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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第四十九話 生還

―――生まれた時からそうだった。


―――私は誰かの代わりだった。


―――当時世界最高峰の魔術師の力を残すために私は生まれた。


―――開発されたマテリアルライザーを操るために生まれた。


―――例え壊れてもいくらでもパーツを交換することが出来たから。


―――腕がなくなろうが足がなくなろうが記憶媒体さえあればいくらでも生き残ることは出来たから。


―――だから、私は道具だった。あの人は必死に指定したけど、私は道具。


―――だから、私は消えることが怖くない。怖くなんて、ない。ないんだから。


『嘘じゃな』


私の中に響き渡るアル・アジフの声。あの日からずっと一緒だった親友の声。


―――どうして?


『そなたは本当は後悔をしておる』


―――していない。でたらめを言わないで。


後悔なんてしていない。あの時が最善の手段だった。マテリアルライザーに内包された魔力を放出する魔力バースト。これで、みんな助かった。絶対に助かったから悔いはない。


『我はそなたと一緒だったのだぞ。そなたが何をしたいのか、そなたが何を思っておるのか、我は知っておるぞ』


―――そんなことはない。私は、私は、みんなを守れたんだからいい。あの日守れなかったけど、守ることが出来た。だから、私はこれでいい。このまま、みんなの記憶の中で暮らしていけば、


『ふざけるな!!』


アル・アジフの声が響き渡る。その声に私は驚いていた。本当に怒っている。私のことに対してここまで怒っているアル・アジフの声を聞くのは初めてだ。


『そなたは周のことが好きなのじゃろ! そんなんで、そんなんでそなたの人生は満足だとでも言うのか?』


―――私は生き残れないからこれでいい。だって、私の体はもう焼き尽くされたんでしょ?


その言葉の返答はない。それくらいはわかっている。確かに記憶媒体は生き残っているのだろう。それは今アル・アジフと話しているからわかる。でも、いや、だからこそ、私は自分の体がもう無いことを自覚できる。


いくら痛覚を切ってもあの瞬間、私は魔力バーストの中で炎に焼かれていた。ほんの一瞬でも完全に再起不能なまでに焼かれていたのがわかる。


そして、もう、予備のパーツは存在しない。


―――記憶媒体だけ周の渡して。私はその中でずっと生き続ける。もう、一生見ることが出来ない世界を思い出しながら。


『そなたは、そなたはそれでいいのか? もう、周と会えなくても』


―――いいよ。私はもう、別の意味で死ぬから。


『我が強情じゃ。元のマスターもそうじゃった。だから、言わせてもらうぞ』


アル・アジフの気配が膨れ上がる。


『そなたとはまだ決着がついておらん!』


―――け、決着!?


あまりのことに私は声を上げていた。そんなことは私は思っていないのに。


『我は周のことが好きじゃ。それはそなたもじゃろ? そして、我はそなたがいなければ周とは触れない。そなたはこのまま逃げる気か? 我とのこれからの勝負を』


―――で、でも、私は、


『目を覚ませ! 我と、そして、亜紗や由姫、都に周を取られていいのか!?』


―――盗られたくない!


それが私の本音。もう、諦めている本音。


―――私は周の彼女になりたかった。ずっと周と一緒にいたい。周に愛してもらいたい。


アル・アジフの気配が軽くなったような気がする。気のせいかもしれない。でも、私はそれが正しいとどこかで思っていた。


『ならば、目を開けよ。そなたはその権利がある。怖がらなくてもよい。そなたの本当の意味での目を開けるのじゃ』






見えたのは天井。黒い染みの広がる天井。天国というわけじゃないだろう。私は死ぬときは壊される時。天国になんていけない。ただ、バラバラになって止まるだけ。なのに、私の視界には天井が移っていた。


「私、生きてる」


その声に私は起き上がっていた。


声が出せる。今まではマテリアルライザーを介してしか出せなかった声が出せる。どうして?


「起きたようだね」


その言葉に私は振り向いた。そこにいるのは白衣を着た長髪の男。『ES』にいたころはずっと見ていた。


「アリエル・ロワソ。あなたがどうして?」


「それが君の、エリシアの声か。ふむ、綺麗な声音だ」


私は体が焼き尽くされたはずだった。予備パーツはすでに朽ちて使いものにならず、修復不可能な傷を受ければ終わるはずだった。でも、私はここにいる。


見る限り、患者が着る服の上からではあるが大丈夫そうだ。ちゃんと感覚もある。


「説明をした方がいいかな?」


「お願いします」


わけがわからない。


「まずは君の元の体。残念ながら治癒、いや、修復不可能だった」


「でしょうね。私の体は全体が焼き尽くされたはずです。あれを修復出来るとすれば私が生まれた時の技術が必要ですから」


「そう。だから、用意させてもらった。新しい体をね」


私は自分の拳を握る。確かに前と比べて変わったように感じる。どこが変わったかは答えることは出来ないけれど。


「基本は海道周や田中亜紗と同じだよ。田中亜紗の方が近いかな。封印した技術を再復活させるために、まさか、善知鳥慧海の力を借りる羽目になるとはね」


「あれから何日が経ちましたか?」


「四日。私と海道周と善知鳥慧海の三人で必死に組み上げた。いやはや、海道周の閃きには驚いたよ。彼のレアスキルを元にしたとは言え、私が到達出来なかった極地に到達したのだから」


生体兵器についてはそれなりに詳しいからわかるが、周が到達した極地というのはあれだろう。


神経伝達。


機械の体や生体兵器ではどうしても兵器であることを求めると細かな神経伝達が必要となり大きくなってしまう。私の元の体は近接には向かないようにしたため小さかったが、生体兵器はどうしても生身の体の神経をほとんど使わなければどうしようもない。


「おかげで、君の体の最大の問題点は解決した。後は出来るだけ人に近くなるように作り上げて終わりだ。記憶媒体が私達のものと同じタイプで助かったよ」


「私とアル・アジフが提唱しましたから。もしもの時に私の知識を残せるように」


「なるほどね。質問は何か?」


「前の体と比べての運動性と食事に関して。後は、どうして声が出るのか」


生体兵器であればあるほど声は出ない。亜紗がいい例でもある。私はそれよりも生体兵器の比率が高いのに。


「ふむ、そうだね。運動性に関しては前と同等かそれ以上だと思っていい。詳しく計らなければわからないが。食事に関しては心配しなくていい。普通に食べても大丈夫なようにしている。食べた分だけエネルギーが出来て脂肪もつきやすい」


「この体は本当に生体兵器ですか?」


完全な生体兵器で脂肪がつかなんてありえない。


「それは君の先輩二人からのデータから作り出したからね。生体兵器でありながら生身とほぼ変わらない。違う点は背が伸びないことと、子孫を残せないこと。ちなみに、ちゃんと行為は出来るから」


「なっ、なっ、なっ」


私は完全に絶句していた。確かにそれは嬉しいことだけど、今の状況で言わないで欲しい。


「声が出るのは善知鳥慧海が持ってきた『GF』の新技術を実験的に使わさせてもらっただけだよ。結果は大成功。君の可愛い声がきけて良かった」


「ふみゅ」


恥ずかしくて変な声を出してしまいさらに恥ずかしくなって顔を真っ赤にする。


すると、アリエル・ロワソが大きな笑い声を上げた。


「まさか、そのような顔を見れるとはね。本当に世界は面白いよ。一度立ち上がってもらえないか?」


アリエル・ロワソの言葉に私は立ち上がる。そして、体中を確認した。


異常は見当たらないと思う。アリエル・ロワソも満足そうに頷いている。


「隣の部屋に周とアル・アジフがいるよ。二人共、四日間寝ないで過ごしていたからね。ぐっすり疲れ果てて眠っているよ。でも、君が行ったら起きるんじゃないかな?」


アリエル・ロワソの言葉に私は走り出していた。ドアを開けて隣の部屋のドアまで駆け寄って開ける。そこには、たくさんの資料の中で眠る周と机の上に置かれた一冊の魔術書があった。


エリシアは駆け出す。大好きな二人に向かって。


「周!」


エリシアの元気一杯の声が響き渡った。


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