模がわからないって言っていた。フュリアスでの戦闘は私も頑張らないとダメだから」


「そうだよな。ななには専用機があるんだよな。俺に出来ることは、ここで戦況を知らせるだけだ。俺にもっと力があれば」


すると、七葉が和樹の顔を覗き込みながら小さく首を横に振った。


「かず君には戦えないよ。かず君は人を殺す覚悟を持っていないから」


戦いというのは人を殺すかもしれないということだ。例え、『GF』のデバイスを使い、いくら殺す確率が低く設定しても、戦闘の余波で死ぬかもしれない。瓦礫が落ちてつぶされるかもしれないし、倒れた衝撃で頭を撃つかもしれない。


もしかしたら、殺すかもしれない状況で半端な覚悟で望むことはは許されない。


「悔しいじゃんか。ななや、周に孝治達が戦っているのによ」


「戦場は前線だけじゃないよ。ここだって大事な戦場。かず君達はここでみんなに戦況を知らせないといけない。それは、命綱だよ。フュリアス部隊に一つ一つ指示を出してみんなを誘導する。確かに前線じゃないけど、私達からすれば、そこも戦場なんだよ」


「なな」


「だから、胸を張って。私達は、頼りにしているから」


七葉が力強く和樹の背中を叩く。それに和樹は背筋を伸ばしながら苦笑した。


「そうだな」


そして、二人はそれを見上げる。寄り添うような双子星がないか探しながら。






「ねえ、悠聖」


空を見上げていたオレは冬華の声に顔を戻した。


オレの膝の上ではアルネウラと優月の二人が膝の上で座っている。そんな二人の髪の毛を撫でながら冬華が笑みを浮かべる。


「悠聖は、明日が心配?」


「いや、全く」


その言葉に冬華は驚かない。多分、想定していたんだろうな。


「悠聖らしいわね」


むしろ、冬華は笑みを浮かべてる。オレらしいと言うのはわからないが、そもかく明日は勝負の時間だ。全てを守れるか、守れないか。それが決まる時間。


だけど、そこに不安はない。どうしてと尋ねられたらすぐに答えられる自信がある。


「一応、聞いておくわ。どうして?」


「頼れる仲間がいるのに不安になる材料もないだろ?」


オレは即答した。


周がいる。孝治がいる。浩平がいる。悠人がいる。俊也がいる。音姫さんがいる。由姫ちゃんがいる。光がいる。都さんがいる。まあ、このまま続けて行けば大変なことになるから他にもたくさんの仲間がいる。


みんなそれぞれどこかに特化しているし、心配しないほど強い。だから、不安はない。


「一人なら不安だ。自分の力が未熟だと思っていても不安だろうな。でも、オレはそうは思わない。一人じゃない。オレの隣にはこんなにもたくさんの仲間がいるじゃないか」


そう言いながらオレは周囲を見渡した。そこにオレの大切な友がいる。


傲岸不遜が似合うディアボルガ。寡黙な剣士のセイバー・ルカ。姉のような存在のレクサス。猪突猛進のイグニス。実はおしゃべりなライガ。頼れる防御役のグラウ・ラゴス。吟遊詩人をやりだしたエルフィン。


そして、オレの大事なアルネウラ、優月、冬華。


「むしろ、負ける気がしないな。悪いが、周がいなくてもどうにかできそうだ」


「そうね」


冬華が自分の隣に座るフェンリルの体を撫でる。


それに、俊也もいる。俊也は慣れていないからか今は自宅で眠っているが空いたになれば大丈夫だろう。俊也もオレ達の仲間だし、あいつはオレの弟子だから。


「頑張りましょ」


「ああ」


オレは冬華の顔を見て笑みを浮かべた。






「空が綺麗だね」


その言葉に反応するのはエレノアの一人だけ。ベリエとアリエの双子は必死に図面とにらめっこをしていた。


エレノアの隣に立つ楓が片手にブラックレクイエムを持ちながら呟く。


「新月か。明日はほんの少しでも月が出ているのかな?」


「新月なら、よかったけど」


エレノアが自分のデバイスを確認しながら呟く。それに楓は不思議そうに首をかしげた。


「どうして?」


「新月は夜に最も明るい存在である月がない時。つまり、れおは一般的に闇に属する存在の力を強化できるの。だから、私達にとって新月というのは特別な時だから。ベリエとアリエの術式にとってもありがたかったのに」


「あれ? 狭間の夜は? あれは満月だったと思うけど」


楓の言葉は間違ってはいない。狭間の夜は確かに満月だった。だからこそ、エレノアは頷く。


「満月は全ての種族に魔力的加護を与える、簡単に言うなら満月はこの世界に魔力が満ちる時だから。ああゆる魔力が高まるから狭間の鬼の様な存在するだけで魔力を使う存在には有効な状況だから」


「なるほど。でも、満月だろうが新月だろうが関係ないと思うよ。私達はまた明日ここで空を見上げればいいのだから」


そう言いながら楓が両手を広げる。エレノアはそれを見ながら苦笑する。確かにそうなのだから。新月や満月関係なく、明日の夜になってそれを見上げればいい。そこには必ず月が存在する。


「そうだね」


エレノアは苦笑しながら周囲に消えるような音量で呟いた。でも、楓の耳にはしっかり聞こえるような声で。それに楓は頷く。明日、それを約束するように。






「孝治はさ、明日の作戦をどう思ってるん?」


その言葉に弓の手入れをしていた孝治は顔を上げた。思考するのは数瞬。


「周らしい作戦だ」


「確かに海道らしい作戦やねんやけど、なんというか今までと違うねんな」


「違う?」


孝治の疑問に光が頷く。


「今までの周やったら若干な突撃思考。どんな拠点防衛でも打って出るタイミングが存在したのに、今回そんな要素が見つからんねん。どちらかというと相手をこちらの作戦にはめるまで何の動きも見せないような感じ」


「確かにそうだな」


そのことに関しては孝治も思っていた。思っていたからこそ頷く。頷くが孝治はすぐに口を開く。


「だが、これはある意味最適の戦い方だ。今回は特にな」


「そうなんやけどな。海道が今までと違うから不安やねん。私の知っている海道と違うような気がして」


あの日からずっと戦場で見つめていたからこその言葉。幼馴染を心配するような言葉。だが、孝治は笑みを浮かべて弓をその場に置いて後ろから光を抱きしめた。


光は顔を真っ赤にしてうつむく。


「大丈夫だ。あいつはすっとあいつだろう。確かにあいつは変わった。いい方向にな。今までのあいつは光の知るような周だった。でも、今は周らしい周の姿を出している。見守ろう。そして、戦おう。俺達に出来るのはそれくらいしかない」


「そうやな」


光は抱きしめられた孝治の手に自分の手を当てる。そして、優しくその手を握り締めた。






「これ」


リースが差し出した手の上には一つのデバイスが置かれていた。そのデバイスを浩平は手に取る。


「周達は何て言っていた?」


「相手の武器と防御のシステムは完全に理解できた。珍しく役に立ったな、だって」


「珍しくって、まあ、第76移動隊とはあまり関わりあいがなかったからな。しゃあないか。リースはすぐに戻らなくていいのか?」


「戻った方がいいの?」


不安そうな顔になったリースに浩平は笑みを浮かべて近づく。そして、リースを抱きしめて近くのベットに倒れ込んだ。


「本当はずっとそばにいたい。でも、俺達は単純にそうしていいような状況にいないからな。本当ならお前とずっと暮らしたい。今も、これからも。でも、俺達には俺達のやることがあるだろ? 明日も」


リースは頷く。孝治もリースも自分のやるべきことがわかっている。わかっているからこそ、ずっと一緒にいることを選ばない。


昔ならリースがずっと浩平の傍にいたかもしれないが、今ではそういうことは言わない。みんな成長しているのだから。


「明日が終わって明後日も終わったらさ、大和から休暇をもらっているんだ。だから、どこかに出かけないか。二人で、温泉旅行でも」


「呑気」


そう言いながらリースは笑みを浮かべる。それを見た浩平は頷いた。


「決まりだな」


浩平はカレンダーに〇をつける。そして、笑みを浮かべた。


「だからさ、頑張ろうぜ。明日と、明後日をよ」


その笑みは明後日があることを信じてる笑みだった。






「ようやく、明日じゃな」


アル・アジフが小さく笑みを浮かべながら頷く。そして、手に持っていた角を手に取り、


「亜紗、これ、詰みかけではないかの?」


『今気づいたの?』


亜紗は真剣に驚いていた。すでにアル・アジフの場にはまともな駒が残ったいない上に地味に囲まれているという状況だ。延命も難しい。


亜紗は涼しげな顔で持ち駒の一つである金を手に取っている。次の一手でトドメを差す気満々だった。


「これは見事だね」


「亜紗。やるね」


観客のアルトとリコの二人驚いたように亜紗を見ている。やはり、亜紗は涼しげな顔だ。


「な、なら、王手」


『はい』


王手を行った駒が一瞬で取られる。アル・アジフはまた手持ちの駒を動かすが一瞬にしてかすめ取られていた。


「投了」


「亜紗、強いんだ。あたしはチェスしか出来ないけど」


「僕も将棋は出来ないかな。中将棋は出来るけど」


『どうして出来るの?』


亜紗が不思議そうに首を傾げる。確かに、普通の将棋が出来ないのにさらに難しい将棋が出来るのはある意味おかしいが。


アルトは笑みを浮かべる。


「なら、今日はベッドで共、ごふっ」


隣にいたリコの肘がわき腹に食い込み数十cmほどアルトの体を浮かび上がらせる。内臓に直撃響く一撃にアルトはその場にしゃがみ込んだ。


そんな様子を亜紗はクスクス見ている。


『相変わらずだね』


「あたしは相変わらずだからね」


「それにしても、呑気にこうしていていいのかの?」


再度、駒を新しく並べながらアル・アジフが呟く。


亜紗は静かに頷いてスケッチブックを開いた。


『心配?』


「多少はの。それほど心配しているわけではないぞ。ただ、明日は大きな戦いになるじゃろうし」


「そうだね。明日は学園都市全体を巻き込んだ戦いになる。僕とリコはエクシダ・フバルから離れられないし」


「周ちゃん達はあの海道駿を止めないといけない。でも、あたしは周ちゃんやあたし達が大丈夫だと確信しているけどね」


その言葉は自信満々だった。自信満々に言葉を紡ぐ。


「あたしは第76移動隊の力を知っている。知っているからこそ、大丈夫。だって、今の第76移動隊は第一特務より強いよ」


リコは自信満々に言葉を紡いだ。その言葉にアル・アジフは苦笑しながら頷いた。


「そうじゃな。我らは大丈夫じゃ」


それはまるで自分に言い聞かせるように。そして、アル・アジフは飛車の前にある歩を前に出した。






「「「いただきます」」」


オレの耳に三人の声が聞こえる。その声を聞きながらオレはまた小さく溜め息をついた。


「周は迷惑だったかな?」


その言葉にオレが振り向くと、煮物を食べている正と視線があった。その表情はどこか不安そうだ。


「迷惑じゃない。迷惑じゃないんだが、どうしてオレはご飯を食べられないのかなって悲しく思ってさ」


そう言いながら目の前にある書類の山を見つめる。


レヴァンティンが浩平のデバイスから取り出した戦闘データその全てだ。取り出せるだけ取り出したため、確認する作業だけでも徹夜は確定。


アルは今、亜紗やアルト達と一緒にエクシダ・フバルの護衛に回っているから一人で確認しないといけない。


「僕も手伝おうか?」


「正はお客さんなんだから大人しくすること。由姫と音姉が何も出来ないのが悪いから」


その言葉に由姫と音姉の二人が同時に煮物を詰まらせた。煮物ばっかり食べているから。まあ、食卓にはご飯と味噌汁と多種多様な煮物しかないけど。


「けほっ、けほっ。お兄ちゃん。私達は出来ないからね」


「そうだよ。知らないことをしろって方が横暴じゃないかな?」


すかさず二人が反論して来るが、オレは溜め息で返した。


「知ろうとする努力はしたのか?」


二人が同時に視線を逸らす。まあ、そういうことなんだけどな。


「知ろうとする努力をしていないのに知らないと言うのは子供と同じだぞ。教えてもらってもわからないなら別だけど」


さすがにそれはどうしようもない。少しややこしいからこういうものが嫌いな人はわからないことが多い。まあ、最初から期待していなかったけど。


「それに、これだけは今日中にやっておきたいからな。相手の完全解析。せめて、神剣持ち以外全員のデバイスに内容をインストール出来るくらいに解析しないと」


「でも、弟くん。間に合うの? デバイスのインストールは時間がかかるって聞くけど」


「それはおそらくプログラムインストールのことだね。ちょっとしたデータのインストールは内容によってはほんの短時間で上書き出来るよ。特に、戦闘データに関してはデバイスに拡張領域が存在するから簡単に加えられるよ」


「詳しいんですね」


由姫が驚いたように正に向かって言う。正は苦笑しながら自分のデバイスを取り出した。


「これでもデバイスを作ったことがあるからね」


デバイスを作ったことがあるならデバイスのことを細かく知っているのが普通だ。オレやアルもデバイスに関しては世界の技術者に引けを取らないと思っている。


まあ、レヴァンティンやアル・アジフ本体のサポートがあるからだけど。


オレは戦闘データの記録を流し読みする。


「まあ、ちゃんと解析出来ればいいんだけどな」


オレはそう溜め息をついて読み終わった書類を机の上に投げ捨てた。






「明日、だね」


「うん、明日」


夢の言葉に私は頷く。


夢は“義賊”の赤いローブを着ていた。だけど、フードは被っていない。


「メグは、大丈夫?」


「大丈夫、とは言えないかな。明日、私はお兄ちゃんを捕まえないといけないから。お兄ちゃんは強い。本当に強い。今の私がどうこうしたところで埋められないかもしれない差があるから」


「メグは、強い。私が、証明、するよ」


「ありがとう。お兄ちゃんはね、力も技もスピードもないのはわかっているの。でも、お兄ちゃんの扱う炎は私の扱う炎獄の御槍の炎とは根本的に違うみたいだから」


言うなら、お兄ちゃんの炎は悪魔の炎。対する私は優しい優しい炎と言うべきかな。でも、その威力には差がある。


例え、私が聖骸布アストラルを身につけていても、いくら炎獄の御槍の力を最大限にまで利用しても、その炎が直撃したなら燃え尽きるだろう。聖骸布アストラルで一回。だから、二回当たれば死ぬ。


「私は、思うけど、メグの炎は、優しい炎。守りたい人を、守るための、炎。だから、攻撃に向かない、と、思う」


そういう風に思われていたなんて思わなかった。確かに、そういう考え方もある。私の炎とお兄ちゃんの炎は攻撃するという意志で大きく違う。


もしかしたら、攻撃する意志があれば強くなるのかな?


「無理を、しないで。メグの炎は、私は好きだから」


「ありがとう。夢。じゃ、私はそろそろ戻るね。夢も頑張って」

「うん。メグも」


私は夢に手を振って歩き出す。


明日。明日に全てが決まる。全てが決まるから、私はお兄ちゃんを止めないといけない。


「炎獄の御槍、よろしくね。明日、全てを決めるから」






「やあ、慧海」


航空区画に響き渡る声。その声に話しかけられた慧海は笑みを浮かべた。


「ギルバートは今から帰るところか?」


「日本政府の方に向かうところ。君が来たということは」


慧海は頷いた。頷いて振り返る。


そこにはたくさんの人によって運ばれるたくさんのダンボール箱があった。


「ギリギリ間に合ったぜ。周が作り出した防衛専用の究極の防御デバイス『幻想展開ファンタズマゴリア』が」


次からは本番二日目。長い長い二日目が始まります。

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