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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第九十六話 再び狭間市へ

ガタンゴトンと電車の音が鳴り響く。時間は早朝。オレの周囲にはたくさんの屍が散乱していた。


文字通りの屍ではなく、死屍累々と言うべき状況かもしれない。理由は、寝不足。


ケロッとしているのは亜紗くらいだ。


「つうか、準備だけで一日を潰すなよ」


オレは小さく溜め息をついて読んでいた本を閉じた。慧海が書いたものだが、魔術についての仕組みとその派生に関して書かれた70年ほど前のものだ。


今の魔術体系として確立するより昔のものだが、その当時は独創的だった考え方がかなり的を得ており、オリジナルに走るなら一度は読んだ方がいいと言われている代物だ。ちなみに、オレのものはかなりくたびれている。時雨からもらったものだしな。


『女の子は色々準備をしないといけないよ』


亜紗が苦笑しながらスケッチブックを開く。


亜紗の服装は紺のワンピース。亜紗は基本的に夏の私服の半数はワンピースだ。本人曰わく面倒だかららしい。


「そういう亜紗はいつもと変わらないよな」


亜紗の手に握られているカバンは今と昔であまり変わりはない。変わりがあるとするなら手首につけられたブレスレット型のデバイスくらいだろうか。


亜紗は基本的にオレと同じ宝石タイプ、ネックレスにも出来るしポケットにも入れられる、を使っているのだが、これだけは今までとは違う。


完全な七天失星用のデバイスだ。許容量はまだまだあるから小物も入れているみたいだが。


『私は昔から慣れているから。荷物は必要最低限だし。周さんこそ、眠くないの?』


「眠くはないな。まあ、こいつらが爆睡している以上、オレが気を引き締めないとダメだろ」


オレはそう言いながら右肩に頭を載せている由姫を見た。


由姫は黒の半ズボンにイグジストアストラルと同じ蒼鉛色のTシャツだ。ちなみに、イグジストアストラルが世間に公開されたと同時に販売された記念品でもある。


『周さんは相変わらずシスコン』


「まあ、否定はしない。由姫も茜も大切だからな。シスコンでも亜紗は気味悪く思わないだろ?」


『周さんだし。それに、周さんがシスコンなのは家族を大事にする証。私は立派だと思うよ』


「何が立派なのか聞きたくはないが。つうか、アルも爆睡だよな」


アルはオレの左肩に頭を載せている。つまり、オレは身動きが出来ない。


アルの服装は亜紗と同じワンピースだが、純白だ。穢れなき白というべきか。


向かいの席では都と琴美が身を寄せ合って眠っている。二人共、お揃いの紺のスカートと白のTシャツなので服だけでは判別しづらい。


『多分、アルさんはめい一杯おめかししていたら時間がなくなった、だと思う』


『否定出来ないのが辛いですね』


アルの近くでスケッチブックが開く。エリシアは一応起きているのか。


『一つ聞いていいですか?』


矢継ぎ早にエリシアのスケッチブックが開いた。そして、さらにページが捲られる。


『どうして制服なのですか?』


『それは私も気になっていた』


ちなみに、オレとメグの二人は制服だ。メグは訓練のつもりか空気椅子をしながら眠っている。これだけはオレは出来ない。


「普通は制服だろ。オレ達は遊びに行くんじゃないぞ。まあ、由姫や都達は仕方ないとしても、亜紗は制服か戦闘服だろ」


『可愛くない』


そう言うと思っていたから一言も今まで言わなかったけどな。


「まあ、施設の調査の時は戦闘服に着ていればそれでいいさ。まあ、最初はオレとメグの二人で行くしさ」


制服を着ているのがオレとメグだからだけど。


『なるほど。周さんは施設が何か掴んでいるの? 話によるとアルタミラ並みに古い施設だけど』


「まあ、色々あるんだよ。にしても」


オレは窓の外を見つめた。そして、一言。


「電車旅ってこんなに長かったっけ」


『電車だから仕方ないよ。エスペランサは規格外だし、人界で最初に作られた航空戦艦の類でありながら今現在世界最強の能力なんだから』


「出力や最高速度に小回りの良さとかなりの点で最高クラスだしな。『GF』と『ES』に音界の研究者が惜しみなく金をつぎ込んで作ったものだし」


ちなみに、航空戦艦の値段は約40億。航空空母は10億ほどで造られる。円の計算でだ。


「出力エンジンに最高水準のものを注ぎ込んでいるからな。速度はかなり速いさ。まあ、電車旅もなかなかいいものではあるけど」


『暇という点を除いて。私は最初に狭間市行った時みたいにみんなでワイワイしながら行くものだと思っていたのに』


「オレも」


集合の時点ではみんなピンピンしていたのだが、いざ電車に乗るとオレの隣に誰が座るかという論争が勃発。それで疲れ果てたのか由姫とアルがほぼ同時に寝て、他の三人も寝たということだ。


最初の時みたいに浩平がいたら楽しいのにな。色々な意味で。


『この人数でも十分にワイワイ出来ませんか? 三人いますし』


『メンバーが悪い。この面々で共通の話題は?』


亜紗の文字にオレは考える。


共通の話題を言うなら第76移動隊だろう。だけど、そんなことは普通に話さないし、他の話はよくよく考えると亜紗とエリシアが噛み合わない。


亜紗には前線の話を語れてもエリシアには無理だし、エリシアにはフュリアスの話を語れても亜紗には出来ない。本当に奇妙な関係だ。


「なるほどな。叩き起こすか?」


オレはそう言いながらアルを指差した。アルなら話についていけるだろう。かなり、何でも出来るし。


『可愛いそう』


『起こしましょう。何があっても起こしましょう。私は賛成します』


何故かエリシアはかなら乗り気だった。


『そもそも、アルだけがあなたの隣でいるのがいたく気に入らないのです。私だって周の隣にいたいのに』


『周さん、起こさなくていいと思う』


「賛成」


そんな理由でアルを起こしたら何が起きるか本当にわからないから本当に止めて欲しい。


電車内での戦闘にならないようにしないと。


『私は周さんがメグを連れて行くことに驚いているけど』


「そりゃな。メグは右も左も分からないってわけじゃないけど、これから第76移動隊ってやって行く以上、第76移動隊のやり方には慣れてもらわないといけない。だからだよ」


『そうなんだけど、メグの使う武器は槍だから、通路ではかなり不利になると思う』


「それを言うならオレや亜紗の剣だってそうだろ」


槍は桁違い不利になるが、それは剣も同じだ。槍と違ってリーチはないが、懐に潜り込まれても対応はしやすい。実際に、槍を使う方が圧倒的に多い。無名なのも圧倒的に多いが。


通路での戦闘では槍は足手まといになりやすい。だから、『GF』部隊の施設突入の際は必ず剣を持っている。


一番いいのは拳なんだけどな。


『私は矛神があるから大丈夫』


「施設は破壊するなよ」


『魔術がある』


それはそれで破壊しそうだが。


もし、施設内での戦闘が起きたならフロントをオレと由姫が。バックを都とアル。センターに亜紗、メグ、琴美だ。


まあ、センターはバックアップ要員だけど。


「それに、メグはまだ施設内の戦闘を経験していないはずだ。槍がどれだけ使いにくいか、槍をどうやって運用していくか。それを見つけてもらわないとな」


『なるほど。戦闘がない方がいいけど、相手はオーバーテクノロジー産物。周さんの得意な想定だね』


「これくらいは普通に考えるだろ。セキュリティーシステムが生きているなら、オレ達は本気で行かないといけない。まあ、システム面に関してはレヴァンティンとアル、エリシアに頼ると思うけど」


そう言いながらオレはアルを見た。アルは幸せそうに眠っている。


『まあ、私達をマスターが頼るのはいいとして、戦闘中や非常事態の最中ではバックアップは無理ですよ。私も、エリシアも。システム面に関しても制御室にいかなければなりませんし。マスターの考えではセキュリティーが生きている可能性は』


「100%」


『言うと思いました。エリシア、私達てマスター達をサポートしましょう』


『不安ですが頑張ります。私の華麗な活躍を期待してくださいね、あなた』


『それは聞き捨てならない。いつからエリシアは周さんとそう呼ぶ中になったのか説明してもらう』


亜紗がアル・アジフを掴んだ。エリシアの体をアルが使っている際はエリシアの精神はアル・アジフの中にいるらしい。詳しいことはよく分からないが。


アルがエリシアの中にいてもアルの体はアル・アジフだと思うんだけどな。


『実は昨日、真夜中に』


『自分自身て決めたと。マスター、エリシアは本当に困ったちゃんですね』


『そうですけど! そうですけど! 私はアルと』


その瞬間、アル・アジフを誰かが掴んだ。いつの間にかアルが起きており、決して大きくない手をめい一杯開いてアル・アジフを掴んでいる。


「エリシア、我が何かしたかの?」


その顔にあるのはにこやかな笑み。ただし、状況が状況だからかなり怖い。


『えっと、その、あの、助けをお願いします』


『マスターの指示と体がなければ不可能です』


「お前は指示無しでよく動いているだろ」


ここは黙っておく場面かもしれないが口を開かずにはいられなかった。


実際、レヴァンティンはオレの指示無しでよく暴れている。本当に困ったことに。


『マスターは黙っていてください。この場で誰がエリシアを助けると思っていますか? あなたのような後先考えないじゃじゃ馬娘を助ける人なんて、えっ?』


いつの間にかアル・アジフを手放していたアルがオレのポケットからレヴァンティンを取り出していた。


いや、アルじゃない。これは、


「レヴァンティン? ちょっと向こうで話をしましょうか」


『えっと、その、へ、ヘルプミー』


『自業自得じゃ。観念せい』


エリシアがレヴァンティンを持って立ち上がる。向かう先は誰も乗っていない次の車両。


オレは歩いていく二人に向かって両手を合わせた。主に、レヴァンティンに対して。


よく見ると亜紗も手を合わしている。


まあ、自業自得だから助けるなんて絶対にしないけど。


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