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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第八十八話 新たな海道

小さく息を吐く。いや、溜め息か。これを見ていれば本当に溜め息しかつけない。


だって、海道家分家全ての署名がここに揃っているからだ。もちろん、海道巧の名前まである。


手のひらを返すかのような事だが、オレと一つしか変わらない少女が全ての責任を取ると言ったのだ。それを応援しないわけがない。


「まさか、ここまでとはな」


「黙っていろ。今回は貴様のおかげで海道家宗家の役目を果たせたことには感謝するが、貴様のような『簒奪者』、ごぶっ」


宗家の男が文字通り上から叩き潰される。オレはそれを苦笑しながら見ていた。


「少しは手加減したらどうだ?」


「こんなゴミムシに手加減する理由はないから。まあ、今回は助かった。ありがとう」


「どういたしまして。海道家のネームバリューはかなり高いからな。それで、離脱した宗家は今、何をしているんだ?」


「さあ?」


海道姫子が肩をすくめる。確かにさあになるだろうな。


レヴァンティンに調べてもらったけど、宗家の大半の足取りは掴めていないらしい。事件に巻き込まれたか事件を起こすために潜伏しているか。


どっちにしても厄介だ。


「あなたには正直、色々助かった。昔のことと比べても帳消しね」


「あの時は悪かった。まあ、記憶は完全に戻っていないけど。『現実回避エスケープ』のせいだろうな」


「『現実回避エスケープ』。椿姫さんのレアスキルよね。どうして、『現実回避エスケープ』がサナダムシに?」


「わからない」


オレはそう口にする。だけど、海道姫子は何かに納得したように頷いていた。


「そう」


「やけに淡白だな」


「だって、あなた達兄妹は似てるもの。嘘をつく時の動作も」


そんな話聞いたことがないけど。


オレは小さく溜め息をついた。そして、レヴァンティンを取り出す。


「とりあえず、連絡先の交換でもしておくか? これから、海道家とは綿密に連絡を取り合った方がいいからな」


「サナダムシにしては気が聞くじゃない。私も『GF』移動課第一部隊第76移動隊との連絡は綿密にしようと思っていたもの」


オレは通信用ケーブルをレヴァンティンと海道姫子のデバイスと繋げる。すぐさまレヴァンティンを操作する振りをして連絡先を交換し合う。


これで大丈夫だろうな。


「これからもよろしく頼む。海道家代表海道姫子」


「こちらこそ。『GF』移動課第一部隊第76移動隊隊長海道周殿」


そう言い合って、オレ達は笑い合った。おそらく、昔のことを同時に思い出したからだ。


オレが思い出したのはあの日の数日前に海道姫子から言われた言葉だ。


多分、そのことを思い出したに違いない。オレも海道姫子も。


「あの時の回答を今した方がいいか?」


「止めた方がいいわよ。私は振るから」


「そういうわけじゃないって」


あの時、海道姫子はこう言ってきた。


あなたのことが好きだとしたら?


対するオレの回答はこうだ。今の僕を見ない方がいい。


でも、今は海道姫子はオレを見ている。だから、オレは言葉を返す。


「姫子は魅力的な女の子だよ。だから、オレなんかを気にせずに前に進むこと。後悔しない道を進むこと」


「あーあ。振られちゃった。周の活躍はずっと耳にしていたから。まるで、手のひらを返したかのように周を歓迎しようとする宗家の名前と一緒に。まるで、ヒーローだった」


「住む場所が違う。オレはこれからも戦い続ける」


「世界が滅ぶとしても?」


その有効な対策はまだない。だけど、一つだけ、一つだけ心の底からこうした方がいいと望む声がある。


それに従うべきだとオレも思っている。


「オレ達はそれを救うんだ。救った後の世界でも戦い続ける」


「自己犠牲の塊ね」


「違う。自己満足の塊だ」


オレはそう言って笑みを浮かべた。それに対して海道姫子は肩をすくめる。


「ほんと、らしいわね。わかった。海道家として私の代の間は全面協力をさせてもらう。あんたなら世界を救ってくれるんでしょ?」


「こちらも、海道家は頼りにしている。さて、オレ達はそろそろ学園都市に帰る。これでも第76移動隊隊長なんでね」


「隊長らしくない隊長だけど。そうだ、今人払いしているから聞きたいことがあるんだけど」


海道姫子が不思議そうに首を傾げた。


「学園都市のエネルギーって本当に自然エネルギー?」


「どういうことだ?」


オレは首を傾げ返す。


風力発電と太陽光発電。それが学園都市のエネルギーだ。魔力エネルギーは自然界にある魔力粒子を消費する。それはエネルギー、主に電力として扱われるが、扱われた後は粒子に戻る。


ただし、この時、消費した魔力粒子=戻った魔力粒子の式は成り立たず、若干ながら減少するのが確認されている。


だから、オレを激しくバッシングしてくる奴らもいるんだけどな。


「自然エネルギーを作っているにはあまりにも発電量が多いのよ。海道家の資料をまとめていて見たのだけど、自然エネルギーは賄っている約80%だって」


「それは自然エネルギーを使い始めた最初の頃か?」


最初の頃は確かに試算より足りなかったという事態はあるが、現在では極稀に危険数値になることはあっても足りないことはない。


まあ、その日も曇りかつ無風の日が続いたらになるけど。


「不自然に自然エネルギーの発電施設が多いから私達からしたら眉をひそめる話だけど、よくよく考えてみるとおかしいのよね。自然エネルギーによる発電量で住宅を賄えることはありえない。一回、詳しく調べた方がいいかもしれないわ」


確かに、オレが魔力機関を作ったのはそれが理由の一つだ。自然エネルギーではエネルギーが全く足りない。そして、火力発電では施設が大きすぎるし公害がうるさい。


だから、魔力機関を開発した。


学園都市に来て自然エネルギーだけで都市を動かす計画には面白いとは思っていたし、その多さに驚きもした。確かに、よくよく考えてみるとおかしさはある。


「確かによく考えてみるとおかしな話だよな。学園都市にいればその多さに納得するけど」


「そういうこと。里宮に聞くのもいいけど、そんな根幹となると情報量が高いから。値段も書いていたけど、7兆±2兆らしい」


「小国を潰す気か?」


もちろん、そんなお金が海道家から出るわけがない。出たらすごいよな。というか、そんなお金を持っているのは慧海くらいだろう。


「どことなく調べてみる。それにしても、海道家の情報量はかなりありそうだな」


「そうね。色々整理しているけどかなりの量があるわ。新たな情報が見つかった連絡するし」


「完全に新しい海道家だよな」


情報は里宮、政治なら海道、力なら白百合。


これが基本だ。しかも、里宮に情報を手に入れようとしたならお金を請求され、海道は宗家した発展させるつもりはなく、白百合は弱き者は排斥思考。


正直言って、どれかが変わってくれるなら本当にありがたい。


「そう。あなたが新たな未来を求めているように、私達は新たな海道を作り出す。それが吉と出るか凶とでるかわからないけど」


「出るさ。確実にな」


オレの言葉に海道姫子は笑みを浮かべた。






電車に揺られながらオレは資料を見る。


海道姫子からもらった資料のコピー。そこには確かに正確なデータが記入されていた。


太陽光発電施設や太陽光発電パネルに風力発電施設など数はオレの中にある統計と同じだ。そして、その発電量もオレが知っている数値。


ただし、電力使用量だけが違う。まるで、どこかのエリアが丸々加算されたように。


オレは小さく溜め息をついて隣を見た。隣では亜紗がオレに体重を預けて眠っている。


周囲に他の乗客の姿も見当たらないから大丈夫だな。


「レヴァンティン」


『正直に言って厳しいです』


だろうな。あの事も調べてもらっているし。


『ですが、やるだけやって見ます。期待はしないでくださいね』


「わかった。頼む」


オレはレヴァンティンをポケットに戻す。上手く行くかはわからないけど、上手く行くことを祈っている。


「学園都市の秘密か。学園都市には一体何があるんだ?」


オレは小さく溜め息をついて窓から空を見上げた。空には見事な夕焼け空となっている。


オレはそれを見ながら小さく息を吐いた。


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