第百十九話 羽休めの時間
体育祭期間中で活躍の場が少ない面々を書きました。つまり、体育祭期間中はあまり出ない予定です。悠人、音姫、アル・アジフを除きますが。
煌めく白銀の刃を迎え撃つのは漆黒の刃。それを補助するかのように輝く鋭い糸が白銀の刃を握る音姫に襲いかかる。
しかし、音姫はその糸を軽やかに避けながらその手にある光輝の刃は漆黒の刃を握る孝治に襲いかかる。
それを孝治は受け流し、後ろに下がった。
「今のでもダメなんだ」
七葉が槍を持ちながら落胆の息を吐く。その横では琴美が肩で息をしていた。
「孝治くんの動きはいいよ。でもね、急増のチームだと孝治くんの動きを生かせていないよ」
「そもそも、俺以外の二人は臨時戦闘員だ」
孝治が小さく溜め息をついて運命の刃を鞘に収める。そして、そのまま腰を落とした。その体勢はまるで白百合流の構え方。
それを見た音姫がピクリと動き、孝治は地面を蹴った。
運命の柄を握りしめ、その柄を真っ正面にいる音姫に向かって地面と並行に抜く。
だが、運命だけでなく、光輝やレヴァンティンも同様に真っ正面に向かって地面と並行に抜くには長すぎる。だから、普通は出来ない。
だけど、孝治はそのまま最大限まで運命を抜いた。
「牙狼砲!」
孝治の気合いと共に漆黒の狼の頭部が音姫に向かって襲いかかった。口を開き、鋭い牙を音姫に向けている。
音姫はすかさず後ろに下がろうとして、背後から何かが迫っているのがわかった。感覚からして七葉か琴美どちらかの頸線。
音姫は牙狼砲を避けるために身をひねりながら背後に向かって光輝を振る。だが、光輝はまるでネットのように展開された頸線によって絡め捕られた。
「えっ?」
驚きながらも音姫の体は動いている。光輝を手放して距離を取ろうとして、
「終わりだ」
孝治の運命が首筋に当てられていた。
「もしかして、最初から狙っていた?」
「ああ。即席チームで勝てるほど音姫さんは弱くない。狙うなら音姫さんの隙をつくしかない」
「確かに、初めて見た技に驚かせて背後から頸線で狙う。私は技を回避しながら頸線を弾こうとするけど、頸線は攻撃ではなく吸収用の頸線。うん、私も気持ちよくはめられたな」
そう言いながら音姫が両手を上げた瞬間、周囲にいた観客から歓声が起きた。そう、観客から。
歓声を上げる観客を見ながら七葉が恥ずかしそうに頬をかく。
「かず君がいなくてよかった」
「あなた達のバカップルぷりはやばいわよね。学園都市一有名なバカップル」
「そんなこと・・・・・・・・・・・・ないと思う」
「今の間は何?」
琴美が呆れたように七葉を見ると七葉は思いっきり視線を逸らした。
「今日はこれくらいにしようか。第5分隊のみんなの動きも見れたし、それに、明日から体育祭だし」
その言葉に孝治が引き抜いていた運命を鞘に収める。音姫と孝治の二人は全く息が切れていない。しかも、まだまだ余裕があるようにも思える。
それを見ながら七葉が口を開いた。
「二人はなんでそんなに体力があるのかな?」
その音場と共に七葉の視線が移り、その視線の先は地面に座っているエレノア達に向いた。
今日、この訓練に参加しているのは音姫、孝治、七葉、琴美以外にエレノア、ベリエ、アリエ、の七人だが、ひたすら音姫VS孝治+誰か二人の模擬戦を延々と朝から休憩しつつやっていたのだ。
もちろん、消費した水の量は言わずもがな。
「これくらい普通だよね」
「ああ」
「絶対普通じゃないから。フルマラソンを余裕で完走できるんじゃないかな?」
七葉が呆れたように言うと音姫は不思議そうに首を傾げた。
「それくらい小走りで出来るけど」
「そんな解答誰も求めていないから」
琴美が呆れたようにため息をつく。それを見ながらベリエが大きく息を吐いた。
「音姫は相変わらずむちゃくちゃよ。周みたいな体力バカだし由姫みたいに疲れを知らないし」
「ベリエちゃん、そんなことを言ったらダメだよぅ」
「いいじゃない、別に。魔界と違って日本じゃ言論の自由、ひゃわ」
呆れたように言っていたベリエの背後から音姫が抱きついた。正確には、抱き締めて持ち上げたというべきか。
音姫は時々可愛い女の子を抱き締めるという癖がある。これもその癖だ。
「ベリエちゃんはもっと強くなりたいんだよね? 弟くんにライバル宣言したから」
「そんなんじゃないから。離せー!」
音姫の腕の中で暴れまわるベリエを観客達は暖かい目で笑いながら見ている。でも、それは長く続かなかった。
エレノアが杖を突き出して軽く音姫の手を叩くと拘束が緩み、その間に逃げ出したベリエがまるで警戒する猫のように距離を取った。
「そろそろ私の可愛い妹達を離してくれないとね?」
エレノアの表情は笑っている。笑ってはいるが、目は全く笑っていない。対する音姫も笑っている。もちろん、目は全く笑っていない。
「可愛いものを独占するのはよくないものだよね?」
音姫の言葉にエレノアが笑みだけをさらに深くする。音姫も笑みだけをさらに深くする。
そして、二人は同時に距離を取った。
「光り輝け、光輝!」
「炎よ集え!」
そんな二人を見た孝治は小さく溜め息をつく。
「ベリエ、アリエ」
「結界、展開するわよ」
「はーい」
漆黒のフュリアスが野を駆ける。その感触を感じながら対艦剣を握るソードウルフとイグジストアストラルを視界に捉えていた。
対艦剣はエネルギー供給のないただの鈍器だとは言え、フュリアスが、リリーナ専用機であるソードウルフW3である以上、一撃で大破する可能性だってある。
イグジストアストラルはエネルギーライフルを持っているけど、今の装甲には全く意味がない。
イグジストアストラルがすぐさまこちらにエネルギー弾を放ってくる。僕はそれを避ける動作なく真っ正面から突っ込んだ。
軽い衝撃。
それと同時にエネルギー弾が漆黒の装甲に弾かれる。それと同時に僕は対艦剣を取り出してソードウルフに斬りかかった。
ソードウルフが対艦剣で対艦剣を受け止める。
『それがリアクティブアーマー?』
「そうだよ。慧海さんや時雨さん達、『GF』の技術部が総戦力で作り上げた」
対艦剣を軽く引く。それと同時にソードウルフが微かに前に出た。その瞬間、僕はソードウルフの懐に潜り込み背負い投げていた。
その動きは周が得意とするもので、ショートレンジの対応が極めて難しいフュリアスには効果抜群だった。
ソードウルフを地面に転がしながら、向かってきた嫌な予感に向け正面を向きながら両手をクロスする。そこに飛んできた長距離射撃パック『ラフレシア』についている射撃砲の大きなエネルギー弾が直撃した。
大きな衝撃と共にエネルギー弾が弾ける。それと同時に視界の隅でイグジストアストラルが全ての砲を向けるのがわかった。そして、全ての砲が火を噴く。
断続的に続く衝撃。それを受けながら僕は四肢に力を入れて耐えきった。
イグジストアストラルの砲が動きを止める。それと同時に僕はリアクティブアーマーの耐久を確認するために頭の中で画面を操作した。
精神感応によって操作された画面に映るリアクティブアーマーの残り耐久値。それは全ての観測点がほぼ100の数字を表していた。
「アル・アジフさん、耐久テストと運動性テストを終わったよ」
『こちらもモニターで確認しておった。それにしても、アルケミストとは何とも座り心地の悪い機体じゃな』
その言葉に僕は苦笑してしまう。確かに、マテリアルライザーと比べれば全ての機体の座り心地は悪いだろう。この機体ならそれ以上だと思う。
『運動性は大丈夫じゃな。一本背負い、周がよくやる技からの繋ぎはフュリアス戦ではかなりのアドバンテージじゃぞ』
「マテリアルライザー以外のね」
マテリアルライザーの柔軟性は文字通り桁が違う。一度、周さんの乗るマテリアルライザーに対して同じように懐に潜り込んだけど、その体勢から簡単に巴投げされたから。
『リアクティブアーマーの耐久性はどうじゃ?』
「完璧かな。でも、このリアクティブアーマーはすごいよね」
『装甲に常にエネルギーを循環させておるからの。値段だけで言えばエクスカリバーとソードウルフの二機をフル装備で買えるぞ』
「装着出来るのは僕のダークエルフだけだと思うけど」
そう言いながら僕はコクピットを開けた。パワードスーツを拘束していた器具が外れ、ダークエルフのコクピットから僕は出る。
新たに生まれ変わったダークエルフ。ほぼ全面改修でコクピットやパワードスーツすらも新しくなったダークエルフはショートレンジに関してはエクスカリバーを遥かに超える機動性を得た。その代わり、遠距離戦には弱いものの、全てのリアクティブアーマー内にある出力エンジンの全てを直結して放つバスターマグナムの威力は桁が違うが。
「これなら、勝てます。あの白銀のコートを着たフュリアスに」
新しいダークエルフにもFBDシステムはあります。