第三十八話 攻防
ゲルナズムって結構強いんですよ。みんなが少し桁違いなだけです。
レヴァンティンがゲルナズムの柔らかい腹を切り裂く。そのまま目の前にいたゲルナズムの頭にレヴァンティンを勢いよく突き刺した。
エンシェントドラゴンと共にいたゲルナズムと違ってこっちのゲルナズムはまだ柔らかいし切り裂けば倒せる。あの時のようなレヴァンティンの力を最大限使う必要はない。
ただ、こっちの方が明らかにややこしい。
「これで十一体目」
「まだまだ減っておらぬがな」
アルのため息にオレもため息をついてしまう。そういうことは本気でやる気がそがれるので止めて欲しい。
オレは後ろに下がってレヴァンティンを構えた。
「実際、オレ達の組み合わせじゃゲルナズムに一番不利だからな」
「ゲルナズムの持つ骨格をなかなか抜くことはできないからの。それは他の組も同じじゃろ?」
オレは首を横に振った。ゲルナズムに対して剣を入れているからこそわかる。
「こんな装甲じゃ由姫は止められないぜ」
由姫の拳がゲルナズムの甲羅を上からたたき割る。そして、たたき割ったところから直接重力砲を放っていた。
ゲルナズムの体が内部から破裂して由姫は小さく息を吐く。小さく息を吐きながらも由姫は飛び上がっていた。そして、近くにいたゲルナズムの触手を受け流しながら最大威力のかかと落としを決める。
たったそれだけでゲルナズムの甲羅は綺麗に割れた。そこに重力砲をねじ込んで放つ。
それと同時に真っ赤な血が由姫を避けるように吹き出していた。
「わぉ、さすが由姫ちゃんだ。桁が違うね」
浩平が笑みを浮かべながら双拳銃の引き金を引いている。浩平が使っているのはリボルバータイプのもので一発放つ度にリボルバーの中の弾丸を一つ消費していた。
消費していると言っても魔力の込められた弾だ。
「桁が違うって、浩平さんの方がすごいと思いますけど」
向かってきた触手を掴み、力任せに触手ごとゲルナズムを壁に叩きつける。そして、他のゲルナズムに叩きつける由姫。
もう、戦い方がめちゃくちゃだった。だが、浩平の方がさらに上を行く。
由姫が倒しているのはあくまで浩平が討ち漏らした敵だからだ。だから、さらに前方には腹がはっくり割けて痙攣しているゲルナズムの山。
「こっちは球数制限があるっての。まあ、フレヴァング使えばどうにかなるさ」
浩平がそう言いつつリボルバーの留め具を外しリボルバーの中身を排出する。中身は全て浩平が作り出して虚空の中に収納されてリボルバーにはすでに虚空から取り出された弾丸が装填されている。
早いというレベルじゃない。リロードまでが本当に一瞬。浩平はすでに単独で戦場を動き回れるまで成長していた。
それに由姫は感心する。もしかしたら、今の浩平には勝てないのではないかと。
「それにしても、こいつが幻想種か? 幻想種にしては湧いてくるんだが」
「そうですね。拍子抜けの弱さですし」
「それは多分、由姫ちゃんだけだぜ」
浩平が双拳銃を放つ。だが、その内の一発はゲルナズムの触手に突き刺さり、もう一発は腹に突き刺さった。
そして、腹に突き刺さった弾丸が爆発する。
「弱点は腹のみ。俺のバーストバレットも球数が厳しい」
「そうですか? 甲羅とかまだ柔らかいと思いますけど」
そう言いながら由姫はゲルナズムを上から叩き潰していた。甲羅はぺちゃんこに潰れている。
相手からすれば攻撃を仕掛けても由姫によって倒され、距離を取ったら浩平の餌食となり、近づけば簡単に甲羅が割られる。
この二人の組み合わせは幻想種としてのゲルナズムの尊厳を打ち崩すには十分だった。
「さてと、由姫ちゃん、下がって」
浩平が双拳銃を戻して虚空からフレヴァングを取り出す。そして、フレヴァングを構えた。
「久しぶりに狙い撃つぜ!」
その言葉と共にフレヴァングと、浩平の周囲から虚空を割って現れた様々な銃が火を噴いた。
壁を跳ね返りながら、お互いがお互いの弾丸を弾きながらゲルナズムに襲いかかる。ビリヤードショットとリフレクトショットの融合。
はっきり言うなら桁違いまでの一掃だった。
何百、何千という弾丸がゲルナズムの体を、主に腹を貫きずたずたに切り裂いていく。
そして、浩平がフレヴァングを下ろした時にはまともに立っているゲルナズムの姿は見あたらなかった。
「すごいですね」
「ふっ、これくらい当然、と言いたいところだが、やっぱりリースに援護してもらわないと辛いな。ビリヤードショットとリフレクトショットの同時発動で命中率が90切るなんてまだまだだよな」
「浩平さんがいつの間にか超人の部類に入ってる」
普通、ビリヤードショットやリフレクトショットを行えば命中率は極端に下がる。それは、あまりに不確定要素が大きいからだ。シェルター内という閉鎖空間を使っているとはいえ、ビリヤードショットとリフレクトショットを組み合わせて使うのはある意味論外だろう。
しかし、浩平はそれすら出来るほどの空間把握能力がある。
正確には、あらゆる窪みや模様を見つけることが出来る能力だが。
「にしても、他の場所は大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ。兄さんもアル・アジフさんと一緒ですし、亜紗さんは都さんと一緒です。おそらく、一番危険なのは兄さんのところでしょうけど」
七天失星が煌めく。そして、漆黒の刃がゲルナズムの首を落としていた。そんな亜紗に触手が放たれるが、その全てを都が簡単にフォトンランサーで叩き落とす。
亜紗が前に出る度に援護をし、後ろに下がった時には前に出てフォトンランサーを放つ。
都の動きはセンターの動きだった。状況に応じて自分のポジションを変えるポジション。それがセンターだ。
亜紗が後ろに下がり都と横並びになる。代わりに、前に出てくるゲルナズムの群れ。
「キリがありませんね。エターナルバニッシャーが使えれば」
すると、亜紗は勢いよく必死な形相で首を横に振っていた。都のエターナルバニッシャーは都最大の技であり、具現化系最強の雷王具現化ですら及ばない範囲内全てを攻撃する魔術。そう、全てを。
こんな場所て使われたなら亜紗は確実に倒されるだろう。
「わかっています。今はフォトンランサーで乗り切らないと」
都がすかさずフォトンランサーを放ち触手を撃ち落とす。だが、ゲルナズムは後から後からたくさん湧いてくる。
都は後ろに下がりながらフォトンランサーを魔力の塊ごとゲルナズムに向かって放った。それはゲルナズムの床部分に突き刺さり爆発を起こす。
純粋な魔力爆発だ。ゲルナズムも耐えられなかったのか至近距離にいたゲルナズムの甲羅は破砕され、爆発によって中が吹き飛んでいた。
だが、ゲルナズムはまだまだやってくる。
まるで、味方の死に何も感じていないかのような。
「あれだけ味方をやられながらも向かって来るなんて。幻想種には知性があると聞いたことはありますが」
『そうじゃない。ゲルナズムにとって他のゲルナズムは味方じゃない。捕食者にとっての小さな獲物に味方は不要』
そう言いながら亜紗は矛神を一閃した。たったそれだけでゲルナズムの大半が上下に真っ二つにされて地面を転がる。
都が作り出した防御魔術が真っ赤な血を受け止めた。
亜紗が片手で持っているスケッチブックを捲る。
『ゲルナズムからすれば自分が捕食出来る可能性があるならそれは喜ばしいこと』
「一利ありますね。でも、今はそんなことを考えるより」
都が放つフォトンランサーがゲルナズムを装甲の隙間から貫いた。
「倒しましょう。それが近道です」