第百十八話 増援
いろいろと忙しくてなかなか更新出来ませんでした。明後日くらいからは普通に作っていく予定です。
「第一特務特命部隊部隊員アルト・シュヴッサー、今日より第76移動隊を援護するために着任しました」
「同じく第一特務特命部隊リコ・エンターク、着任しました」
そんな二人の顔を見ながらオレは小さく溜め息をついた。
「お前らか」
「こういう場合は知己がいた方が進みやすいものだよ。それに、防衛に関しては僕の右に出るものはいないしね」
「あたしはただ単に志願しただけ。亜紗と久しぶりに会うしね」
よく考えてみるとそうだ。亜紗とリコの二人は少し前までお互いの住所を行ったり来たりしていた。でも、最近はそんな様子はない。
だから、リコは学園都市の『GF』代表でもある第76移動隊の援助部隊として志願したのだろう。
「アルト。お前はエクシダ・フバルの護衛を直接やった方がいいだろうが」
「大丈夫だよ。エクシダ・フバル氏にはギルバート副隊長がついているからね。だったら、僕は第76移動隊と一緒にいる方がいい」
「対処出来ない可能性もあるだろうが。まあ、アルトが来るなら好都合か。先に言っておく。オレ達は人員交代が激しいからお前ら二人は常にエクシダ・フバルに縛りつく部隊に入れるから」
リコは防御よりも攻撃だが、アルトは防御にかなり特化している。だから、アルトはエクシダ・フバルと一緒においた方がいい。
二人に言ったように、オレ達は学園都市の学生だ。だから、競技にも参加するしクラスの行動にも参加する。上手く時間調整はしたので指揮官役と隊員は確保出来た。
学生じゃない面々はかなり入っているけど。
「僕は体育祭を見に来たというのに。特に、由姫の活躍を」
「あのな、お前は何のために学園都市に来たんだ?」
「遊ぶためだよ」
「あたしは別に平気かな。亜紗とは重なるよね?」
その質問にオレはスケジュールを思い出す。リコは亜紗と重なるように休憩にやる予定だから大丈夫た。
オレは小さく頷いた。
「ちゃんと休憩を重ねてる。時間は二時間ほどだな」
「周ちゃん、ありがとう!」
「失礼します」
満面の笑みを浮かべるリコの後方のドアが開き、そこから俊也が姿を現した。その手には資料の束がある。
おそらく、紅から様々な資料の提出をお願いされたのだろう。部隊内で俊也は狙われているらしいし。性的な意味で。
俊也の声にアルトとリコが振り返る。
「君は?」
「第十三学園都市地域部隊所属の名山俊也です」
「僕は第一特務所属アルト・シュヴッサー。彼女が同じ第一特務所属リコ・エンタークだよ」
アルトの紹介に俊也が目を丸くした。アルトもリコもいろいろな意味で有名だからな。特に、由姫と繰り広げられたルーチェ・ディエバイトの決勝は未だに語り継がれている。
力と力、技と技、速度と速度のぶつかり合い。今戦ったならもっといい勝負をするだろうな。
「俊也、何か用か?」
「あ、はい。隊長からルートの最終確認と、僕の召喚許可証を」
俊也が二人の横を抜けてオレに書類を渡しに来る。オレはそれを受け取って中を確認した。
内容の趣旨は俊也が言った内容ではあるが、一つだけ違うものがある。
「俊也はこの書類に目を通したのか?」
「いいえ。僕は中身を見ないように隊長から言われていたので」
「そっか。第十三学園都市地域部隊所属名山俊也は本日から体育祭終了三日後まで第76移動隊の警備に参加させる。この時の指揮権は第76移動隊に移譲する、だとさ」
書類の中身を言いながらオレは俊也に書類を渡した。当の本人は目を見開いて驚いている。
俊也が入ってくるのはありがたいけど、都島学園じゃないから日程を合わせにくいんだよな。ただ、手数が増えるのはありがたい。
俊也の精霊召喚師としての実力は世界トップクラス。精霊との絆も良好で悠聖とのコンビネーションは極めて強い。
「いきなりすぎて、反応に困っているのですけど」
「だろうな。つか、普通、この時期に俊也を出すか? 第十三学園都市地域部隊にとっても俊也は貴重な戦力だろうに」
おそらく、オレと由姫が高校に入ったからだろう。
「つまり、体育祭期間中は僕と同僚というわけか。君の名前はよく悠聖から聞いているよ、名山俊也君。悠聖の次に強い精霊召喚師だとね」
「えっ? ぼ、僕はそんな実力はありません。お師匠様の誇大評価」
「んなわけねえよ。周隊長、今帰ったって、アルトにリコじゃん。援助部隊?」
俊也の声を遮るように悠聖と、その後ろから緊張した面持ちの委員長の姿があった。本当なら委員長がアルト達と最初に会うはずだったけど、体育祭が近いからか今日は遅かった。
ちなみに、今は夕方の五時前だ。アルト達が早いというのもあるけど。
「そうだ。委員長、理由は?」
「体育祭の用事が長引いて。すぐに受付に」
「委員長は俊也の書類を俊也と共に頼むな」
オレは走り寄ってきた委員長に書類を渡す。委員長はすぐに書類の中身を見ながら自分の机に向かう。
それを俊也が追いかけていった。
「周隊長。俊也のやつ、どうかしたのか?」
「体育祭期間中はオレ達と行動を共にするんだ。アルトやリコもな」
「俊也、リコはわかるけど、どうしてアルトも?」
どうやら悠聖も同じ考えらしい。アルトはおどけるように肩をすくめた。
そこはギルバートさんの管轄だからよくわからないが、もしかしたら、時雨が指示したかもしれないな。アルトを第76移動隊に置く意味は一応考えられるし。
「僕は周や悠聖達と共に働きたいからね。でも、僕は希望しただけでここに配属したのは」
「ギルバートさんの考えだろ。おそらく、時雨が何か言っただろうな。エクシダ・フバルを守る戦力は第一特務と第76移動隊で足りているから」
「そうかな? 僕は、最近、学園都市を騒がしている『悪夢の正夢』がアクションを起こす可能性があるよ」
なかなか鋭いな。さすがは第一特務というべきか。
リコもわかっていたのかすでに話を合わせていたのかわからないが、顔はあまり変わっていない。
オレは言うか言わないか一瞬だけ迷った。そして、二人を手招きする。
「デバイスを出せるか? 今からレヴァンティンから『悪夢の正夢』についての情報を送る。これに関しては箝口令だ。誰にも言うな。そして、すぐに消去すること。消去したらレヴァンティンで痕跡を跡形もなく消し去るから」
「周ちゃんがそこまで言うってことは『悪夢の正夢』が誰かわかっているんだね」
「ああ。だからだ」
アルトとリコの二人がデバイスを取り出した。オレはそれにレヴァンティンを当てる。
レヴァンティンはワンテンポ置いて情報を送る。ちなみに、このワンテンポはレヴァンティンがウイルスを仕掛けるためのワンテンポだ。
このウイルスがある以上、デバイスの持ち主が正式にデータの転送をしない限り、あらゆるデータを破壊するというかなり便利なデータウイルスだ。
レヴァンティンしか作れないけど。
レヴァンティンが送った情報を見た二人の顔が驚愕に染まる。そして、オレの顔を見た。
「周、これは」
「他言無用だ。このことは広まるまで墓場にまで持って行くこと。諸刃の剣にはなるけど、最大の一撃を与えれるかもしれない」
「そこまで言うからには何か策がありそうだね。わかった。僕は語らない」
「あたしも。でも、どうして、という疑問は残るけど」
アルトもリコも世界の滅びについては知らないだろう。でも、それは言わない方がいい。
「『悪夢の正夢』達は体育祭期間中に何らかのアクションを起こすはずだ。その時に捕まえればいい。そして、その時に理由を聞けばいい。オレ達の手で」
次回は第二章になってからあまり出ていない面々を出す予定です。