第百三十三話 体育祭の裏側
結局、向かう先が一緒だった冬華も加え、オレ達四人は次の目的地である都島学園が予選を行っている場所、総合大学付属高校のグラウンドに向かっていた。
今日は予選初日。学園都市の体育祭には予選と本番の二つがあり、予選は生徒のみによって構成される体育祭だ。対する本番は一般の来客もある体育祭本番でもある。
エクシダ・フバルもちょうど本番に合わせて来日する。
その本番に学園都市内にあるあらゆる学校が競技をすれば例年の混乱から考えても収集のつかない事態になるため、予選と本番の二回に分けられているのだ。
もちろん、その分授業がないため生徒達は満足しているようだが。
「全く、そもそも、どうして体育祭をやるのにここまで大規模なのよ」
冬華の愚痴にオレは苦笑で返す。そのことに関してはオレもそう思っているからだ。体育祭をやるだけだというのに一週間もするなんて正気の沙汰じゃないとは思う。
ただ、余裕を持って体育祭をやるなら話は変わってくるが。
『体育祭は余裕を持ってやるものだから。忙しくやって予定がズレたり怪我人が出たら、それはそれで大変だよ』
「わかっているわよ。学園都市の大きさから考えて、体育祭が一週間に及ぶのは仕方ないとは思う。でも、本番を二日間だけにすればもう少し節約出来ないかしら」
「それは難しいかもね。学園都市も生徒が集まらないなら話にならない。だから、生徒を集めるためには大々的に宣伝となるように工夫しなければならないよ」
「正の言う通りだ。学園都市はただでさえ学校の数が多いんだ。区別をつけるために体育祭で宣伝するのが一番手っ取り早い。学園都市体育祭の決勝は完全に全国クラスだし」
一部は世界クラスと言ってもいい。実際に学園都市は二年に一回のペースで何らかの競技で世界チャンピオンが生まれているくらいだ。
それほどまでに決勝は熱い。熱い分、競技がどんどん激しくなる。特に、妨害行為に関しては酷い時が多々とあるのだ。
去年を例に挙げるなら、
・決勝に行きたいがために決勝に行く可能性のない学校に金品を渡し、敵対チームとの対戦でたくさんの負傷者を出す。
・個人戦において賄賂を渡し、出来る限りいい順位になろうとする。
・相手チームの食事に細工をして食中毒を出す。
等々、様々な反則行為がはびこった。まあ、『GF』が大活躍して違反行為の大半は取り締まることが出来た。取り締まれなかったものも後々わかったため、要注意人物には孝治や浩平がマークしている。
「どうせ、卑怯な手を使っている場所が多いのでしょ。噂によると学校同士、生徒同士でお金が飛び交っているとか」
「すでに13件摘発されているから」
生徒同士はわかりにくいが、学校同士の場合は委員長、琴美、レヴァンティンの三人(二人と一体?)がお金の流れを確認しているため全てわかっている。
ちなみに、摘発された学校は高額な罰金やら大きな罰則がかけられている。
「すでに13だとはね。僕はこれから倍に増えると思うよ」
「私は数倍ね」
『せめて、少なくなることを祈ろうよ』
亜紗には悪いがオレも二人と同意見だ。目立てば目立つほど生徒が入る。生徒が入れば入るほど収入が増える。ついでに言うなら政府から出る援助金も増える。それだけ資金が潤うということだ。
だから、違反行為はなくならない。最近はデータを使うことに危険を覚えたのかお金をどこかの金庫に現金のまま入れているというケースが増えている。不審な引き出しがないため気づきにくいのだ。
ただ、レヴァンティンが防犯カメラを常時ハッキングしているのか、常に犯行現場を押さえているらしい。
事実上、完全な密室で行われなければ不可能という状況だ。おかげで、レヴァンティンの機能は本来の二割程度低下しているが。
「まあ、これからは厳しくいかないとな。生徒間同士ではどうしても確認出来ない部分が出て来るからな。誰もが全力を出し、そして、気持ちの良い体育祭にする。裏で違法行為に走る奴らを捕まえるのはオレ達『GF』の仕事だ」
『でも、限界はあるよ』
「そりゃな。オレ達は全能でもなければ万能でもない。ただ、『GF』には組織という規模がある。その規模を最大限まで使ってやっていくのが一番だろ」
レヴァンティンに負担はかかるが、見回りをしながら一つ一つ潰していくしかない。それに、去年の報告にあった要注意人物へのマークはすでに完了しているし。
オレは小さく息を吐いて周囲を見渡した。
初日だからかそれほど人の行き来は多くない。『GF』からすれば、見回りはやりやすい時期だ。
「今頃、競技が始まっているのね。悠聖はどうなっているかしら」
「悠聖が出ているのか?」
悠聖はそれほど仕事は担当していないので普通に競技に出ることは出来るだろう。というか、悠聖は非常時にオレが『GF』の全体指揮を行うため第76移動隊の臨時指揮官になる。だから、むしろ仕事が少ない。
もし、臨時指揮官でなければ競技にはおちおち参加していられない。実際に、由姫はヘルプという形で競技には参加するが、それ以外には強制参加の種目以外の種目は本番まで出ない。
特に、オレは見回りやら挨拶回りやら様々なことをやらないといけないため参加する時間なんてないに等しい。
『そう言えば、今頃メグが走っている時間?』
オレは時刻を確認した。確かに、予定通りなら今頃メグが800m走を走っているだろう。魔力負荷は緩めて走れと言っているし、緩めたなら十分にメグは速いはずだ。ここで負けるようなら第76移動隊は脱隊ものだけど。
「メグは頑張るわよね。やっぱり、お兄さんのことがあるのかしら」
「おそらく、そうだろうね。僕も親族に関しては熱くなる時が多いから止めるためならばどんな手段も使いたくなるよ」
その正の言葉にオレ達は同時に足を止めていた。足を止めていないのは発言した本人である正くらいだ。
正は足を止めて振り返る。
「どうかしたのかい?」
「どうしてあなたがメグのお兄さんのことを知っているの?」
冬華の手は腰に差している刀の柄に置かれていた。
メグの兄である北村信吾に関しては第76移動隊内では知られているが、それ以外では全く知られていないはずだ。なのに、正はそれを知っている。
それはあまりにも不自然でありおかしいものだった。だが、正は軽く笑みを浮かべる。
「君達が体育祭の裏側に強く警戒しているように、もう少し、日常にも警戒した方がいいかもしれないね。僕は何でも知っているわけじゃない。でも、僕の能力は少しは気づいているよね? それを使えば盗み聞き出来ないことはない」
「盗み聞きをしたのね。なら、今ここで」
「冬華、ストップ。正が本気になればこの場はただじゃ済まない」
いつの間にか亜紗が冬華の柄を握る手に自分の手を乗せている。こういう時に以心伝心はありがたい。
「周。君は僕を過大評価しすぎだと思うけど?」
「勘違いするな。お前を止めるためなら最低限ブラストドライブにならないといけないからな。この場がどうなるか、正なら想像がつくんじゃないか?」
その言葉に亜紗が驚いて振り返っていた。これはある意味賭けだ。オレが考えている正の正体が正しいなら、オレが考えている同じ反応をするだろう。
ズバリ、ほんの刹那だけ目を見開いてから目の奥で微かに頷いたような光を放ち、否定する。
正はほんの微かに驚いた。それは刹那の間。ほんの刹那だけ目を見開いてから目の奥にある意志が変わる。まるで、何かに納得したように。そして、小さく首を横に振った。
「どうかな。僕の本気は、君の想像を超えるかもしれないよ」
「なるほどね。まあ、勝負事なら、負けたくはないな。特に、自分自身には」
その言葉に正は軽く笑った。オレも笑みを返す。
「とりあえず、総付高のグラウンドに向かうか」
「はぁ、あなたがそれでいいなら私は何も言わないわ。亜紗、そんなボケッとした表情でどうかしたの?」
亜紗は今まで驚いた表情のまま固まっていた。冬華の言葉に我を戻したのか首を勢いよく振ってスケッチブックを開こうとし、オレはその手を止めた。
「大丈夫だ。任せろ」
亜紗は一瞬だけ心配そうな顔になって小さく頷いた。
多分、亜紗にもわかっただろうな。
「早くしないと時間が押すよ」
まるで、今を楽しんでいるかのように正が笑みを浮かべる。その笑みにオレは軽く肩をすくめて歩き出した。