第百五十五話 バカ騒ぎ
三日目は一瞬で過ぎます。理由、周達が三日目の大半をこれに費やしたからです。
ルナが僕の後ろの座席でエクスカリバーに乗る時に身につける最新型の精神感応システムを内蔵した首輪を触っている。そんなシステムは音界にはないから珍しいのだろう。
僕はただエクスカリバーのプログラムの確認を行っている。
「悠人、あんた達っていつもこれを付けて戦っているの?」
「正確には極一部のパイロットかな。リリーナや鈴は付けていないけど、僕はその首輪型、周さんは内蔵型を付けているから」
「マテリアルライザーの動きはフュリアス離れしているからわかるけど、どうして精神感応? 普通にパイロットの腕だけで」
「そういうのをカバーできない部分があるんだよ」
僕はそう言いながらルナの前にある画面にエクスカリバーの人型形態時の姿を映した。そして、そこにいくつかの矢印を打ちこんでいく。
確かに、精神感応を付けたフュリアスはすでに廃れた分野だと言われている。実際に、精神感応について研究している研究者はアリエル・ロワソと周さんくらいだろう。それほどまでに精神感応は研究されていない。
精神感応にはいくつかのデメリットがあるからだが、その一つに体が生身では僕みたいに首輪型しか装着できないという点がある。つまり、生体兵器、周さんや亜紗さんのような生体兵器じゃないと精神感応の能力を発揮できない。
だけど、生体兵器は完ぺきに近づけば近づくほど人としての能力を失っていくと聞く。もしかしたら、相手方の生体兵器はそうなのかもしれない。
だって、周さん達は発展させることをしようとしなかったから。
「精神感応によって細かな動き、本当に細かな動きだけど、一流との戦いでほんの少しだけ有利になるポイントを作り出しているだけ。それだけでも、生き残る確率が上がるしね」
例え僕が最強のパイロットだとしても、いつかは死ぬ。だから、生存できる可能性を極限まで高めていないと。そうしないと、悲しむ人が増えるから。
「バカね。フュリアスの内部機構はパイロットを守りやすいようにしているのよ。よほどのダメージを負わない限り、フュリアスに乗っていれば死なないから。私だって、何回も撃墜されたし」
「そう言えば、ルナはルーイやリマ達の中で一番戦場に出ているんだよね」
「そう。総出撃回数168回。その内、無傷での生還は22回だけ。撃墜されたのは16回。それ以外はどこかに傷を負っているわ。フュリアスは本当に命がけだから、私みたいな戦場に長くいるパイロットは少ないの」
確かにフュリアスによる戦場は命懸けだ。人界でもフュリアスが戦場に使われるようになってからたくさんのパイロットが死んでいる。生き残るのはエースパイロットくらいだ。だから、イグジストアストラルみたいな機体が作られるのだろう。
「それでも、私は出撃した。ルーイやお姉ちゃんと一緒にいたいから。幼馴染と実の姉が天才的才能を持つエースパイロットだから大変なのよ」
「僕にはそれがわからない。でも、少し羨ましいかな」
「羨ましい?」
「家族がいて、幼馴染がいることが。僕には家族も幼馴染もいないから。今ではアル・アジフさんが親代わりだけど、本当の母親は僕がこの手で殺したしね」
「バカ」
そういうルナの声は優しい。ほんの少しルナと一緒にいるだけだけど、ルナの性格はよくわかる。こんなに優しい子がフュリアスに乗って戦争しているなんて何かの間違いだと考えたい。
ルナはただ、追いつきたいだけなのだろう。でも、ルナはもっと別の道があるはずなのに。
「悠人、どうかしたの?」
「あっ、うん。少し、この後のことを考えたら」
「この後のことね」
ルナが少し呆れたような声になる。この後、夕方の6時になれば僕達は商業エリアに移って予約した店で僕達の付き合いだした歓迎パーティを行うのだ。ただ、そこに参加するメンバーはいつの間にかクラスメートや学園自治政府の代表など、様々な場所から来る上に、メリルも予定を繰り上げてやってくるらしい。
本当に、僕達は幸せ者だな。
「でも、私は嬉しいかな。悠人は?」
「僕も。僕はルナと付き合って後悔はしていない。多分、これからもっと大変になるかもしれない。でも、みんなが祝福してくれるなら何とかできるような気がするし」
「そうね。私も。メリルには、少し悪いことをしたかな」
ルナがそう思うのは無理もない。僕の勘違いでなければメリルは僕に好意を持っていたはずだ。でも、メリルなら僕達にこういう言うとわかっている。
「祝福してくれるさ。僕達を」
「そうだね。そろそろ向かう?」
すでに時刻は5時を指していた。確かに、ここからな今すぐ向かっても何ら問題はないはずだ。僕は頷いてコクピットを開いた。ルナが先に降りると、後部座席の後ろが動き、後部座式にデバイスなどの精密機器が収まる。
これによって二人乗りが可能になったけど、人型に変形できないんだよね。
「悠人」
ルナが嬉しそうに僕に手を伸ばしてくる。僕はその手を掴んだ。
「周さん、一つ聞いていい?」
僕は顔が引きつるのがわかった。ルナは隣で放心している。僕も放心したいけど、二人揃って放心していたら何が起きるかわからない。
僕達を歓迎した周さんはにこやかに首をかしげる。
「いいぞ」
「どういうこと?」
その全てにあらゆる意味を込めていた。
疑問その1
ここは店ではなく学園都市最大の公民館であること
疑問その2
学園自治政府全員がいるのはいいとして、何故か判らないけど『GF』のお偉いさん、善知鳥慧海さんや海道時雨さんの姿まであること
疑問その3
立食パーティ?
「いやー、いろいろと進めていたら人数がかなり増えてな。予約していた店じゃ入らないからこっちに変えたんだ。その代わり、予約していた店のご飯を作ってもらうことにしてな。慧海や時雨がいるんはメリルが呼んだから。立食パーティになったのは人数が多すぎるから。他に疑問はあるか?」
「エスパー!?」
「普通に考えそうなことを答えただけ。まあ、こっちも神経すり減らしてやっているから、はめをはずしてバカ騒ぎしたいだけだろ」
そう言いながらみんなを見渡す周さん。
確かに、今の状況はかなり神経をすり減らす。周さんは明確に日時を指定しているけど、僕達はそれ以外でも気をつけないといけない。だから、神経をすり減らす。
いくら予想されているからと言って勝てるわけでもないのに。
「だから、今日は散々バカ騒ぎといこうぜ。おーい! 主賓のカップルが入場したぞー!」
その言葉にその場にいた全員がこちらを向いた。かなり恥ずかしい。だけど、僕はルナの手を引っ張って歩き出す。
何も悪いことはしていないのだ。だったら、どうどうとしていればいい。
「ルナ、悠人」
その言葉に会場が静まり返る。その言葉に僕達は足を止める。そこにいたのはメリルの姿。隣にはルーイもいる。
「メリル」
「歌姫様」
僕とルナの声。その声には驚きが入り混じっていた。
「おめでとうございます。お二人とも」
「歌姫様、私、歌姫様が悠人のことを」
そう話そうとしたルナの口をメリルの人差し指が触れた。
「私は、あなたが幸せになれればそれでいいと思っています。ほんの少し、悔しいという気持ちはありますけど、どこの誰ともわからない人に悠人を盗られるより、あなたが悠人の隣に立つなら、私はあなたを全力で応援しましょう」
「メリル」
ルナの瞳から涙がこぼれる。それを見たメリルはにっこり笑ってルナを抱きしめた。周囲から沸き起こる拍手。それは僕達を祝福する拍手。
をれを聞きながら僕は抱き合っている二人を見る。多分、ルナが泣きやむまでこうだろうけど、誰も批判はしないだろう。だって、今の二人は、立場をなんて関係ない友達なんだから。
「隣、いいか」
すでに時刻は9時になっている。相変わらずバカ騒ぎは収まっていないし、いつの間に用意したのかわからないビンゴ大会が開催されていた。
僕はそれを端のほうでオレンジジュースを片手に立っていると、隣にルーイがやってくる。
「いいよ」
「驚いた。まさか、ルナと付き合うことになるなんて。ルナは確かに悠人に惚れてはいたが、悠人は由名に惚れていなかっただろ?」
「うん。どちらかというと、リリーナ、鈴、メリルかな。でも、慰めてくれるルナを感じて、ルナは優しい子なんだって思ったらいつの間にか」
「あいつってギャップが激しいからな。短気ではあるけど、心配してくれた時は本当に献身的になるし。ころっといくのもわからないわけじゃない。ただ、みんなを代表して僕から言わせてもらうけど」
「ルナを不幸にはしない」
僕は断言する。多分、ルーイもこう言いたいのだろう。だからこそ、僕は自分の口で言う。
「ルナは僕みたいになって欲しくないから。だから、僕はルナを幸せにしたい」
「それならいいよ。僕だって他人の濃い時にとやかく言うつもりはない。悠人、そろそろバカ騒ぎの中に戻ったらどうだ」
「うん。そうだね」
僕はゆっくりバカ騒ぎの中心に向かって歩きだす。その中心では悠聖さんや浩平さんが騒いでいるし、周さんや孝治さん達もいる。もんな、笑っている。
そんな中に僕は向かう。笑みを浮かべて。