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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第九十九話 急転

爽やかな風。木々が音を立て、鳥達がさえずり、小川に清らかな水が流れている。


その中を都と琴美の二人は歩いていた。


「懐かしいわね、ここ」


「そうですね。何回も来た道ですが、最近は忙しくて来れませんでしたし」


「そうね。一応、いくつかの支援魔術はスタンバイしているけど」


琴美の第76移動隊としての戦い方はバックアップ。ただし、バックアップと言っても規模が違う。


琴美は普通よりも魔力の量が極めて多い。もちろん、人間離れをした魔力を保有する周のようなレベルではない。


ただ、琴美の魔術には大規模なほど作用が強くなる効果がある。レアスキルと呼ぶほどではないが、これも一つの固有スキルだ。そのため、戦闘支援魔術に関しては周には及ばないもののかなり高い水準にある。


「琴美がもう少し攻撃魔術を使えたらいいのですけど」


「悪かったわね。攻撃魔術が苦手で」


そのためか攻撃魔術は極めて苦手だ。どれくらい苦手かと言うと、最も簡単な攻撃魔術、魔力を固めてぶつけるだけのエナジーシュート。慣れれば外すことはないが威力は皆無。ただ、琴美が使えば目標に当たることはないがぶつかった瞬間に爆発を撒き散らし甚大なダメージを与える凶器となる。


つまり、使えない。


「見えてきましたね」


都の言葉に琴美は顔を上げた。そこにあるのは小さなお墓。


二人の大親友だった雨宮千春のお墓。


都はその手にあったお花をお墓の前に静かに置いた。


「お久しぶりです、千春。元気でしたか?」


「あんたなら私達がいなくても元気でやるわよね。寂しそうにだけど」


二人は笑みを浮かべる。その笑みもどこか寂しげだった。


「最近は色々と忙しかったものですから。学園都市にもたくさん事件はあります」


「最近の事件は特に、あなたの力を借りたいくらいのものが多いわね」


「そうですね。皆さん、特に周様は大変ですから。私も精一杯頑張らないといけません」


言葉が止む。そして、二人はお互いに視線を合わせた。頷き合い、お墓に向き合う。


「ここだけの話をしますね。私は大学を卒業したら琴美と共にここに戻ってくるつもりです。もちろん、第76移動隊を辞めて」


「『GF』は辞めないわよ。ただ、異動させてもらうだけ。周もみんなが学校を卒業していく頃には第76移動隊を変えるつもりらしいわ。第76移動隊は学園都市にあるから第76移動隊だから」


「そのタイミングで私達は戻ってきます。必ずです。そして、この街をよりよくして行くつもりです。だから、応援していてください」






『やっぱりいいところですよね』


アル・アジフが宙に浮くスケッチブックを見ながら頷いた。


様々な所に挨拶周りを行ったアル・アジフはエリシアと会話をしながら歩いていた。


「そうじゃな。学園都市もいいところじゃが、やはり、この地は格別じゃな」


『はい。この地にいたから私は、いえ、私達は周達と出会いました。思い出の土地です』


「そうじゃな」


エリシアの声にアル・アジフは笑みを浮かべる。そして、そのまま前に踏み出そうとして、上げた足を止めた。そのまま足を下に下ろす。


「せっかく人が過去を懐かしんでいるというのに、そなたらは無粋な者達じゃな」


その言葉をアル・アジフは近くにある建物の影に向かって放った。そこからローブの男が現れた。その手に握られているのは一本の槍。


アル・アジフは自らの魔術書を開く。


「アル・アジフだな? 大人しく我々について来てもらおうか」


「ふむ、やはり無粋じゃな。いきなりにもほどがあるぞ。女性をエスコートするなら」


「生体兵器は人ではない」


その言葉にアル・アジフは目を細めて小指を少しだけ動かした。たったそれだけで幾重もの光の輪が槍を持つ男を拘束する。


ストックしていた魔術の発動を小指でしただけだが、その正確性はさすがアル・アジフというレベルだった。


槍を持つローブの男が微かに目を見開いて驚いている。


「我を生体兵器と知っていることはおいおい話させてもらおうかの。とりあえず、隠れている三人は出て来るのじゃ」


アル・アジフの言葉に物陰からそれぞれ、剣、槍、弓を持ったローブの者達が現れた。一様に驚きが顔に出ている。


頑張って気配を消していたようだが、その気配の消し方に慣れているアル・アジフにとっては意味がない。


「大人しくすれば怪我はさせぬ。刃向かうなら」


「刃向かうならどうなるか教えてな」


その言葉はアル・アジフの背後から聞こえてきた。アル・アジフはすかさず振り返りつつ障壁魔術を展開する。障壁魔術は迫ってきていた槍を受け止め弾き飛ばした。


「あらま。受け止められたわ。まあ、ええか」


槍を持っているローブを着た女性は槍を構えた。アル・アジフは全方位を警戒しながら身構える。


「あんたがアル・アジフやな。とりあえず、うちらのために」


女性が動く。踏み出す速度は極めて早く、亜紗を彷彿とさせるような加速だった。


「余裕じゃの」


対するアル・アジフは動かない。そんなアル・アジフを怪訝に思いながら女性は槍を突き出して、


「じゃが、爪を隠すべきじゃな」


アル・アジフは女性の背中に手のひらを当てていた。それと同時に魔力が爆発して女性を吹き飛ばす。その行動にその場にいた誰もが動けないでいた。


実際は魔術による広域幻覚を与えていただけなのだが、あまりに高度なやり方に誰もが気づかなかったのだ。


「さあ、わけを話してもらおうかの。黙っているなら少々痛い目にあってもらうが」






コーヒーの香りが花の中に広がる。オレはそれを感じながら小さく溜め息をついた。


「集合時間をもっと早くすれば良かったな」


『今更』


「私もそう思う。周って集合時間はいつも早いよね」


「まあ、昔いた正規部隊の名残だろうな」


正規部隊は基本的に朝は早く、夜は遅い。その理由は色々あるが、夜の行動は危険だからというのもある。もちろん、夜専用の訓練もある。


そのため、一日のサイクルとしては朝は広くなっている。


「早寝早起き。それが一番健康にいいしな。亜紗、外に出て軽く手合わせをするか?」


オレはレヴァンティンを取り出しながら亜紗に向かって言う。亜紗も自分のデバイスを取り出しながら頷いた。そして、器用にスケッチブックを開く。


『賛成。でも、軽くだよね』


「当たり前だろ。体を温めるのが目的だし」


オレはそう言いながら肩をすくめて立ち上がった。同じように亜紗とメグも立ち上がる。


中に突入する以上、手合わせをして体を温めるのは十分に有効だ。だからこそ、オレは手合わせをするために外に向かおうとして、足を止めた。


「外が騒がしい?」


窓の外では慌ただしく人の行き来がある。オレは持っていた財布をメグに向かって投げた。


「メグ、会計は頼んだ。亜紗、行くぞ」


「えっ? あっ、うん。わかったわ」


オレと亜紗はすぐさまビジネスホテル風のレストランから飛び出した。


慌ただしく動いているのは主に『GF』の面々のようだ。入り口付近に何人かの姿が見えるな。慧海の姿もあるし。


オレ質は慧海に向かって駆け寄る。何かを話していた慧海は駆け寄って来るオレ達に気づいて振り向いてきた。


「何があった?」


「いいタイミングだ。お前らはすぐに突入出来るか?」


「今からか?」


慧海が頷く。


「どっかのバカが中に入ったらしい。詳しくは見ていないが、男女二人組。武装は不明」


「そういうことか。どうりで蜂の巣を突いた事態になっているわけだ。わかった。オレと亜紗の二人で突入する。メグはここに置いておいてくれ」


二人だけだとメグを守りきれるかわからない。だったら、オレ達だけで先に突入した方がいい。危険であることに変わりはないが。


オレと亜紗は同時に戦闘服を着込んだ。そして、オレはレヴァンティンを抜き放ち入り口に向かう。


「危険だったら引き返す。慧海は入り口の防衛を任せた」


「わかってる。行ってこい」


「行ってくる」


その言葉と共にオレと亜紗は走り出す。誰が入ったかわからないけど早く連れ戻さないと。


オレはレヴァンティンを握りしめて中に突入した。






「全く。先に行っちゃって」


私は小さく愚痴を吐きながらレストランから出た。周の財布だったからか少し手こずったけど、早く追いつかないと。


私はすぐに駆け出す。だけど、近くの物陰から出てきた誰かとぶつかりそうになった。


「ごめんなさい」


「すまな、い」


誰かの声が一瞬途切れる。それを不審に思った私はその誰かを見上げた。そして、


「お兄、ちゃん?」


そこにいたのは私の兄、北村信吾と瓜二つの人がいたのだから。


見間違えるはずがない。だけど、お兄ちゃんは死んだはずなのに。


「メグ、なのか」


その言葉に私は確信した。確信したと共に疑問が出て来る。


「どうして、お兄ちゃんがここにいるの?」

次の話では色々と重要な話が入ります。

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