第百十一話 脱出
レヴァンティンがエンペラーの装甲の隙間に突き刺さり装甲を無理矢理剥す。そして、その装甲の隙間に亜紗が七天失星を突き刺した。すぐさま沈黙するエンペラー。
近くでは正が一人でエンペラーを片付けている。倒し方はオレらと同じだ。だから、倒す速度は若干ながらオレ達の方が早い。
「それにしても、何でこんなにエンペラーが湧いているんだ?」
『わからないけど、大事なものを盗られたから?』
亜紗がスケッチブックを取り出しながら首を傾げる。まあ、考えられる候補と言えばそうなるだろうな。隼丸はレヴァンティンが言うようなものだとするなら本当に大事なものだ。それを守るものがいても何ら不思議ではない。
オレは実体剣を振りかぶってくるエンペラーの腹を蹴り飛ばし、ちょうど脇の部分にレヴァンティンを突き刺してさらに内部に食い込ます。その部分から火花が飛び散り、エンペラーの動きが停止した。
「レヴァンティン、エンペラーって大量生産できたのか? イグジストアストラルの余ったパーツを使用したんだよな?」
『そうですよ。ただ、その余ったパーツがかなり膨大でしたからね。イグジストアストラル専用のオプション装備がいくつも開発され、実際に使用される一つを除いて全てがエンペラーの素材になりましたから』
「もう一機イグジストアストラルを作れよ」
時間がなかったのだろうか。
『マスターは馬鹿ですね。イグジストアストラルの動力源を考えてくださいよ』
オレはイグジストアストラルの動力源を思い出す。とは言っても、イグジストアストラルのデータから推測しなければいけないが、今の出力装置と同じで魔力粒子を吸い込むことでエネルギーとするものだ。ただ、そのキャパシティが大きいからかエネルギー量は極めて大きい。
とは言っても、イグジストアストラルのエネルギー消費も大きいから、満タンでも一日動けば空になる。
『底がついて動かないイグジストアストラルなんてただの棺桶ですよ。それに、イグジストアストラルには弱点大きな弱点があります』
「衝撃に弱いところか?」
魔鉄には衝撃を吸収する能力があり、その魔鉄を使用するフュリアスの大半は衝撃にも強い。魔術には脆いが。ただ、イグジストアストラルの装甲は硬すぎるからか衝撃を吸収する能力が低い。そのために、衝撃によって中のパイロットである鈴が模擬戦中に何回か気絶したことがあるのだ。
『そうです。その当時も大型の敵がいました。エンペラーを作るよりもイグジストアストラル二号機を作った方がいいのではないかという声もありましたよ。でも、それは却下されています。当り前ですよね。パイロットが気絶したフュリアスなんて使い物になりません。イグジストアストラル以外では強制的にコクピットを開けば事は足りますが、イグジストアストラルではそう言う風に行くわけがなく、気絶したなら起きるまでどうしようもないのです』
「なるほどな。大量生産できた理由はわかったけど、装甲脆すぎだろ」
オレはエンペラーを見下ろしながら呟いた。
確かに、エンペラーは真正面から戦えばまずは勝てないだろう。装甲がイグジストアストラルと同じなのだから。でも、装甲の継ぎ目は極めてゆるく、継ぎ目が存在しない、又は継ぎ目の奥の装甲も同じで突き破れないイグジストアストラルと違って戦いながらの装甲を剥すことは難しくない。
ついでに言うなら中の装甲はただの魔鉄のようで硬いが簡単に貫くことが出来る。
『脆すぎていいと思うけど。矛神にも使用制限があるし』
「彼女の言うとおりだよ。装甲がイグジストアストラルと同じなら、僕達はすでにやられている。さすがに、この材質で精密部品を作る技術は無かったみたいだね」
正が手に持つどこかの高級な材質を利用した剣を用いてエンペラーにトドメを刺した。正の戦い方はどこか白百合流に通じるものがある。でも、白百合流を習えるのは白百合家の関係者だけ。海道家なのに白百合流を使えるなんてな。
やっぱり、正の存在をキーとすべきか。
「うん? 周、僕の顔に何かついているのかい?」
「いや、戦い方に驚いていたからな。白百合流か?」
「そうだね。僕の戦い方は白百合流を元にしたものが多いよ。教えてくれた人は秘密だけど」
「まあ、オレだって本家の方に報告しようとは思っていないし、かなり我流が入っているみたいだから」
『周さんの戦い方に似ているよ』
その言葉にオレは一瞬キョトンとして、納得したように頷いた。正もオレと同じように古今東西ありとあらゆる剣技を探し求めて習っているのだろう。だからこそ、オレとよく似た戦い方だと亜紗が評価したのだ。
オレの戦い方も白百合流が基本だしな。
「確かにそうだね。君に似ているかもしれない」
「ちょっとは嬉しいかな」
その言葉に亜紗が微かに目を細めた。オレは選択肢を間違えたと一歩後ずさる。
「それは僕に好意を寄せているという解釈でいいかな?」
『周さん、どういうこと?』
正は楽しそうに笑っているし、亜紗は全身からどす黒いオーラを出しているような。
オレは半笑いになりながら二人に背中を向けた。
「とりあえず、脱出するぞ。エンペラーの群れに襲われたら対処しづらいだろ?」
「それもそうだね」
正がくすくす笑いながらオレの横にならんでくる。
「で、実際はどうなんだい?」
「ノーコメントで」
こんな回答をすれば答えを言っているようなものだが、あまりの恥ずかしさにこう言う回答をするしかできない。
その言葉を聞いた正は本当に楽しそうにくすくす笑う。
「君が望むなら、僕もやぶさかではないけどね」
「えっ?」
その言葉に驚いてオレが足を止めた瞬間、オレの背中は亜紗によって蹴り飛ばされていた。
「急に何をする!?」
オレは振り返りながら亜紗に言うが、亜紗がかなり怒った顔で、全身から黒いオーラを撒き散らしながら、スケッチブックを握るつぶすかのように握り締めてオレを睨みつけている。
そのスケッチブックに書かれた文字は一言。
『変態』
「オレは変態じゃねえ!!」
普通、気のある女の子にそんなことを言われたら誰だってそう言う反応するだろうが! オレだって一応は18歳なんだぞ!!
もちろん、こんなことは心の中の叫ぶだけで亜紗には聞こえないように言っている。もちろん、レヴァンティンにも。こんなことを知られたら怒るを超越して何か来るような気もするから。
「冗談だよ冗談。周だけじゃなく君も落ち着いて。確かに周は魅力的な男の子だよ。かっこいいし、可愛いし。でも、僕は今やるべきことがあるからね。今は興味はないよ」
「そ、そうか」
そう言われるとオレも少し落胆してしまう。正って亜紗や由姫達に負けず劣らず可愛いから。
『周さんがそんなことするわけないよね。周さんってジゴロだけど』
「それには賛成しておくよ。きっと、周にはファンクラブがあるんじゃないかな? 学園都市に」
「それなら、亜紗や由姫達が率先して作った。オレの好きな人を牽制するためらしい」
相変わらず、オレに対する行動力が半端ない奴らだ。
オレは小さくため息をつきながら前を見た。そこにあるのは地上の光。どうやら、ようやく脱出出来るみたいだ。
入った時はレヴァンティンに急かされるように最速で走り抜けたから、ゆっくり帰ってきた時はかなりの距離があるように思えた。
「ここまでだね。じゃ、僕は先に一足先に消えるとするよ」
「一足先にって、もう少し聞きたいことが」
オレがそう言って振り向いた瞬間、そこに正の姿はなかった。かわりに、かなり驚いている亜紗の姿がある。大事なスケッチブックを落とすくらいに。
亜紗はスケッチブックを拾い上げ、ページを捲った。
『剣を取り出したと思えば姿を消した』
亜紗の動体視力は第76移動隊でもトップクラス。世界でも二桁に入るかもしれない。それくらいなのだが、亜紗ですら見えなかったということは別の移動手段か。
「そうか。まあ、残念だが、とりあえず脱出に」
『残念?』
スケッチブックに書かれた文字を見た瞬間、オレの背筋が凍るのがわかった。亜紗は、完全にキレている。
『説明、お願いできる?』
「出来れば夜にお願いします」
オレはただその場に土下座をするしか手段がなかった。