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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第二章 学園都市
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第三十六話 復帰

レヴァンティンの鞘を腰に身につける。三日着ないくらいで久しぶりの感覚になった青が基本の戦闘服。白の部分は脇と首もとから真ん中を一番下まで半分ずつに分けたような形だ。


オレはその服装を鏡を見て確認する。


昨日、病院に行ったところ、傷は完全に完治。激しい動きをしても大丈夫というところだった。


オレは小さく息を吐いてレヴァンティンに全てを収納する。


『久しぶりだから浮かれていますね』


「仕方ないだろ。こういうのはあまりないんだから。三日間も休むなんてほとんど無かったからな」


『昔はあったと思いますよ。私を拾った時のような』


「あの時はそれほど忙しい役職じゃなかっただけだ」


今は違う。こういう忙しさは第76移動隊を立ち上げてから感じるようになった。それを苦に思ったことはないが。


オレはレヴァンティンをポケットに直して部屋のドアを開ける。すると、そこにはちょうど同じように起きてきた由姫の姿があった。


「お兄ちゃん、おはよう」


「ああ、おはよう。今日から復帰だけど体はなまっていないか?」


「毎夜基礎訓練はしていたけど実戦はさすがに。今日中に明日まで合わさないと」


「一日で合わせられるお前が羨ましい」


一日休めば取り返すのに三日というが、実はそういうことはない。オレや由姫はそういう訓練をよくするので取り返すには約半日で済む。


ただし、三日だから一日半。明日にはオレは間に合わないだろう。亜紗は大丈夫だろうけど。


オレは小さくため息をついた。


「今日こそはオレが朝飯を作るぞ」


「いえ、今日も私が作る。お兄ちゃんの復帰祝いだから」


「そうなると明日はオレになるよな?」


「明日も私だけど?」


さも当然のごとく首を傾げる由姫にオレは小さくため息をついて、そして、地面を蹴った。


ギリギリ限度の魔力で加速して由姫の横を駆け抜けようとする。タイミングは完璧だ。これなら、


「はいっと」


あっけなく由姫に捕まっていた。由姫はオレの襟を掴み簡単に持ち上げる。


「お兄ちゃんはゆっくりして。私が作るから」


「だから、今日こそはオレが」


「由姫ちゃーん! 弟くーん! ご飯出来たよー!」


階下から聞こえてくる声。それに対してオレらは顔を見合わせて、そして、笑いあった。






鞘から抜き放ったレヴァンティンが亜紗の七天失星によって受け流される。オレはその受け流されるままに従って地面を蹴りながら亜紗の鳩尾に飛び膝蹴りを放っていた。


亜紗の体がくの字に折れ曲がり、オレは返したレヴァンティンを叩きつけようとする。だけど、亜紗は七天失星でレヴァンティンを受け止めた。


お互いに剣を弾き合い距離を取る。


亜紗との戦いは基本的にこれだ。オレは間髪入れずに距離を詰めてレヴァンティンを振る。


亜紗に動かす時間を与えれば様々な高速の連続攻撃で追い詰められる。だから、こちらの攻撃で丸め込む。


亜紗は攻撃は得意でも防御は苦手だからそれを狙うのがポイント。本人の苦手なところを狙うことで亜紗が戦闘でやられにくくすることを挙げる狙いがある。まあ、実際は、


三日ぶりの戦闘訓練で無様な姿を見せられないだけだけど。


紫電一閃からの紫電逆閃。普通はここで終わるけどオレはさらにレヴァンティンを握り締めた。


鋭く放つ突き。亜紗は慌てて七天失星で受け止める。だけど、オレの腕は止まらない。


レヴァンティンで突いた腕をさらに動かす。さらに二連続の突き。この時点では亜紗は気付いているだろう。レヴァンティンに風が纏っていることに。


二連続の突きは強く突いて亜紗を弾き飛ばす。亜紗は七天失星を握り締めて走り出そうとしていた。だから、オレは左上からの斬り下ろしと振り上げを行う。それによって放たれる風の刃。


亜紗はすかさず風の防御魔術を展開した。亜紗の目の前に風の盾が現れてオレが振ると共に放たれた風の刃を受け止める。


「破魔雷閃!」


だから、オレは一歩踏み出しながらレヴァンティンを勢いよく振り下ろしていた。雷の刃が亜紗の作り出した防御魔術を貫き亜紗の体を貫く。亜紗はその場に片膝をついた。


「ふう、オレの勝ちだな」


『ずるい。破魔雷閃の前の技は何?』


「烈風刺突。新しいオリジナル剣技?」


完全に押している状況でしか使えないが、すぐに破魔雷閃に繋げられるからかなり前から練習していたのだ。まあ、成功するとは思っていなかったけど。


『でも、不完全。本当は突きの時点で風の刃を放っているはずだと思う』


「やっぱりばれてた? 風属性はそんなに得意じゃないからな。やっぱり、少し無駄が多いと思う」


レヴァンティンとの動きは完全かもしれないが、やっぱり烈風刺突は未完成だ。これを完成させれれば想定の威力を叩きだせるんだけどな。


「やっぱり、実戦なるのみか」


『マスターの技術では十分に連続攻撃の一つとして組み込めますよ。突きを風で纏っている以上、払うことも難しいですし』


「でも、亜紗なら本気になれば受け流すことは可能だろ? 問題がそこなんだよ。オレの最大の弱点」


オレは器用貧乏だ。上手くなんだってできると思っている。でも、亜紗のような属性系の具現化を使える魔術師に対してオリジナル剣技の同属性はほとんど意味を成さない。だから、オレは様々なオリジナル剣技を作り出してはいる。


でも、弱点も多々ある。


「破魔雷閃は雷に対して抵抗がある場合は威力が低くなるし、水牙天翔は発動までに時間がかかる。炎舞氷壁は発動に対して詠唱が必要。烈風刺突は未完成。やっぱり、白百合流の中に組み込むしかないか」


『悪くはないんですけどね。やはり、オリジナルであることから他人からのヒントをもらえないということでしょうか。どの技もマスターがかなりオリジナル要素を入れていますし』


「そうなんだよな」


誰かからアドバイスをもらえたら一番いいだろう。剣技に関しては音姉から、魔術に関してはアルからのヒントが一番役に立つ。だから、二人に聞いてみたのだが、やはり専門外すぎるらしい。


オリジナル剣技は魔術との融合。魔術が使えない音姉では理論が理解できないし、アルでは理論が理解できなくても剣技ができないからヒントを出すことも難しい。


他の面々は言わずもがな。


「やっぱり、もうちょっと理論を煮詰めるべきだったな」


『そんなことはない。周さんのオリジナル剣技は十分に強い。だから、そこまで悲観しなくていい』


「まあな。そりゃ、オレは自分の剣技に自信を持っている。だけど、このままじゃ、最強の器用貧乏のままじゃだめなんだ」


『今の周さんのオールラウンダーは戦場を制する者。最強の器用貧乏じゃない』


オレは首を横に振った。そして、自分の握った拳を握りしめる。


今のままじゃダメなのはオレ自信がわかっている。


「確かにオレは第76移動隊の司令塔だ。全体を見て行動する。だけど、いや、だからこそ、オレはやられたらダメなんだ。エンシェントドラゴンとの戦いでオレは負けた。もっと強くならないと。今は、今だけは」


『一緒に強くなろう。私や由姫と一緒に。周さんは一人じゃない。一人よりも二人。二人よりも三人。三人よりもたくさん。人は誰一人として一人じゃ生きていけないから』


「そうだな」


オレは鞘からレヴァンティンを抜く。そして、それをしっかり握りしめた。


「明日、シェルター点検で必ず何かあるよな。大丈夫なのかな?」


『マスターの中では何かがあることは確定しているんですね。まあ、私も同感ですが、正直、戦力が足りないと思います』


「いや、大丈夫だ」


それだけは自信を持って言える。


「オレも亜紗も由姫も都もアルもみんな強い。そして、絆がある。オレ達は簡単には負けないさ。そうだろ、亜紗」


『うん』


オレは空を見上げた。そして、明日のことを考える。明日の最悪の出来事を。


最悪の場合はローブ集団と出会うこと。『悪夢の正夢ナイトメア』の存在を『現実回避エスケープ』によって忘れ去られたら大変だ。


そうなると、対処は、


「いや、ちょっと待て」


どうしてオレはローブ集団と会うのが最悪の未来だと思った? もしそうだとしたら、シェルター内部は、


「推測だけど、ありえない話じゃない」


ナイトメアの製造工場は見つかっていない。最近では大規模な捜索が起きているがどの地区からもその話は聞かない。でも、もし、もし、その工場が地下にあるとするなら。


オレは考えた。もしもの時のあれを持っていかないといけない。


『周さん、どうかした?』


「いや、何でもない」


一応、時雨には伝えた方がいいな。


オレは小さく息を吐いてレヴァンティンを鞘に収めた。


「さてと、次の模擬戦は誰としようかな」


亜紗には気取られるだろうが出来るだけ元気よく言う。


もし、オレの想定が正しいなら作戦を変えなければいけない。オレは小さく舌打ちをする。


自分の考えを振り払うために。


次話でシェルター点検に入ります。長さはそこそこ長くなるかと。


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