第四十話 狭間の力
金色の鬼の存在。鬼とレヴァンティンと関係。世界の滅び。
その全てが繋がっているとオレは感じている。だが、結果は見えていてもそこに行く過程にわからない部分が多すぎる。不明な部分だけが増えていく。
「わからないな。というか、リースから何の連絡もなかったってことは、あいつは幻だったのか?」
『攻撃しなかった理由はそれしか考えられませんね。でも、竜言語魔法は私の目から見て優秀です。そんな抜け目があるかどうか怪しいところですが』
魔術よりも遥かに強力な竜言語魔法に抜け道がない方が普通だ。魔術はいくらでも抜け道が存在するからやりやすいけど。
オレは小さくため息をついた。
「こんなことを聞ける奴はいないだろうな。アル・アジフなら何か知ってそうだけど」
『お勧めはしませんね。確かに優秀ではありますけど』
アル・アジフはある意味知識の宝庫だ。アル・アジフに尋ねれば詳しいことはわかるだろう。だけど、それはフェアじゃない。多分、mアル・アジフは教えてくれない。
「さすがに、時雨達も今回の件が世界の滅亡について関わってくるなんて信じないだろうな」
『あまりに突拍子もないことですしね。ですが、わかっていることもありますよね』
「ああ。三週間後に何か動きがある。ありあえず、アル・アジフのところに向かうか」
『いえ、向かわなくてもいいでしょう』
その言葉にオレは周囲を見渡すと、魔術書の上に座ったまま飛んで移動するアル・アジフの姿があった。
オレはアル・アジフに向かって手を上げる。
「よっ」
「周か。ちょうどよかった。狭間の力の集め方がわかったところじゃ」
「そうか。で、どんな方法だ?」
「難しいのじゃが、ミトラーの法則を知っておるか?」
「魔力は全て均等である、だろ。いくら魔力を使用しても、この世界から魔力がなくなることはない。魔術に使用した魔力は魔術に転換され、別のものに変わるが、それに宿る魔力の値と使用した値が変わることはない」
アル・アジフは頷いた。というか、ミトラーの法則なんてマイナーすぎて合っているいか心配だったぞ。今まで言われていたことを証明しただけだからほとんどの人は興味がないし。
「しかし、それには穴がある。極一部のものは魔力が均等にならない。今回はそれを使う」
「そんなのあるなんて初耳なんだが」
「当り前じゃ。このことを公表でもしたら大変なことになるからの。魔力はこの世の全て。それが崩れるとなれば大暴動確実じゃ」
「もしかして、物の取り出しか?」
デバイスを使った物の取り出しは一般人もよく使うものだ。一般人のデバイスは『GF』のものと比べて戦闘用ではないため処理速度は遅いが、物を取り出す能力には長けている。ただそれだけだけど。
大暴動が起きるということはみんなが普通に使っているものということだ。
「そうじゃ。それを局所的に集中して行う。かなり危険なものじゃな。力を与えた者の魔力を操作する力量とデバイスの処理速度がものを言う。そなたなら大丈夫じゃな」
アル・アジフはレヴァンティンを見ながら言った。
確かにレヴァンティンなら大丈夫だろう。それは断言できる。でも、魔力を操作する力量はかなり難しい。魔力の操作と魔術の操作は似ているようで大きく違うからだ。
魔術は意志によって作られる。だから、イメージさえしっかり持っていれば崩れることはない。
だが、魔力は違う。魔力は空気中に浮かぶもの。常に固定していなければ簡単に霧散してしまう。なにか固定する方法があればいいが。
「難しいな。まあ、それについては練習すればいいか。で、いつ作戦を始める?」
「そうじゃな。後三日で満月になる。その日ではどうじゃ?」
満月の日。
一般的に魔力が高くなると言われているが少し違う。魔力の元である魔力粒子が空気中にたくさん現れるから魔力が高くなるのだ。だが、それは両刃の剣。
「鬼も強くなるがの」
「それは仕方のないことだろ。オレ達が戦う以上、鬼は明らかにオレ達より格上だ。そいつに勝つために頑張るしかない」
「そうじゃな。しかし、本当なら応援を呼びたいところじゃが」
「止めた方がいいだろ。騒ぎが大きくなればなるほど、この街は狙い撃ちされる。ただでさえ世論がうるさいんだ。失敗したらオレの首が飛ぶだけでは済まない」
ネット上ではいろいろと言われている。だが、反対意見が多いのも事実だ。反対意見のほとんどが年齢に関すること。
これをオレ達が乗り越えないと第76移動隊は解散の危機にある。
「オレは力の限りを使い尽くして戦う。だれも犠牲になんかさせない。守るのはオレ達だ」
「そうじゃな。では、三日後の夜。集合時間と場所は?」
「現地集合だ。時間は七時。作戦開始は一時間後。絶対に決めるぞ」
「ああ」
オレ達は握手をした。
何が何でも成功させないといけない。それがオレ達の役割だから。