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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第百三十六話 二つの歌姫

上手くは書けなかったですが、周の推測に基づく二つの歌姫の違いを書きました。

「そうか。ありがとう。では、次の質問に移りますが、何故、音界の歌姫を呼んだのですか?」


来るとは思っていた。学園自治政府からすれば厄介ごとだと思っているだろう。メリルの存在はアメリカの大統領よりも重いものだ。


大統領が死ねば代わりはいるが、メリルが死ねば代わりはいない。歌姫という能力は音界では歌姫が死ぬことによって、新たな歌姫が生まれる。産まれるではなく生まれる。唐突に能力が現れるらしい。


「音界の歌姫を人質に取られたなら、誰も手出しは出来ませんよ」


「まあな。でも、人質を取らせたとしても、歌姫って耐性がかなり高いって知っていたか?」


おそらく知らないだろう。音姉の近くにいたからこそオレは気づけた。


音姉を止めるには妨害魔術はまず無理だ。最初は当たらないと思っていた。妨害魔術自体の範囲は狭く、音姉の速度なら避けられてもおかしくないと。


でも、核心に至った経緯は少し前の企業からもらった試供品。ブレスキュアのトリカブト味を食べても倒れなかったことからだ。


あれはある意味罰ゲーム用ではあるが、口臭は完全に消せるためお酒の席では有効だろう。泥酔していなければ。


多少は異常が出たものの、音姉は倒れることなく食べていた。それからこっそりレヴァンティンと協力して音姉の耐性について調べていたのだ。


「歌姫は基本的に妨害系、睡眠誘導催眠誘導麻痺等々、それらに圧倒的な耐性を持っている。例え、魔術が使えなくても。そもそも、歌姫というのが謎に包まれていたんだ。二人の歌姫の特性を知っていなければメリルなんて呼ぶかよ」


『メリルも音姫さんと同じ歌姫じゃないの? 歌姫は世界が変わっても同じものだと聞いたけど』


「僕の推測だけど、もしかしたら、同じ歌姫でも特性が違うのではないかい? そうだね。音姫は支援に関する能力をよく使うことを考えて、メリルの方は攻撃に特化しているとか」


「正解」


オレが正に向かってそう言うと、正は驚いていた。そんなに答えが意外だったのか?


「どうして音界では歌姫がトップだと思う?」


『国民が歌を愛しているから』


音界と名付けた理由は歌姫がいるからだと亜紗には言ったよな?


「それはこっちと変わらない。音界では歌姫の下に大統領みたいな役職があるんだ。それが攻撃も可能な歌姫の力。考えたことはあるか? どうして、音界ではフュリアスに関する技術が発展しているか」


よくよく考えてみるとおかしいのだ。今は第八世代のフュリアスが音界では開発されている。一世代は大体二十年持つらしいが、それを計算しても二百年は持たない。


実際にルーイにフュリアスの歴史を教えてもらったが、フュリアスが生まれたのは二百年ほど前。最初は作業用機械だったらしい。こちらでは最初から戦闘用機械として作られた印象が強いけど。


「音界のフュリアスは作業用機械が始まりだ。それを戦闘用として使われ始めたのは約百五十年ほど前から。音界では戦争が起きていたらしい。その戦争の引き金となったのが歌姫だ」


「周、俺には全く理解出来ないんだが、もう少しゆっくり丁寧にわかりやすく説明してくれないか」


「話続けるぞ」


たった一人に合わせていたな本当に時間が無くなる。


「歌姫が引き起こした戦争、音界じゃ歌姫戦争とか呼ばれているみたいだな。正確な話はわからないが、その時に歌姫が最前線に立っていたらしい。それを止めるために殿として残ったのが、本来作業用機械だったフュリアスだ」


そのフュリアスで一定の戦績を残せたから戦闘用になったわけだ。


ただ、この会話の中で一つだけおかしな部分がある。


「つまり、作業用フュリアスですら歌姫は止められなかったってわけだよな」


どうやら浩平はそこだけは理解出来たらしい。オレはその言葉に頷いた。


「音界は魔術のレベルは低い。フュリアスが無ければ第76移動隊で壊滅させられるくらいにな。オレ達が生身でフュリアスに勝てるのはそれが原因だ。ただ、作業用フュリアスとなれば耐久値は高くなる。それですら耐えられない歌姫の能力、わかるよな?」


「僕達と同レベルの魔術。確かに、桁違いではあるね」


『音姫さんはそんな能力は使っていないけど』


「音姉が使った最大のものは戦域全体に声を届かせる技だ。範囲は桁違いだろうけど、メリルも同じ範囲があるとしたなら、それは強力な武器とならないか?」


「待った」


オレの言葉に楠木大和が待ったをかける。オレはそれに頷いて応じた。


「まさか、全て推測では?」


「最終的にはそうだけど?」


オレがそう当然のように言うと楠木大和を除く三人が呆れたように溜め息をついた。


「相変わらず推測かよ」


『周さんだし』


「さすがの僕もそこまでは推測を立てないと思うけど」


一定の理解があるというのはありがたいことだ。


「音界の歴史やらは事実だぞ。これからはオレの推測が大多数を占めるだけ」


「聞きましょうか」


楠木大和の声にオレは頷いた。


「音界の歌姫は攻撃に特化していると考えられる。そもそも、歌姫としての実力はメリルの方が上のはずだ。だけど、音姉も歌姫としての能力は範囲が限定的ながら支援効果は強いし、音を使った攻撃すら可能だからな」


「音? 周、音姫さんは歌というより、条件下における特定ワードによる発動じゃなかったか? 俺はそう記憶しているんだが」


「多分、歌姫は音、空気の振動によって魔術陣を形成していると思うんだ。これは推測なんだが、音姉の場合は歌姫という能力に一種のトラウマがある。歌姫と白百合としての才能にトラウマがな。だから、本人はオレがプレゼントした特殊なリボンで封印しているんだ。特定ワードというのも、トラウマから起因するだけ。正確には」


「魔術の終局形態。音と意志による発動。違うかい?」


オレの言葉を推測したであろう正が尋ねてくる。全く持ってその通りなんだが、せめて、そのセリフだけは言いたかったな。


オレはその言葉に頷き、言葉を紡ぐ。


「それが歌姫としての本質だと思う。メリルの音界での評価は、特殊能力的な歌姫という意味ではなく、本来の意味の歌姫。国民的アイドルらしいからな。ここからがオレの一番間違っていそうな推測なんだが、人界の歌姫は魔術技術の高い場所では本来の性能は発揮出来ない。対して、音界の歌姫はその力を使わなければ生き残ることが難しい。だから、人界の歌姫は大きな範囲に干渉出来るように。音界の歌姫は威力を高めるように」


「音姫さんって個人に対して使っていなかったか?」


確かに音姉は個人に対して力を使っている。でも、あの時の性能を知っているからこそ、オレはこれに関しては確信は持っている。


あの時、狭間の鬼との戦いで音姉は自らに相手の攻撃が当たらないという能力を使った。実際にそれは当たらないようになった。だが、音姉はそれを他の全員にかけることは無かった。

『範囲を限定したから、じゃないかな? 普通の魔術でも広範囲に影響を与える魔術はどうしても威力は低くなるけど、単体が相手なら比べ物にならないくらい高い威力のものもあるから』


「一理ありますね。ですが、範囲が広くなれば威力が落ちるのではないですか? それなら、あなたは何を」


「デュエット」


正がぽつりと呟いた。やはり、正はわかったか。


「デュエット? カラオケにあるやつか? リースとよく歌っているけど」


「ボケはいらないからな。まあ、正の言う通りデュエットだ。今回、楠木大和に来てもらったのは音姉が戦列には参加出来ないということを知らせるためだしな」


『音姫さんが? 音姫さんなら歌いながらでも』


「それがメリルと共鳴させるためなら?」


メリルの来訪を許可した理由。それがこれだ。二人の歌姫、そして、二つの歌姫の力。歌は勇気づけるものであり、二人の願いが一つになれば、強力な力となるはずだ。


「音姉の場合はちょっと特殊な歌があるんだ。それはとても長く、永久にリフレイン出来る。それをずっと歌ってもらう。集中力が切れるのもマズいから基本的には離れた場所でだ」


「君も大胆なことを考えるね。それが成功する確率は決して高くないだろうに」


「まあな」


そもそも前例にない。まあ、前例にあったら驚くけれど。そして、効果は未知数。作戦が成功しなければオレ達の作戦自体が失敗する。


「だから、賭けたいんだ。歌姫の力に。人界と音界。その二つの可能性に」

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