第百四十八話 制圧戦
『体育祭実行委員会より連絡します。現在、12時23分より昼休みとします。次の競技の開始は2時からです。それと、第76移動隊からの通達です。今から約30分間、西区工場エリアにおいて変則的な模擬戦を行うため時折爆発音が聞こえますが、生徒の皆様に危害が及ぶことはないので、西区工場エリアには近づかないでください。繰り返します』
アナウンスの声が聞こえると共にオレ達は地面を蹴っていた。狙うのは西区工場エリアにある美術品保管庫。ここには様々な美術品が一時保管されるため、この時期には確実に窃盗団が狙う場所でもあった。
だから、オレ達は最初から準備をしていた。窃盗団を捕まえるために。
「作戦の内容がいきなりすぎるんだけど!?」
メグがオレ達の横を走りながら叫んでくる。確かにメグには説明していなかったな。
ひたすら見回りやら挨拶やらで歩きまわっているオレ達なら怪しまれないが、競技に参加するため見回りスケジュールの少ないメグがいれば何かあると思われる。だからこその電撃作戦だ。
とは言っても、かなり厳しいものだけどな。
「アナウンスが出た以上、オレ達は200秒以内に目標地点へ到着しないといけない」
「そうですね。先には姉さんや都さんがいますけど、相手の数を兄さんは絞り切れていませんし」
「まあ、あの二人がいるなら大丈夫だろう。それに、孝治や悠聖もいる。オレ達の目的は逃げ出してきた窃盗団を根こそぎ捕まえるだけ。武器の準備はいいな」
オレはレヴァンティンを腰に身に付けた。それと同時に工場エリアで爆発が起きる。
工場エリアの施設が爆発した音じゃない。それに浮かぶ中村とエレノアの二人が砲撃を加えたのだ。威力が高すぎるが、元々アナウンスしていたのはこれで動揺させないため。
第76移動隊の模擬戦では度々起きているため学園都市の生徒は完全に慣れている。
「制圧戦。開始だ」
倉庫の中から出てくる覆面の人達。その人達に向けて都は断章を構えた。
「フォトンランサー!」
すかさずフォトンランサーを展開して光の弾を大量に放つが、当たるより早く防御魔術や障壁魔術によって防がれる。
すかさず攻撃魔術が放たれてきた。
都はそのまま横に跳んで近くの壁に隠れる。隠れると同時に都がいたところに様々な攻撃魔術が飛来した。共通しているのは全てが地面を抉る攻撃。
「相手は物理ダメージを与えるタイプ。デバイスはおそらく旧式の『ES』製です」
都はすかさずデバイスに向かって叫んだ。つまり、長引けば近くの建物に大きな被害を与えるものだ。はっきり言ってとても危険なもの。
周はそれを想定していたからこそ、アナウンスを流している。
『承知した』
返ってくるのは孝治の声。それと同時に漆黒の弓矢が倉庫前にたむろしている盗賊団に降り注いだ。
『かく乱はする。だが、それ以上は』
「十分だ!」
その言葉と共にアルネウラ、優月の二人とシンクロをした悠聖がちょうど都の反対側から飛び出した。それと呼応するかのように都も飛び出して準備していたフォトンランサーを最大限まで展開する。
その展開が終わるぐらいのタイミングで倉庫の両側から音姫と亜紗が飛び出した。
盗賊団は完全に動きを止めている。作戦を読まれている可能性は考えていたかもしれないが、まさか、第76移動隊の主力部隊が制圧に乗り出すとは思わなかったはずだ。
これは周が予測していたこと。周囲に悟られないように話をすることはなく、部隊をいくつにも分けて相手からすれば危険性が少なくなるかのように誘導した結果だった。
一日目に部隊を分けなかったのに二日目に部隊を分けたのはこれが理由。
部隊を分けることで相手の警戒を低くするのが周の目的だったのだが、ものの見事に的中していた。
そのことに都は内心驚きながらフォトンランサーを放つ。盗賊団を制圧するために。
「くそっ、くそっ、くそっ! どうしてばれていた。いや、ばれているのはいい。相手はあの海道周だ。だが、部隊を小さくしていた第76移動隊がどうして合流している!? くそっ、くそっ、くそっ!! 学園都市を警戒させるために」
「海道駿から依頼されたこと。違うか?」
オレは笑みを浮かべながら尋ねた。オレ達の目の前で男が立ち止まる。
「海道駿はお前がオレ達をどこまで出し抜けるか試されたんだろ?」
「だったらどうする?」
「いや、素晴らしい道化師だなと思ってさ」
オレは男をバカにするかのように肩をすくめて笑みを浮かべた。相手は予想通りに顔を真っ赤にしている。
「海道駿が試したのはオレ達だ。お前という当て馬を使ってオレ達の行動能力を把握しようとした。まあ、出し抜けられれば良かった、というところか?」
「ありえん! 私は駿様から直々に命令を頂いたのだぞ!」
「作戦日時は教えられていないのに?」
オレの質問に男は答えられないとでも言うかのように口を閉じた。
やはり、そうだ。海道駿はオレ達を過小評価でも過大評価でもしないために実行者達のみで作戦日時を決めさせ動き出した。
もちろん、一般人には被害を出さないように言ったのだろう。そして、この男一味の窃盗団は第76移動隊が四つのチームで分けられたのを見計らって動き出した。
作戦としては悪くないし、普通はそう考えるだろう。だけど、オレは全てを推測していた。
まあ、これに関しては完全に運任せがあったからな。犯行時刻とかはさすがにわからなかったから、一般人を傷つけない最高の時間からアナウンスを流してもらう技に出た。失敗したらかなりうるさいけど。
「大人しく捕まるか、殴られて捕まるかのどちらかを選べ。オレはあくまで平和主義者だ。抵抗しないなら痛い目には合わさないさ」
「こういう時の周って目が輝いていない?」
「自分の作戦が当たったことが嬉しいはずですよ。兄さんはいつもそうです」
後ろの二人、今の状況では黙っていて欲しい。
「お前らみたいな子供に、負けるかよ!!」
男が取り出したの巨大な戦斧。普通に受け止めたら腕がイかれる可能性があるな。
オレはレヴァンティンの柄を握りしめた。
「世界を救うのは、俺達なんだよ!」
「誰かを犠牲にして世界を救えたとしても、それは世界を救えたことにはならない。世界を救うということは、自分も仲間も知り合いも誰もかも救うことだ!!」
「うるさい!」
振り上げられる戦斧。オレはレヴァンティンを握りしめて前に踏み出した。
パチンと七天失星が鞘に収められる。それを音姫は小さく息を吐きながら見ていた。
「弟くんの言ったように、やっぱり当て馬みたいな人達だったのかな?」
『そんなに強くないから実働部隊じゃないと思うけど。そこは周さんに聞かないとわからなかいと思う』
二人の足下にはたくさんの窃盗団員が倒れ伏している。一応、いくつかの窃盗品も転がっているが、そちら悠聖や都の二人がどうにかしてゆっくり落としていた。
都が断章を掲げると同時に倒れている全ての窃盗団員にチェーンバインドがかけられる。強力な魔力の鎖によって縛り上げられた。
「それにしても、周様はよくここが襲撃されるとわかりましたね」
「周隊長は場所は最初からわかっていたみたいだぜ。時間に関してはわからなかったから、アル・アジフに指示を出してもらっていたみたいだけどよ」
「アルちゃんなら仕事がないから連絡しやすいもんね。でも、ちょっと怖いかな」
音姫は光輝の柄に手を乗せながら呟く。
「海道駿が本当に学園都市を狙っているのはわかるけど、私達の力を試すように動いているのが不気味で。今まではずっと、動き出した相手を追いかけて倒しただけだったから」
「相手も必死ってことじゃないのか? 相手の目的は滅びから世界を救うこと。対するオレ達は犠牲者なく世界を救うこと。結局は正義と正義がぶつかり合うんだよ。正義と悪が区別されていたら戦いやすいけど、どちらも正義だ。オレ達は自分でどちらの正義を貫くか考えなきゃいけないしな。オレはそう思うけど、音姫さんは?」
「私は、ただ守りたいから。弟くんを、由姫ちゃんを、みんなを。いつか世界を敵に回す時が来ても、それだけは貫きたいかな」
「そういうことでいいんじゃないかな。多分、オレ達が海道駿の作戦の方が未来があるから敵についても周隊長は怒らないと思う。あいつはそんな奴だから」
それは自分が決めたことだから。四人がここにいるのが自分が決めたことであるのと同じように、自分が決めたことなら周は反対しない。例え、敵になったとしても。
「周様なら悲しみますが全力で止めてきますよね」
『賛成。私は周さんを信じているから、絶対に守りきりたい』
「うん。そうだね。みんなを、学園都市を、守ろうよ」
振り下ろされた戦斧が地面を砕く。オレは後ろに下がりながらレヴァンティンを構えた。
相手の力はかなり厄介だ。人と比べればありえないくらい力が強いため魔界の住人だろう。だからか、近づくのが難しい。
由姫は精神的に不安定なため後ろに下げているが、一人じゃかなりキツいな。
「どうした! 勢いは口だけ」
「破魔雷閃!」
一歩を踏み出しながらレヴァンティンによる振り下ろし。だが、男は戦斧によって受け止めた。すかさず一歩を踏み出しながらレヴァンティンを振り上げて鍔迫り合いに持ち込む。
「力が強いな。ギルガメシュと戦っている時みたいだ」
「魔王か。そこまで大層な存在じゃないさ。ただ、餓鬼を一人潰すくらいの力はあるさ!」
戦斧が力任せに振り回される。オレは上手く宙返りすることでその戦斧を避けた。
「これで終わりだ!」
オレに向かって振り下ろされる戦斧。それに対してオレはレヴァンティンを振り上げた。
イメージは全てを凍らすような力。時を止めるような力は無いし、封印を行うような技じゃない。でも、オレとレヴァンティンは、絶対に動かない障壁となるための技。
「氷華満天」
レヴァンティンが戦斧を跳ね返す。いや、戦斧がまるで壁にぶつかったかのように跳ね返ったのだ。
オレのオリジナル剣技である氷華満天はただの振り下ろしではあるが、技の発動中は相手の魔力攻撃がこちらを越えない限り破られない状況にするかなり特殊なオリジナル剣技。
発動条件が難しいからなかなか使えなかったけど、上手く成功したみたいだな。
「なっ」
武器と武器がぶつかり合った衝撃とは違う衝撃に驚く男にオレは距離を詰めて手のひらを押し当てた。そして、体内にダメージを響かすように腕をつく。
八陣流遠当て『椿』。
ダメージ自体を奥に入れるカウンター技だ。威力は高く、椿を入れた男はそのまま後ろ倒れて動かなくなる。
オレは小さく息を吐いてレヴァンティンを耳に当てた。
「孝治、どうなっている?」
『窃盗団は全員捕まえた』
「了解。制圧戦、終了だな」