第七十話 見回り
第76移動隊と言っても行う見回りは他の部隊とあまり大差はない。溜まり場となりやすい場所を定期的に見回りだけだ。商業エリアの見回りはあまりしない。するとしても出来る限りフルメンバーで行う。
「こことか結構カップルの溜まり場だから見回り際には気をつけるように」
オレは説明したのは近くにある公園だ。公園と言っても遊具があるような場所じゃなく、芝生が広がり桜の木がたくさん植えられた公園。ちなみに、桜が満開になるとたくさんの人がやってくる。
地味に商業エリア以外のデートスポットでもある。
「注意する際は基本的に時間。それ以外はフリーだけど、不穏な感じがしたら一体を見回すように。一回、レイプ未遂が起きたから」
「本当に? ここ、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。実行犯全員の急所を由姫が蹴り上げて」
思い出すだけでかなり辛い。あのシーンは男としては地獄だ。
「それ以来、不埒な人間は蹴り上げられる伝説が出来て不審者が一気に減った」
実際、襲われた際には一番有効な手段だからな。オレからすれば絶対にやりたくない手段だけど。
まあ、ここはこれくらいでいいだろう。
「次は向こう側だけど、基本的には向こう側は学園都市第8地区地域『GF』、メグが前いたところが管轄だからわかるだろ?」
「うん。路地裏に結構溜まりやすかったから大変だったのを覚えている。じゃ、次は逆側」
オレはメグが指差した方角を見て頷いた。
そっちは商業エリアと隣接しているため人はそこそこ多い。まあ、平日だから言うほど多くはないけど。
「とりあえず、向こうに行くか。現地でいろいろ言った方がわかりやすいだろ」
「うん。でも、ちょっと意外だったかな。第76移動隊だからもうちょっと特殊な仕事があると思っていた」
「琴美や委員長もそうだった。『GF』移動課第一部隊。ある意味実験的な部隊だったからな。同年代でも極めて強い面々を一ヶ所に集めて高機動の部隊を作る。一応、他の部隊案であったのをオレ達が強引に奪った形だ」
そもそも、最初はオレ達に白羽の矢が立つことはなかったが、同年代の戦力が正規部隊、特に第一特務に分かれている以上、一つにまとめるのは難しいというものがあった。
そこで、オレが新しく部隊を作れないか相談したところ、同年代が誰も第一特務に入っていないオレ達に目をつけて評議会を除く『GF』上層部が賛成したのが第76移動隊だ。
年齢が低いのも正規部隊に分かれてはいるがそれぞれが同年代だからか認識があり仲が良かったというのもポイントらしい。
「第76移動隊はあくまで『GF』の一部隊。エスペランサという強襲艦がある以上、特殊作戦にブリッツはよくするけど日常はこういうものだ。訓練して見回りして、魔力負荷を高めながらお茶をして」
「最後のが鍛えているのか休んでいるのか分からないわね。でも、良かった。第76移動隊ってひたすら飛び回るイメージがあったから、見回りも範囲が広いんじゃないかなって」
「実際、ランニングかねて規定された以上の地区を見回るのはよくあるぞ。第76移動隊という特権乱用でな。まあ、飛び回るというイメージは間違ってはいないな。メグは学園都市の航空部隊の数を知っているか?」
「一部隊だよね」
空戦持ちは学園都市には案外少ない。正規部隊には部隊内全員が空戦持ちで航空戦力としてはかなりの制圧力がある部隊はあるが、学園都市ではたった一部隊。ちなみに人数は10ほどしかいない。
対する第76移動隊には楓、中村、冬華、孝治、アル、リースに限定的なら悠聖や都も飛べる。準空戦を入れたらさらに多くなる。まあ、そうなると学園都市内では百単位に膨れ上がるけど。
「第76移動隊は世界トップクラスの航空戦力がいるから空の見回りもしているんだ。まあ、学園都市の航空戦力自体が頼りにならないのもあるけど」
学園都市の航空戦力は基本的にはレアスキルだ。実力による純粋飛行が出来るのは二人だけ。どちらもAAランク。この二人ならまだ安心出来るが、残る面々は準空戦にすら落とされかねないレベル。不安にならない方がおかしい。
「だから、飛び回るというイメージは間違ってはいない。それに、商業エリアも合法的に見回れるしな」
「そう言えば。でも、商業エリアで第76移動隊の戦闘服は見たことがないけど」
「商業エリアは学園自治政府の管轄だ。オレらが全てを仕切るわけじゃない。だから、基本は私服。ただし、動きやすい服装ですぐに戦闘服に変えれるような姿」
見回りと言ってもよっぽどの事件がなければ駆けつけない。例えば、誰かが殺されるような事件やナイトメア関連の事件などが起きないならオレ達は私服で回るだけだ。それに、学園自治政府は信頼しているからな。
あいつらの学園都市をよくしようとする思いは本当に伝わってくるし。
「まあ、商業エリアは基本的に見回りをする名目で遊びに行くようなものだけどな。ただし、ゲーセンとかに入り浸るのは無しな。買い物はそんなに買わないなら大丈夫」
「でも、緊急事態があったら動くのよね?」
「時と場合によってはな。商業エリアは何度も言うが学園自治政府のエリア。学園自治政府の警備部隊が周囲に確認出来ない場合や、民間人がターゲットの場合は第76移動隊に限って学園自治政府より優先権があるんだ。まあ、学園自治政府の部隊が来たら現場を明け渡すんだけどな」
そういう事態にはなったことはないけれど、そういう事態になったとしても大丈夫だろう。学園自治政府って無駄に戦力は多いから。
「そういや、メグって浩平と会ったことはあるか?」
「ないよ。確か、学園自治政府のナンバー2だよね。双拳銃を使う姿は誰をも魅了するって」
「まあ、そんな奴だ。浩平は元第76移動隊だから後日顔合わせさせるから。学園自治政府側だから商業エリアについて詳しいしな。商業エリアで困ったことがあれば浩平の名前と第76移動隊の名前を出せば何とかなると思うから」
多用するのは止めて欲しいけど。まあ、商業エリアで困った時なんてまずないからな。
オレは小さく息を吐いて周囲を見渡す。
「ここでいいな。向こうが商業エリア。商業エリアに近い分、ここは路地裏に気をつけること。単身や二人組の場合は路地裏に入らず見るだけ。三人以上の場合は路地裏も見る」
「路地裏ってそんなに危険なの?」
「確か、五年前に殺傷事件があったんだ。犯人は捕まったけど、『GF』の隊員一人が亡くなりもう一人が大怪我。それ以来、路地裏に関しては複数人以上で入るように言われているんだ。まあ、メグの実力と武器から考えて言ってるだけだから今日は入るぞ」
狭い場所での槍は本当に使いにくい。剣も大概だから戦闘の基本は魔術だ。
オレ達は路地裏に入る。路地裏と言っても普通に歩く広さは確保されているため窮屈さは全くない。
「路地裏ってもっと汚いと思ってた」
「路地裏はちゃんと清掃されるからな。ここら辺を根城にする不良達がいるんだが、そいつらが清掃に力を入れていてな、清掃業者と本当に仲がいい。話してみたらわかるけど顔が厳ついわりにはいい奴らばかりだから」
路地裏を抜けて次の道に、
「おい! おい! 大丈夫か!」
その声が聞こえた瞬間にオレは走り出していた。そして、すぐに道を曲がって確認する。
そこにいたのは倒れている大柄な男とその男を揺すっている二人の男。見たことがあるから不良達だな。
「大丈夫か!?」
「えっ? あっ、海道さん」
オレはすぐさま倒れている男に駆け寄る。脈は正常ではなく口から泡を吹き出し体は微かに痙攣している。顔はほとんど真っ青だ。
「メグ、この位置を楓に連絡。その後すぐに委員長に連絡して病院の手配を」
「うん」
メグがデバイスを取り出して通信機器を取り付ける。オレはその間にオレの背中を触っていた。
「恨むなよ」
その言葉と共に拳を叩き込む。すると、倒れていた男が胃の中のものを吐いた。
すかさずレヴァンティンで術式補助を行ってもらい胃の中を綺麗な水で洗浄して吐き出させる。
「水属性は苦手なんだよな」
オレはそうぼやきながらまた水を男の中に入れる。だが、洗浄のためじゃない。水を吸収させやすいように成分を調整し、変わりに毒素を抜けやすいようにして入れる。
痙攣がだんだん収まってきた。顔は赤くなってきたし脈もだんだん正常になってきている。とりあえず、危険な状態は過ぎたな。
「周君!」
その言葉と共にカグラを握った楓が降りてきた。オレは大柄な男を担ぎ上げてブラックレクイエムに乗せる。
「病院まで頼む。委員長から連絡が言っているはずだ。薬物中毒で」
「うん」
楓がすかさず飛び上がる。こういう時は本当に頼りになる。
オレは楓から視点を戻して男が吐いたものをみた。そこにあったのは半分溶けた固形物。オレは氷属性魔術によって溶けるのを停止し回収する。
「海道さん、あいつは大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。これがよっぽどヤバい毒性を持ってなければ大丈夫。とりあえず、話を聞きたいから第76移動隊駐在所まで同行を出来るか?」
「あ、はい。俺達で良ければ」
オレは歩き出す。まさか、見回りの最中にこうなるとはな。これがナイトメアじゃなければいいけど。