幕間 新兵器
エクスカリバーを滑走路に着陸させる。エスペランサの甲板より遥かに広いから人型で着地してから戦闘機に戻す作業をしなくてもいいのがありがたい。
ブレーキをかけながら滑走路の奥に見えるフュリアス専用格納庫を見つめる。
あそこにはルーイのアストラルソティスやリマのアストラルブレイズ。そして、リマの最新型量産機サーペンテインがある。
そう、僕は今、音界に来ていた。
「音界に生きたいじゃと?」
僕の言葉を聞いたアル・アジフさんは小さく溜め息をついた。それは、全ての話を一つに統合し、それから自由行動になった時だ。
僕は今のままじゃ純白のコートを着たフュリアスと勝負出来ないと思い、音界に行っていいか尋ねたのだ。
「うん。エネルギー系統が効かない純白のコートは厄介だから、音界の最新技術を借りようかなって」
「シールドブレイカーか? あれはまだ試作品の段階じゃぞ」
「試作品なのは実戦で使う機会が少ないから。だったら、僕がそのテストをすればいいし」
「そうじゃな。まあ、音界なら大丈夫じゃろう。ちゃんとメリルに連絡するのじゃぞ。国際問題に発展したならそなたが脱走したと言うぞ」
「ちゃんとします」
とりあえず、L装備を付けている間にメリル達に連絡しよう。
「ようこそ、音界に。悠人は三回目だな」
エクスカリバーから降りた僕をルーイとリマ、ルナが出迎えてくれた。
僕はルーイが差し出した腕を握り返す。
「そうだね。前回はリマとルナには出会わなかったけど、元気そうだね」
「当たり前よ。私なんて元気だけが取り柄なんだから」
「ルナ、本当は悠人君が来るのを心待ちにしていましたよね?」
リマの言葉にルナが顔を真っ赤に染めて、僕に向かって拳を放ってきた。殺す気がないのは確かだと思うけど、避けるのはかなり難しい。
僕は頑張って顔を逸らしたけど頬をかすった。
「してない。してないんだからね! 悠人! 勘違いしたならあんたを記憶が無くなるまで殴り回す」
「記憶どころか命まで飛びそうだよね!? それより、急に押しかけて三人ともごめんなさい」
「気にするな。僕もリマもルナもちょうど休みの日だったからな。お前が来るなら大丈夫。それより、メリルから案件は預かっているよ。シールドブレイカーの製品を使いたいらしいな」
その言葉に僕は頷いた。音界に来た理由がそのシールドブレイカーだからだ。
すると、ルナが不思議そうに首を傾げた。
「悠人、シールドブレイカーを使って何かするの?」
「AEWCとAEBAの機体を相手にするためだよ」
人界でAEWCとかAEBAと言っても通じない。何故なら、AEWCとAEBAは音界の技術だからだ。
AEWCはAntiEnergyWhiteCoatの略称で純白のコートの正式名称だ。エネルギー系統が効かない以上、AEWCと考えておかないといけない。
AEBAは上の黒い装甲バージョン。ただし、この二つには大きな違いがある。
AEWCはエネルギー弾に対して無敵だけど、対艦刀や対艦剣のような斬撃にエネルギーを使うものに効果はない。対するAEBAはAEWCとは真逆で斬撃にエネルギーを使うものに無敵でエネルギー弾には弱い。
AEWCを使っている以上、AEBAも使っていると仮定しておいた方がいい。
「納得しました。確かに、AEWCとAEBAはこちらでもかなり厄介なものですし。簡単に倒せるのはルーイくらいじゃないですか?」
「アストラルソティスにそんな武装あったの?」
「いや、アストラルソティスじゃなくて、見た方がいいな」
ルーイが格納庫に向かって歩き出す。僕はそれを追いかけて歩いた。格納庫の中はたった三機のフュリアスしかない。アストラルソティス、アストラルブレイズに、見たことのない機体。
アストラルシリーズではあるけど、アストラルブレイズやアストラルソティスみたいに背中のスラスター付きの翼が横に広がっているのではなく、上手く畳まれて縦になっている。だから、格納スペースが小さい。
「僕の新たな機体、アストラルルーラだ。最新のリアクターを三機配備して悠遠の翼の性能を最大限にまで高めた機体。背中の収納された翼は飛翔中に開かれる。最大エネルギーとコンパクトに出来たことから大型の対艦剣と対艦砲を同時に運用出来る仕組みになってる」
「むちゃくちゃじゃないかな?」
対艦剣と対艦砲の同時運用なんて不可能だとは思う。だけど、それを可能とするくらいにエネルギーが高いというのはかなり驚く。
「アストラルルーラの通常装備。それを使えば悠人もAEWC対策は出来るはずだ」
そう言いながらルーイがアストラルルーラのスペック表を渡してくる。確かにスペックは高い。だけど、その装備の中にかなり気になるものがあった。
アストラルシリーズには似つかわしくない装備。
「僕も疑問に思う。メリルに聞いてみたら、これはメリルが設計した機体らしいんだ。困っている人を助ける力。だから、その装備が付けられている」
「そっか。だからこんな装備なんだ。災害救助用の試作機」
アストラルシリーズという音界最高峰の機体でありながら、そのコンセプトは災害時に使用出来る機体。
だから、腰の装備や足の装備に腕の装備がああなっているんだ。技術部の人達が必死に戦闘に使えるように改良したものが。
「アストラルルーラをそのまま持って帰りたいな」
「駄目だ。アストラルルーラは僕専用の機体だからな」
「えっ? 量産されてないの?」
アストラルシリーズは常に量産されているはずなのに。実際、アストラルブレイズは指揮官機として活躍しているし、アストラルソティスは上級士官機となっている。
アストラルルーラもそうだと思っていたのに。
「アストラルルーラはメリルが守るために作り出した機体。技術部も軍部も民衆もたった一機だけ、歌姫の騎士に与えようと一致したんだ」
歌姫の騎士。つまり、ルーイに。ルーイならメリルの思いを間違えることなくアストラルルーラを扱うだろう。
僕は納得したように頷いた。
「ルーイ。このスペック表をコピーさせてもらっていいかな? 参考に出来る」
「いいけど、どうするんだ? エクスカリバーに装備出来るようなものじゃないだろ?」
「うん。でも、僕のフュリアスはエクスカリバーだけじゃないよ」
その言葉にルナを除く二人の顔が引きつるのがわかった。
僕が乗った僕専用の機体は二機だけ。そう、二機だけ。
「祭りを彩るには十分な性能になっているよ」
その言葉に僕は笑みを加えた。
悠人のもう一つの機体は骨董品の分類です。