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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第百二十二話 体育祭開幕直前その2

おかしいな。正を出す予定がこれっぽっちもなかったのにどうして出たのだろうか。勢いって怖いね!

オレは握っていたレヴァンティンを静かに鞘に収めた。視線の先にいるのはメグとその兄である信吾。


記憶媒体を渡し、四階に向かう最中に見かけたのだ。どうやら夢も気づいていたらしく誰からも見えない角度で弓を握っていた。


オレは物陰から出ながら夢に向かって手を上げる。


「お待たせ」


その言葉にビクッとなった夢は驚いたようにオレを見てきた。


「いつの、間に?」


「メグの近くにあいつが来た時から。気配を隠すのは得意だから気づかなかったんだろ?」


「うん。メグが、心配だった、から。いつでも放てる、ようにしていた」


それは見ていてわかった。メグの射出速度は孝治には及ばないが正確性は遥かに孝治を超える。


もし、細い輪がいくつも連なっていても、メグはその中心に向かって放てるだろう。


「あの、人は?」


「『悪夢の正夢ナイトメア』一味、と言えばわかるな。メグから兄について聞いているか?」


「じゃあ、あの人が、メグの、お兄さん」


どうやらメグから兄については聞いているらしい。そのおかげで幾分かは話を通しやすいけど。


「多分、メグに最後の忠告をしに来たんだと思う。メグの兄は妹想いだから」


「うん。メグから、ちゃんと、聞いているから。炎獄の御槍も、お兄さんからもらったって」


「ここで戦闘にならなくて良かった。この場なら全員を守りきる自信がない」


その言葉に夢が驚いたように目を見開いていた。多分、オレがそんな発言をしたのに驚いているのだろう。確かに、今までの言動から考えて普通は言わないはずだ。


「おかしいか? オレがそんなことを言うのは」


「少し。周君は、いつも自信満々で、私の憧れだから」


「憧れ? オレに憧れてもいいことはないぞ」


その言葉に夢は首を横に振った。


「そんなことは、ない。周君はかっこいい。目標に向かって、懸命に、頑張っているから」


そう言われるとむず痒い。確かに懸命に頑張っている。今の学園都市をどうすればよく出来るかから世界の滅びをどうするかまで。


夢は緊張しやすく人見知りするからかいつも自信がないように思える。でも、それは最初の頃のことだ。


「夢も頑張っているさ。それはオレが認めるし、絶対にメグが認める。最初の頃よりもずっとしっかり話しているじゃないか。夢は可愛いからそういう風に努力していけば必ずいい方向に進んでいける。これは第76移動隊隊長海道周が言うから確実です」


「ありがとう。うん。だから、もう少し、頑張るから」


そう言う夢はオレを真っ直ぐ見つめていた。そして、口を開く。


「これは、“義賊”の中でも、秘密の話。でも、周君には、話しておかないと」


オレは真剣な表情で夢を見つめる。夢は必死に頑張って言葉を探している。頭の中でまだ整理がついていないのだろう。だから、こうなっている。


でも、夢は必死なのだ。それをオレが冗談のように受け取ることは出来ない。


「“義賊”の所有する、リーゼアインと、リーゼツヴァイが、離脱、しました」


「リーゼアインとリーゼツヴァイ?」


聞いたことがない名前だ。所有するということは人ではないのだろう。だけど、“義賊”にとっては大切な何かのはずだ。


オレは夢の言葉に耳を傾ける。


「“義賊”の所有する、フュリアス。真柴、悠人君の、エクスカリバーも、戦ったことのある、AEWCを身につけたAEBAのフュリアス」


AEWCやAEBAの言葉は悠人から報告が来ている。音界の技術の一つで耐性に関しては極めて高い防御力を発揮するというものだ。


そんなものがある機体なんて人界や音界を含めて一つしかない。


「あのフュリアスって親父達の機体じゃなかったんだな」


オレは呟いた瞬間、間違ったと感じた。何故なら、親父達の話は“義賊”には通していないし、何より、想定通りに事が進んだ時の切り札だからだ。


オレは夢の顔色を見る。夢は不思議そうに首を傾げていた。


「周君の、お父さんは、『赤のクリスマス』で」


やっぱり気づかれた。


オレは一瞬の逡巡の後、決意をして頷いた。


「次に話すことは、黙っていてくれないか?」


「わかり、ました」


夢が頷くのを見てオレは手短に話をする。


今回のことを。オレ達のことを。そして、親父達のことを。






「そう、だったんだ」


全てを話し終わった時、時間はかなり過ぎていた。でも、まだまだ開会式までは時間がある。


「ああ。それが今のオレ達を取り巻く状況だ。はっきり言って、オレの考えることよりも、親父達のやることの方が確率は高いかもしれない。オレだって思っているさ。自分の使用としていることが夢物語だって。でも」


「その夢物語を君は成し遂げようとしている。君の仲間も」


その言葉にオレはレヴァンティンを抜きかけた。そして、すんでのところで腕を止める。そこにいたのは軽く笑みを浮かべた相変わらずのゴスロリ服を着る正。オレは小さくため息をついてレヴァンティンの柄から手を離す。


「お前か。夢、弓を下ろせ」


オレの背中に隠れるように弓を展開する夢に向かって言う。こいつに弓は通じないと思う。夢が弓を持っていることに気づいている。


夢が弓を戻すとともに正が目にも笑みを浮かべる。


「面白い話を聞いたものだからね、思わず声をかけてしまったよ」


「ったく、一般人のお前は、この期間は学園都市に入れないはずだけどな。まあいい。で、何の用だ?」


オレは鋭く視線を正に向ける。対する正は静かに笑みを浮かべていた。


「散歩だよ。それ以上、詮索するかい?」


「する気はない。まあ、なんとなく理由はわかるけどな」


オレは小さくため息をつきながら正の気配の消し方を探る。そして、一つの納得する結論を作る。


ともかく、今は正と話しているんじゃない。オレは夢と話している。


「こいつは海道正。オレの海道家とは関係の無い人物らしい」


「正さん、ですか? 本当、ですか?」


夢が不思議そうに首をかしげる。


「周君と、同じ匂いがするのに」


「同じ匂い?」


同じシャンプーとか使っているのか?


正の顔を見るとかなり驚いたような顔になっていた。多分、同じ匂いと言われたのが気になっているのだろう。現に、驚きながらも自分の体の匂いを嗅いでいるし。


「うん。気配は違う。だけど、匂いは、同じ」


「匂いがわかっても何の意味もないだろ」


「追跡は、出来る」


「警察犬か」


オレは呆れてため息をついた。そして、正をジト目で見る。


「で。、お前はどうしてオレの体の匂いを嗅いでいるんだ?」


いつの間にか近づいてきていた正がオレの体の匂いを嗅いでいた。はっきり言うなら変態にしか見えない。しかも、正はオレの言葉に不思議そうに首をかしげている。


「僕だって女の子だよ」


「それは知っている」


「こんなに汗臭くない」


「それは知らない」


正が現れてから話が妙にこじれているような。


オレは小さくため息をついて話を続けることにした。


「正は知っている話だろ? だから、話を続けるぞ」


「そうだね。僕も知っている話だ。知らされた、ね」


なんか言い方にひっかかるけど、とりあえず、話を続けるか。


「ともかく、親父達の方が成功の可能性がある。だから、リーゼアインとリーゼツヴァイも離脱したんじゃないか?」


「言われて、みれば。“義賊”の中でも、リーゼアインと、リーゼツヴァイは、切り札。勧誘されたのも、納得できる」


「まあ、あまり支障がないのはありがたいな。もともと、リーゼアインとリーゼツヴァイは親父達のフュリアスだと思っていたし。それにしても、“義賊”がもっているなんて、“義賊”のバックには何がいるんだ?」


「知らされていない。リーダーなら、何か知っている、かも」


AEWCやAEBAとかから考えるに音界の関係者は入ってくるだろう。どちらも、音界の最先端技術だ。その技術提供は受けなかったから、音界の装備だと考えてもいい。


“義賊”のバックには大きな組織があるみたいだな。


「周君は、勘違い、していたの?」


「まあな。だから、勘違いしたまま作戦を練っていた。でも、これなら準備に時間はかからないな」


頭の中で作戦を確認するが大丈夫だ。全く問題はない。


「夢に話はわかったし、オレの話も終えた。とりあえず、心配しているであろうメグのところに戻るか」


「うん」


「そうだね」


「何故、お前も頷く」


オレは呆れたように正を見る。こいつは全く関係ないよな?


「いいじゃないか。僕だって、久しぶりに学生生活を謳歌したいのでね」


「ちゃんと、ばれないような服装って」


正は一瞬だけ目を離した隙に服装を変えていた。何故か都島学園の女子制服に。


「じゃあ、行こうか」


にっこり笑みを浮かべた正にオレは呆れたようにため息をつきながら不安そうに服を掴んでくる夢の頭を撫でるのであった。


次でようやく開会式に移れると思います。それからとても長い長い体育祭期間が始まる予定ですが。

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