第百二十話 体育祭当日
長ーい長ーい体育祭が始まります。第二章最大の山場であり、作者自身何話続くかわからない体育祭です。予定では50近くになるんじゃないかなと。ですが、予定は未定。頑張って精一杯書きます。
学校指定の体操服に袖を通す。その姿を鏡で見ているがある意味滑稽だと言うべきだろう。
服装は基本的にスーツ、違った、制服か戦闘服が儀礼服のどれかだからだ。儀礼服は基本的ではないが、遠出の任務の際には必要とする。
だからか、体操服姿というのは見ているだけで笑いが込み上げてくるのはオレだけだろうか。いや、そろそろ現れる人物が必ず、
「ぷぷっ。全く似合ってないわね」
やっぱり笑った。
「笑うな、義母さん」
義母さんがおかしそうに笑っている。確かに、この姿は全く似合っていないけど。
「周君がまさかここまで似合わないとは。写真撮るね」
「勝手にしてくれ。朝飯は?」
「作ってあるけど、由姫と一緒じゃなくていいの?」
「オレは開会式場で演説があるからな。その準備もあるし、というか、場所が場所だろ」
オレは開会式の場所を思い出して小さく溜め息をついた。想像していたのは学園都市最大のスタジアムであるSCスタジアムだったが、それが決まった瞬間に完全に唖然とした。
そのおかげで開会式場を決めた体育祭実行委員は先生など大人からの非難が一時期はすごかったらしい。だけど、それら全てを委員長が跳ね退けた。
「まあね。反対、だけど、由姫や音姫、それに、周君や学生が決めたなら私達は何も言わないから」
「ありがたいな。まあ、オレだって賛成と反対の半々だ。でも、スタジアムで行えば学校代表は集合だからな。それをするくらいなら、第一日目第一種目会場でやるのは妥当だ」
「すぐに出来るしね。あっ、時間は大丈夫?」
オレは時計を確認する。まだまだ開会式までは大丈夫だが、悠人から早々に呼ばれているためすぐに向かわないといけない。
「すぐに朝ご飯にするよ。開会式は中継があるから、暇なら見てくれ」
リュミエール内部。体育祭期間中は食材や生活必需品などのものがある一階と二階のみを通常営業としている。
では、三階より上はどうなっているのか。
それはたくさんの筐体、FBSの筐体がたくさん置かれている。その数は軽く500の数字に到達するだろう。
体育祭の中で最も異色の競技。それがFBSだ。反対もかなりの数があったが、フュリアスに関しては世界中で需要が増しており、メイドインジャパンの第一号も近々発表されるからか日本政府から関心を高めるためにやって欲しいという要望すらあった。
これらの筐体は首都圏から集められたもので、苦情が殺到しているらしいが、オープニングセレモニーがあると知ればみな不満ながらも納得してくれたらしい。
まあ、そのオープニングセレモニーがかなり凄まじいことになっているけど。
そんなリュミエール内部にオレはいた。正確にはFBSのプログラムをいじっている。
「反応値は十分です。動きも再現出来ています。さすがに、リアクティブアーマーは再現出来ていませんけど」
「リアクティブアーマーを再現出来たら負けない機体になるからな」
オレは小さく溜め息をつきながらいじっていたプログラムを完成させて保存する。
悠人はFBSの筐体の一つから出た。
「まさか、オープニングセレモニーがあんなことになるなんてね。周さんは想像出来た?」
「出来ると思うか? オープニングセレモニーに関しては向こうから打診してきたからな。日本政府が真っ先に飛びついて、学園自治政府及び体育祭実行委員も頷いた」
おかげでこんな朝早くから最終調整に入っているけど。
「『GF』も第76移動隊が本戦中以外は全体指揮だし、第5分隊は十分に本戦中も手が空くから日程的に大丈夫。最悪の場合を除いて、問題はない」
「最悪の場合か。周さん、周さんが考えた布陣、あるよね。どうしてダークエルフがあの場所なの? エスペランサとは」
「悠人、ストップ。それ以上は機密だ。まあ、当たればいいし、当たらなくても待機しているだけで大丈夫。それに、ダークエルフなら誰に乗られても無理だろ」
「そうですけど」
悠人はそう言いながら自分の首に身に付けたリングに手をやる。最新型の精神感応システムで量産化までこぎつけた一品だ。ただ、使える機会は少ないが。
ダークエルフは悠人の精神感応でのみ機能する。だから、誰かにパスワードを破られて乗られることはない。
「オレの推測が正しいなら、オレが推測した範囲内での動きになるはずだ。それからは現場が頑張る」
「そうですね。起こって欲しくありませんし、楽しんでもらいたいから」
「そうだな。だから、まずはオープニングセレモニー用に準備しないとな。最終調整にいくぞ」
「はい」
悠人が筐体の前に座る。そして、調整している最中の機体を選択し一人プレイに興じる。
周囲の筐体にはFBSを慣らすために何十人と開会式はまだまだなのに筐体の前に座っている。もちろん、偵察している人もいるので百人単位になっているが。
「周さん、人払いは」
「それはオープニングセレモニー用だろ。本戦だとエクスカリバー使うくせに」
「そうですけど、明らかにおかしいじゃないですか」
そう言いながら悠人はレバーやペダルを目まぐるしく動かす。それを見ている限り、あらゆる動きは完全な許容範囲内だ。
というか、ほんの僅かな癖も残らず再現しているのに悠人はそれすらないかのように見事なコンボを決めている。
普通、フュリアスで背負い投げは無しだろ。背負い投げからのジャイアントスイングって普通は不可能だろう。
相変わらず、フュリアスに関することに関してはありえないくらいに技術が高い。
「どうだ?」
「やっぱり、精神感応で動かす以上、違和感がありますね」
その違和感が見ている以上、全く違和感の無い動きなんだがな。
オレはFBSは得意ではないが、中級者という実力はある。それでも戦えば完封されるだろう。
「でも、大丈夫です。コストの関係上、これぐらいが妥当じゃないかなと」
「まあ、そうだろうな。さて、プログラミングをFBSの開発者達に」
「おっ、周じゃねぇか。こんな朝っぱらからどうした?」
その声にオレが振り返ると、そこには健さんに真人。そして、メグに夢の四人の姿があった。メグと夢は体操服ではなく制服姿だ。
開会式の参加ではなく応援に来たのだろう。というか、FBSを体操服でやるのは違和感が強い。
「これでも学園都市『GF』代表なんでね、開会式の仕事があるんだよ」
「なるほどね。真柴先輩は、エクスカリバーじゃなくてダークエルフを使っているのか?」
悠人が使っている機体はエクスカリバーではなくダークエルフ。新しく調整されたダークエルフを使用している。
「そんなポンコツを使うのかよ」
「ポンコツって言わない方がいいよ。ダークエルフはコスト1000の中でも強機体なんだから。アーマー着けているからライフも高いし、FBDシステムを使えばコスト2500以上の近接格闘が出来るし」
「FBDシステム使えば当たれば即死になるじゃねぇか。まあ、真柴先輩が使うなら何かの考えがあるってことだろうな。真人、俺達も特訓だ!」
「そうだね」
健さんと真人の二人が近くの筐体に向かう。すると、位置が替わるようにメグと夢の二人が近づいてきた。
「私は夢の付き添い。夢が周に話したいことがあるって」
「ごめん、なさい。本当は、忙しい、よね」
「いや、大丈夫だ。このデータをFBSの調整係に渡せば開会式が近くなるまで時間はある。そうだな。四階の中央ベンチに五分後集合で。出来れば、夢一人で」
オレはそう言いながらメグを見る。メグはわかっているというように頷いた。
「私はちゃんと話を聞いているから。私はあのベンチに座っているね。夢、一人で大丈夫?」
「大丈夫。ちゃんと、話すよ」
「そっか。頑張ってね」
メグが手を振りながら指差したベンチに向かう。
オレはそれを視界の隅に捉えて記憶媒体を夢に見せた。
「じゃ、オレも出してくる。だから、また」
「うん。また」
夢が歩き出す。それを見ながらオレも反対方向に歩き出した。
夢の話はおそらく“義賊”に関すること。
オレはそう頭の中で断言しながら考えを巡らせつつ目的地に向かって歩き出した。