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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第百二十六話 現実では出来ないこと

正確には現実では試せないことの間違いですが。

ソードウルフが開始早々に地面を駆ける。


ソードウルフはフュリアスの中でも数少ない変形コマンドを有しており、変形することで高速で行動できる。ただし、エクスカリバーと違ってエネルギー消費を必要とする。さらに、ソードウルフが変形できるのは背中の装備がブースター装備をしていないといけない。


つまり、変形中は近接格闘がそれほど強くはない。


対するルナの乗るアストラルブレイズはエネルギーライフルを片手に前に出ている。


FBSは近接が主なダメージソースとなるけど、ソードウルフは数少ない射撃が強い機体でもある。ソードウルフのフルバーストはコスト3000機体で半分ほど、2000となれば八割近く削る驚異の攻撃だ。ただ、そんなことはまずできない。そのフルバーストが滅多なことでは当たらないからだ。ただ、遠距離から放たれた場合、動作に気づかなければ当たり、消し飛ばされる。


FBSでのソードウルフとの戦いは基本的に近接が基本だ。


『さあ、ついに始まりました。人界VS音界。第一線は射撃の悪魔であるソードウルフVSバランスの高さではFBS一と名高いアストラルブレイズ。両機共に両選手の愛機でもあります』


解説している間にも戦況は変化する。リリーナがすかさずソードウルフを変形させたのだ。その時には背中の装備オプションも変更している。


この動作には会場だけでなく僕も驚いた。FBSのプロでも三回に一回しか成功しないと言われている変形換装だ。ソードウルフ専用の換装の仕方で、変形中のとあるタイミングでのみ受け付ける。そのタイミングのシビアさからまずお目にかかれないもの。


まあ、リリーナは実戦でこれをするから余裕だろうけど。


ルナのアストラルブレイズもそれを予測していたのかいつの間にか取り出した対艦刀を振りかぶっていた。


リリーナが背中に手をまわして対艦剣を手に取る。そして、鞘から引き抜いた。


『素晴らしいタイミングでの換装の後は鍔迫り合いだ。FBSではかなり珍しい鍔迫り合い。この間に、今回の特別ルールです。今回のFBSはコストと制限時間はなく、どちらかが墜ちるまで続きます。つまり、極めて現実に近いバトルということです』


実況が言い終わった瞬間、リリーナが動いた。もう片方の手で対艦剣を抜き放ち、アストラルブレイズに斬りかかる。だが、アストラルブレイズはそれを後ろに下がりながら避けようとして、


「逃がさない!」


リリーナの声がはっきりと耳に聞こえた。リリーナは振ろうとした対艦剣をそのまま投げつけたのだ。ルナはとっさに虎の子であるはずのアストラルブレイズの翼を使ってその対艦剣を受け止める。


アストラルブレイズ専用の防御武装で一定以上のエネルギーがある時に使用できるものだけど、一定以上のダメージを受ければ翼自体が破壊されていく。破壊されればされるほど最高速度や旋回速度など行動で必要な数値が減少していくのだ。エネルギー消費も上がる。


ソードウルフはそのまま対艦剣を握り締め、


「そうはいかないから!」


アストラルブレイズが翼を戻した瞬間、アストラルブレイズの背中の四砲と手の中にあるエネルギーライフルがソードウルフに向いていた。


最近つけられたらしいアストラルブレイズの追加武装で強力な攻撃を放つことが出来る。


実際は現実だと不可能なんだけどね。アストラルブレイズのエネルギー機関ではゲーム内であるような数秒にも及ぶ長時間の射撃ができるエネルギーを生み出すことは難しい。それに、翼を戻した瞬間に放つなんて無理だ。


「むかっ、それは現実だとできないよね!」


「これはゲームよ、ゲーム!」


『おっと、優勢に立ってはずのソードウルフがアストラルブレイズのバーストを受けて大ダメージを受けています。ですが、ゲームだけでなく現実でもバトルが勃発しそうです!』


その実況の言葉に僕とルーイは同時にため息をついた。


「リリーナがごめん」


「こちらも。まあ、ゲームだし」


ソードウルフは起き上がる。だが、その手に対艦剣が一本足りない。対艦剣が全てなければ換装は出来ない。


ソードウルフはその特性上、換装によって戦場を生きる機体。剣のみでもどうにかなるけど、どうしても射撃に弱くなる。


『さて、リリーナ選手はここでどう出るのか。対艦剣を一歩失った以上、射撃戦では不利になるはずですが』


「不利、ね。そんなわけないよ」


僕は小さく笑みを浮かべる。それを怪訝そうにルーイが見つめてきていた。今、バトルはアストラルブレイズの放つエネルギー弾をソードウルフが回避している。近づくこともできるがアストラルブレイズは万能だ。下手に勝負に出れば逆にライフの少ないソードウルフがでは押し切られる可能性もある。


「悠人、リリーナは何を狙っているんだ? 僕にも想像つかないけど」


「えっとね、ゲームでしか出来ないことかな」


「現実では出来ないのか?」


「試すことが出来ない」


試すことが出来たとしても、失敗すればソードウルフ自体が自壊して爆発するだろう。それに、周囲に大きな傷跡を残す。


タイミングはわかるから、ソードウルフがどこまでアストラルブレイズのライフを削れるかどうか。


『膠着状態ですね。今のソードウルフでは射撃戦に難ありですが、おっと、ソードウルフが前に出る。どうやらここは打って出るようです。対するアストラルブレイズも距離を詰める』


リリーナはタイミングを図っている。アストラルブレイズはコスト2500。そのライフはそこそこ高く、削るにも限度はある。翼を使われてガードする可能性も考えて、ライフは半分以下にしないと成功しないだろう。


リリーナが打って出る。それは完全に捨て身の攻撃だった。何故なら、対艦剣を投げつけたのだ。さすがにその行動は予測できなかったのかルナは慌てて持っていたエネルギーライフルを犠牲に防ぎ、ソードウルフが距離を詰めていた。


そして、アストラルブレイズの体を掴むとそのままバックドロップを決める。


「普通、それする?」


言葉を放てたのは僕くらいの様で、僕以外の全員がポカンと口を開けていた。FBSで対艦剣を使った近接格闘ではなく、まさかのプロレス技を決めるなんて。


アストラルブレイズはすかさず立ち上がるけど、この時にはソードウルフは飛び上がっており、ブースターの加速によってアストラルブレイズを蹴り飛ばした。


『な、な、な、なんと、なんと! まさかFBSでバックドロップを見れるとは思いませんでした。確かに、不可能ではありませんし、飛び蹴りは有効な手段ですが、まさか、バックドロップだとは!』


実況が興奮している間にリリーナは使った対艦剣を二本とも収納して換装していた。その手にあるのはバスターライフル。リリーナも面白い装備の選び方をする。


「シュミレーションであんな動きが出来るなんてな。僕も戻ったら試してみるか」


「現実では出来ないことだもんね」


イグジストアストラル以外でそんなことをしたなら確実にフュリアスが壊れる。フュリアスって案外高いからね。ちなみに、飛び蹴りもまず出来ない。だって、フュリアスは硬いから、普通なら相手は大破。こちらは蹴った足が壊れる小破となる。


アストラルブレイズはすかさず予備のエネルギーライフルを構え、ソードウルフが突っ込んでくるのを見た。放たれるエネルギー弾をソードウルフは変形しながら回避する。そして、さらに変形しながらバスターライフルの引き金を引いた。


アストラルブレイズはあまりの行動に反応が遅れバスターライフルの直撃を受けて吹き飛ばされる。これで、残るライフはほぼ半分。


『おっと、この避け方はすごい。ついに、残りライフが逆転しました! このまま勝負は決まってしまうのか?』


リリーナはその好機に武装を変更して対艦剣を手に取った。そのまま飛び上がりながらアストラルブレイズに近づく。当のアストラルブレイズはエネルギーサーベルを抜いて構えていた。


「あっ」


僕は思わす声を上げてしまう。だって、リリーナが笑みを浮かべたのだから。その瞬間、ソードウルフは対艦剣を上に放り投げ、


『武器を放り投げて、えっ?』


実況が絶句する。だって、ソードウルフが空中でフルバーストを放つ姿勢になったからだ。


ソードウルフのフルバースト。FBSで最大の威力を誇り、現実でも最高の威力を誇るグラビティキャノン。放つ時に起きる衝撃でフュリアス自体がひっくり返るため、放つ際は、地上で、地面に杭を打ち込み、最大限に逆ブーストをかけた状態で、放たなければならない。


つまり、空中では文字通り一回転以上回転したり、頭から地面に直撃したりする。もちろん、自分のライフがタダでは済まない。その準備に完全に足止めと時間がかかるからだ。そのため、初心者でも避けられる上に誘導性が全くない。つまり、当たらない。


だけど、当てる方法が一つだけ存在する。絶対避けられない距離からの空中フルバースト。そう、リリーナが今しようとしている現実では出来ないこと。


杭を打つ時間もブーストをかける必要もない。ただ、ソードウルフはグラビティキャノンを構えている。グラビティキャノンは左右に一つずつある砲で、腰に固定することで理論上は180°に撃ち分けれる。もちろん、理論上。


そして、一つずつにトリガーがついており、そのトリガーを引くことで放つことが出来る。だからこそできる芸当。


リリーナは右のグラビティキャノンについているトリガーを引いた瞬間、ソードウルフの体が回転した。空中で放てばこういう風に回転するのだ。だけど、その瞬間に異変を感じたアストラルブレイズは両方の翼を盾にしている。


勘が鋭いけれど、フルバーストはそんなものじゃ防げないよ。


半回転した瞬間、アストラルブレイズの体がグラビティキャノンから放たれるエネルギーに呑みこまれていた。会場からは口をぽかんとあけているからか声すら出ない。多分、リリーナは笑っているだろうな。


一瞬にして翼を破壊し、ライフを大量に削りながら、ソードウルフは慣性のまま地面に激突した。ちなみに、この時にはライフの半分が減少する。半分以下なら1は残る。でも、アストラルブレイズはまだ生きていた。翼が全て消え去りながらも、ほんの些細なライフが残っている。


『な、なんというフルバーストの使い方でしょう。こんなものを出来るのはまさに愛機だからこそ。ですが、アストラルブレイズもまだ残っている。どちらもライフは虫の息。勝負はまだまだ、へっ?』


その反応に僕は笑いをこらえるのに精一杯だった。だって、アストラルブレイズに空中から落ちてきた対艦剣が突き刺さり、残っていたライフが消え去ったからだ。ルナはぽかんとその様子を見ており、リリーナはガッツポーズをとっている。


「悠人」


「リリーナはね、ずっとこれをしようとしていたんだよ。フルバーストでルナが翼を使ってガードすることも想定済みでね」


「なるほど」


ルーイが感心したように息を吐く。確かに、あの技には感心するしかないだろう。何回も練習していて成功率はそれほど高くないのに。


『し、勝者、リリーナ・エルベルム!』


「鈴、勝ったよ!」


リリーナが飛び上がりながらこちらに向かって駆けてくる。そして、躓いた。


「あっ!」


「リリーナ!」


僕が駆けだす。でも、間に合わない。だけど、僕よりも近くにいた鈴が躓いてそのままヘッドスライディングしようとしているリリーナ受け止めて一緒に倒れた。


「リリーナ! 鈴!」


僕は慌てて二人に駆け寄った。でも、駆け寄る頃には二人は起き上がっている。僕はホッと息を吐きながら二人に手を差し伸べる。


「大丈夫?」


「鈴、ごめん」


「平気平気。痛っ」


鈴が僕の手を掴んだ瞬間、鈴が顔をしかめた。僕はすかさず鈴に向かって魔術を当てる。


「鈴、どうかしたの?」


リリーナの声に僕は顔が引きつるのがわかった。


「捻挫、してる」


「「えっ?」」


リリーナと鈴の声が重なった。そして、鈴がうろたえて周囲を見渡す。


「次の試合、どうしよう」


「今は試合のことじゃない! リリーナ、鈴を控え室に。周さんも呼んで治療をお願い。ルーイ」


僕はルーイの方を振り返った。ルーイは笑みを浮かべて頷いている。


「準備は大丈夫?」


「いつでも」


その言葉に僕は頷いた。


「リマは委員長さんに事情を。本部はあそこだから。リマには悪いけど、一戦だけ中止。僕とルーイが戦うから」


「はい。わかりました」


「悠人、私は出来る」


「駄目だ!」


僕の声に周囲が静かになる。僕は片膝をついて鈴と同じ視線の高さになった。


「今はゆっくり休んで。必ず勝つから」


「でも」


「大丈夫だよ。僕とルーイが最高の試合をする。鈴が怪我をしたことに悔しがるくらいにね」


「うん」


僕は笑みを浮かべて立ち上がる。そして、ルーイに拳を突き出した。


「負けない。絶対に負けないから」


「こっちも、手加減は出来ない」


『皆さんに重大なお知らせがあります。次のバトルに出る予定だった結城鈴選手が手首を怪我したため、一戦を繰り上げ、真柴悠人選手VSルーイ・ガリウス選手との戦いを、行います』


そのアナウンスに会場は湧くけれど、僕達は静かに睨み合っている。


今回は今まで以上に負けられない。もし、負けたら鈴が自分のせいだと思うから。ルーイも鈴のために手を抜くことは出来ない。僕と同じように。


「負けない」


この勝負、絶対に負けられない。

次はFBSの戦闘ではありません。控え室内での会話です。

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