第六十九話 強くなること
学園都市の『GF』の戦闘服は基本的に共通している。男子は脇から白いラインの入った緑色が基本の戦闘服で女子はその逆となっている。
メグもその学園都市『GF』女子用の戦闘服に身を包んでいた。
「この服で第76移動隊の業務って違和感ない?」
そういう気持ちもわかる。第76移動隊の戦闘服は黒と白。学園都市『GF』男子用の緑色が黒色になったと言えばわかりやすいだろう。
確かに、第76移動隊のバッチはつけているが違和感がある。まあ、オレなんて青色の戦闘服に白いラインがいくつも入ったものだけど。
「いいんじゃないか。それに、聖骸布を羽織るだろ」
炎獄の御槍を包んでいた聖骸布は今は収納されているが、いざ戦闘となればマントのように羽織る。ちなみに、聖骸布にある対裂性は対刃性とは違い一定以上の物理系の斬撃には意味を成さない。対する戦闘服は基本的な魔術耐性と高い対刃性があるから上手く噛み合っている。
ちなみに、防刃性ではないのが特徴だ。防刃性の戦闘服はあるにはあるが、八桁単位の値段になってくるセレブ御用達。
「やっぱり、早く第76移動隊の戦闘服が来ないかな」
「三日は待て。第76移動隊の戦闘服は他の戦闘服と違って魔術耐性を高くしたやつだからな。さてと、そろそろ行くか」
オレは装備を確認して駐在所の外に向かう。それに続くようにメグも後を追いかける。
「委員長、見回りに行ってくる」
「わかった。海道君はメグをちゃんとリードしてね」
「わかってる」
オレは苦笑しながら駐在所の外に出た。そして、大きく伸びをする。
「さてと、今日は第76移動隊の見回り地域を見て回るからな」
「周も見回りに行くんだ。私はてっきり分けられていると思っていたけど」
地域『GF』は基本的に訓練組と見回り組に分けられる。訓練組は非常時に前線に行くものの見回りはほとんどせず、見回り組は非常時はバックアップのために走り回るが前線にはあまり出ない役割がある。
だから、基本的にはどちらかではあるが、第76移動隊でそれをしたらかなり悲惨なことになるからな。
「人数が少ないからな。オレで週三は見回り。学園都市で数少ないフュリアス部隊があるからそっちにも人数が取られるし」
第76移動隊及び他の学園都市のフュリアス部隊は工業エリアに本拠地を置き、それぞれが様々な工業高校や工科大学など機械関連の学校と提携を結んでいる。第76移動隊の場合は様々な工業高校からエリートを選りすぐっているけど。
他のフュリアス部隊なら旧世代とかが多いため精密機器は少ないが、エクスカリバーやソードウルフは旧世代とは言えカリカリに弄っているため精密機器等も人界フュリアストップクラスの数がある。だから、かなりの知識が必要なのだ。
まあ、悠人一人でも点検や整備が出来るんだけどな。
だから、フュリアス部隊の方に悠人達やアルが行くため数はかなり少なくなる。
「それに、見回りだけでもかなり訓練になるし」
「どうして? ただ歩くだけじゃないの?」
「メグは魔力負荷って聞いたことがないか?」
自らの体に魔力という重りをつけることだ。訓練としては魔力使用時にだけ使われる魔力筋肉と呼ばれる部分と通常の筋肉も鍛えられる。
ただ、よほど鍛えた筋力がなければ魔力負荷はかなり危険だ。どれくらい危険かと言うと疲労骨折のリスクが跳ね上がる。
「聞いたことはあるかな。お兄ちゃんから。強くなる最初の関門だって」
「まあ、そうだな。魔力負荷が上手く出来るようになれば筋力が一気に跳ね上がるから単純には強くなる。ただし」
「力任せになりやすくなる、だよね」
「正解」
一芸特化ならまだしもオレはレヴァンティンを手に入れたと同時期に魔力負荷を使い出して一気に模擬戦で勝てなくなったからな。
力任せになればその分技に負ける。技任せになれば負けない戦いは出来ても勝てない。結構戦いは難しい。
「今のメグはこれからの訓練で魔力負荷に耐えられる体造りを目指す。魔力負荷さえ出来れば見回り中にも鍛えられるからな。ただし、魔力負荷に関する座学も受けてもらうぞ」
危険を知らなければ回避することは出来ない。メグはこれから十分に強くなる。だから、こんなところで止めるわけにはいかない。
「うん。ところで、炎獄の御槍の検査はいつするの?」
「明日。急だが、ちょうど行く予定があったからついでに調べる。ちなみに、魔力負荷を炎獄の御槍による身体強化で耐えようなんて思うなよ」
メグの体がビクッとなった。
こいつ、絶対にそれをする気満々だったな。
「一番疲労骨折しやすいパターンだ。まずは自分の限界を知れ。そして、一ヶ月かけて体を強くする。自主練の内容は?」
「走り込みだけかな。さすがに槍は夜に使えないから時間がある限り振っている」
「基礎は出来ているからな。足腰ももう少し鍛えれば大丈夫だし。メグって学園都市の『GF』にしてはかなり珍しいタイプだよな」
その言葉にメグが首を傾げた。まあ、そう思うのは無理もない。メグのタイプは基礎から鍛えて強くなるタイプ。学生に多い魔術を強化して強くなるタイプとは違う。
第76移動隊はそんなタイプは珍しい。ベリエとアリエくらいだが、あの二人は強力な結界術が使えるからそれでどうにかやっている。
二人の連続攻撃も受けに回ったら音姉ですら圧倒するからな。
「本当に強くなる意志がある。魔術で強くなれば限界があるんだ。まあ、楓や中村みたいな大火力を扱える才能があるなら別だけど、メグは基礎から強くなろうとしている。やっぱり、兄の教えか?」
「うん。お兄ちゃんはいつも言ってた。強くなるにはやっぱり基礎からだって。一気に強くはならないけどだんだん強くなっていく実感がある。それが楽しいって。でも、お兄ちゃんは最後は壁にぶつかっていたみたい」
その言葉にオレは炎使いのことを思い出していた。努力をしてもどうしても壁にぶち当たったことを言った男だ。それと重なる。
「頑張って努力し続ければいいんじゃないって言ったら、お兄ちゃんは現実を知ればわかるって言ってたな。あれが最後の会話だったけど」
「ぶち当たった壁。魔力負荷だな」
「周の話を聞いているとそう思う。お兄ちゃんも魔力負荷が使えたら、今もそばにいたのかなって」
メグが空を見上げる。オレはそんなメグの頭を撫でてやった。
「無理はするなよ。それに、魔力負荷も利点ばかりじゃないんだ。だけど、世界クラスまで強くなるには避けて通れない道。オレみたいな器用貧乏でも出来るから誰だって頑張れば出来るんだけどな」
「えっ? 周で出来るなら誰でもっておかしくないかな? 私は周だから出来ると思って」
確かにオレは天才と呼ばれている。平均的に高い器用貧乏ではあるが全体的に能力の高い天才と。でも、その理由はメグになら話していいかもな。
「雨の日も風の日も雪の日も台風の日も嵐の日も灼熱の日も毎朝毎昼毎晩寝る間を惜しみ、休憩時間にひたすら勉強し、来る日も来る日も木刀を振り、走り続け、余分な全てを排除してがむしゃらに訓練したからな。学校なんて行かず、それを無駄だと感じ、努力することが当たり前で強くなろうと頑張って。何回吐いたか、何回血を出したか分からない。そこまでしてオレは強くなった。そこまでしてようやく『GF』に入った。それからも強くなろうと頑張った。白百合流、八陣八叉流、白楽天流、他にも使えるものは全て覚えた。レヴァンティンを手に入れてから魔力負荷を無理してかけてさらに強くなろうとした。そこまでしたら、誰だって強くなれるさ」
ただ、今のオレなら断言出来る。そんなことは不可能だと。不可能だからこそ、オレはここまで強くなることが出来た。
時雨や慧海や第76移動隊のみんなはオレを努力の天才と呼ぶけど、それは本当に正しい。気が狂っているほど努力したからな。
「でも、今はみんなと知り合った。努力だけがオレを強くするわけじゃないって知った。由姫がオレを救い、亜紗と共に支え合い、都が慰めてくれて、アルがそばにいてくれる。今の強さは今までの努力の結晶で仲間との絆だってわかるんだ。あっ、悪い。しんみりさせたか?」
メグは首を横に振った。
「周が天才と呼ばれる意味が少しわかった気がする。確かに、ここまで頑張ったら強くなれる。私も、これから周みたいに強くなりたいな」
「なれるさ。覚悟があるならな。さてと、見回り、ついて来いよ」
オレはスピードを上げる。少し恥ずかしく思えたから。だから、オレは顔に少し笑みが浮かんでいた。