第六十八話 相談事
これからメグ視点がちょくちょく入る予定です。
昼休みの屋上。一般に解放されたその場所で私と夢、由姫の三人は昼ご飯を食べていた。いつもなら周や健さん達を誘うけど、由姫から相談事があるらしく三人で食べることに。
そうなったのはいいのだけど、
「これ美味しいですね」
「秘伝のタレを、使っている、から」
「なるほど。どうりでここまで美味しく味が出るわけですね」
「由姫さん、のも、美味しい」
「今日は姉さんの作品です」
「疎外感がヤバいんだけど」
ちなみに私は料理が出来ません。全部時音任せだから。
私は小さくため息をついて由姫に尋ねた。
「由姫、相談事って何?」
「そうでした」
由姫が姿勢を正す。そして、私見てくる。一体何を話すのだろうか。
「メグは胸の大きくする方法を知っていますか?」
「はい?」
私は思わずそんな声を上げていた。
「そういうわけだ」
オレは弁当を突き合っている孝治と中村の二人に相談していた。
二人は由姫が機嫌悪いと聞いて真剣に話を聞いてくれている。
「ふむ、確かに思いつく心当たりはないな」
「そうやな。やけど、あの由姫が海道を無視するほどやで。しかも、顔を赤らめるなんて、無意識にやった、あう」
オレは中村の額を軽く突いた。中村が声を上げながら額を押さえる。
「んなわけあるか。そ、そんな破廉恥なこと、だ、誰が」
『都にはしたよね』
いつの間にか視界の中に入っているスケッチブックにオレは小さくため息をついた。そして、ゆっくり頷く。
ちなみに、この行動だけで周囲から悲鳴が上がったのはどういうことだろうか。つか、亜紗はいつの間に入ってきた。
「亜紗、いつの間にいたん?」
どうやら中村も同意見のようだ。亜紗は胸を張って、
『由姫は私の大事な親友だから』
親友の話には必ず入るってわけね。ただ、オレ達が聞いているのはいつの間にいたかどうかだ。理由じゃない。
まあ、亜紗がいてもいいか。
「その話は置いておいて」
「花畑君、この書類の確認って、海道君!?」
「なんでそんなに委員長は驚いているんだ?」
いつの間にやら委員長まで来てるし。オレ達は円になるように座り直す。
「孝治達に相談していたんだよ。由姫の機嫌が悪いのか悪くないのか分からないのに無視されるって」
「「シスコン」」
委員長の声と悠聖の声にぐさっと、あれ? 悠聖の声。
「面白そうなメンバーでいるよな。オレも混ぜてくれよ」
「「帰れ」」
オレと孝治の声が同時に被さる。こういう時だけオレ達は最大限以上のチームワークを発揮するからな。
「人の相談事を無理やり聞こうとするとは調子に乗るのもいい加減にしろ」
「あれ? なんかオレが攻められてね。周隊長、孝治をどうにかしてくれ」
「お前に話したくないから帰れ」
「お前もか! いいもんいいもん。アルネウラと優月が焼いたクッキー」
その時にはアルネウラと優月の二人がオレ達にクッキーを配っていた。
『お裾分けだよ。悠聖のはないけど』
「えっと、一欠片くらいは残そうよ」
「裏切り者ーッ!」
悠聖が廊下を駆けていく。今、あいつ本気で泣いていたよな。
オレ達は小さく笑みを浮かべ合いクッキーを口に含み、全員が同時に顔をしかめた。
『えっ? えっ?』
アルネウラが少し青くなりながら周囲を見渡す。オレは小さくため息をついて持っていたクッキーをアルネウラの口に放り込んだ。
『むぐっ、塩辛い』
「砂糖と塩を間違えたよな? 気づかなかったのか?」
塩クッキーと言われたならまだ納得出来る味だからいいが、砂糖の甘味が全く感じられない。
お菓子は専門外だから分からないがこんなのどうやって作るんだ?
『うう、悠聖はおいしいいいながら泣きながら食べてたのに』
「塩辛くて泣きながらか。まあ、塩辛いと言ってもまだ、うぐっ」
口に放り込んだクッキーを思わず吐きそうになった。よく見れば全員があまりのことに口を押さえている。委員長に至っては首を横に振っていた。
オレは頑張ってその物を飲み込む。
「優月、お前、砂糖どれだけ入れた?」
「台所にあっただけ全部」
どうりでこんなに甘ったるいわけだ。味を表すなら、砂糖をふんだんに入れた生クリームに蜂蜜と練乳と砂糖をこれでもかとかけてさらに各国の激甘調味料以下略を全て混ぜて一口で食ったような味。
まあ、簡単に言うならクッキーじゃなく甘い何かを食べた感じだ。その前に食べたのがギリギリ食べられる塩辛いクッキーだったからかみんなが吐きそうになるくらい甘い。
「マズいな」
食べた結果はそうなる。悠聖は頑張って味見したんだろうな。
「『うわーん』」
二人が泣きながら廊下に、正確には悠聖のいる場所に向かって走り出す。まあ、追撃をくらうだろうけど。
「うわっ、海道って容赦ないな」
「料理に関しては容赦ない方がいいんだよ。まあ、食べるけどな」
オレは二人の残ったクッキーを口に含む。
料理はちゃんと食べて何が悪いか教えないといけない。まあ、そこは悠聖が教えるだろう。悠聖はああ見えてお菓子作りに関しては桁違いの知識と腕前を誇るから。
確か、前にわけが分からない名前のケーキを作ってオレ達に食べさせてきたけど、あまりの美味しさに数秒間意識が飛んだっけ。
「さてと、とりあえず、オレの相談事を頼む」
私は開いた口が閉まらなかった。夢も同じように固まっている。
目の前にいる由姫は頬を赤くしてもじもじしながら言葉を待っている。
私は小さくため息をついた。というか、ため息をつくしか出来ない。
「えっと、どうかな?」
由姫が尋ねてくる。尋ねてくるのだが私達は答えることが出来ない。ともかく、私から言える言葉は一言だけ。
「私達に尋ねることを間違えたよね」
「でも、同じ女の子ですから少しは知っているかなと」
「第76移動隊、の、人達、は?」
確かに夢の言うとおりだ。胸を大きくする方法なんてよく分からないし知っているわけがない。第76移動隊の面々なら、なら、なら。
「夢、第76移動隊のほとんど残念な大きさだから」
みんな気にしないみたいだけど本人達はかなり気にするだろう。私は、まあ普通だから満足しているし。
「というか、どうしてこんな話に」
「今朝、悪夢を見たんです」
その真剣な表情に私達が唾を呑み込む。そして、由姫が口を開いた。
「私が兄さんの好みの体型にならないと抱かないっていう悪夢」
由姫の言葉の途中で私と夢はあまりの内容に脱力して横になっていた。私一人なら精神的におかしいのかなと思うが、夢も一緒で良かった。
由姫は目を丸くして私達を見ている。周も由姫もやっぱり兄妹だ。どこかがズレている。
「それがどうして胸を大きくする方法に繋がるの?」
私は頭を押さえながら尋ねた。誰だって私と同じようになるはずだ。
由姫は不思議そうに首を傾げて、
「だって、兄さんのベッドの下の床下の材木の中にあるデバイスの中のプライベートエリア内の隠しエリアにあるそっちの本が全部だったから」
私は開いた口が閉まらなかった。
確かにベッドの下は有効な隠し場所。私もそこに、ゲフンゲフン。さらに床下を見るならわかるけど、さらに材木の中にあるデバイスの中のプライベートエリア(パスワード必要)の中の隠しエリア(別個のパスワード必要)を見つけ出すなんて。
周のプライベートが全くないようなことだけはわかった。
「はぁ、じゃ、どうして周を無視して?」
「だって、胸を大きくする方法って好きな人に揉んでもらうじゃないですか。そんな破廉恥なこと」
由姫が顔を真っ赤にしてうつむく。それを見ながら私は小さくため息をついた。
やっぱり、似た者同士だ。