第百六十五話 裏の仕事
伸ばした手がそこにある破片に触れる。その破片は砕け散っているがまるで小型のカメラの様な形をしていたであろうことがわかる。
それに手を伸ばしたベリエが小さくため息をつく。
「どうやってあんなところからこれを撃ち抜けるのよ」
そう言いながらベリエが見たのは目算300mほど離れたグラウンドだ。そこから普通の視力では屋上の逆の端まで動けば見えなくなるような小型サイズのカメラを撃ち抜けるほどの性能。
ベリエが小さくため息をつく。
「ベリエちゃん、どうかしたの?」
「アリエ、そっちは?」
「うん。見つかったよ」
破片を手にしていたベリエはその破片をポケットに収める。そして、振り返った。
アリエがその場の光景を写真に収めているが、普通の神経をしていたなら普通は位の中のものを吐き出すであろう光景。何故なら、そこには大きな純白の鳥、形的にはワシが近いかもしれない。それほど大きなものが剣のようなものに貫かれた後を残して死んでいた。
もちろん、周囲には血や羽が飛び散っている。
だが、二人が見ているのはその死骸じゃない。
「もう一つ、何かの気配はある」
アリエはそう答えた。それに対してベリエはまたため息をつく。
「探索系はアリエの方が得意じゃない」
「そうなんだけどね。なんというか、わからない、かな」
「アリエらしくないわね」
ベリエはアリエは一部を除いて隠し事はしないことを知っている。だからこそ、その言葉に不安を覚えていた。
「この世のものじゃない何か。そんな気がするから」
「三つの監視がいた!?」
オレはその報告にかなり驚いていた。監視は一つだけだと思っていたのだが、どうやら想定違ったようだ。
報告に来たエレノアが少し困ったような顔で頷く。
「一つは小型のカメラ。デバイスは大量生産品だから足を掴むのは難しいと思う。一つは純白のワシ」
「純白か。天界の監視役か?」
その言葉にオレの隣で一緒に報告を聞いていた孝治が尋ねる。
天界が好む色は白だ。正確には、一時期、展開は神聖視され、魔界が悪魔扱いされていたからな。白というのは聖なる色で、黒というのは悪魔の色、という具合だ。それと、善良なる魂は天に昇るとも言われていたからそこに起源もある。
まあ、実際は魔界とほとんど変わらないんだけどな。
だが、天界は監視役に必ずと言っていいほどに純白の何かを選ぶ。魔界は逆に黒だ。ついでにいうなら動物体は必ずカラスである。
他にも言うなら、天界はほぼ天界から代表者を除いて人界にやってくることはない。基本的にあそこ、交渉したいなら貢物と共にやって来いだからな。それにキレた慧海やギルバートさんが殴りこみに行って土下座させたとかあるらしいけど。
「機械は親父達だろうな。ワシはどう考えても天界だとして、残りの勢力は?」
「それが、アリエでも何かいたのにわからないって」
その言葉にオレ達は同時に眉をひそめた。
「わからない? 魔術的解析でもわからないのか? アリエはかなりのレベルと到達していたと思うけど」
「うん。それでもわからないらしい。私もよくわからないけど、アリエはこれ以上深く探らない方がいいかも、って言っていた。本心で」
「深く探れば何かが来るからか?」
孝治が不思議そうに尋ねる。確かに、深く探ればどこかの組織がやってくるなら話はわかるが、今回はやってくる可能性はあまりないはずだ。でも、アリエが言うことを考えると、
「根源的な恐怖?」
「根源的な恐怖がどうかしたの?」
エレノアが不思議そうに首をかしげる。オレは頷いて言葉を返した。
「いや、少し考えたんだ。あらゆる生物もさ、本気で切れた音姉とか、抗えないほど怖い存在からの恐怖に関しては誰もが逃げたくなるだろ? それと同じ理論で、それを調べたら何かが見つかる。でも、それを見つけると言うことは恐怖というものに火をつける可能性がある。どうだ?」
「なるほど。だが、問題はその理論だと根本的、お前が言うように根源的、生物として刻まれた恐怖ということになる。それをなんと表現するかだが?」
孝治の疑問はもっともだ。というか、これだけは世界の意志とか言えば簡単だろうけど、そんなの答えたら頭の心配をされる。
「問題がそれなんだよな。何かが見ていたのはわかる。でも、何かを調べることは出来ないということは、答えを導き出せないと言う意味になるからな。言うなら、滅びに関連する事柄か?」
「確かにそうだね。答えの無い問題を考え続けても仕方ないし。一応、みんなに注意を」
「注意するのは天界のことだけでいい。何か分からない存在について知らせたところでどうしようもないからな」
「わかった。言ってくるね」
エレノアが走り出す。エレノアは体育祭の裏方リーダーだ。基本的に暇をしているメンバーを仕切っている存在でもある。まあ、学校に行っていないと言うのもあるけど。
オレはその後ろ姿を見ながら小さく頷く。
「さてと、オレ達も仕事を再開させますか」
「だな」
オレと孝治は笑みを浮かべあい同時に踵を返した。
書類を持つ手がプルプル震える。でも、私はそれをこらえて書類を目的の机の上に置いた。
「これで、終わり、ですよね」
ゼーハーと荒い息をしながら私は尋ねる。机の前に座っている委員長さんは満面の笑みで頷いてくれた。
「北村さん、ありがとう。今日は大丈夫だったの?」
「今日は、何も、無いです、ので」
書類の重さは200近くはあるだろうか。魔力負荷を無くして筋力強化を最大限まで使用しても、絶妙なバランス感覚を必要とする300mほどの書類運び(階段もあり)はかなりキツイものであった。というか、キツイで済まないんだけど。
今日、何もなくてよかった。
「ともかく、ありがとう。飲み物飲む」
「飲みます」
委員長さんが差し出してきたペットボトルを手に取って私はラベルを見た。
メントスコーラ 蓋を開ければ噴き出すパーティグッズ
委員長さんはネタで渡してきたんだよね。
「あっ、間違えた。それは私が飲むようだった」
「何か間違えていると思います。これ、パーティグッズですし」
「そうだよね。ちゃんとしたシャンパンは用意しているから大丈夫だよ。飲む用と、振る舞う用の二種類を」
何かがずれている。この人との今の会話は何かがずれている。
「委員長さんは今年で18、ですよね? 日本でお酒は20からですよ」
「そうなの? 第76移動隊の高校三年生面々はお酒は18からの国で人とりは経験しているよ。みんなには理解されないけど、ストレスがたまるとお酒で発散しないと気が済まない日が多くて」
「心労、溜まっていますか?」
「最近はウォッカを一気かな。200のものを」
なんというか、体育祭実行委員長って本当に大変なんだなと思う。そもそも、委員長ってまだ17だったと思う。それなのに、もう酒飲みって、この人の将来が凄く心配だ。
そもそも、学園都市内でお酒を手に入れるのは本当に大変だし、見つかったらかなり厳罰に処罰されるって聞いているけど。
合法的に飲める場所が一応はある。もちろん、18以上ならの話。
「では、私はもう行くので」
「これ、お礼のドリンク」
委員長さんが渡してくれたのはとある製薬会社が出したスポーツドリンクだ。私は世界最大の飲料メーカーのものよりこっちが好きだったりする。
「ありがとうございます」
「お酒を飲んだ後に900mlのこれを一気したら頭の中が天国になるから美味しいよね」
「それは別の意味で天国に昇りそうですね」
「なるほどね」
人の気配が全くしない空き地。そこに置かれた廃材の上に座るように浩平はリースから受け取った書類を見ていた。
「大和にしっかり報告しておくよ。ありがとな」
「うん。浩平は、元気?」
「ああ。お前となかなか会えないのが辛いだけで、それ以外は元気だ。それに、俺はこれでもタフなんだぜ。体も根性も」
「わかっているけど」
不安そうなリースの顔に浩平は笑みを浮かべた。そして、浩平はリースの頭を撫でる。
「俺には俺の仕事があるように、お前にはお前の仕事があるだろ。だから、頑張れ。来年には俺も第76移動隊に戻るんだ。それまでの辛抱だろ」
リーズがゆっくり頷く。そして、そのまま背を向けて走り出した。
浩平は小さく息を吐く。
「周の奴、相変わらずド派手なことをする。確かに、これさえあれば不測の事態は逃れられるな。裏の仕事もしっかり逃さず頑張るとは、さすがは周だ。まあ、これを渡されるってことは誰一人欠けることなく守り抜けと言うことだろうけど」
浩平は笑みを浮かべながらも持っていた書類をポケットの中に収めた。それと同時に浩平の手にフレヴァングが現れる。
そのタイミングと同じとするように周囲から何人かのローブを着た人達が現れた。一番前にいるのは槍をもった男。
それは、シェルター下で戦って倒せなかった槍を持つ男。
「佐野浩平だな」
「だったらどうする?」
フレヴァングを肩に担ぎながら尋ねる。その解答の答えは、武器を構えることだった。
「大人しくその書類を渡せ」
「はっ。どうやら下っ端が焦って動き出したか。いいぜ、相手になってやるよ」
浩平は獰猛なまでの笑みを浮かべる。
「お前ら、装備の耐久値は十分か?」
委員長が酒を飲んでいることは周は知りません。
次は最初から最後まで浩平が主役での戦闘シーンです。どこまで浩平らしさを出せるかわかりませんが頑張ります。