第百十話 あの日のフュリアス
この話で狭間市での戦いは区切りを迎えます。
僕は小さく息を吐いて周囲を見渡す。
「それって、本当?」
エイクスカリバーのつま先に座りながら僕はアル・アジフさんの話を聞いていた。
その話を聞き終わってから僕は思わず尋ねていた。それはあまりにも唐突の話で信じられない話だったから。
「信じられない話だとは思うが、事実じゃ。シリーズと呼ばれる生体兵器。それが我らに襲いかかってきた」
「生体兵器ですか。でも、どうしてですか? 生体兵器は兄さんと亜紗さんにアル・アジフさんの三人だけじゃなかったんですか?」
「もしかして、アリエル・ロワソの研究室とかから盗まれたって話じゃないよね? 生体兵器に関してはアリエル・ロワソが詳しいって聞くし」
「そうじゃ。我らの中で秘密にしておったのじゃが、ここまで事態が深刻になれば周も話すことを許可するじゃろう」
シリーズ。
確認できたのはタイプ01からタイプ03までの三人。それぞれ近接格闘特化、高速戦闘特化、魔術戦闘特化らしい。コンセプトから考えて、戦場でのオールラウンダーを目指したアリエル・ロワソの研究とは少し違うように思える。
つまり、『悪夢の正夢』達が独自に研究したからだろう。
「それにしても、悠人は生体兵器について詳しいの。我はアリエル・ロワソがやっていたとは一言も言っておらぬが」
「『ES』内だと公然の秘密になっているけど。僕も今でも『ES』とは繋がりがあるから、その関連で色々噂話は聞いていたし」
「なるほどの。納得はしたが、そなたが未だに『ES』と繋がりがあったことに我は驚いておるが」
「僕と仲のよかった女の子いたよね。その子と今でもメールをしているんだ。一応、リリーナや鈴とも友達だよ」
僕の言葉にアル・アジフさんが頷く。中のいい女の子というのは少し亜紗さんに似た女の子だ。特殊なレアスキルを持っていて『ES』の次世代を担うメンバーの一人とも言われている。僕に懐いていたから僕が『ES』を離れる時は泣きつかれたな。
その時、僕の感覚に何かを感じた。これは、エクスカリバーから送られてくる緊急通信だ。
僕は顔色を変えてすぐさまエクスカリバーのコクピットに乗り込んだ。
エクスカリバーZ1は人型の形態でもコクピットの開閉が出来る。ただし、、こっちの方が整備が難しくなるらしく、基本的には戦闘機形態なのだけど。
僕はレーダーを見た。そこにあるのは一つの光点。それが高速でこっちに向かってきている。
「アル・アジフさん、何かが来ます。僕は出るので皆さんとの合流を」
僕はマイクをオンにしながら飛び上がり人型から戦闘機形態に変形した。すかさず出力を上げて加速する。
光点が何であれ、この状況で向かってくるとなるとかなりややこしいことだ。だから、僕は敵かどうかを見極める。敵なら撃墜しないと。
「そろそろ視認域に、えっ?」
僕は戦闘機形態から人型に変形した。何故なら、ようやく見えたその存在は、純白のコートに身を包んだフュリアスだったから。
このフュリアスは見たことがある。あの日、元評議会アグネウのアジトで見た純白のコートに身を包んだフュリアス。コートから出ているフュリアスの体は真っ黒。
僕はすかさず対艦剣を取り出してフュリアスに斬りかかった。もちろん、マナーとしては悪いけど、このフュリアスは目下捜索中で見つけた瞬間に攻撃していいように『GF』、『ES』両勢力に通達されている。
向こうのフュリアスもこっちに気づいて対艦刀を取り出して斬りかかってきた。お互いの対艦剣と対艦刀がぶつかり合い、向こうの対艦刀にひびが入る。
僕はすかさず対艦剣を片手で持って手を離したもう片方の手のエネルギーナイフを展開して斬りかかった。向こうのフュリアスはすぐさま対艦刀を離すが、僕はすかさずその対艦刀を手に取り投げつける。
しかし、その対艦刀は白羽取りのように受け止められた。反応速度は並大抵のレベルじゃない。
僕は小さく溜め息をついて対艦剣を構える。
「出力は同等。純白のコートに関してはまだ分からないことも多いけど」
対艦剣を片手で握り締めてエネルギーナイフを射出する。やはり、それは純白のコートに阻まれた。
「ステルス性能とエネルギー弾に対する防御力の高さだけは確定出来るよね」
あの時もそうだった。エネルギー系統の攻撃は高威力のものを含めてあの純白のコートによって散らされている。対艦剣で斬りかかれば対艦刀を取り出したことから物理系の攻撃(フュリアスでは基本的に費用対戦果が悪い部分)を使わないといけない。
全ての武器を収納して装備を変更する。装備はカスタムブースター。そして、旋回式電磁砲。弾は二発だが、威力だけなら最大だと断言する。
それを迷うことなく放った。直撃コースで跳ぶ弾丸だったが、それは突如として上空から飛来したエネルギー弾によって撃ち落とされた。
僕は嫌な予感と共に旋回式ブースターを操作して後ろ向きに後退する。すると、エクスカリバーがいた位置にエネルギー弾が飛来した。
あのままいればやられていた。
「何が」
サブカメラを操作してその位置にいる何かを映す。そこにあったのは、もう一機の純白のコートに身を包んだフュリアス。コートから出た黒い腕からはこれまた黒いエネルギーライフルが握られている。
僕は顔が引きつるのがわかった。
「ちょっと待ってよ、あの機体が二機も?」
操作技能の観点から見て負ける事はないと断言できるけど、さすがに二機相手なら難しい。僕は二機のフュリアスを睨みつける。
「負けないわけじゃないけど、勝てないわけでもない」
相手の装甲はエネルギー弾に対して高い耐性を持つ機体。対するエクスカリバーはそれほど高くはない。牽制に放った一撃すら効かないから接近するしかない。つまり、接近しながらもう一機を牽制しないといけない。
あの新兵器を使うしかないかな。
「あんまり使いたくないけど、使うしか」
その瞬間、二機のフュリアスが僕に背を向けた。そして、向こうの飛び去っていく。
あまりの行動に僕は武器を取り出すしぐさのまま固まっていた。
「どういう、こと?」
「やっぱり、お前らか」
その言葉を慧海は呟いた。それはちょうど海道駿が施設の入り口から出た時のこと。
駿は小さく笑みを浮かべる。
「やっぱり、気づいていましたね、慧海さん」
「当たり前だろ。お前をよく知る全員があの日に死んだことが未だに信じられていないからな。だって、お前ならあんな状態でもみんなを守って生き残れるだろ?」
海道駿の能力を慧海はよく知っている。そもそも、魔術についてレクチャーしたのは慧海なのだ。さらには何回も魔術のみの模擬戦を本気でやり合っている。
駿の能力を知っているからこそ、慧海は必ず生きていると理解していた。そして、『悪夢の正夢』が出て来た瞬間に正体はわかっていた。
「世界を救うためか?」
「はい。あなた達のやり方では世界は救えない。そうでしょう?」
「まあな。ただ、これからはどうかわからないけど」
慧海はそう言って笑みを浮かべた。
「過去も未来も現在も予想も全て、それらを周は最高を求めている。オレ達の切り札だ」
「周に何が出来ますか? あいつは役立たずの欠陥品ですよ」
「おいおい。役立たずの欠陥品にした本人がよく言うぜ」
慧海が呆れたように肩をすくめるが、駿は目を見開いて驚いていた。
「それに、あいつは役立たずの欠陥品じゃない。先に言っておく。お前らは周によって止められる。どんな手を使ってもな」
「それは楽しみですね」
駿は慧海に背中を向けた。背中を向ける前にあった表情は笑み。
そのまま駿達が駆け出し消えて行く。それを慧海は追うことはなかった。この場で慧海が戦えばここら一体は焼け野原になるだろう。そうなればたくさんの人が死ぬ。
勝てないわけじゃない。だけど、駿も無駄死には避けたいはずだから。
「あいつも十分に親バカだよな。まあ、これからは周がどうにかするだろう」
慧海は小さく笑みを浮かべて空を見上げる。
「あいつなら大丈夫だ。そうだろ、姫路」
プロローグに出たきり全く出なかったフュリアスを登場させました。作者自身、存在を忘れかけていましたが。