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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第八十五話 会合

話は進む。


最初は海道姫子からの宗家についての話だった。


急に離脱した真意はわからず、宗家の一員として分家を混乱させた責任があると述べると、一部の人から責任があるなら海道家を辞めろという言葉が飛び交う始末。


それに関しては責任を取らずに責任があると辞めるのは愚か者の仕業だと言い拒否。それには全面的に賛成だけどな。


「本題に移りたいと思います」


部屋に緊張が走る。本題は今の海道家の代表についてだ。すでに根回しは終わっているだろうが、海道姫子はどこまでひっくり返せるか。


「海道家の次期代表について。ただし、今回は代表だけではなく代表補佐と進行役を決めさせていただきます」


オレは表情を変えることをこらえるのに必死だった。


だって、分家の大半がポカンと口を開いているからだ。一部は苦笑している。


「何か質問はありますか?」


「ま、また後日に決めれば」


「今決められることならば今決めるべきです。それとも、今日は何か不都合がありますか?」


根回しが済んでいるのは確実に代表だけだろう。それ以外は代表が決まった後にするに違いない。つまり、かなり荒れる。


反論意見があってもほとんど全てが潰れるだけだ。強攻策に出ない限り。


「いえ、代表以外は後日にしましょう。私は大事な会議が」


その中の一人が愚策にも発言する。そんな発言は切って捨てられるだけなのに。


「では、今すぐ代理人を立ててください。無理なら欠席ということで」


「横暴だぞ!」


「横暴? 海道時雨殿はちゃんと代理人を立てています。海道家の行く末を決めるこの会議の後に予定を入れた方はまずありえないと思っていたのですが、最悪、代理人さえいれば大丈夫です」


反論を封じることは出来る。だけど、今動いているのは分家の下っ端。自分の考えで愚策を決行する海道姫子の本来の敵ではない。


手が上がる。それは海道姫子に一番近い男からだった。


海道巧。海道家分家トップにして宗家以上にオレを排斥しようとしていた。まあ、宗家もたいがいだけど。


「では、この場で議決を取る。賛成は挙手を」


「進行役ではない方は進行役に介入しないでください」


「何故だ? お前がやっていても何も進まないではないか。宗家のわがままを言うところなのか? 違うだろ。この会合は海道家分家の行く末を決める会合だ。宗家はお呼びじゃない」


そう来るのか。確かに、海道姫子は海道家の行く末と言っていたからな。おそらく、今離脱している宗家が戻ってきてもいいように下地を整えるはずだ。


地位はさすがに与えないと思うが。


対する海道巧はこの会合を海道家分家だけのものだと思っている。宗家を排斥する気満々だ。


「宗家も落ちたものだ。このような子供を進行役にするとは。見ていて醜いものだ。そうだな、あの海道駿や海道周のように」


オレは微かに頬を引きつらせた。誰も見ていないから良かったものの、見つかっていたら色々大変だったな。


「海道家の最高傑作だった男があのような最低のクズを生み出すとは。しかも、今でも海道を名乗っている。我慢ならん。あんなゴミは海道家に必要がない。そう、宗家もな。これからは分家の時代だ」


海道姫子は完全に圧倒されている。それはそうだろう。普通、本人の前でそんなことを言うなんて考えられないからだ。向こうからすれば気づいていないだけだろうが。


まあ、レヴァンティンも録音してくれているし証拠としてはばっちりだろうな。


「そうだな。話しているだけでイラついてきた。海道周を殺さないか? 海道家でありながら恥知らずの海道周を。そうしたら、海道家の傑作である海道茜を向かい入れれる。どうだ?」


「黙りなさい。今のあなたに発言権は」


「大丈夫だ。この会合で代表になるのは私でね。私が勝手に役目を決めさせていただこう」


「会合での進行役以外の進行役が選出を決める場合は海道家の全員一致が必要条件です。まだ、決まったわけではありません」


その言葉に海道巧が笑みを浮かべる。


「進行役以外の会合に参加した海道の名を持つもののな」


海道姫子が俯いた。だけど、その顔には笑みが浮かんでいる。


絶対こいつらはキレるだろうな。会合までに根回しするのは当たり前だけど、会合の護衛役まで根回しはしない。


「では、反対の方を挙手してもらおうか。同士の手を煩わせるわけにはいかないのでな」


そして、手を挙げる。そう、オレが。


「海道周、反対させてもらうぜ」


その言葉に会合参加者が全員動きを止めた。海道姫子は笑いをこらえるので必死だ。


海道巧の顔なんて本当に見物だからな。


「ふざけるな!」


海道巧が立ち上がる。その顔は真っ赤に染まっていた。


「貴様はこの会合に呼んではいない!」


「呼んではいない? おいおい。護衛役は参加者が決定するんだぞ。たかがそんな理論が覆せると思っているのか?」


「貴様は白百合の養子に入った裏切り者だ! 会合に参加する資格もない!」


「悪いけど、ここに治外法権は適応されないんだよな。つまり、オレは日本の法律上白百合も名乗れるし海道も名乗れる」


「つ、つまみ出」


「いい加減にしなさい!」


海道姫子の声が響き渡る。


「巧おじ様。諦めたらどうですか? 会合の規定は絶対です。それに背くということは海道家に背くと同じ」


「黙れ! ガキは黙ってい」


「黙るのはそっちだ」


オレは海道巧にレヴァンティンを突きつけていた。まあ、みんなが海道巧に視線が向いた時に気配を出来る限り隠して移動しただけだけどな。


やっぱり、気配を隠すのは難しいな。護衛役の何人かは苦笑しているし。


「警告だ。海道姫子は一度警告をした。次に規定である進行役の注意を無視した場合は実力行使によってつまみ出す」


「ふざけるなよ。ふざけるな! 貴様らみたいなガキ共に何が出来るというのだ。他力本願の貴様らにな!」


「海道周」


海道姫子の声が響き渡る。だけど、海道巧は気にすることなく声を荒げた。


「そうだ。私を陥れるための策略に違いない。護衛役、こいつを捕まえろ!」


「やりなさい」


静かに、そして、はっきりと海道姫子の声が響き渡る。


それに対してオレは動いた。海道巧の護衛役の腕をかいくぐり海道巧の胸ぐらを掴んでそのままドアに向かって投げる。投げながらも加速してドアを開けた。


開けたドアから海道巧が飛んで出て行きカエルが潰れたような音が鳴り響く。


オレはそれを聞きながらドアを閉じる。会合を行う部屋の中では奇妙な静寂が残っていた。


「では、会合の続きを行いましょう。代表への立候補を。この場で立候補する者は名乗り上げてください」


オレは軽く苦笑しながら会合を見ていた。


海道巧の護衛役は顔を真っ青にして固まっているし、海道巧が出たことで代表に根回ししていた者がいなくなったからか誰も手を挙げない。


どうりで、海道姫子が茜に泣きつくわけだ。


あのまま言っていたなら代表は海道巧となり海道家はあいつのものになっていただろう。だけど、オレ達のどちらかがいることで否定出来る。後は、横にいる屈強な男だよな。


とりあえず、ファンタズマゴリアの部分展開の準備をしておけば大丈夫だろう。


オレは小さくため息をつきながら魔術を展開する。


「では、私が立候補します。海道家の代表に」


「ちょっと待ちなさい。あなたが立候補すれば今までと同じ」


最初に発言したおばさんが声を上げる。確かにそういう反対もあるだろう。だけど、オレは何も助言しない。


「それが海道家宗家の最後の責任だと思っています。宗家が離脱した今、海道家は新たな道を進まなくてはいけません。その道を私は作ります。後継者は巧おじ様を指名します」


その言葉にどよめきが走った。ちなみに、オレもかなり驚いていろ。だって、海道巧は会合で暴れたからとして放り出したからだ。普通は役職にはつかせない。


だけど、海道姫子の顔には後悔はない。


「今の私は非力です。ですが、これからの海道家の礎になれればと思っています。宗家と分家の垣根が無く、そして、名家として進む道を作り出せればいいと思っています。これが私の決意です。他に、立候補者は」


「では、採決を取りましょう」


おばさんが口を開く。丸々と太った体を揺らしながら周囲を見渡した。それに対して海道姫子はキョトンとしている。


「海道姫子が代表に就任することに反対な人は手を挙げてくださらない?」


おばさんの言葉に誰も手を挙げない。オレは真剣な表情で口を開いた。


「海道姫子の護衛役として尋ねたい」


「周」


「大丈夫だ。オレは確かに賛成だ。だが、賛成になった理由を聞きたい。ほとんど部外者感覚で言えばこの場は全て海道巧が代表になる予定だった。なのに」


「子供のあなたにはわからないかもしれないけど、私達は賭けたのよ。姫子がどこまで海道家を引っ張れるか。あそこまで言われたなら私達は賛成するしかないじゃない。それはある意味投資よ。第76移動隊が生まれた時と同じで」


「なるほどね。ありがとう」


確かに、そういう考え方もある。だけど、今回はかなり分の悪い賭けのはずだ。普通はこんな風にはしない。


最悪、海道家自体が潰れかねない。


「それに、こんなに可愛いボーイフレンドがいるじゃない」


「「ボーイフレンド?」」


オレと海道姫子は同時に首を傾げ、そして、お互いの顔を見る。そして、おばさんの方を見た。


「誰が!」


「そうよ。周は今日彼女連れで来ているんだから」


彼女でもない、とは言えなかった。実際に亜紗が好きなのは事実だしな。


「あらあらまあまあ。つまり、そういうことよ」


「わけがわからないよ」


オレは呆れたようにため息をついた。


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