第七十二話 作戦中
お気に入り登録が増えてきていて驚いています。こんな拙い文章を読んでいただきありがとうございます。
それからオレ達は大忙しだった。
基本的には見回りを行うのだが、担当地区で見回りを行うのは空戦及び準空戦を持たない面々、まあ、メグと、ベリエ、アリエに七葉だ。
それ以外の持たない面々は駐在所で情報整理。そして、オレ達は空を駆け回っていた。
航空戦力が少ないということもあるが移動隊という制限を気にしないで行動出来るからだ。
空戦メンバーは工場や住宅エリアに。準空戦メンバーは学園施設エリアを走り回っている。
「にしても、こうなるとはな」
空中に作り出した足場に次々と飛び乗りながら周囲を見渡す。周囲ではたくさんの『GF』隊員が戦闘服を着て動き回っていた。
空中からでは地上から見えない動きがよくわかりかなりありがたい。例えば、路地裏を慌てて逃げている男とか。
足場を蹴る。ほぼ垂直に落下しながらオレはそいつらの前に着地した。
「路地裏を走り回っていたら危ない。転けて怪我をするかもな」
「な、な、な、くそっ!」
男がナイフを抜いて切りかかってくる。だけど、そんな動きはメグよりも遥かに遅い。
オレはそいつの手を取り背負い投げた。背中を打ちつけて男がナイフを放す。それと同時にポケットから粉状の何かが零れ落ちた。
男はそれを回収しようとするが、オレはそれをすかさず手に取る。
「ちょっと、同行を願えるか? ちなみに、これは任意じゃない強制だから」
オレの言葉に男は肩を落とした。
孝治は空に浮かんで弓を構えていた。別にサボっているわけじゃない。孝治が弓を使う時はかなりの集中が必要だからだ。だから、孝治は集中して周囲を見渡している。
すると、孝治は唐突に弓を下ろした。一台のトラックが出て来たからだ。しかも、そのトラックは出る前に周囲を見渡して誰かがいないか確認を取っていた。
つまり、怪しい。
「地点R-P25。トラックが一台」
『うちも確認した。前はお願い出来る?』
「当たり前だ」
孝治は笑みを浮かべると垂直に落下しトラックの前に着地した。道路には全く車の気配はない。工場エリアまでバスが通っていないのもあるが、工場エリア専用のトラックは今日はかなり厳しく検査されるためなかなか入ってこれない。
だから、道路に立っても跳ねられない。
運命を鞘から引き抜く。それを見たトラックはスピードを抑えるのではなくさらに上げた。完全に孝治を轢く気だ。ただ、孝治には笑みが浮かんでいる。
「断ち切れ、運命!」
パン、とタイヤが破裂した音が鳴り響き、トラックが火花を散らしながら地面を滑って止まる。
孝治は静かに運命を鞘に戻す。孝治はあの瞬間にトラックの車輪のみを切断したのだ。横転する危険性はあったが、幸か不幸か近くに病院があるため大丈夫と判断していたりもする。
運転席から慌てて二人の男が出て来て逃げ出すが、音を聞きつけてやってきた『GF』隊員が前を塞ぐ。
「また、つまらぬものを切ってしまった」
「何かっこつけてるん?」
いつの間にかやってきていた光がレーヴァテインのコピーを消しながら着地する。
孝治は少し顔を赤らめて逸らした。
「やってみたかっただけだ」
「クスッ。可愛いな~。じゃ、積み荷を調べよか」
「ああ」
孝治と光はトラックの積み荷を調べるために歩き出した。
オレは静かに周囲を見渡した。亜紗とこの地域の『GF』隊員三人が頷いてくる。
すでに裏口も確保しているため大丈夫だろう。
オレは手に持つ薙刀を握りしめ、扉を開けた。
中にあるのはいわゆるバーだ。そこではお酒も販売しているがちゃんと年齢確認をするタイプだ。
「第76移動隊隊員白川悠聖だ。匿名の報告により調査させてもらう」
「なっ、君達は何の権限があって、調査は警察の管轄だろうが!」
バーの主人はうろたえながら反論してくる。まあ、そうなるとはわかっていたけどな。オレは亜紗に奥の道を指差して書類を一枚見せる。
「今回は警察から正式に許可をもらっている」
正確には今日の見回り中、家宅捜索などちゃんとした手順を踏まえれば『GF』や学園自治政府でも介入していいということになっている。
唯一の『GF』や学園自治政府の手が及ばない店内も今日だけは簡単に手が出せる。とは言っても、来年から完全移行して踏み込み用のみにいた警察部隊も撤退するんだけどな。希望者を残して。
これは予想外だったのか目を見開いて固まっている。
「だから、今は大人しく」
「死ね!」
向かって来たのは一本のナイフ。オレはそれを一瞥して手のひらを向けた。
「流動停止」
ナイフが空中で静止し薙刀を叩きつける。もちろん、一撃で昏倒。
「まさか、包丁じゃなくてナイフを隠し持っているとはな。亜紗達は大丈夫か?」
「あら? 喧嘩?」
その言葉にオレは振り向いて薙刀を構えた。そこにいたのはおばさ
「それ以上思ったら殺すから」
化粧がどぎついお姉さんだ。年齢はおそらくアラフォーぐ
「それ以上思ったら殺すから」
見た目は二十代後半だ。というか、
「心読めるのかよ」
「ふふっ、どうかしらね。第76移動隊隊員白川悠聖君」
「あんた、何者だ?」
「匿名人よ。それと、また会うこともあるかもね」
女性が店から出て行く。オレはそれを見ながら追いかけることが出来なかった。あいつ、今のオレと同等くらいの実力があるだろうから。
オレは近くの椅子に座り込んだ。
「なんなんだよ、一体」
『『悠聖』』
アルネウラと優月の声にオレは答えることが出来なかった。
壊れんばかりにキーボードを叩きまくっている委員長。その横ではゆったりと琴美がキーボードを叩いていた。
立体ディスプレイにあるのは様々なデータ。更新されていっている確保者のデータだ。ナイトメアやそれ以外のドラッグなど一斉に摘発されているのかすでに50はあるだろう。
「かなりの数があるわね。そっちはどう?」
「こちらもですね。学園都市内に戸籍の無い方が数人います」
「不法滞在か。それを叩くのはかなり難しいわね。今はそれを無視して整理に回りましょ。後は確保した場所を地図でだしてどの地域が多いか洗いざらい探すわよ」
「それなら」
委員長がエンターキーを叩くと琴美の立体ディスプレイに地図が現れた。そこに表示されているのは今回のナイトメアらしきものが見つかった場所。
商業エリアに関してはまだわかっていないからかデータはないが、学園都市西側に集中していた。
周が強制同行した人や孝治の停止させたトラックは南側に近い南南西になっている。
「西側ね。他にもポツポツ見つかっているけどあくまで西側が主流ということかしら」
「私もそう思います。西側に工場がある場合、ここから商業エリアに出せば違和感はありませんし」
「そうね。このデータを周達に送りましょ。このままでいるより周達に送った方が上手く回るわ」
「はい」
二人のキーボードが激しく動く。ちょうどリースが見回りから帰ってきたのだが二人は気づかない。二人は一心不乱にキーボードを叩いている。
そんな様子を見たリースは少し呆れたようなため息をついてソファに座り込む。
「見回りはこれで大丈夫かな」
七葉さんが大きく伸びをする。私はその言葉を聞いて安心したように息を吐いた。
「これで終わりですよね」
「うん。隅々まで見たしね。まあ、この区域は第76移動隊担当だから動きがない可能性はあったけど。だから、私達だったんだよね」
「そうね。全く。私達だって一応準空戦なんだから捜すのを手伝っても良かったじゃない」
「ベリエちゃん、私達は援護が得意だよ?」
「わかっているわよ」
ベリエさんが小さくため息をつく。そして、私を睨みつけてきた。
「メグ。終わったばかりだからって気を抜かないように。駐在所が終わるまでは警戒していなさい」
その言葉に私はポカンとした。そして、ベリエさんが歩き出す。その背中を見ながら七葉が笑みを浮かべた。
どうやら私は心配されているようだ。この中じゃ一番戦闘ランクは高いはずなのに。
「ベリエはいつも通りかな。じゃ、メグの歓迎パーティーを帰ったらしようよ」
「お~」
七葉さんの言葉に賛同するアリエさん。私はそれを聞いて苦笑するしかなかった。
「見回りをもっとしなくていいんですか?」
「大丈夫大丈夫。罠はもう仕掛けたから。私達の目が黒い内はこの地域でさせないから、ねー」
「ねー。あっ、ベリエちゃん、早く歩きすぎだって」
「あなた達が遅いだけよ」
こんなやり取りに、やはり私は苦笑するしかなかった。