第五十三話 対策
対策ですがあまり対策は立てません。
エクシダ・フバル。
『GF』の創生期からずっと『GF』にいた人物で第一特務にも所属していた元エース。
評議会を設立する原動力になったと言われ、第76移動隊の設立に障害となった人物でもある。そんな爺が東京特区学園都市の援軍代表として来るなんて。
「世も末だな」
孝治がスルメをつまみながら言う。表現がかなり間違っているが気にしていたら終わらないだろう。
孝治の向かいに座る悠聖も近くのせんべいに手を伸ばす。
「第一特務が代表じゃないのかよ。どうせ、評議会がごたごた言ってねじ込んで来たんだろ。周隊長はどう思っている?」
オレはポテトチップスに手を伸ばした。
「悠聖と同じだ。問題があるなら第76移動隊の警備体制をどうにかしないとダメだろうな」
「あーあ。せっかく空き時間にアルネウラとデートしようと思っていたのに」
「光に殺される」
「孝治はいつになく落ち込んでいるな」
オレは小さくため息をついてポテトチップスを口に運ぶ。
今、オレ達は対策会議と称して近くのお菓子メーカーからもらった試作品の品評会を行っていた。
孝治が食べているのはスルメだ。ただし、スルメタコ味という何がしたいかよくわからないもの。悠聖が食べているせんべいは味噌味。ちなみに、かなり強烈な匂いがある。
そして、オレが食っているポテトチップスは、
「案外いけるなラフレシア味」
「誰がそんなもの開発したんだよ。ちなみに、かなり臭いからな」
「俺のはイカを食っているのかタコを食っているのかわからなくなってきた」
まあ、スルメタコ味だし。オレのポテトチップスなんて『新感覚RPG型ポテトチップスラフレシア味』という商品。
味は悪くはない、悪くはないのだが悠聖の食べる味噌味よりもはるかに匂う。ちょっと前までアルネウラと優月がいたのだが、ラフレシア味を開けた瞬間に逃げていったくらい。
「こっちはヤバいな。せんべいの感触なのに味噌の味しかしねぇ。周隊長、消臭系は?」
オレが取り出したのは、
『新感覚RPGブレスキュアトリカブト味』
「「殺す気か!?」」
悠聖と孝治の叫び。残念ながらそのセリフはオレが試作品を渡して担当者に言っていた。
まさき新感覚RPG。やりたくないけど。
「そうだと思って普通のブレスキュアを買ってきた」
そう言いながらオレはコンビニで買ったブレスキュアを机の上に置く。
お菓子が作るブレスキュアはかなり大人気だからな。口臭が消せるし飴として十分においしいし。
「まじチャレンジャーだよな。前回がユリの根味だっけ?」
「前々回はフグだ」
どう考えても試作品でオレを殺そうとしているに違いない。絶対にそうだと断言出来る。
オレは小さく息をつきながら肩をすくめた。
「さてと、誰が試食するか決めないとな」
オレ達の目が光る。そして、全員が拳を握りしめた。
「最初はぐー。じゃんけんポン!」
ぐー、ぐー、ぐー、ちょき。よし、勝ったって、
「あーあ、負けちゃった」
いつの間にか音姉の姿があった。この場はオレ達だけで大丈夫だと言ったはずだが。
「ところで何のじゃんけんだったの?」
オレ達の視線が交錯し同時に頷きあった。そして、一瞬にして共謀することが成立する。
「味見の順」
「ブレスキュアの順」
「毒味の順」
部屋に静寂が落ちる。ちなみに順番はオレ、孝治、悠聖だ。孝治と悠聖は全く隠していないしオレを含めた全員が結局は同じことを言っている。
オレは小さく息を吐いた。
「結局、そのブレスキュアの試作品を毒味なんだね」
「音姉、聞いていただろ」
音姉は頷いてブレスキュアトリカブト味を手に取る。そして、手に取ってから固まった。そりゃ、味がトリカブトなんだめんな。毒の味ってチャレンジャーだ。
音姉がゆっくりまるで機械のようにこっちを向く。
「食べなきゃダメ」
「オレが食べる」
「俺が食べよう」
「オレは食べん」
悠聖の言葉に全員の視線が集まる。そして、オレ達は目を合わせることなく頷き合った。
悠聖が額に汗をかいて焦っているのがわかる。
「いやー、なんだ? 穏便に、穏便に」
「確保」
オレと孝治が同時に動いた。そして、悠聖の手を取り完全に拘束する。
「ちょっ、ちょっと待て。まだ、心の準備が、んぐっ」
口を開いた悠聖の口に何かが飛び込んだ。音姉の方を見るとそこにはブレスキュアトリカブト味の蓋を開けて指で弾いた体勢になっている。
どうやら指で弾いて吹き飛ばしたらしい。そして、それが悠聖の口に。
悠聖の体が震える。そして、
「今だから言うが、オレって寂しがり屋なんだ」
爽やかな笑顔で泡を吹きながら倒れた。
「「悠聖ーーーーッ!!」」
オレと孝治の叫び声と共にオレ達は悠聖に向かって敬礼する。尊い人柱に敬礼。
「こういう時の弟くんと孝治くんって息が合っているよね。そんなに不味くはないと思うんだけどな」
振り返った先では音姉が普通にブレスキュアトリカブト味を食べていた。悠聖が泡吹きながら痙攣しているのにすごいチャレンジャーだ。
というか、普通に食べてないか?
「下はピリピリして手も痺れてきたけど」
「吐き出せ。吐き出してくれ音姉!」
「よくその状態で食べられるな」
オレは慌てて若干青ざめ出した音姉に向かって駆け寄った。
ブレスキュアレモン味を口の中に放り込む。オレの口からはポテトチップスラフレシア味の臭いが酷いからな。
ちなみに、悠聖は口から煙を出してぐったりしているものの味噌の匂いは全くしない。これがブレスキュアトリカブト味の効力か。
ちなみに、音姉は耐性があるのかないのかわからないが現在はスルメタコ味を食べていた。
「エクシダ・フバルか。確か、あのエロ爺だよね。なかなかのお爺ちゃんって感じだったけど」
「確かに、エクシダ・フバルはどちらかというと『GF』寄りだな。評議会トップではあるが、他の面々と比べるとまだ優しい」
オレは内心驚いていた。エクシダ・フバルと言えば第76移動隊の設立から揉めていた人物で何回か口論になったことがある。
それを考えると『GF』寄りだなんて思えない。だけど、そうなると、
「エクシダ・フバルの暗殺?」
オレの言葉に二人が驚いていた。オレは慌てて解説する。
「二人の言うような人物だとしたら、評議会の一部からは疎まれているはずだと思う。だから、第76移動隊管轄の中でエクシダ・フバルを暗殺すれば」
「第76移動隊に責任を問えるし、評議会から『GF』派の最重要人物を排斥出来る。一石二鳥だね」
「一石二鳥すぎる気もする。もしかして、評議会が暗躍していることに関係があるのか?」
「おそらく。考えたくはないけど、評議会と『悪夢の正夢』が繋がっているとか。今日の新聞を見たか?」
オレは持っていた新聞の切り抜きを二人に見える位置においた。学園都市で一番有名な夕日新聞だ。『GF』を毛嫌いしていることでも有名。
そこに書かれているのは学園都市内部で流通しているドラッグの市場に関してだった。大手新聞社が全て推測で語るという大技に走っているが、現実的な数値になっている。
「クスリは金になる。それは二人もわかっていると思うけど、金になるということは資金が潤うということだ。『悪夢の正夢』達は少数精鋭。そうなると、何か別の部隊を動かす可能性がある」
「傭兵や評議会傘下の部隊だな。上手く動くのか?」
「孝治君はあまり知らないと思うけど、『GF』を恨む人はたくさんいるよ。特に中東には。『GF』と『ES』のいざこざによく巻き込まれたから」
日本では『GF』派の人が多いが、世界を見れば言うほど多くはない。五割ほどが『GF』。三割ほどが『ES』。残りが国連という具合だ。
学園都市は『GF』の象徴とも言えるから格好の餌食になるだろう。
「これも全部評議会と『悪夢の正夢』が繋がって場合だけどな。まあ、対策を考えていた方がいいだろう。エクシダ・フバルはいけ好かない奴だが」
「賛成だ。エクシダ・フバルは俺も嫌いだ」
「あれ? 孝治君はエクシダ・フバルのこと『GF』派って言ってなかった?」
音姉の言葉に孝治は頷く。
「エクシダ・フバルは『GF』派だ。爺からそう聞いている。だが、どこか達観しているところが気にくわない」
そういう孝治の顔は本当に気に食わなさそうだった。