第四十三話 ゲルナズム
新たなオリジナル剣技が出ます。ただし、今回は完全な周の思いつきです。
あれと同じなら弱点は腹とモードⅣ。だけど、それをするには隙がなさすぎる。
「くそっ、ヤバいな」
横手から飛び込んできたゲルナズムを金色夜叉で断ち切る。だが、大きなゲルナズムはオレに向かって大量の触手を放ちながら黄色い粘液を放ってくる。
オレは触手を避けながら黄色い粘液を防御魔術で受け止めた。その瞬間、黄色い粘液が防御魔術にへばりつき、煙を放ちながら防御魔術を溶かす。
他のゲルナズムと違い、この大きなゲルナズムの放つ黄色い粘液は一撃でやられる威力がある。だけど、向こうも抜けられれば一撃でやられるとわかっているのかオレから注意を逸らさない。
オレも注意を逸らせないが、小型のゲルナズムが時々襲いかかってくるためどうしようもない。そっちは都とアルに任せているのだが。
「相性が悪すぎだぜ」
オレは小さく毒づきながら手のひらに魔術陣を描く。そして、炎の剣をゲルナズムに向かって放った。
だけど、その炎の剣は触手によって弾かれる。
厄介なのは黄色い粘液とこの触手。はっきり言えば斬れない。モードⅣなら可能だろうが、そんな隙は全く見当たらない。
『防御力も極めて高いとは。これが本当の幻想種』
「感心している隙はないぞ」
放たれた触手をオレはレヴァンティンで受け流しながら隠れて迫っていた触手を掴み取る。そして、金色夜叉で触手を斬り裂いた。
触手を斬る方法は金色夜叉のみ。それ以外は何をしても切れない。
「金色夜叉以外切れないなんて、あいつの体の組成は何で出来ているんだか」
『物語上のオリハルコンと言われても納得出来ますよね』
「本物のオリハルコンだったら笑ってやる」
物語上のオリハルコンは最強の物質やら何やら。ともかく、固くて堅くて硬いのだろう。対する本物のオリハルコンは強化金と呼ばれ戦闘でも使えるほどの強度はある。ただし、魔鉄よりも弱いし金自体が希少だからまず見ない。
まあ、その分魔術に対して耐性がかなり高いけど。
『それだったら嬉しいんですけどね』
「そうだよな」
オレは小さくため息をついて向かって来た触手を金色夜叉で斬り払った。もう何回斬っただろうか。あの時みたいに全力疾走しているわけじゃないから体力には余裕があるけど、精神的に辛いな。
相手のゲルナズムも攻撃がだんだん慎重、いや、手数を少なくして誘って来ている。飛び込むのは危険だ。
『何というか、音姫の戦い方に似ていますね』
「隙を作っている。あいつの全力じゃこんな隙は起こらないさ。だから、突っ込む」
相手が隙を見せた以上、こちらもその隙をつく。それに、こちらにはまだ見せていない隠し技はいくつもある。
オレは前に出た。レヴァンティンをモードⅢにしてどちらからも金色夜叉を具現化させる。そして、迫って来ていた触手を斬り裂こうとした瞬間、嫌な予感が背筋に走った。
すかさず金色夜叉を解きながら背後に飛ぶ。そして、レヴァンティンモードⅢをクロスして触手を受け止めながら後ろに下がった。
あのまま進んでいたら何かがあった。オレはそう断言する。
『マスター?』
「自分の感覚に素直なのも考えたものだよな。嫌な気配に下がってみれば」
『その感覚は大切だと思いますよ。今までの全てはその感覚で生き残っていましたし』
「だよな」
オレは触手をレヴァンティンで払った。このままじゃ埒があかない。危険な手ではあるが、こういう時には目をよくするに限る。
オレは金色の力を自分の両目に与えた。一瞬にして視界がよくなる。そして、
ゲルナズムの周囲に浮かぶ奇妙な陣をはっきり捉えていた。
金色の力を戻しながらレヴァンティンで触手を打ち返す。
「レヴァンティン。今のは見たか?」
『はい。さすがは幻想種ですね。まさか、魔法を使ってくるとは』
「魔法?」
『はい。まあ、竜言語魔法と比べれば月とスッポン以上の差はありますが、魔術では探知出来ない極めて危険なものです』
「詳しいんだな」
レヴァンティンはアルタミラの遺跡から封印されてから出ていないはずなのに。
魔法なんて世間一般じゃ滅びたと言われているくらいだ。オレも魔法使いとはあったことがあるが、戦闘というよりも家事に特化した技術形態だった。
『最初のマスターの友人が魔法使いだったので。魔法のことならそれなりに詳しいと自負しています。ただし、幻想種の魔法は通常の魔法とは違うようです。リースの竜言語魔法を見習うべきかと』
「あの詠唱がノータイムのやつをか? 軽く死ねるぜ」
あれを見習えば全く前に出れない。リースの竜言語魔法はアルよりも凶悪だ。
オレはレヴァンティンを構えた。今の布陣から隙はわからない。わからないなら、魔法陣を破壊する。
オレは前に出た。魔法陣の大きさはわかっている。わかっているからこそ、その範囲外で嫌な予感がした瞬間にオレは下がっていた。
進めない。魔法陣を破壊すればいいはずなのに、攻撃が届く範囲に入れない。触手は問題じゃない。こんなもの、幾らでも耐えられる。だけど、あの魔法陣だけは、『天空の羽衣』ですらやられる予感しかしなかった。
レヴァンティンで触手を弾きながら後ろに下がる。ゲルナズムは動いていない。いや、現れてから一歩も動いていなかった。
「どうしてだ?」
『何がですか?』
「ゲルナズムが動いていない」
ありえないというよりもおかしい。まるで、攻撃してくれと言わんばかりに。ゲルナズムの装甲は極めて高いから魔術はあまり意味がないし、触手で撃ち落とされる。だから、近接するしかないとは言え、全く動かないのはどうしてだ?
『確かに変ですね。触手は動いているんですけど』
「どうして?」
考えろ。金色夜叉で触手を払いながら考えろ。行動しないということは何らかの意味があるはずだ。戦闘の中で意味のない行動なんてない。わざと隙を見せたのは何故だ? 魔法陣にまで近づけないのは何故だ? 何故、ゲルナズムは動かない?
ゲルナズムは動かないんじゃない。動けない。魔法陣まで近づけないのはその範囲外までにセンサーがあり魔法が発動するから。隙を見せているのはそのセンサー内に入らすため。
そうなると、得られる答えはただ一つ。
「そこだ!」
オレはレヴァンティンをモードⅡにして天井に向かって射撃した。魔力の塊が天井で爆発し、ゲルナズムが膨れ上がる。そして、オレが判断して下がったギリギリの場所まで黄色い渦が出来上がり呑み込んでいた。
やはり、そういうことか。
ゲルナズムは罠だった。動かないことで挑発しているのではなく、罠だからこそ動けなかった。床の魔法陣は魔法を使うためのもの。ただし、それはトラップであり、本物は天井にあった。隙を見せたのは飛び込んできてもらうため。
『やはり、貴様はただ者じゃないな』
オレは現れた本物のゲルナズムに向かってレヴァンティンを向けた。
「真っ正面から戦うのは分が悪い、そう思ったんだろ?」
『我が同胞と主を殺した貴様に警戒しないものは愚かだ。だが、罠を破った以上、幻想種として隠れながら攻撃するのは愚かだと思ってな』
「まあ、さすがにそこはオレもわからなかったけど」
ゲルナズムがいるのはオレからかなり離れた壁だ。そこまでの距離は探索しているならともかく戦闘中ではまず探らない。
レヴァンティンを握りしめ、ゲルナズムを睨みつける。
「前はあんたの同胞にやられたからな。今回は油断しない」
『同胞を殺した恨みは忘れぬぞ!』
ゲルナズムがオレに向かって触手を放ってくる。だから、オレは『天空の羽衣』を纏って前に出た。
例え、幻想種だろうが何だろうが、物理攻撃であるなら『天空の羽衣』が受け止めてくれる。触手の嵐をレヴァンティンと『天空の羽衣』で受け流し、オレはゲルナズムに接近する。
『くらうがいい!』
ゲルナズムがそう言いながら黄色い粘液を連続で放ってきた。当たればやられる。だから、オレは腕を前に突き出した。
「ファンタズマゴリア!」
現れたのは金色に光るファンタズマゴリア。金色の力をファンタズマゴリアに与えたのだ。そのため、防御力は桁違いに高い。
金色のファンタズマゴリアが黄色い粘液を受け止める。だが、それ以上は何もなかった。
オレはファンタズマゴリアを展開したままファンタズマゴリアの先をゲルナズムの開いた口に叩き込んだ。そして、高く飛び上がる。
「白百合流瓦割り『崩落斬り』!」
高く飛び上がりながらの振り下ろし。振り下ろす瞬間に素早く剣を引くことで大きなダメージを与えられる技。だが、レヴァンティンの一撃が触手に受け止められる。
それは想定通り。だから、そのままレヴァンティンを手放した。
八陣八叉流虚仮威し『三味線』。
高さを利用したドロップキックがゲルナズムに大きな音を立てて直撃する。ただし、これは虚仮威し。本来の技じゃない。本来の技はこれだ。
オレは振りかぶった拳を振り下ろした。甲羅に当たる瞬間に威力を奥に押し込むように叩き込む。
八陣八叉流鎧通し『桔梗』。
その瞬間、ゲルナズムの体が大きく震えた。だから、オレは振ってきたレヴァンティンを受け止める。そして、受け止めて振り下ろした。
「金色夜叉!」
ゲルナズムの体を両断する。だけど、それだけじゃゲルナズムは止まらない。オレを狙って迫ってくる触手。それに対して、オレは大きく飛び上がった。
モードⅣに変える時間はない。一番使えるのは光属性だが、貫くのは無理だよな。なら、斬れないかな?
「レヴァンティン。ふと思いついたことを試してみていいか?」
『嫌だと言っても決行しますよね? どうぞご自由に。私は全力でサポートします』
ぶっつけ本番上等! 試して成功すれはさらにありがたいけどな!
オレはレヴァンティンを振り下ろす。周囲から見ていればそう言う光景だろう。だけど、レヴァンティンが光り輝いているのは見えるはずだ。その輝きは触手すらも切断する。いや、切断するはおかしいか。
今、レヴァンティンを纏う光は炎とは違う熱量だ。そもそも、光というのはレーザー。収束した熱量が光だが、この光は少し違う。光によって出来上がった光の剣。熱量はあるが、焼き尽くすためのものや貫くためのものじゃない。ただ、斬るためのもの。
オレは技名を叫ぶ。
「光輝矛神!」
光輝く全てを切り裂くオリジナル剣技、ということで光輝矛神だ。
光輝矛神は簡単に触手を切り裂き、ゲルナズムの体に突き刺さった。
「モードⅣ!」
『これで終わりです!』
ゲルナズムの体が溶ける。そして、オレは地面に着地した。
「完全勝利」
オレはそう言いながらレヴァンティンを鞘に収める。
次は由姫の戦闘でも。