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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第七十一話 浮上

オレはA4のプリントを片手に小さくため息をついていた。隣には白衣をきたメガネの男がいる。


オレは小さくため息をついてそいつにプリントを返した。


「清水、これはちゃんとしたデータなのか?」


「ああ。君が持って来たクスリを詳しく調べてみたよ。今までのありとあらゆるナイトメアのサンプルと共にね」


清水は学園都市内部での研究者仲間だ。専門は全く違うが、何故か息が合ったためちょくちょく相談していたりもした。


今までは学園都市外に以来していたが、今回は今回だ。情報流出の可能性も考えてここにした。


「それだったら、今までの対策が一気に覆るな」


「そうだね。文字通りの悪夢。確かに、夢を見るという点では最高かもしれないね」


「冗談を言うなよ。対処が遅れていたら助からなかった。まさか、たった一粒で致死量を超えるなんてな」


A4のプリントに書かれていたのは中毒症状を引き起こした男が吐いた固形物のデータだ。オレはそれをナイトメアだと判断して解析を依頼した。


本当にちょうどのタイミングで郵便物として到着したケリアナの花の根から作られたナイトメア試作品を持って。慧海がいつの間にか作ってくれたらしいが、今回は本当に助かった。


「オレ達が追っていたナイトメアの原型がこれか。粉を叩いていたのは間違いだったとはな」


男が口に含んだのは確かにナイトメアだった。ただし、不純物が一切見あたらない高純度のナイトメア。この状態で一粒食べたなら確実に昇天するレベルでもあった。


だけど、手かがりは少し掴めたか。


「固形狙いを叩いた方がいいな。今から『GF』の会議を開かないと」


「データをまとめた記憶媒体だ。使え」


オレは清水から記憶媒体を受け取ってその部屋から出て行く。ちょうど外には楠木大和と浩平の姿があった。


一応呼んでいたのだが無駄にならなくて良かった。


「ビンゴだ」


「そうですか。つまり、ナイトメアは粉ではなく」


「固形。どうりで販売ルートがよくわからないことになるわけだ。粉ばっかり追っていたら本当にループしているからな」


「固形を砕いて粉にしたというわけね。周、お前が助けた奴の事情聴取は?」


オレは肩をすくめながら首を横に振った。そもそも中毒症状を引き起こして死にかけた奴が昨日の今日で話せるわけがない。ただし、近くにいた二人からは色々話を聞くことは出来たけど。


「一緒にいた奴の話だと、被害者はラムネが好きだったらしい。固形のラムネな。いつものようにラムネを食べていた急に倒れたとか」


「つまり、ラムネがナイトメアだったと。迂闊でしたね。そのような経路は考えても」


「違う」


オレは首を横に振った。今回はそんな簡単なことじゃない。もし、ラムネが全てナイトメアだったなら助からなかっただろう。それは確実に言える。


オレは清水に返したA4のプリントのコピーを楠木大和に渡す。


「固形のナイトメアは一粒で致死量を超えているらしい。固形だけなら二人は殺せるだとさ」


「周、待った。でもよ、ナイトメアって粉状だと毒性は高くないよな?」


それは今までの見解だ。確かにナイトメアは毒性は高くない。だけど、今回のデータでは別の結果がある。


「固形だからですね。ナイトメアの粒子と粒子を繋ぐ物質、SG型タンパク質。これとナイトメアが繋がることで強力な毒性を出す」


「ああ。SG型タンパク質の厄介な特徴が火で炙れば簡単に機能を失うからな。おかげで、今まで見つけることが出来なかった」


もし、その厄介な特徴がなかったならもっと早くに見つけることが出来ていただろうに。悔やんでも仕方ないか。


オレは壁に背を預ける。


「見つかった場所も場所だ。学園施設エリアと商業エリアが隣接する場所。はっきり言って、一番厄介な場所。どちらで受け渡しされたかわからないからな」


「いえ、ラムネである以上商業エリアの可能性が高いでしょう」


「いや、ラムネだからこそ学園施設エリアの可能性も高いな」


言い終えてオレと楠木大和は同時に笑みを浮かべ合った。今まではわからなかったけど、オレと楠木大和との相性は悪くないかもな。こいつとなら色々対策を立てられるような気がする。


オレは頭の中で考える。明日には学園都市内全『GF』に会議を呼びかけている。だから、『GF』管轄内で見回りを増やしてもらうしかないだろう。


「これからの予定も大きく変わるな。だが、対策は出来上がっている」


「そうですね。見回りを強くするのと地道な聞き込み各学校からの注意喚起もしましょう」


「さすがに毒性が高いとなれば学校も放ってはおけないだろうな」


注意喚起は出来てもそれでは相手の警戒を上げてしまう。そうなると、


「注意喚起は金曜日。木曜日に全『GF』による見回り強化を行う。裏の裏まで調べてな」

「わかりました。学園自治政府も全勢力で同じように見回りをしましょう。相手が警戒するまでに出来る限り叩くという方針で」


「それが一番理に叶っているしな」


もし、学生に注意が行き渡ったら、不可能だけど、ナイトメアの売り上げは落ちて規模を縮小するだろう。なら、今の内に叩けるだけ叩く。


体育祭が近づけばその分お祭り騒ぎとなるため見つけるのはさらには難しくなる。


「連絡があるなら浩平に頼む。オレは一部第76移動隊駐在所に戻る。色々集まっているだろうしな」


「では、また」


オレはその言葉を背中に受けて歩き出した。今回の件は完全に後手に回った。まさか、ナイトメアが粉状じゃなく固形が元だったとはな。


オレは小さくため息をついて拳を握りしめる。


「『悪夢の正夢ナイトメア』奴ら、許さない」






「なるほど。そういうことだったのね」


オレが駐在所に戻るとそこにはアル、エレノア、琴美、そして、委員長の姿があった。他の面々は見回りを強化しているらしい。


「私が聞いた限りでは各『GF』がそれぞれ見回りを強化しているわ。各地で続々とナイトメアらしきものが見つかっているらしいし」


「ここまで行動が早いとはな」


完全な予想外だ。まあ、見回りを強化してくれるならこちらにとっても利点が多いからいいけど。


そうなると、一日早めた方がいいな。


「委員長、全『GF』に連絡。明日の会議を明後日に回す。明日は『GF』全隊員を動員して見回りを最大限強化すること。昨日あったことを踏まえて不審者には任意同行を」


「一斉捜査。しかも、学園都市全『GF』が行うのか。でも、そうしたら動きを悟られて見つからないのじゃない?」


エレノアが首を傾げながら尋ねてくる。まあ、普通はそうなったら隠れるだろうな。だけど、むしろそれが目的だったりもする。


「隠れるということは後ろめたいことがあるということじゃ。つまり、必ず不審な行動をする。周が不審者に任意同行をと言ったのはそれが理由じゃ」


「事件が事件だから不審者の持ち物検査は合法だ。堂々とされたら意味はないけど、そこまで出来るのは少ないだろ」


普通は無理だ。今頃『GF』だけじゃなく学園都市全体にナイトメアのことが広まっているはずだ。だから、『GF』を見れば動揺しやすい状況になっている。


それはオレ達からすれば完全に好都合だ。


オレはレヴァンティンを四回指先で軽く叩いた。今の話からレヴァンティンが勝手にまとめてくれるはずだ。そう考えるとレヴァンティンはかなりありがたい。


「私は聞き込みを行うは。固形というのも気になるし、何より一番気になるのはラムネと一緒だったってことよ。考えられるのは」


「無差別の殺人」


「ええ。そちらの線で考えてみるわ。エレノア、行くわよ」


「うん。じゃ、また」


琴美とエレノアの二人が駐在所から出て行く。その光景をオレ達は見ながら首を傾げていた。


「エレノアって琴美と仲が良かったっけ」


「さあ」


アルが肩をすくめる。あいつら、いつの間に仲良くなったんだ?

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