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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第七十五話 学業

学校の日常を書くのは難しいですね。戦闘なら流れに身を任せて簡単に進むのですが。


私は小さくため息をついていた。そして、前の席で呑気にご飯を食べている周を睨みつける。


「ため息なんてついて。幸せが逃げるぞ」


「誰のせいよ誰の。周のおかげで色々な競技に出ることになったんだからね」


「まあ、意味があることだから頑張ってくれ」


「意味?」


私は首を傾げた。それに周は笑って答える。


「中間試験だから。魔術無しでメグがどこまで成長したか。無理だと判断したら第5分隊に異動だから」


「鬼! 悪魔!」


まさかの宣言に私は叫んでいた。中間試験というのは完全に予想外だし、第76移動隊に入ったからもう安全だと思っていたのに。


周の言葉に同じようなことを思ったのか誰もがポカンとしていた。


私の味方はいっぱいいる。


「周、それは軽いぜ」


「うん、軽いね」


「軽いですね」


「俺様もだ」


「軽いな」


「軽い、と思い、ます」


「私の味方は誰もいないの!?」


実際には由姫が何も言ってないけど由姫は完全にノーコメントらしい。こういう時の黙秘って肯定の意味よね?


私は小さくため息をついた。もう、どうしようもない。


「わかったわよ。中間試験として受ける。でも、結構ヤバい種目あるんだけど」


学園都市の体育祭で一番有名だと言われている借り物競争。学園都市外の学校ならすぐに借りれるものだろうが、学園都市のは無駄に範囲が広い。だから、借り物によっては体力が関係なく勝ち負けが決まる時がある。


借り物としては、三人以上の校長のかつらとか第76移動隊の隊旗(駐在所)の物置の奥底とか個人名とか友達とか。


ともかく、範囲がかなり広い。


実際に亜紗さんですら負けたらしい。


「それは無理。孝治でギリギリだぜ。んな勝負は絶対に勝てないから。まあ、孝治の場合は場所が良かったというべきか」


周は少し遠い目をしながら言う。だけど、それ以外の競技もかなり大変だと思う。


障害物競争に800m走と障害物パン食い800m競争。最後のは本当に体育祭の見せ場だ。


「まあ、一位を取って欲しいのは障害物競争だな。実戦では全てが平地だと限らないし。障害物パン食い800mは、頑張れ」


「あれって案外難しいらしいからな。ただ走るだけじゃ一位にならないって聞くしよ」


「噂だと800m走中にパンを何個確保したかによってタイムが減るらしいよ。僕もよくわからないけど」


障害物パン食い800mは障害物競争とパン食い競争と800m走を合体させたもの。本当に混沌とした競技で、去年見た限りパンを確保しながら障害物をくぐり抜けて行くという奇抜な競技。


ただし、面白い競技でもある。順位が変動しやすく、『GF』隊員でも簡単に負けることで有名。見ていて本当に楽しいけど。


「まあ、メグがどれだけ頑張れるかだな。体育祭だけじゃない。普通に学業も。第76移動隊にいることを言い訳にはするなよ」


「むぐっ」


学業に関してはかなりヤバいかも。まだ、高校の最初だからついて行けるけど、これからついて行けるか本当に不安だ。


すると、由姫が呆れたようにため息をつく。


「メグさんだけじゃなくみんなに言った方がいいですよ。第76移動隊の戦闘分隊で赤点スレスレじゃないのは兄さん、孝治さん、亜紗さんなんですから」


「じゃ、第76移動隊ってバカばっかり?」


私の質問に周は躊躇うことなく頷いていた。


「一番どっぷり『GF』に浸かっているのに勉強出来る方がおかしいからな。まあ、亜紗は訓練と自主練後に勉強しているらしいけど」


「じゃ、なんで私だけに言うのよ」


「途中参入の奴らは大抵頭がいいからな。メグもしっかり頑張るように。まあ、テスト前は勉強会開くからその時にしっかり勉強すればいいさ」


そう言いながら周は口の中にご飯を運ぶ。確かに周は勉強出来るらしいから頼りになるけど。


「この学校に入れたんだから勉強はまずまず出来ると思うんだけどね。そう言えば、今回のトップでやっぱり周なのかな?」


「真人、俺様にはお前の言っている意味がわからないんだが」


「これくらいは常識だよね!」


「自慢じゃないがテストは出来ないのが当たり前だ」


「うわぁ、本当に自慢にならないや」


真人とハトのやり取りに私は笑みを浮かべる。見渡してみればみんな笑みを浮かべていた。


テストは5月の真ん中だ。そんなに難しくはないという話はよく聞くけど、やっぱり心配なものは心配だ。ちゃんと勉強しておかないと。


「勉強くらいなら見るぞ。一応、テスト勉強なんて復習で済むから」


「大丈夫だ。俺が見る」


周の申し出を一誠が慌てたように遮る。その行動は少し不自然だった。今までの一誠なら希望者には傍観という感じであまり意見を述べなかったのに急に割り込んでいる。


どうやら周も同じようで不思議そうに一誠を見ていた。


「そうか? なら、いいんだ。まあ、オレからすればありがたいんだけどな。というか、ハトは本当に大丈夫なのかよ。いつも授業で寝てるだろ」


「えっ? 授業って寝る時間じゃないの?」


鶴の一声ならぬハトの一声で私達だけじゃなく教室全体が静かになる。


ハトに関してはこの教室でもかなり有名人だ。あらゆる授業を寝るという意味で。だから、私達は完全に固まっていた。まさか、授業をそういう風に思っていたのに。


「これは重傷ですね。健さん、あの方法をしますか?」


「するしかないな。さもないと、ハトの奴は本気でテストを落としかねん。一誠も同意見か?」


「いや、今回のテスト範囲は受験で勉強した範囲にかかっている。あの方法でいけば大丈夫だろう」


「あの方法って何ですか?」


由姫が不思議そうに首を傾げる。私も同意見だ。あの方法というのが見当もつかない。一体、どんな手段で覚えるのか。


ただ、周はなんとなくわかっているのか少し苦い顔をしていた。


「ハトは筋トレしながら勉強すれば何でも覚える。そういう奴だ」


「効率はかなり悪いけどな」


周が苦笑する。やはり知っていたらしい。確かに効率は悪いがそれだけで覚えるならかなりのものではないかとは思う。絶対に真似したくないけれど。


私の場合はひたすら書いて覚えるタイプかな。


「そう言えば、周ってどうやって覚えているの?」


私はふと疑問に思って尋ねてみた。すると、周は若干苦笑している。どうしてだろうか。


「一日中机に向かって勉強を一ヶ月くらいかな」


その言葉に私達は固まった。


周が一瞬何を言っているかわからなかったからだ。一日中机に向かってるのはわかるが、それを一ヶ月する意味がわからない。


「昔にありましたね。兄さんが白百合家に来て一ヶ月ぐらいしてから、食べる時と寝る時以外全部勉強につぎ込んでいるのを」


「あの頃はちょっと心の病気にかかっていたからな。まあ、おかげで今のオレがあるけれど」


「ごめんなさい。私、不用意に」


すると、周は首を横に振った。その表情はさながら気にしなくていいという風に。


「あの時はあの時でオレも大変だったからな。それに、その時のオレをオレは否定しない。今まで起きた全ての出来事がオレを形づけているからな。それに、親友達にも知ってもらいたいし」


そう言いながら周は笑みを浮かべる。その笑顔はさながら子供のような天真爛漫な笑顔だった。


それを見た私は安心して少しだけ笑ってしまう。周はやっぱり強い。第76移動隊隊長というのもあるけど私達なんかよりも遥かに大人びている。すごい。本当にすごい。


「でも、周君は、アメリカの、大学を卒業、したって聞く、けど」


「飛び級でな。大学を卒業しなければ部隊の隊長になれないから頑張って。あの時は本気で大変だったからな。由姫はワンワン泣いたし」


「い、言わないでください。あの時みたいに兄さんが長期間いなくなるのは初めてでしたし。姉さんも母さんも父さんも忙しかったので」


赤くなりながらもじもじする由姫。それを見た私達は思わず吹き出していた。由姫はキョトンとして私達の顔を見ている。


周は暖かい目で由姫を見ながら頭を撫でてるし。


「そうだ。由姫。今、あのことを相談したらどうかな?」


「あ、あのことですか? えっと、その、兄さん」


由姫が周の方を見る。それにつられて私も周の方を見た、が、そこに周の姿はなかった。見えたのは逃げ出すように教室から出て行く周の姿。


由姫がゆらりと立ち上がる。


「兄さん、いい度胸ですね」


何もしていないはずなのに由姫の足下でミシッと嫌な音が鳴り響いた。それを聞いた誰もが思わず顔を見合わせてしまう。視線が合わなかったのは由姫だけ。


「今日という今日は逃がしません!」


その言葉と共に走り出す由姫。その姿はほんの一瞬で消え去っていた。


「あはは。相変わらずあの二人は面白いね」


私は笑ってしまう。見ればみんなが笑っている。これくらいは周も許してくれるだろう。だから、私は笑ってしまう。


これから物語はいつの間にか日にちが過ぎていきます。

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