第五十四話 駒の動かし方
エクシダ・フバルが来ることによってオレ達の仕事が慌ただしくなった。それは各『GF』部隊も同じだったりする。
だからか、現在別部隊にいるはずの悠聖の弟子である俊也が第76移動隊駐在所に来ていた。ちなみに一人だ。
オレは俊也にお茶を出す。
「悠聖ならいないぞ」
キョロキョロ周囲を見渡す俊也に対してオレは小さくため息をついた。俊也はビクッとしてしおれたように小さくなる。
「べ、別にお師匠様に会いたいわけじゃありませんし、その、えっと」
「気になる女の子でもいるのか?」
その言葉に俊也は真剣な表情で頷いていた。まあ、その気持ちはわからないでもない。
でも、今は別の案件のはずだ。
「で、体育祭の要件は?」
「す、鈴木さんが事務じゃ」
鈴木と言われて一瞬誰だかわからなくなったが、委員長の名前だと思い出し満足そうに頷く。
「委員長は生徒会長だから。今日は忙しい。だから、俊也には悪いがオレが相手をさせてもらう」
「わかりました」
見るからにしょぼんとする俊也。そんな姿を見て笑いを殺すのが精一杯だった。
「案件です。エクシダ・フバル評議会代表が来るので警備体制の確認をしたいと隊長が」
「第十三学園都市地域部隊だから、紅か。あいつはまめだからな。警備体制に関しては第76移動隊を中心にする予定。自慢のフュリアス部隊も動かすさ」
「でも、どうしてこんな時期にエクシダ・フバル評議会代表が来るのか僕にはわからないんですけど」
「それはオレにもわからないさ」
オレは肩をすくめた。実際にエクシダ・フバルが来るのは寝耳に水だったからな。どうせあの糞爺のことだ。オレ達が慌てているのを見て笑っているに違いない。
ありがたいのはもう一人の代表が一緒に守ってくれる方だからな。
ギルバート・R・フェルデ。『GF』史上最速の男で亜紗と戦闘スタイルは重なる。おそらく、乱戦の中で三指に入る実力者。ちなみに、オレも入れている。自惚れじゃないぞ。
「まあ、評議会の奴らだから興味はあるっちゃあるんだけどな。でも、詮索はしない方がいい」
「わかりました。隊長からは他には、第76移動隊との合コンの開催と女の子の出会いの場の提供をお願いしたいと」
「紅はどこにいる?」
すぐに殴り倒してやる。
「ちゃんと僕が却下しました。さすがに周隊長が怒りますから。でも、色気がないのは事実ですし」
「第十三学園都市地域部隊って女子がいないんだっけ」
「言わないで。お願いだから言わないでください。むしろゲイがいるから逃げたいくらいなので」
それはとても災難だ。
「でも、隊長も不安なんです。周隊長やお師匠様のような総合力がありませんから守れるかどうか」
「俊也。オレ達は『GF』だ。『GF』は組織だ。お前達は責任を感じる必要はない。全ての責任はオレにある」
それがリーダーとしての役割だ。
学園都市の『GF』トップ第76移動隊隊長が全ての責任を負う。
「お前達の仕事は事件が起きたら食い止めること。それ以上でもそれ以外でもない。まあ、問題が先のランク詐欺なんだけどな」
Aランクでありながら捕まった人もいるため正直に言って学園都市の戦力は落ちたと思っていい。第一特務の面々によっては少し辛いことになるだろうな。
オレは小さくため息をついて立ち上がり机の上から一枚の書類を俊也に渡した。
「現在の暫定配置だ。第76移動隊第2分隊が商業エリアに近い位置に。第3分隊が学園施設エリア。第4分隊は空中になる予定だ。暫定だから確定はしていないけど何事も無ければこうなると思う」
「ふわぁ。フィンブルド、どう思う?」
『わかるか。そういうのは自分で今は考えるんだ。後がなくなったら呼ぶこと』
「そうだね。ありがとう」
現れたフィンブルドは少しだけ顔を赤く染めて姿を消した。俊也はそれを見て考え込む。
「まあ、第十三学園都市地域部隊の面々と協力して考えれば」
「ごめんなさい。今来ました」
委員長が慌てた姿のままやってくる。そして、オレ達の方にやって来た。
「海道君ごめんね。生徒会長の仕事で。あれ、俊也君だ。遊びに来たの?」
「ち、違います。第十三学園都市地域部隊から正式に聞きに来ただけで」
「そっか。海道君、代わる?」
「いや、話すことは少ないからな」
実際に話すことはほとんどなかった。まだどの時間帯に来てどの場所に行くかすら決まっていないのだ。オレ達がどうにか出来るわけがない。
まあ、どうにかする方法がないわけじゃないけど。
「委員長。今日で体育祭との対戦スケジュールは確定だよな? そのデータはあるか?」
「うん」
委員長が取り出した記憶媒体にオレはレヴァンティンを繋げた。そして、立体ディスプレイに繋げて映し出す。
全高校の対戦表。体育祭で一番熱いのは高校だから確認するのは高校だけで十分だ。そこから有名校を抽出していく。
有名校同士の戦いがある場合は人気が極めて高い。だから、それによって人も動く。そのため予測することが出来るのだ。
「うわっ、柵高と東付が同じブロックか。しかも、そこに総付高と関付、時高も入っているし」
作為的としか思えない抽選だ。
体育祭で人気の高い高校は全国常連の柵川高校と東京大学付属高校。関東大学付属もかなり強い。総合大学付属高校は強くはないが人気が極めて高く人が溢れかえることは間違いなし。時山高校は学費が公立より安いということで有名だ。
まあ、同じブロックに都島学園都島高校の文字が見えるけど。
「すごいところを引き当てたな」
「うん。みんなのテンションだだ下がりだから。でも、予測はしやすいよね?」
確かに同じブロックに集まってくれた方が予測はしやすいしやりやすい。予測される競技会場と時間を考えて人の移動も考慮すると、
「カオス理論に突入しやがった」
あまりに人気のある高校が集中したからか予測出来ないカオス理論状態に。実際、都島高校が学園都市で一番有名だからな。
学園都市トップ3というイケメン上位三人に孝治が入っているくらいだし。
「仕方ないと思う。これだけはさすがに予測出来ないよ」
「学園都市史上類を見ない混雑になりそうな予感がします」
「仕事が増えるだけじゃねえか。交通規制をかけることも考えた方がいいな」
はっきり言うなら交通量がそれほど多くない学園都市でするようなものじゃないと思う。まあ、仕方ないけど。
だけど、不祥事だけは出来る限り避けないと。オレの地位なんてどうでもいい。評議会にエクシダ・フバルは必要な人物かもしれないからだ。まあ、よく話してから判断するけど。
それにしても、ブロックどうにかならないかな。どうにもならないよな。まあ、どう動かせばいいかわかったけど。
「えっと、海道君ごめんね」
「別に謝らなくていいさ。抽選の結果だ、仕方ないしカオス理論が出来るほど混雑する可能性があるのも事実だ。対策はまだ立てれる。立てられるはずだ」
オレは立ち上がった。そして、自分の机に向かう。
「ちょっと情報を整理するから俊也は待っていてくれ。委員長は俊也の相手を」
「うん」
委員長が俊也の前に腰掛ける。ちなみに、俊也は輝いた目でオレを見ていた。オレは自分の机に戻りレヴァンティンを机の上に置く。
「で、レヴァンティンはどう思う?」
『あの二人はお似合いですよね』
「怒っていいか?」
オレはそんな話をしていない。
『カオス理論になるのは仕方のないことだと思います。実際に私の試算でもカオス理論になりましたから』
「人の行動は予測出来ないからな。レヴァンティン、お前ならエクシダ・フバルをどう動かす?」
『マスターは決めていますよね』
それと同時にレヴァンティンが立体ディスプレイに地図を映し出す。そして、一本の線を引いた。
完全にオレと同じ意見か。
『エクシダ・フバル氏を一直線で動かす。それが一番だと思います』
「だな」
カオス理論が来るならエクシダ・フバルをわかりやすいように動かす。あくまで一直線に。変な道は使わない。
「相手が無差別に狙わないなら、十分だ。後は、ベリエとアリエの二人が大活躍だろうな」