第百六十二話 エクシダ・フバル
GFF-13『ギガント』。
今までのGFFとは違って完全な攻撃を主としての機体が目の前にあった。それが視界の右側に並んでいる。
ギガントは特徴的な大きなフォルムと肩についたミサイルポット。ミサイルという名前は過去の文献であったけど、あれを再現するとは。
しかも、ミサイルポットの中のミサイルは拡散型粒子ミサイルと言って、一定距離で爆発し一定距離まで魔力粒子が拡散するものだ。簡単に言うならフュリアスの装甲を脆くするためのもの。
対する左側にはGFF-06『リヴァイバー』とGFF-09『アルケミスト』。
ギガントの方はエクシダ・フバルの私物で、リヴァイバーとアルケミストは第76移動隊の機体だ。
リヴァイバーには七葉が、アルケミストには捻挫した手首の調子を確かめるために鈴が乗っている。
本当はダークエルフも近くに隠されているんだが、悠人がエスペランサに待機されている以上、必要ないだろう。
「ギガントがいるとはね。予想外も予想外だな」
オレは小さく溜め息をついた。
そもそも、ギガント自体は量産化の目処が立っていない機体だったりもする。特殊部隊に配備されているし、実際の機動性も悪くはない。ただ、コストが高い。
リヴァイバーはGFFシリーズの中で平均的すぎて最も安く、エクスカリバーが複雑怪奇な変形機構から最も高くなっているが、ギガントはエクスカリバー並みに高い。
まあ、ギガントはミサイルポットが通常装備だからな。拡散型粒子ミサイルがかなり高いのもポイントかもしれない。
そう考えると、維持費は桁違いになるのか。
ただ、フュリアスを使ったテロが近年増えているため、対フュリアスに特化したギガントの需要は高まっているが、やっぱり高い。
高いのにも理由はいくつかあるんだけどな。
「まあ、日本政府がイージスを発表するから、それに対抗するために持ってきたとしても不思議じゃないけどな」
実際に、イージスは世界中が関心を寄せている機体でもある。
というか、この体育祭期間中にどこかのバカがイージスの写真をネット上に上げたらしい。今では国民総デバイス持ち(半数は処理専用デバイス)と言っても過言ではないこの日本で一気に広まった。日本で広まれば世界に広がるのも早いわけで、いつの間にか政府には話を聞きたい各国の面々が話しかけてきたらしい。
いやはや、国の威信をかけた機体がここまで注目されると、日本政府としては嬉しい悲鳴を上げるしかないだろうな。
「弟くん、何か考え事?」
「違う違う。ギガントを初めて見たからさ」
「弟くんはフュリアスの設計に関わっていないの?」
「関わることが出来ないってのが正しいな。最近は開発も行わなくても技術の進歩が目覚ましいし、エクスカリバーの後継機の設計図を出しても瞬間で却下されたし」
ちなみに名前はデュランダル。アル・アジフに教えてもらった聖剣の名前シリーズで、最も最強の聖剣として教えられたもの。
ただ、それを意識して作ったら最高速度から機体の旋回性、機体反応などあらゆる点でエクスカリバーZ1の二倍近いスペックになっていたりもする。
もちろん、悠人ですら操作不可能で冗談抜きに未来の機体として厳重に保管している。
「弟くんでもそんなこどかあるんだ」
「オレからすれば嬉しいことだけどな。今までは技術がオレに追いついていない部分があったけど、今はようやく技術が追いついて追い越したからな。新たな設計はしても革新的な開発は難しいだろうし」
「妙に達観しているよね。何というか、弟くん、変わった?」
「わかるか?」
「うん。今までの弟くんなら自分が先導するんだって感じだったのに」
確かにそうかもしれないな。実際に、家にはたくさんの設計図がある。でも、それは幾ら見直しても新しく出ている技術の方が進歩しているのだ。
もしかしたら、世界の意志というものは、今までの世界の繰り返しの一つであって、オレの知識はそこから借りているだけかもしれないな。
有頂天になっていた自分がちょっと恥ずかしい。
「でも、私はそんな弟くんが好きかな」
「惚れるなよ?」
「絶対にないよ」
さすがに断言されるとかなり辛い部分があるのですが。
「お二人はよく会話出来ますね」
ちょうど音姉の向こう側にいる都が呆れたように溜め息をついた。確かに、エクシダ・フバルを待っているだけとは言え、こうも呑気に話しているのは少し非常識だったか?
「予定時間を過ぎていることには何も思わないのですか?」
「全く」
「うん、全然」
オレと音姉が即答で答える。だって、約束時間って破るためにあるものじゃないのか?
まあ、さすがに体育祭本番オープニングが開始する午前九時まで後四十分という事態にはなっているけど。
「『GF』の評議会という大幹部がほんの少しの遅れなんて小さなことだと僕は思うけどね」
「そうそう。ギルバートさんの言う通りだ。向こうは『GF』のトップクラスの権力者なんだし」
「だよね。ギルバートさんの言葉は的を得ているよ」
「そうですか。私ももう少し我慢強くならないといけないですね」
「あのさ、一ついい?」
横並びでエクシダ・フバルを待っているオレ達四人の最後の一人である琴美が頭を抱えながら言葉を発する。
「あなた達の思考回路がぶっ飛んでいるのも、都が周のことなら何でも賛成するのもわかった。でも、いつの間にか一人増えているのに会話を平然と続けられあなた達の根性が意味わからないのよ」
呆れたように言う琴美に全員の視線が向く。というか、気づいていないのは琴美だけだったのか。
「琴美、気づいていなかったのですか? ギルバートさんは周様より先にここに来ていましたよ」
「都と琴美が来た後だったかな。ギルバートさんが完全に気配を隠してやってきたけど」
「一応言っておくが、琴美は戦闘要員に数えられるような戦力はないからな」
そもそも、琴美はフュリアスのパイロットとして数えている。鈴が乗っているアルケミストは本来琴美の愛機だし。
槍の扱いは悪くはないけど、第76移動隊に槍を使って近接出来る奴が少ないからな。楓は砲撃槍な上に二刀流ならぬ二槍流だし、中村なんて槍よりも砲撃だ。オレも槍は言うほど強くはない。
だって、槍って振り回しにくいものだからだ。おかげで槍を扱うのは苦労する。一応、レヴァンティンモードⅡである砲撃槍形態はあるが、あれって振り回すものじゃないし。
ちなみに七葉は例外。あれは槍じゃないし、天性の感覚が必要だ。頸線であそこまで戦えるのは慧海の話によれば七葉以外に、インドの不思議少年とロシアの特殊工作員の男らしい。
まあ、第76移動隊には指導役がいないのだ。筋は悪くないからそこそこ強くなるとは思うけど。頸線に関しては七葉に教えをもらっている。頸線に関しては本当にスペシャリストだからな。
「音姫に気づかれた時は僕もまだまだだと思ったね。やはり、孝治みたいに上手くはいかないものだ」
「孝治は一応、そういうのに才能があるからな。根っからの特殊工作員向けだし。まあ、武器が剣と弓だから、そこが不釣り合いかもな」
特殊工作員って基本はナイフだからな。孝治はその分、レアスキルでカバーするけど。
「僕ももっと精進しないとね。おっと、どうやら来たようだ」
ギルバートさんが示した先にオレ達は視線を向ける。そこには確かに長距離航空防護艦の姿があった。
あれなら到着まで数分だろう。時間的に厳しいし、そろそろ種明かしをしてもらいますか。
「んで、ギガントのパイロット、いや、エクシダ・フバルさんは出ないのか?」
その言葉に誰もが驚いてオレを見ていた。その言葉と共にギガントのコクピットが開いて独りの『GF』の儀礼服ではなく戦闘服を着た老人が姿を現した。
ギルバートさんが微かに驚いている。
「いつからだ?」
ギガントのコクピットから飛び降りながら(10m近くあるはずなんだけどな)エクシダ・フバルが尋ねてくる。
「そもそも、あんたのギガントが到着より前に到着していることがおかしいだろ。後は勘だ」
「なるほど。頭の回転は悪くはないみたいだな」
どうやらオレはエクシダ・フバルに試されていたらしい。
「ようこそ、エクシダ・フバル。これより第76移動隊があなたを警護しながら学園都市を回りますが、移動するルートはこちらの指示に従ってください」
「いいだろう。お前が守る学園都市を見てやろう」
これからが体育祭の本番だ。気を引き締めよう。