第百七十話 神剣の力
「人の望みを歪曲して叶えた形が神剣なのか」
オレはアルから神剣の始まりについて聞いていた。
神剣というのはとある全ての神の最高位の最高神が死んだ際に出たエネルギーが人の望みを歪曲して叶えた形らしい。
確かに、本当にそれが正しいなら納得出来る。
「神というのがかなり気になるけどな。神というのは本当に存在するのか?」
「存在するぞ。そなたも知っているはずじゃ」
「オレが?」
オレに神の知り合いは、
「時雨や慧海達か?」
確かにあいつらは神になったから不老とか聞いたことはあるけど。
「そうじゃ。神というのは基本的に神格を持つ者。神格というのは受け渡しが可能じゃ。もちろん、奪うことも。その神格を持つ者は不老となり、神となる。
「なるほどね。慧海達がいなくなった空白の一年は」
「それに関することじゃろうな」
「でもさ、光輝はどうなるんだ? あれは神殺しの神剣だろ?」
光輝が光り輝く時、それは神格の持ち主が相手の時は光り輝くのだが、あまり見たことがない。神剣に対して光り輝くのは神剣が神が死んだことによって生まれたから。
いろいろとわかればいろいろと納得出来る範囲が増えてくる。でも、光輝だけはわからない。
「そうじゃな。例えば、周は存在のエネルギーというのはどう思う?」
「存在エネルギー? 人一人ずつが生きていることによって歴史が動くと考えたらたった一人でも膨大なものになるぞ」
「そうじゃな。もし、その力と神の力が合わさったなら?」
「まさか」
神剣を生み出すほどの膨大な神のエネルギーと、世界を動かす莫大な存在エネルギーが合わさったなら、神剣の中でも飛び抜けている光輝が生まれた理由になる。
あれって通常時で身体能力強化があるのに、神格と相対すればさらに強力な効果を発揮する。
「精霊武器も同じ原理じゃ。あれは精霊本体。その力は神剣にも匹敵するからの」
雪月花。
聞いたことがある。噂の中では氷属性で二番目に強い武器の名前でそんな名前があったはずだ。それが、冬華の手の中にある。
見ただけで凍えそうな刀。
「どちらも選ばないとしたなら?」
「そう。なら、選ばせてあげるわ」
「冬華ちゃん、私も手伝うよ」
「僕もかな」
音姫さんが光輝を抜き放つ。ギルバートさんはシュナイトフェザーを。
海道駿の顔が引きつる。確かに、この状況は顔が引きつるしかないだろう。オレだけを潰しに来たら、作戦が失敗し、代わりに獅子がやって来たって感じだしな。
『悠聖、落ち着いた?』
『突っ込んでも良かったのに』
優月とアルネウラの声が響き渡る。オレはそれを聞きながら安心したように頷いた。
悪いな、二人共。
『大丈夫大丈夫。私と悠聖と優月の三人ならどんな罠でも大丈夫だよ』
『ちょっとくらいは危険視しようよ』
あの時は頭に血が登ったが、今は大丈夫だ。冷静だ。
「雪月花があるのか。それさえわかれば十分だ」
「海道駿!」
背中を向けて逃げ出そうとした海道駿にエクシダ・フバルが声を上げる。その声に全員が振り向いた。
「お前は何を目指している!? お前が望むのはたくさんの人を不幸にする災厄か!」
「災厄ではありませんよ。私はただ、新たな未来を求めて戦っているだけです」
「それがどうしてあの日のニューヨークに繋がるんだ! あの日にどれだけたくさんの人が死んだと思っている! 周だって、あの日からずっと苦労しているんだぞ!」
「そうだな。子供にはわからないだろう。だが、言うなら、必要なことだ」
海道駿が姿を消す。最後の言葉にオレは拳を握りしめた。
「必要なことってなんだよ。誰かを殺すために必要なことってあるのかよ」
「悠聖君」
「音姫さんは悔しくないのかよ。あいつは、自分の息子の周ですら殺そうとしたんだぞ」
「今は、抑えて」
その音姫さんの言葉にオレは気づいた。音姫さんが拳を握りしめ、その拳から血が流れていることに。
「そうだね。今の駿は逃げる手段を豊富に作っている。今追いかけたところで追いつけないよ」
ギルバートさんの言う通りだ。海道駿は『悪夢の正夢』を持っている。追いかけるのは至難の業だろう。
だから、オレはシンクロを解いた。
「悠聖」
「悠聖」
アルネウラと優月が心配そうにオレの名前を呼ぶ。
オレはただ空を見上げるだけだった。
「明日よ」
冬華の声が響き渡る。
「明日、全てを終わらせばいいのよ。全てを」
「ああ、そうだな」
空を見上げていたオレは目を瞑り顔を戻した。そして、確かに頷く。
「明日だ。明日、全てが決まる」
静かに弓を下ろす。位置を見失った以上、当てることは不可能だ。
孝治は小さく息を吐いて展開していたリバースゼロを消し去った。
「孝治、どうやった?」
「逃げ切られた。確かに当てられないとは思っていたが」
「視界から消え去ったもんな。『悪夢の正夢』とはよく言ったものやん」
孝治が光の言葉に頷く。
孝治の視界には海道駿がまるで陽炎のように消え去ったのを見ていた。だからこそ、あれを当てられないとわかる。
「しかし、雪月花が。すごいものを持っているな」
足下にいる冬華が持つ雪月花を見ながら孝治は呟いた。光が不思議そうに首を傾げている。
雪月花の名前は有名だ。いや、神剣を持っている人からすれば有名というべきか。
「あらゆる武器の中で二番目に強い氷属性の武器だ。まあ、雪月花がフェンリルそのものなら納得出来るものだが」
フェンリルは氷属性の精霊で最上級の存在。アルネウラの方が精霊としての能力が強い(アルネウラが強すぎるだけ)が、フェンリルもふざけた性能を持っている。
狼だからか、スピードや力は文句なしだし、最上級のため単身での大規模戦闘に乱入出来る。さらにはその精霊武器はあの雪月花。
セイバー・ルカやディアボルガに続く戦闘能力と言っていいだろう。
「二番目ってことは、一番は?」
「オリジン」
その言葉は光にも聞き覚えがあった。
過去にいたとある男女の片方が持つ創世の剣の一つだ。氷属性というより炎属性+氷属性みたいな能力である。
もう片方は究極神剣と呼ばれた文字通り究極の神剣を持っていた。究極とは言っても、相応の人物が使えばの話で、その片方は最弱神剣使いと呼ばれていたりもする。
「雪月花はそれに続くねんな。冬華はどうして今まで隠していたんだろ」
「雪月花と言えど、上位の神剣は暴走の危険性がある。それに、雪月花の場合はフェンリルが元だ。使いきれないならフェンリルの方が強い」
「なるほどな。それ以外にもありそうやけど、孝治はどうして私のレーヴァテインを無断で借りてたん?」
レーヴァテインをその手に取り出して笑みを浮かべながら光が孝治に近づく。孝治は微かに汗を流しながら一歩後ろに下がった。
光は笑みを浮かべたまま一歩を踏み出す。
「うちに内緒で勝手に持って行ったよな?」
「それは、緊急事態だ」
「緊急事態な」
光がレーヴァテインを構える。孝治もリバースゼロを取り出した。
「一度死にさらせ!!」
怒りによって加速した光の体は孝治の懐に入り込み打ち上げると、そのまま四方八方から放たれたレーヴァテインのコピーが孝治の体に直撃して爆発するのだった。
「揺れたか?」
オレは微かな振動を感じて外を見る。外では何の異常も見える範囲からは見当たらないので大丈夫だろう、多分。
オレが顔を戻すと、そこにはオレとアルにコーヒーを入れた正の姿があった。
正はいつの間にか都島高校の制服に着替えている。
「微かな感じはあったね。大丈夫だと思うよ」
「まあ、大丈夫だろうな。海道駿が出たとしても、狙うのは悠聖くらいだ。悠聖には冬華や音姉がいる」
この二人なら普通に悠聖を止めるだろう。
アルが正の入れたコーヒーが入ったカップを掴む。
「そうじゃな。しかし、相手も焦っているようじゃな。ここまで強力な武装のデータを残していくなど」
レヴァンティンが真っ先に取り出したのは相手の防御術式について。これは対浩平専用防御かつ、壊れやすいものらしい。
これなら、ドライブにならなくても破壊できそうだ。
「問題があるとするなら魔道具の方か。後一時間くらいか?」
「そうじゃな。レヴァンティンと言えど時間はかかるじゃろう」
オレは浩平のデバイスから情報を取り出しているレヴァンティンを指で撫でた。
「そう言えば、正はいいのか?」
「僕は大丈夫だよ。十分に体育祭は回ったからね。明日からは援軍としては」
「いや、正はもしもの時のために控えてくれ」
その言葉に正は一瞬だけキョトンとした。そして、納得したかのように頷く。
「了解したよ。隊長殿」
「周、いいのか? 正の戦闘能力は極めて高いぞ」
「切り札だよ。相手がどこまで切り札を握っているかわからない以上、オレ達も切り札を握っていないといけない。今ある四つのカード以外に切り札は欲しいだろ?」
正の戦闘能力は切り札と言っていい。だからこそ、オレは正を切り札として使う。
これが吉と出るか凶と出るかわからないけど、悪くならないことを祈ろう。
「切り札か。確かにありじゃな。じゃが、切り札が四つとは何じゃ? ダークエルフ以外に切り札が」
「まあな」
だから、オレはアルにオレの切り札について語った。アルは一瞬だけキョトンとした後、そして、納得したように頷く。
今のを聞けば納得するしかないだろう。それは本当に切り札なのだから。
「そうじゃな。そなたらは確かに切り札じゃな」
「だろ。まあ、成功するかしないかは明日にならないとわからないし」
オレは窓から学園都市を見つめる。
「明日に、全てが決まるからな」
ようやく、ようやく次の次から本番二日目運命の日です。ここまで来るのは本当に長かった。最初の予定ではこの話で終わる予定だったんですよね。最後は第何話まで行くのかわかりませんが。
次は幕間が入ります。