第百九話 レヴァンティンモードⅧ
海道駿。
オレの親父で世界最強の魔術師と言われた男。もちろん、現、世界最強のアル差し置いて世界最強の称号を得ていたのが親父だ。
その魔術師としての才能は極めて高く、魔術合戦となれば勝負にならないという話もある。
「そこまで才能を開花させたなら、お前を勧誘」
「興味無いな。親父たちが何をしたいかわからないけど、オレはそれには応じない。応じれない。親父たちのやり方は最善の道であったとしても、オレは最高の道を進むだけだ」
「息子にしては愚かだな。最善と最高は違う。最高の結果など不可能だ。だからこそ、我々は最善を尽くす。そのためには、犠牲になってもいい人達がいる」
「いない!」
「いや、いる。お前の考えでも、総力戦だろう? つまり、人は死ぬ。その死ぬ人も犠牲の一つだ。違うか?」
その言葉にオレは返答することが出来なかった。そう言われてしまえば犠牲として頷くことしか出来ない。
「なら、最初から犠牲になる人を作ればいい。そうすれば解決だ」
「人の意思を無視して導き出した答えに一体何の意味がある!?」
「あるさ。世界を救うための犠牲だ。みんなが助かる代わりに犠牲達は死ぬ。それは素晴らしいことだろ? 世界が滅ぶか滅ばないかの瀬戸際で人権団体は文句は言わない」
「だとしても、そんなことで犠牲には」
「ならば問おう。お前は世界を滅ぼしたいのか?」
オレみたいな不確定要素の多い策は正攻法によって真っ正面から打ち砕かれやすい。だから、オレは言葉に詰まる。
オレがやろうとしているのは全世界での協力関係。魔界、音界にはかなり繋がったが天界には全く繋がっていない。どうすればいいかわからない。
「そうだろう? ならば」
「だからと言って、許容出来るわけがないだろ!? 確かに、戦いが起きれば人は死ぬ。いくら非殺傷設定がある『GF』のデバイスだからと言って、非殺傷設定でも死ぬ時はある。それは逃れられない宿命だ。だけどな、だからこそ、犠牲になっていい人なんていないんだよ! みんな、みんな必死にこの世界を生きているんだ。そんな奴らに死ねと命じることが出来るものか!?」
「浅はかだ! そんな理想を追い求めて世界が救えるとでも」
「救える。救ってみせる」
オレはレヴァンティンを構えた。ぶっつけ本番だがやるしかないな。ここを乗り切るにはあの形態を使うしかない。だけど、あの形態は操作性の難しさから未だに実戦じゃ使用していない形態。
レヴァンティンを握りしめ、息を吸い込む。
亜紗、タイミングを合わせるぞ。話が終わって二秒後にドライブモードに移行。お袋を頼む。
『わかった。周さんも気をつけて』
亜紗が言い終わった瞬間、オレ達は同時に床を蹴っていた。
「レヴァンティンモードⅦ!」
そのまま巨大な手裏剣の形をしたレヴァンティンモードⅦを親父に向かって投げつける。だが、親父はそれを炎の塊で迎撃する。
魔術師の基本的な戦い方は相手を近づかせないこと。そして、迎撃魔術をいくつか常にストックしておくこと。
だから、オレは叫んだ。
「レヴァンティンモードⅧ!」
レヴァンティンモードⅦが真ん中から四つに分解し、それぞれが意志を持ったかのように動き出す。それと共にオレは拳を握りしめて一気に距離を詰める。
レヴァンティンモードⅧはレヴァンティンモードⅦからの派生武器だ。だが、本質が大きく異なり、レヴァンティンモードⅦが投擲武器に対し、レヴァンティンモードⅧはオレの精神感応によって一つを動かし、残る三つはレヴァンティン自身が自ら動かす。
動くのにも魔力を大量消費するためかなり扱いにくいが、レヴァンティンモードⅦからレヴァンティンモードⅧに移りつつ、近接格闘に持っていく。もちろん、迎撃されたら危険だが、三つのレヴァンティンモードⅧは自立している。
親父は魔術を放つ。風属性の魔術だ。右側のレヴァンティンモードⅧ二つを吹き飛ばしながら空気の塊を叩きつける風属性魔術のエアープレッシャー。攻撃範囲が広めで回避にはコツがいる。
オレは精神感応を使ってレヴァンティンモードⅧの一つを動かしながらさらに距離を詰めた。
それを見た親父はエアープレッシャーを維持したままオレに向かって雷撃を放つ。しかし、それはオレが先に動かしていたレヴァンティンモードⅧが避雷針代わりに雷撃を受け取った。
視界の隅でレヴァンティンモードⅧの内、レヴァンティンが動かす二つが吹き飛ぶ。それを確認しながらオレはもう一つのレヴァンティンモードⅧと共に親父の懐に飛び込んだ。
肘を入れ、蹴り上げ、上から拳を叩きつける。そのままやってきた一つのレヴァンティンモードⅧを受け取った。
「これでどうだ!」
横薙ぎの一閃。だが、そこに親父の姿は無かった。いつの間にか違う場所に、オレの後方にいる。
オレが振り向いた瞬間、目の前に槍が突き出されていた。
「大人しくしてください」
チラッと亜紗の方を見ると、亜紗は片膝をついてこっちを見ている。その右足は真っ赤に染まっていた。
お袋が笑みを浮かべる。
「まさか、あなたがここまで成長しているとは」
「意外か? オレはお袋から生まれたはずだけど?」
「そうですね。ですが、私はあなたが嫌いです。あなたのような欠陥品が最高傑作を」
「オレ達は道具じゃない」
その瞬間、レヴァンティンが動かすレヴァンティンモードⅧがお袋に襲いかかった。お袋は後ろに下がりながらレヴァンティンモードⅧを避ける。
オレは全てを戻し、レヴァンティンモードⅧを通常形態に変形させる。
「誰からも、親からも、道具扱いされるわけにはいかない」
「黙りなさい欠陥品。私に近接戦闘で勝てるとでも?」
「勝つだろうね」
その言葉にオレとお袋が同時に後ろに下がった。いつの間にかオレ達の間に正の姿があったからだ。
「周は強いよ。槍のアドバンテージなんてほぼ無いに等しいよ」
「あなたは、誰ですか?」
お袋が正に向かって槍を構える。それに対して正は笑みを浮かべた。
「そうだね。自己紹介をするなら、海道正と名乗っておこうか」
「正、どうして」
「周、どうして止めたかは君が一番わかっているんじゃないかな?」
その言葉にオレは小さく溜め息をついた。ちょうど入ってくれたおかげで助かった部分はかなりある。
レヴァンティンモードⅧまで出したのに、オレは親父の罠に完全にはまっていた。
認識の撹乱。ほんの少しのタイミングのズレが最終的には大きなズレとなる。親父の『悪夢の正夢』によって視覚、聴覚などの感覚を狂わされていたのだろう。
「これ以上、ここで戦わない方がいい。亜紗も傷ついている以上、戦った先にあるのは敗北だけだ」
「だろうな」
オレはレヴァンティンを握りしめる。このままいけば完全に『悪夢の正夢』の術中になるかもしれない。
気づかなければ、待っているのは敗北だけだ。
「周、最後だ。こちらに来い。今のお前ならメンバーに加えても」
「お断りだ。オレはオレの道を行く」
「そうか。ならば、お前が守りたいものが崩壊する様子を絶望と共に見てるがいい」
親父とお袋が駆け出した。オレもすぐさま駆け出す。亜紗に向かって。
「大丈夫、みたいだな。傷はそれほど浅くないか」
『ごめんなさい。周さんのお母さんだと思うと、体が上手く動かなかった』
亜紗が困ったような笑みを浮かべながらスケッチブックを開く。
「オレ達生体兵器はメンタル面が肉体に出るからな。でも、悪い。事前に言わなくて」
『ううん。周さんは葛藤していたと思う。だから、レヴァンティンと二人だけで探していたんだよね? そうじゃないことを祈って』
オレは亜紗に治癒魔術をかけながら虚空から応急キットを取り出した。心が疲労しているからか、魔力が尽きかけている。だから、今はこれで傷を塞いでおく。
「オレだって考えたくなかったさ。でも、思い出した以上、オレは親父達を止めないといけない。オレが、この手で」
『大丈夫だよ』
亜紗の声が頭の中に響くのと同時にオレは亜紗に抱きしめられていた。
『みんなで、止めよう。周さんは一人じゃないから』
「ああ。ありがとう」
「オホン。少し、いいかな」
その言葉にオレ達は神速の速度で離れた。そこには、正が顔を真っ赤にしてこちらを見ている。
「僕が来たのは偶然、として欲しい」
「最初から助けに来たんだろ? もしかして、親父やお袋が生きていたことを」
「いや、それは知らなかった。周、これからは君の試練だ。僕がサポート出来ることは少ない」
「わかっているさ。親父達が次に狙うのはあそこしかない」
オレはレヴァンティンを鞘に収める。
親父達は確実にあそこを狙うはずだ。
『周さん、あそこって、どこ?』
亜紗が首を傾げながらスケッチブックを開く。それを見たオレは小さく頷いた。
「学園都市。多分、親父達の狙いは『GF』ですら存在を正確に理解していないエネルギー体だ」
最終決戦の場は学園都市です。その前に体育祭が入りますが。