第八十一話 海道家の周
タイトルについて意味が不明かもしれません。これについては後々語っていきますが、一応はある意味『悪夢の正夢』達の正体のヒントでもあります。
というか、最初考えていた話と大幅に違うことになったんですよね。日にちを開けたからでしょうか。
普通であることは難しいとは思う。それは普通というものがどういうものか理解出来ないのもあるが、オレみたいな普通とはほど遠い道を歩んでいたら普通がわからない。
昔から強くなろうとした。大人であろうとした。それは『赤のクリスマス』を起こさせないためとは言っても結局はお金のためだったかもしれない。
茜のためにお金を稼がないといけなかったから。
でも、今の茜は本当に幸せそうだ。普通であることが出来なかった。満足に歩き回ることが出来なかった茜だからこそ、満足に走り回れる今の状態は本当に幸せなのだろう。
「お兄ちゃん、嬉しそう」
ベンチで一緒に座る由姫が嬉しそうに語ってくる。ちなみに、茜は音姉と追いかけっこをしていた。ただ、音姉が本気で逃げ回っているので茜がひたすら追いかける形だ。
音姉って意外と負けず嫌いだからな。茜も負けず嫌いだけど。
「そりゃな。オレのせいで茜は核晶欠損症になったんだ。元気に動き回ってくれるなら、それだけで十分に幸せだ」
「そうだったね。でも、茜ちゃんがここまで元気になるなんて」
「オレもすごく意外だ。やっぱり、天才のアリエル・ロワソにはかなわないな」
あいつは桁が違う。『ES』というのはあいつ動かしていると言っても過言ではない。戦闘能力はもちろん生体兵器を開発する頭脳。そして、人工核晶。
オレも機関関連で天才と呼ばれているし、その自負も多少なりともあるけれどさすがに、アリエル・ロワソには勝てない。
あいつは天才の中の天才。世界で一番天才の枠の上にいる男だろう。
「お兄ちゃんって昔ほどアリエル・ロワソのことを悪く言わなくなったよね。どうして?」
「あいつも、世界について考えているからな。今まで戦って奴らもそうだ。エレノア達がいた魔界貴族派。真柴と結城。アリエル・ロワソだって、法律から見たら犯罪者だ。真柴と結城なんて価値のないものの排斥。でも、それは世界から見たら正しいことなのかもしれない」
法律によって犯罪者を捕まえて世界が滅ぶより、犯罪を逃して世界を救う方が指示する人は多いだろう。だけど、世界はそれを信じない。自分達が考えるよりよい方向に向かおうと互いが動いている。
世界を救うとするなら過激に動かないと無理なのだ。それも、極論のレベルで。
「お兄ちゃんは考えたんじゃないの? どうすれば世界を救えるのかを」
「考えたというより策を考えたしかないな。だけど、未来を知る人によって変わっていく世界は結局はその未来に繋がっているんだ」
「えっと、どういうこと?」
由姫は首を傾げる。今の説明で理解された方が困るけれど。
「要するに、どれだけ世界が動こうとも、過激な行動をとろうとも、それに反対する勢力、まあ、オレ達『GF』だろうな。それによって鎮圧されていたら結局は同じ未来に繋がっていくんだ」
「つまり、どういうこと?」
「だから、慧海や時雨は警戒している。『赤のクリスマス』以上に世界を変える事件が起きる可能性があるからな。それに、本当に未来を変えるつもりなら何かを起こさないといけない」
そうしなければ世界は変わらない。変えられない。ただ、事実を知らせただけでは人は信じないだろう。だから、それが起きることを示す事件が必要だ。
世界をどう救うか。それが問題になってくる。どうやって事実を知らせるかが問題になってくる。だからこその事件だ。
「『悪夢の正夢』の奴らも結局は世界を変えるために何かを起こすかもしれない。オレ達はただ、後手に回るしかないんだ」
「大変なんだね」
「他人事のように言わないでくれよ。大体、世界をどうこう変えようかだなんて」
ちょっと待て。考えてみろ。『赤のクリスマス』以降に何が変わった? 世界の軍事力? 『ES』の動き? 一番変わったのは『GF』だ。
あの日、親父やお袋は若手メンバーで集まるパーティーに参加していた。若手と言っても二十代から三十代の主戦力メンバーだ。そこには楓や中村の両親もいた。
だけど、『赤のクリスマス』によってそのメンバーが全滅。『GF』の戦力が一時的に下がり、それにより各地で治安が悪化。オレ達みたいな子供でも活躍出来る戦場が出来上がったんじゃないか?
『赤のクリスマス』ではっきり変わった。変わったけど、世界を救うためなら逆効果だ。主戦力メンバーだからこそ滅びに対抗するために必要なはずだ。
なのに、狙った。つまり、それは、
「生きた証拠を隠すなら絶望的な状況での行方不明か」
繋がっていく。頭の中でとある推論が繋がっていく。それが真実なら今までのことはありえる。全ての事象を統合しても納得は出来る。
だけど、それは今の『GF』の体制を根本的から破壊しかねないものだしそれによって第76移動隊も被害を受ける。
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
「何でもない」
これは話さない方がいい。確信に至るまで話さない方がいい。
今、この状況で由姫を危険な目に合わせない方がいい。調べるのはオレ一人だ。
「ちょっと、慧海と連絡を取ってくる。すぐに戻ってくるから由姫はそこにいてくれ」
「う、うん」
由姫は心配そうな顔で見送る。長い付き合いだから何かあるのはわかっただろう。だけど、それを聞かないでくれるのは本当にありがたい。
話せるなら話したいのだけど。
オレは早足でその場を立ち去りながらレヴァンティンを取り出す。これはレヴァンティンに調べてもらわないといけない。
『マスター、私に何を頼むつもりですか?』
「気づくか?」
『当たり前です。どれだけの付き合いだと思っているんですか?』
その言葉にオレは苦笑してしまう。レヴァンティンとは本当に長い付き合いだし最高のパートナーだ。だから、こういうことを頼むことが出来る。
「今から言うことを調べてもらえるか?」
オレはレヴァンティンに向かって口を開いた。
『正気ですか?』
言い終わったオレにレヴァンティンが言葉を返してくる。まあ、この反応は予想していたから仕方ない。
だけど、実際に言われてみると結構傷つくんだよな。
「正気だ。ありえない話じゃないだろ」
『そうですね。確かにありえないことはない話ではありますが、私からすればきの頭文字がつくか疑いますね』
「むしろ、そんな隠され方をされたらかなり気になるからな」
オレは小さくため息をついた。そして、レヴァンティンをポケットに戻す。
「ともかく頼む。今回は当たって欲しくはないけれど、もし当たった場合のことを考えないといけない」
『最悪は自分の身を滅ぼす方法になりますよ』
そうなることはわかっている。もし、そうだとしたならオレや茜は確実に誹謗中傷の的になる。
それがわかっていたとしても、いや、わかっているからこそ、この手で終わらさないとダメなんだ。
それが、あの日からずっと続いている海道の名を持つオレの役割だとわかるから。
「自分の身を滅ぼしてでも、オレは『悪夢の正夢』達を止めないといけないんだ。誹謗中傷なら慣れているさ。海道家にいた頃からな」
あの頃と比べたら遥かに天国だ。あの時のオレの評価は海道家の役立たず、はまだ軽い方で、一部では生ける屍とも言われた。
魔界の一部に存在するアンデットの一族は魔術が使えないからそれの引用だろうが、改めて考えてみると本当にすごい呼ばれ方だよな。
「だからこそ、オレは断ち切ってみせる。オレがやらないといけない役割なら進んでこの身を晒してやるさ。そして、この世界を救ってやる。それだけの覚悟を決めなけりゃ」
オレは歩き出した。茜達がいる場所に向かって。
「『悪夢の正夢』達と戦うことは出来ない」
今月は全アクセス記録が全てにおいて自己最高の記録を出しました。有名な人と比べたら些細な数字ではありますが、読んでくださる皆さん、ありがとうございます。
学生にとって進級のかかる大事なものの最中にむしろペースを上げたりもする無謀な挑戦をしていました。自分でも馬鹿だと思いますが。
来月は他の作品も進めて行くのでこれのペースは遅くなる予定で行こうと思っていますが、予定は未定です。