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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第百三十七話 しばしの別れ

ただの別れにするつもりが思いっきり脱線しました。結果、かなり重要な話に。

「やはり、君は僕とは全く違うね」


夕暮れに染まる学園都市。その中にあるとあるビルの屋上にオレと正の姿はあった。


沈む夕日が学園都市から遠ざかっていく。それをオレ達が見つめていた最中、正が話しかけて来たのだ。


「急にどうしたんだよ」


オレは振り向くことなく尋ねる。それに対して正はクスッと笑みを浮かべた。


「君と僕は違うということさ。僕は君がどう学園都市を守るか興味があった。僕もアドバイスが出来るように様々な作戦を考えていたさ。でも、君はまるで神が乗り移ったかのように対策を作り出した。誰も想像がつかないいくつもの対策を作り出した」


その言葉にオレは軽く肩をすくめる。正が今日ずっと付きっきりだったのはなんとなく気づいていた。正も未来を知る一人だから、正の知る未来とは違うものを見たかったのだろう。だから、オレは尋ねる。


「で、正の歩んだ歴史と今の歴史は異なっているんだろ?」


その言葉に一瞬だけ正が目を見開いた。それにオレは笑みを浮かべる。多分、正は気づいていないと思っていたのだろう。正が歩んだ未来とは少し異なっていることを。


「どうして」


案の定の答え。それにオレは笑みを浮かべたまま頷く。


「未来を知っている中でも正の知識はずば抜けているように感じていたからな。だから、推測した。それに、さっきの話の中で普通は想像がつかないような答えを何回も言っているんだぜ。でも、正の瞳には驚きがあった。それらを考えての推測、いや、断定だな」


「ふふっ。たった一日でそこまで見抜かれるなんて。周、君はすごいね」


「褒めても何も出ないからな。本当なら聞かなくてもいいとは思っていたんだけど、一つだけ聞きたくて。未来が変わったのは『赤のクリスマス』。違うか?」


「正解だよ」


諦めにも似たような言葉。おそらく、全てを語るつもりはあるだろう。


「でも、どうして分かったんだい? 僕は失言したつもりではないけど」


「かなり昔の話、狭間市の時に、正ってオレの親について写真が無いって言っていたよな。だけど、写真が存在している。正の話は嘘ではなさそうだから、それを考えると、正の歴史では写真が消失する現象が起きている。『赤のクリスマス』の時にアジアでの被害はアメリカやヨーロッパと比べて少ないように感じていたから、正の時には『赤のクリスマス』はアジアを中心として起きた。その被害にオレ達は巻き込まれた。違うか?」


「そこまで推測しているとはね。確かにそうだよ。僕の歩んだ未来と今の未来は大きく異なっている。細部は特にね。未来のことを話すつもりはないし、君も聞くつもりはないだろ?」


「当り前だ」


未来というのは誰かに導かれるものじゃない。自分達の手で掴み取るものなのだから。それを間違ってはいけない。


確かに、今の世界は滅びに対抗するために動いている。でも、その未来を勝ち取るために歩んでいるのだから。


「では、過去に異なった出来事を、君が関わった事件について言うとするよ」


正は姿勢を正した。対するオレは屋上の策に両腕を乗せたままだ。


「まずは一つ目。狭間市への異動の理由。あそこにはとある女学園があってね、そこに同じような任務のために向かった。その頃の第76移動隊は女性メンバーだけで構成されていたんだよ。二つ目。狭間の鬼は確かに存在した。でも、その狭間の鬼は狭間の巫女であった都を生贄として復活している。この時、エレノア達はいない」


それだけを聞いても結構変わっているような気もする。


「鬼の力を受け継いだのは僕と琴美の二人。そして、君達が関わった真柴と結城との戦い。これは基本的に同じになるかな。理由は滅びのためではなく、私利私欲のためだったけど。そして、三つ目。七葉が生存していること。七葉が生存していること。七葉は確実にその時に死んだ。だけど、生きている」


「なかなか変わっているよな。でも、オレ達が関わった大きな事件はその二つくらいだし、他には」


「その最中で異なることが一つあるんだよ。この体育祭が開催される四ヶ月前に音界で戦争が起きている。おそらく、歴史がもっとも歪んだものごとだけどね」


音界での戦争。音界が部隊になると言うことはフュリアス同士の戦いが激化するのか。はっきり言って、悲惨な戦いになるだろうな。フュリアス同士の大規模な戦いは人界では未だに起きていないが、行動範囲の広さと命中力の低さを考えて周囲に及ぼす被害が大きくなる。


正直、ぞっとしない話だ。


「僕が語れるのはこれくらいだ。これからは、君が未来を作り出すのだろう?」


「ああ。ありがとうな。正って、ちょっと待て。正が親父達について言及していないってことは、正の歴史でも別の勢力が学園都市を襲ったってことなんだよな?」


「そうなるかな。でも、その時の軍隊は音界で起きた戦争の敗戦兵達だよ。だから、今回のことは正直僕もどうなるかわからない」


「そっか」


親父やお袋はむやみやたらと人を殺すことはないだろうから正の時と比べて安心はできるだろう。でも、オレの推測が成功しなければかなり厳しいことになる。


オレ達の腕の見せ所ってことか。


「周、君は怖くないのかい? 未来というものが」


「怖い、とは思わないわけはないけど、オレからすれば死ぬことの方が怖いかな」


「滅びは君も死ぬよ」


「滅びに対してはどうにかできると思う。これはオレの推測だけど、多分、オレの考えが正しいなら、確率は20%で可能」


正直言って、オレも推測できない部分が多すぎる。一番のキーポイントは交友関係の広さだろう。それを駆使すればどうにか出来る可能性が出てくる。最良の手段を見つけるのも時間がかかるだろうし、みんなに頼っていかないと。


「20%。確率は高いね。僕の時で、おっと、これは語らない方がいいかな。でも、それが成功するかは分からない。一回だけの最終手段だよ。確認する方法もないし、失敗すれば後は無い」


「だろうな。オレだってそう思っている。というか、滅びってほどだからな、どんな滅びかさえ分かればいいけど」


正は何か言いたそうな表情だった。でも、オレは首を横に振る。


正が言えばそれは正が責任を負うということだ。こいつに、これ以上の責任を負わせたくない。負うならオレ一人だけでいい。


「そうだな。一つだけ、一つだけ聞いていいか?」


「いいよ」


「体育祭の最終日、優勝はどこだった?」


「最終日に体育祭は無かったよ。それだけ、答えておく」


「そっか」


オレはその言葉に笑みを浮かべた。


「だったら、最終日のこの時間、夕日が沈む頃、また、ここで会おうぜ」


オレがそう言うと正は驚いたように目を見開いていた。当り前だ。正は未来で最終日には戦いの戦火によって体育祭がなくなったと言ったのだ。だけど、オレは最終日にここで会おうと言った。普通は理解できない。


でも、これはオレの覚悟だ。


「オレはこの学園都市を守りきる。自分の地位を陥れようが、あらゆる手段を使おうが、この体が汚れようが、この学園都市を守りきる。そして、次の日は呑気に体育祭を行うんだ。最終日に、お前に言いたいことがあるからさ」


そう言ってオレは体を起して両手を広げた。それは、学園都市全てを手に収めるかのように大きく、大きく手を広げる。


オレは笑みを浮かべて正に告げる。


「その時、オレの話を聞いてくれ」


「はい」


正は顔を赤らめて頷いてくれた。その言葉にオレはさらに笑みを浮かべる。


「ま、まあ、君がこの都市を守れたらだけどね。僕達は守れなかった。この意味がわかるかい? この都市は広い。どう頑張ってもそれは不可能だと」


「正はそう思っているのか?」


オレは自信満々に尋ねた。


全ては推測の下に成り立つ式のようなもの。でも、それは、最終的に求められる解が決まっているもの。だから、オレは全てを考える。この学園都市を占領するにはどうすればいいか。どこから攻めればいいか、どこを叩けばいいか。そして、第三者勢力の可能性も考える。


「君は、自信満々だね」


「まあな。オレはオレの出来ることをする。オレの力はただの器用貧乏(オールラウンダー)だ。だったら、その何でもできることを使ったどうにかして守る。根性論だけどな、オレは作戦だけは誰にも負ける気はしない」


「それでこそ君だ。今の君は本当に輝いているよ。だから、僕はしばしのお別れだ。今の君に僕の助言は必要無いみたいだしね」


本来いてはいけにない正を匿っておけるのは一日くらいが限度だったんだ。だから、これ以上大変な事態になる前に説得するつもりだったからありがたい。


でも、正は柔らかく笑みを浮かべていた。それは、まるで、恋する女の子のように、優しく、可愛らしい笑み。


「君の力に僕はなろう。君のピンチに僕は駆け付けよう。君を僕は信じている。君のためなら命を投げ出そう。君は、世界で一番、素敵な人なのだから」


その瞬間、正の姿が消えた。相変わらずの神出鬼没ぶりだけど、今の言葉ってどう考えても、


「告白だったね」


能天気なその声にオレは驚いていた。人がいることに驚いていたわけじゃない。でも、声の下方向に驚いていたのだ。だって、柵の下から子がかかったんだぞ。


「七葉、聞いていたのか?」


「うん。だって、周兄とお姉ちゃんが一緒にいたんだよ。そんな面白、違った、楽しい、違った、愉快な現場を見逃せないよ」


「言い直す理由はなかったよな? というか、お姉ちゃんって」


「もう、知っているから言うよ。私は本当なら死んでいたはずの人間。周兄の近くで数少ない未来をする人間だから」


「なるほどね。どうりで狭間市にまでついてきたったわけか。七葉は聞いていたよな?」


七葉はまるで重力が横方向にあるかのように壁に足を付けて立ったような体勢になっている。頸線のみの技量でなら世界でもトップクラスだ。戦闘能力はあまりないけど。


そんな七葉は確かに頷いていた。


「周兄は出来ると思っているの?」


「出来る」


オレは断言した。そして、正のいた場所を見る。しばしの別れということはまた、決戦の日に会うだろう。


「そう思わなければ、正とは約束しないさ」

正が語る正が歩んだ未来は実は一度作ったことのある物語です。内容がほぼ戦闘シーンだとか、文字通り中二の時に書いた中二病小説でしたけど。この新たな未来を求めての最も最初の原作というものです。投稿するつもりはありません。何故なら、長さがこれに匹敵するからです。そんなものは気力的にも書けないわけで、正の歴史として話すことにしました。

正の正体を少し紐解いたつもりですが、どうでしょうか。おそらく、何人かは正の正体を気づいているはず(願望)


次からは普通に体育祭の物語に戻る予定です。書くことはまだまだたくさんあるので。体育祭はまだまだ、もしかしたら十一月までかかるかもしれませんが、お付き合いのほどよろしくお願いします。

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